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転生者の贖罪  作者: 七篠
189/210

猛反対された

 次の日の放課後、さっそく俺は理事長に本契約の事を頼みに向かった。


「失礼します」

「柊さん?今日はどうしました」

「今日はちょっと、いやかなり大切な話しでして……」


 理事長は不思議そうな表情をしながらも仕事の手を止めてソファーに腰かける。


「どうぞ、そこに座って。サマエルはお茶をお願い」

「分かりました」


 やはり緊張しているからかいつもよりぎこちない事を自覚できる。

 でもこれから行う事、頼む事は理事長から大切な友達を奪う事他ならない。

 だからこそ緊張するしこの場で言っていいのかも分からない。

 だがその事を自覚しながら実行すると決めたのも俺だ。

 なら後は腹をくくって進むしかない。


「それで、大切な話しって」


 お茶を優雅に飲みながら聞く理事長に対し、俺はお茶に手を出す事なく頭を下げながら言った。


「俺にリルと本契約させてください。その許可をいただきたくこちらに来ました」

「ええいいわよ」


 そんな理事長のあっさりとした許可に思わずソファーから落ちそうになる。


「いやなんで!?何でそんなあっさり許可出すの!!」

「何でってリルと相談して許可をもらったんじゃないの?」

「そりゃもらいましたけど!それでも本契約しているの理事長じゃないんですか!?」

「確かに本契約しているのは私。でもそれは本当にリルが心から主と言える誰かと出会うまでの繋ぎなの。だから柊君が、リルが認めたのならそれでいい」


 理事長は本当に穏やかな表情で言った。

 本当に気にしてないというか、いつか来る日が来たっとでも言えばいいのだろうか。

 どこまでも理事長は穏やかに俺を見る。


「むしろありがとうね。リルの主になってくれて」

「いえ、そんな。なってくれてと言われても……」

「もう十分に分かってると思うけど、リルは一匹狼とは真逆の群れていないと生きていけない子だから。しかも少し面倒な事に群れのボスになるんじゃなくてボスの隣にずっといたいってタイプだから、どうしてもボスになってくれる人が必要だったの。もしそれが嫌な誰かだったら大変だったから、君でよかった」

「理事長……」

「君ならリルを幸せにできる。だからあっさり許してあげるの。もし他の人だったら厳しく審査してたところ」

「……ありがとうございます」


 しっかりと信頼関係を築いての契約と言う事で許されていたらしい。

 ホッとしながら緊張で渇いていた喉を茶で潤す。

 そう思っていると影からリルが尻尾を振って喜びを表しながら俺の膝の上の顎を乗せる。

 リーパも影から顔を出し猫の顔なのになんだかニヤニヤ笑っているように見える。


「うまくいったぞリル。早速今夜にでも本契約しようか」

『うん!!』


 心の底から嬉しいのか尻尾で風を起こすくらい振っている。

 分かりやすく喜び過ぎではないかと思っていると理事長が聞いてきた。


「ところで本契約はどうするの?色々やり方はあると思うけど」

「そうですね……一番負担の少ない“ちぎり”にしようかと思っています」


 そういうと理事長が飲んでいる茶を吹き出した。

 リルも尻尾を振るのを止めて俺の事を驚いた表情を見せる。

 リーパもそんな事を言うとは思ってなかったと言わんばかりで何故か尻尾が大きくなっていた。


 何でこんな雰囲気になってるんだ?

 そう思っているとまた影から琥珀が首だけを出して聞いてくる。


「ねぇ柊。契ってあれ?交尾する奴」

「それそれ。あれがなんだかんだで一番負担少ないと思うんだけどな……」


 本契約と言ってもその方法は様々ある。

 例えば原始的な物であれば互いに血肉を食らい合うっという物もあるし、お互いに魂を込めた贈り物を渡し合うっという物もある。

 で、今回俺が行おうとしていた"契”はお互いに身を清め、男女が一つになるという最も簡単な方法。

 まぁ簡単に言うとセ〇クスだ。


 でももちろん儀式的な部分もあるのでその辺りのルールは守らなければならない。

 身を清めるとか、儀式を始める前にお神酒を飲むとか、清潔な服を着なければならないとか、そもそも男女でなければならないとか、比較的簡単と言っても色々あるのだ。

 出来る限り厳格に行うのであればどこぞの神社でしっかりとした結界の中で行うべきとか色々あるけど、そこまで厳格に行うつもりはないので御神酒と言ってもただの日本酒を三々九度さんさんくどで飲むとか、洗濯した服を着るとか、そんな感じでも本契約は行える。

