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転生者の贖罪  作者: 七篠
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嫉妬する者

 佐藤柊と水地雫、水地涙の様子を見たパーティー参加者達は本当に家族の様だと感じていた。

 父親が恥ずかしがりながらも娘に促されて妻の料理を皿に取っている、そんな微笑ましい光景に見える。

 それは水地雫と涙の事をよく知っている者からすれば非常に嬉しく、心地いい光景だ。


 しかしそんな光景を気に食わないと思っている者が居た。


「…………………………」

「先輩まだ引きずってんですか?もう絶望的でしょあの光景」


 超久々の登場、佐藤柊の元担任、佐々木渉である。

 佐藤柊の事が気に入らなくて殺そうとした後彼は海外で水地雫の命令で国外で様々な犯罪組織の壊滅、及び情報収集のためにこき使われていた。

 佐藤柊が水地親子と交流を重ねている間もずっと仕事であり、生徒を本気で殺そうとしたことで完全に嫌われていたのだが、水地涙のプレゼントだけは渡したいと渋々水地雫がこの会場に来る事を認めたのである。

 もちろん殺人未遂をしたので厳重な警戒と監視を受けている。


 その警戒と監視をしている人物は金毛妙である。

 彼女なら仮に渉が暴走した時でも即座に発砲する事が出来るのでちょうどいい。

 そして少し離れた場所にはサマエルが厳しい視線を渉に向けていた。


 ようやく水地親子に会えると大はしゃぎで少しでも喜んでもらえるように用意したプレゼントを片手に会場に来たのだが、少し前に来たという佐藤柊と家族のように過ごす姿を見て脳が焼かれていた。

 瞳から光は失われ、表情は死に、ストレスからか過呼吸と震えが止まらない。

 そして隣に居た金毛妙は分かり切った事を言う。


「もう二人ともあいつにべったりですよ。私はたまにしか会いませんけど、それでもあの三人の仲の良さは知れ渡っています。涙ちゃんは本当の父親の様に甘えてますし、雫先輩もかなり特別視しています。他に渉先輩のように諦められないと言っていた人達もいましたが、今の渉先輩の様に絶望通りこうしてよく分からない感じになってますね」


 少し視線を逸らした先には渉のように絶望した様子でうなだれている男性たちの姿がある。

 どの男性も一般人から見れば高嶺の花であり、もし射止める事が出来れば一生安泰と言っていい彼らですら射止める事が出来なかったのが水地雫という女性だ。

 この場に居る親しい者達のほとんどは水地雫が学生時代、そして社会人になったばかりの頃からの友人達ばかり。みな性格もよく金もあり地位もある。

 そんな彼らですら射止められなかった極上の女性がなぜか強くなる事しか考えてなさそうな弱い一般人に傾いたのかさっぱり分からない。

 家柄でも財力でも、知力でも勝っているはずなのに何が足りなかったのか、その事を自問自答し続けている。


「……本当になんでなんだよ!!」

「さぁ?私だったらあんな気持ち悪い、私達しか知らないような個人的な事までいつの間にか知っている誰かなんて気持ち悪すぎていい感情なんて抱きませんよ。でもどういう訳か雫先輩はあれを受け入れた。雫先輩だけじゃなくてリル先輩や遥君もね。私だって理解できないですよ」

「私はまだ姉さんほど心を許した訳ではありませんよ」


 そんな話をする二人に大神遥がシャンパンを片手に混ざってきた。


「私は一応渉先輩の後任と言う立場もありますから、彼の事は警戒しています。妙さんの言うように私達しか知らないような事を何故知っているのか、どうやって知ったのか、分からない事だらけなのにいくら調べても調べた形跡がない。だから現状では彼は元々知っていたのではないか、という説が最も濃厚と言うだけです」

「そういうわりにはあまり嫌っている様子もないな」

「娘が彼と仲良くしているので毛嫌いするわけにもいかないだけです。彼のおかげで娘の狗神の呪いと向き合えるようになりました。荒魂の面にも逃げるのではなく、抑え込むのでもなく、しっかりと向き合っている。少し時間はかかりましたがこれからより良い方向に進んでいくのかと思うと、嫌いになり切れないというのが心情です」

「娘さんも大変よね。知らず知らずのうちにあの化物と一緒に居ると気が付いてないなんて」

「化物と言う意味ではとっくに気が付いていると思いますよ。私同様に臆病者ですし、最初に荒魂の部分を引き出していくら呪っても噛んでも動じない彼の事を異質であると理解は出来ているようなので」

「色んな意味で狂ってる。あまりにも歪だ。なのに何であんなのに……!!」

「それは私だって本当に分からないですって。遥が警戒しているように私や姉さんも警戒してるから落ち着いてください」


 渉はどうしても納得がいかず血が出るほど拳を握り締める。

 その姿に相変わらずだなっと感じる妙と遥。

 だがそう感じるだけの理由も分かっているので何も言わない。


 そしてこれは勝手な二人の予想だったのだが、いつか水地雫は佐々木渉と一緒になると楽観視していたところがある。

 何故なら――


「ずっと。ずっと俺が守ってきたのに……!!」


 そう。

 水地親子をずっと心配し、ずっとそばで支え続けてきたのが佐々木渉だったから。

 もちろん理由として水地雫に本気で惚れていたからだが、それを知り合った学生時代からずっと友達として、同じ組織の仲間として、あらゆる面で本気で心配し支えてきたからだ。

 少しでも寂しさを感じないように、少しでも心地いい環境を作れるように、少しでも水地涙が健全に育つように、あらゆる面でサポートして来た。

 だから妙と遥はなんだかんだで結婚まではいかなくともずっと一緒に居ると思っていた。


 もちろん二人のために自分自身がストレスを与えるような存在になっては元も子もないのでその辺りも気を付けていた。

 なのに選ばれたのはぽっと出の正体不明の男。

 ずっと支えてきた自分ではなく、そんな男をすぐそばに居させることが気に入らない。

 だがかすかに残っている理性が今の自分では水地親子にストレスを与えるだけでしかない事も分かっているし、どうやっても振り向いてくれない事もとっくの昔に分かっていた。

 だがそれでも、本当にあの男が水地親子を支えていけるとは思えない。


 だから渉は気に入らない。

 世界最強のウロボロスの親子を守るには、あまりにも役不足だ。


 だがそんな渉の不安など全く知らず、水地親子は佐藤柊に心を許している。

 涙はふざけ半分か柊にあーんをさせようとしてスプーンを差し出し、柊は人前でそういうことをするのが恥ずかしいが結局折れて料理を食べ、雫はそれを見て微笑ましそうにしている。

 この光景は本当の親子という言葉でしか表現しか出来ない心の距離の近さで、お互いに傷付け合う事は絶対にないと信用している無防備さ。

 それが何よりの証拠と言える。


 そんな悔しそうにする渉を見て妙と遥はそう考えてしまうの無理はないと考える。

 でも、それでもだれを選ぶかは水地親子しだいとしか言いようがないのも事実。どれだけ貢献しようとも水地親子が決める問題でもあるのだ。

 だから渉の事が不憫で仕方ない。

 本当に愛していたのは事実だし、そのための努力も欠かさなかったのも事実。

 それでも振り向いてもらえなかったのだからどうしても同情的になってしまう。


 そんな渉の気持ちを全く知らず、水地親子は柊とイチャイチャする。

 だが途中でパーティーのお礼とプレゼントを受け取る準備のため水地親子は離れた。

 柊だけはまだ恥ずかしさからか、顔が赤いまま渉たちの方に歩いてきた。

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