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転生者の贖罪  作者: 七篠
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州の字で寝る

「……広」


 今俺はリルとリーパ、琥珀を連れて風呂に入ろうとしている。

 理事長達が先に入ってっと言うのでお言葉に甘えて風呂に来たのだが……なんか思っていた以上に広い。

 湯船は三人くらい入っても問題なさそうなくらい広いし、よく分からないが色んな機能が付いているようだ。

 ジャグジー?って言うのか泡がボコボコ出てくる風呂が個人の家にあるとは思ってなかった。


 そんな驚きはあったもののみんなの体を洗ってから湯船に入る。

 リルと琥珀は動物の姿のまま入っても嫌がらないが、リーパは元々猫なので風呂はあまり好きではない。猫の姿のままだと体毛が体に張り付いて気持ち悪いそうだ。

 なのでリーパだけ猫から人の姿になってから体を洗ってあげる。

 みんなの体を洗い終わった後に俺も体を洗ってから風呂に入った。


「ふ~……いい湯だ」


 実家の風呂よりも広いので十分に足が伸ばせる。実家の風呂だと足が湯船の外に出てしまうので足を伸ばしても湯船の中にあるのは久しぶりだ。

 みんなでゆったりしているとリーパが不満の声を出す。


「何で私もお風呂に入らないといけないのよ……」

「今日くらいは入れ。普段は猫扱いで風呂入れてねぇんだから客として家に来た時くらい入れ。本当は汚ねぇから毎日入ってほしいんだけど」

「水は嫌い」

「お湯だし俺にしがみついてるんだから溺れないだろ。それにカナヅチだからってこんな浅い風呂溺れる事ないだろ?爺さん婆さんでもあるまいし」

「それでも猫として本能的に水が嫌いなの。ちょっとは分かりなさい」


 そう言って小さな体で俺にしがみつく。

 リルはそれをじ~っと見て羨ましそうにするから一緒に抱きしめると機嫌よく尻尾を振る。

 その光景を眺めていた琥珀はため息をついてから言った。


「本当にのん気よね、あなた達。これだけの力を持ちながら平和に日常を過ごすだけ、これ勿体なくない?」

「勿体ないってなんだよ?」

「あなた達の力があれば暴力だけであらゆるものを支配できると言ってるの。それなのにそうしないのが不思議なだけ」

「その辺はやっぱり白面金毛九尾らしい見方だよな。すぐ支配に持っていきたがる」

「当然でしょ。支配すればありとあらゆるものが手に入る。美酒も肉も異性も、何もかも独占できる。なのになぜあなた達はしようとしないの?そんな一緒に居るだけで幸せなんて小さすぎる。もっと大きな欲はないの?」


 まぁ環境だけ見ればそう言いたくなるのも分からなくはない。

 実際理事長達はそれを実行できるだけの武力と権力、そして人脈がある。

 本当にやろうと思えば支配だろうが何だろうが何だってできるだろう。

 でもそれに興味を持たないのは現状を満足しており、そこから発展させる気がないからだ。

 それを欲がないと言われれば、その通りと認めるしかない。


「確かに、俺にそこまでの欲はないな」

「あなたならそこに居る狼と猫だけじゃなくて、それこそウロボロスの親子だって抱けるでしょ。もっといろんな美女と酒池肉林を味わいつくして、色に溺れたくはないの?」

「俺は気に入った連中にしか興味ない。テレビに出てくる美人女優よりもリルやリーパの方が好きだ。見た目よりも気に入っている、気心知れている奴とエロい事したい」

「その辺りの好みは別にいいけど、それなら抱いたら?そこの二人はいつでもよさそうだけど。それはあなたも気付いているんでしょ?」

「そりゃとっくの昔にね。俺はリルとリーパの事を愛しているし、そういうエロい関係にだってなりたい」

「なら余計に何で――」

「まだ決着がついてない。前世の頃にやらかした後始末を全て片付けられていない。そうしないと俺は次に進んじゃいけない」


 そういうと琥珀は黙った。

 これだけは譲れない事を言って理由も言う。


「俺はあの神を殺さない限り前世の俺のままだ。独りよがりで、何でも自分だけの力で何でも出来ると勘違いしている愚かな男。それを卒業して本当の意味でみんなと向き合うために必要不可欠な事、それを達成するまで俺はずっとこうしてる。まずは自分の尻を自分で拭いてからじゃないと死なないでくれと言ってくれたみんなに申し訳ない。みんなの言葉を無視して死んだ罪を清算する。全部それからだ」

「…………よく分からないし聞かないけど、強い意志がある事だけは分かった。もうこれ以上何か言う気はないわよ。ただこれだけは言わせて」

「なんだよ?」

「私は金毛タマと金毛妙の代わりにはなれない。それだけ」


 そういうと琥珀は体を震わせて水を飛ばす。


「じゃあね。先に寝るわ」

「ちゃんと歯磨けよ」


 そう言ったが無視して風呂から上がる琥珀。

 その姿を見送った後に俺達も上がった。

 あとは寝るだけなのだが……


「何でこうなるんだよ」

「だってこの子がしてみたいって言うから」

「こういう時じゃないとできないじゃん」


 何故か俺達は一つの巨大ベッドの上でみんなで寝ていた。

 事の発端は涙の「川の字で寝たい」だ。

 どこまでも子供脳。どこまでも純粋で予測不能な事ばかり言う。

 流石にこれは理事長も嫌がるだろうと思っていたのだが「ああいいわね。そうしましょう」っと了承してしまったのでどうしようもない。

 あの手この手で一緒に寝るのを回避しようとしたが、結局認められなかった。


「でもさ、これ川の字って言うより州の字じゃない?」


 そう言いたくなる理由は俺を中心に右に理事長、左に涙がいるが更にリルとリーパ、琥珀も同じベッドで丸くなっているのだからちょうど点々の部分にリル達がいるので人数が多い。

 ちなみに一番外に居るのは琥珀だ。


「確かに……川の字にしては人数が多いわね」

「ちょっとした修学旅行みたいで楽しいかも」

「修学旅行だろうとここまでぎちぎちに一緒になって寝る事はないだろ。あとなんで腕枕してんの俺?」

「それはもちろん――」

「――私達のお願いだから」


 更に理事長と涙に腕枕まで要求されてしまったので今日は寝返りを打つ事すらできそうにない。

 今日ちゃんと寝れるかな……?

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