 もちろん契約のためだからって適当に抱くつもりはないけど。


 そんな効率と安全性を両立した契約方法なら問題ないと思っていたんだが……

 なんかリルが俺の腹にひたすら顔をこすりつけるし、リーパは威嚇し始めるし、理事長はフリーズして戻らない。


「何この状況」

「あなたのせいだって言うのだけは分かる」

「そうですね。今回ばかりは柊様が原因かと」

「何で?安全で経費も少なめ、もっと厳格な契約にすると費用とかもかなり高くなりますし、こんなもんじゃないですかね」

「雫様が気にしているのはその、柊様とリル様が性行為をする事に驚いたのではないかと」

「あ~、でも俺リルの事は女性としても好きですよ」


 リルが俺の腹にぐりぐりするのが加速する。

 そして理事長から妙な気配がする。

 リーパからはさらに警戒し始めた。


「そういう事はその、雫様の前であまり話さない方が……というか柊様は雫様の事が好きだったのでは?」

「好きですよ?」

「それならなぜ性行為を用いた契約方法をお選びになったのですか?」

「それはさっき言ったデメリットが少ない点と、たんにリルと今まで以上に仲良くなりたいからですかね」

「それで性行為は少々気が早いような……」


 サマエルはやんわりと断らせようとしているのが伝わってくるので本当にダメなのだろうかと考える。

 ってそうか。そういや確認取ってなかった。


「リル、お前俺とエロい事するの嫌か?」

『好き!!』


 むしろ食い気味に肯定された。

 リルが良いのであれば問題ないだろうっと思っていると理事長から恐ろしい気配が出始めた。

 圧倒的な威圧感に流石の俺でもなぜか怒っていることぐらいは分かる。

 というか威圧のせいで窓ガラスが割れそうになっているし、かなりキレてるな。

 俺との記憶はないはずなのに何でここまで反応するんだ?


 理事長は持ち手がひび割れたカップを置いて優し気に、しかし頭に青筋を浮かび上がらせながら言う。


「柊さん。エッチな事は良くないと思います。契では避妊具を付ける事ができません。もし万が一の時があった時責任を取れますか」

「取ります」


 はっきりと言うと更に理事長の怒気が強くなった。

 あれ~?責任取れない奴が~みたいな感じじゃないのか?

 リルは大喜びだし、問題ないはず……


 そう思っていたがサマエルは手で顔を覆い、リーパは俺に軽くだが猫パンチの嵐。

 あとリルは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 あ、これ理由もちゃんと言わないとダメか。


「俺が色々我儘なのは分かっていますが、俺は出来るだけ俺の事を好きだと言ってくれる人達を幸せにしたいと思っています。リルはその中の一人でどうしても俺が幸せにしたいんです。だからそのために――」

「私と涙はその中に含まれていないのですか」


 ん?何でそんな事聞くんだ?


「含まれているに決まってるじゃないですか。理事長と涙の事は大切ですよ」

「それなら……何で……」

「…………」

「なんで浮気するの!!」


 ……………………うん?


「え、これ浮気なの?本契約って浮気にカウントされるの?」

「そこじゃない!!リルとその、エッチするのに私とはしないってどういうこと!?」

「普通に待った。普通に待ってください!え、何で俺とリルがエロい事するのにそんなに反対なんですか!本契約のためですよ?」

「本契約のためだろうとなんだろうと、私以外とエッチな事は浮気です!!涙だっているのに何でそんな堂々と浮気するって言えるんですか!!正気疑いますよ!!」

「いやだから俺普通に誰とも付き合ってない――」

「家族になるって言ったんですから付き合う以前の問題なの!!リルもそんな本気にならないでよ!!」

『え~、本気なのに……』

「だから本気になっちゃダメー!!」


 な、なんかカオスな事になってきた……

 つまり理事長は俺とリルがエロい事するのは浮気になるからダメだと。

 なんか面倒臭くなってきた……


「え~っと理事長。俺エロい事しちゃダメなんですか?」

「あたりまえでしょ!!不純異性交遊は禁止です!!責任を取ると言っても認めるつもりはありません!!」

「でも理事長とは良いんですか?」

「当然です!!」

「その理由は?」

「え?理由??もちろん家族で夫婦だから……」

「でもそれ内縁のが付きますよね?その状態で理事長とエロい事したらダメなんじゃ……」


 俺は少し引っ掛かっていた疑問を問いかけると理事長は顔を真っ赤にした。


「そ!それはその!!先走り過ぎたというか!最終的には本当に家族になるんだから!!」

「それでも現在はダメって所はリルと変わらないでしょ」


 というか本当にそこまで求められてたんだ。

 てっきり涙の父親として、涙を支えるパートナーとしての面が強いとばかり思ってた。

 そうなると……


「それじゃ先にします?」

「先って?」

「俺と理事長がシた後ならリルとシてもいいんですかね?」


 独占欲のような物ならそれでもいいのかな?っと思いながら聞いてみた。

 すると理事長はさっきよりも顔を真っ赤にしながら――


「う、うう、うわああああぁぁぁぁぁ!!」


 理事長室を飛び出した。

 その光景を見届けた後、とりあえずリルに言う。


「なんか反対意見が出たから少し本契約はおいておいていい?」

『え~』

「そう不満そうな声出すなよ。むしろだってヤったら二度と修復不可能な傷出来るぞ」

『……仕方ないか~』


 リルは残念そうな声を出すが今はそうするしかない。

 本契約は先送りとなった。

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