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転生者の贖罪  作者: 七篠
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番犬と罪

「分かっていた事だけど凄い回復力ね。明日には退院しても大丈夫そうね」


 入院してから4日目、失った臓器の回復具合、神経やその他もろもろ異常がない事がしっかりと判明してからタマ先生から退院許可が下りた。

 それを聞いた俺はほっとしながら言う。


「よかった~。これで肉が思いっきり食える」

「病院食が味気ないのは認めるけど、だからっていきなりジャンクフードを食べ過ぎるのは止めなさいよ。胃腸が回復したとは言っても一回失ったのは事実なんだからあまり食べ過ぎないように」

「は~い」


 満足に飯が食えるようになったからと言っていきなり暴飲暴食をするつもりはない。

 ただ今まで通り飯が食いたいだけである。


「それで退院はどうする?すぐの方が良い?」

「できるだけ早く退院したいですけど、やっぱり明日ですかね?」

「そうね……一応手続きもあるから明日になるわね。退院するのは朝の方が良い?」

「できるだけ早く退院して治療費をできるだけ抑えたいってのが正直なところです」

「保険にもちゃんと入ってるし、あまり不安に思う必要はないと思うけどね……それじゃ明日退院ね。そう手続きしてくるからちょっと待ってね」


 こうして俺は無事退院する事が出来るようになった。

 と言っても月曜日から木曜日まで入院していたから学校の授業とかどうなっているだろうか?

 友達らしい友達なんていないから進みまくってると嫌だな……前世の知識である程度は大丈夫かもしれないが、数学とかは大丈夫だけど歴史とか国語と関わってる所は変わってるからな……


 なんて思いながら金曜日に退院。その後入院中に持ってきた物を家に戻して次の月曜日にいつも通り登校した。

 学校に行く前に軽くランニングをしたが、少し体力が落ちている程度だったのはまだよかった方だろう。体力を戻しつつ筋力も少し低下したのでそちらも戻さないといけない。

 それから魔導書も破壊されてしまったのでそっちも作り直さないとな……今度はケチらないでもう少し頑丈な物を使うか、魔法で補強した方が良いかもしれない。


 久々に来た学校は特に変わる事もなく、いつも通り過ごして放課後になると1つ変わった事が起きた。


『1年生普通科、佐藤柊さん。理事長室に来てください。繰り返します。1年生普通科――』


 っと理事長に呼び出されてしまった。

 多分この間の戦闘の事なんだろうなっと思いつつも、入院中に警察や呪いに関する人達に協力という事で知っている事は全部話した。

 その時驚かれたのはオーラの形が変わった事。今までそんな事は一切なく、オーラの形は変わらなかったので初めての発見だと言う。

 でもそれ以外はみんな知っている事ばかりだったようであまり深くは聞かれなかった。もしくはちゃんと協力していると見られたことで深堀しなかっただけかもしれない。


 でも研究者の中にサトリと言う妖怪が混じっていた。

 相手の心を読む妖怪で相手が何を考えているのか、何を心に思ったのか分かる妖怪が居たからこそスムーズだったのかもしれない。

 まぁ研究者だと分かる前に妙な事口走ったらぶち殺すぞ、とどう殺すのかイメージしながらサトリに向かって眼光を飛ばしたらすぐにビビって縮こまった。

 サトリはプライバシー違反の常習犯妖怪なので最初に脅しておいた方があと後便利だ。


 そんな事を思い出しながら理事長室に行くと、理事長とサマエルの他に生徒会長、そして黒い狼が俺を待っていた。


「失礼します。佐藤柊無事退院しました」

「まずは回復おめでとう柊さん。そこに座って」


 そう言われて来客用のソファーに座ると水地涙が心配そうに聞いてきた。


「あの、お腹本当に大丈夫なんですか?」

「ええ、先生が言うには大丈夫だそうです。ただまだ胃がちゃんと機能していないので食べ過ぎには注意だと言われましたが」

「そうですか。それは本当に良かったです」


 本当にほっとしたのか安心した表情を見せる。

 まぁあの事件のうやむやで俺が大怪我をしていたのだから心配するのは仕方がないだろう。それに俺の腹に大穴が開いていたところ見てしまったそうだし。

 そう思っていると理事長が口を開いた。


「それで今回はその事件に関してなのですが、あなたには護衛が必要なのではないかと私は考えています。もちろんこちらが要請した護衛なのでお金などの心配は一切ありません」

「はぁ。護衛ですか。でも俺みたいな一般人には必要ないように思いますが……」

「その一般人が二度も呪われてしまった人に襲われてしまったのです。しかもどちらも今までとは違う動き、つまり佐藤柊さんを狙っていた可能性が非常に高いのではないかと考えています。ですがあくまでもこれは予想でしかなく、そう決まった事ではありません。だからこれはあくまでも保険であることを承知してください」

「心配してくれるのはありがたいのですが……その護衛の方と言うのは、この狼で?」


 俺の質問に理事長は軽く驚いた。


「意外ですね。大抵の方は犬と勘違いするのですが」

「いえ、なんとなく普通の犬よりも大きいのでそう思っただけと言いますか。それになんとなく犬とは違う雰囲気があったので」

「ええ。本当はこの子も犬に近いのですが、隔世遺伝で狼のDNAの方が強く出たみたいなんです。ですがこの子自身が犬と呼ばれるの嫌うのでそこだけご注意してください」


 ……相変わらず、か。

 でも何で狼の姿になっているんだ?こういう場、と言うよりは普段は人型だっただろうに。


「あの子の子はずっと狼の姿で?雰囲気から察するに魔獣と妖怪の血が混じっているようなので人型にもなれると思うのですが」

「よく分かりましたね。確かにこの子は狗神と特別な魔獣との子孫です。ですが現在この子は人型になる事が出来ません」

「出来ない?」

「はい。原因は精神的な物であると予想されているのですが、私達もこの子も心当たりがなくて……」


 ………………俺のせいか。

 あの時俺が、置いて行ったから……


「最初の頃はどうにか人型に戻せないか色々試していたのですが、この子、リルはもう人型だった頃感覚を忘れてしまって、今では狼の姿でいる事の方が当たり前になってしまい――」


 俺のせいだ。

 俺が失敗したから。

 俺が約束を破ったから、リルはこうなった――

 俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が――


 ――この子を壊した――


「佐藤柊さん?柊さん!」

「え!あ、なんですか?」

「酷い表情をしていましたよ。どうかしたんですか?」

「いえ、何も!それで護衛とは具体的にどんな感じなんでしょうか?」

「具体的に言うとリルがあなたの影に入ってあなたの動向を確認します。あまりいい気分はしないと思いますが、龍化の呪いがいつどこで発生し、助けに入れるか分かりません。なので佐藤柊さんおかげの中で警護をさせたいと思っています」


 なるほど。そりゃいつどこで襲ってくるのか分からない以上できるだけ近い方が良い。

 しかしそうなるとリルはずっと俺の影の中に居る事になる。

 プライバシーだ何だと言うつもりはないが、それでもやはり気になってしまう。


「つまり付きっ切りで俺の警護をすると」

「はい。もちろん警護費用はこちらで用意しますのでご了承いただければすぐに始められます」


 俺個人の意見としては、これからも龍化の呪いにかかってしまった人達と戦うつもりなので邪魔になるかもしれない。しかしリルがいてくれれば今回のような大怪我を負うリスクは格段に減るだろう。

 だがそれ以上に気になる事が俺にはある。


「リル、おいで」


 俺がそうリルに呼びかけると俺の前までトコトコ歩いてきた。

 掌をそっと顎の下に持って行き1つだけ聞く。


「俺と一緒でもいいか?」


 そう聞くとリルは俺の手から匂いを嗅ぎ何かを確かめようとする。

 正直俺はかなり緊張している。

 俺が原因で壊してしまった。心当たりがないと言うのはおそらく前世の頃に使った魔法が原因だろう。そのせいでリルは何故人型になるのが嫌になったのか分からなくなってしまっている。

 だからこれもまた俺の勝手が引き起こした罪。俺が責任を取らないといけない。


 でもリル自身が嫌がるのであればどうする事も出来ない。

 記憶にはなくとも本能的に拒絶してくるかもしれない。

 俺はその拒絶が恐ろしかった。


 しばらく匂いを嗅いで確かめ終えると、俺に座の上に飛んで丸くなる。

 受けられた事に安堵し、同時に俺自身への怒りが湧いた。

 その光景を見た理事長たちは驚いていたが、俺ははっきりと言う。


「護衛の方よろしくお願いします」


 今回はずっと一緒に居られるように、努力し続けるしかない。

 たとえどんな理由であろうとも。

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