仲間が多くて安心した
涙の卒業パーティーのために初めて涙の家に到着すると、何とも言えないでっかいビルが目の前にそびえたっていた。
「でっけ~……あいつらこんな高層マンションに住んでたのか。地震起きたとき大丈夫なのかな?」
『耐震くらい普通にしてるんじゃない?それより早く行こ』
あまりにも大きいビルを首が痛くなるくらい見上げてからリルに促されてビルに入る。
事前に聞いていた涙と理事長の部屋番号を押してインターフォン?を押すと涙の声が聞こえた。
『は~い』
「あ、どうも。佐藤柊です。涙さんのお家で間違いないでしょうか?」
『お父さんいらっしゃい!今開けるね~』
そういうと扉が開いた。
何か警備員さんだか管理人さんだかがマンションに入る俺をちらっと見ていたが何もせず通してくれる。
家主に確認を取っていたんだから入るのは問題ないだろ。
そのまま涙達の家の前で改めてインターフォンを鳴らすと涙が出てくれた。
「いらっしゃいお父さん!それともお帰りなさいの方が正しい?」
「いらっしゃいであってると思うぞ。まずは卒業おめでとう」
「ありがとうお父さん。入って入って」
「お邪魔します」
そう言ってから俺達は家に入った。
ちゃんとリルとリーパ、琥珀の足を拭いてから家に上がり賑やかな声がする廊下の扉を開けた。
そこには高層マンションのリビングとは思えないほど広い部屋がそこにあった。
明らかに数十人が入っても余裕そうな部屋はリビングではない。パーティー会場?みたいな感じになってる。
間違ってはいないけどもっと家庭的なパーティーだと思ってた。
「えっと……これは一体?」
「あはは……毎回こうなるんだよね。私が卒業したり入学するときはみんな集まってパーティーするのが。こういう機会がないと私に会い辛いんだって」
「母親ガードが強そうだもんな。それからプレゼント今渡していい?」
「あ、それ後でみんなからもらう予定になってるからもうちょっとだけ待って」
「何と言うか……有名人のパーティーみたいだな」
イメージだけで出てきた言葉だが多分間違ってない。
前世の頃から知っている理事長の友人である神やら精霊やら、有名どころばっかり揃っている。
ホームパーティーってどこがだよ。絶対違うじゃん。
そう思いながら涙に腕を組まれながら移動している間も神薙家で俺に問いただしてきたハデスとも会った。
『……久しいな、人間』
「お久しぶりですハデス様。まさか涙の卒業祝いに来ているとは思いもしませんでした」
『ウロボロスの監視のためだ。こういった機会が無ければ監視する事もままならない』
「そうですか。相変わらず仕事の事ばかり、奥様に叱られても知りませんよ」
俺がそういうとハデスは消えるように離れていった。
奥さんの話になると逃げるのも相変わらずか。
「……お父さんよくハデス様の前であんなこと言えたね」
「あんな事って?」
「冗談言ったでしょ?奥様に怒られるかもって」
「まぁ……ハデス様と俺は少しだけ似てる所あるから。仕事優先で家庭の事を顧みないところとかな」
あの人があんな感じなのは色々と気真面目だからだ。
真面目だからこそ仕事を徹底的にこなさないと安心できないし、仕事をする事で周りを守れると思っている。
本当はそれだけでは足りず、もっと近くに居ないと守れない物もあるってのにな……
「お父さん」
涙が寂しそうにしながら腕にしがみつく。
そんなに不安にさせる事を言ってしまっただろうかと考えていると明るく言う。
「早くお母さんの所に行こ。二人そろってお祝いしてほしいな」
「分かった。理事長の所に行こうか」
「理事長なんて堅苦しい言い方しなくていいよ。雫って呼んでみたら?」
「流石にそれは遠慮しておくよ」
それは色んな意味で遠慮しておきたい。
また今度神と戦う時に居残れる可能性は前世の時以上に低いだろう。
それなのにあまりにも親密になり過ぎると……また前世の時と同じ事を繰り返してしまう。
もちろんそうならないように努力し続けているが、結局その時にならないと分からない。
何て考えながら涙に引っ張られていると理事長に会った。
「あ、お母さん!!お父さん来てくれたよ!!」
今日の理事長は完全に社交界と言うか、セレブのパーティーしようと言うか、綺麗な黒のドレスに身を包んでいた。
その姿に見とれていると理事長の方から話しかけてくれる。
「柊さん。本日は娘の卒業祝いに来ていただきありがとうございます」
「え、あ、ええはい。こちらこそご招待いただきありがとうございます……」
「お父さんお母さんに見とれてる~」
「おい涙!!」
涙がからかってくるので恥ずかしさから少し強く言ったが何故か嬉しそうにしながらニヤニヤする。
娘なら母親に言い寄る男を嫌えよ。
それなのに理事長は……
「…………」
何で顔を赤くしてまんざらでもない顔してるんだよ。
そりゃ俺だって嫌な訳じゃないが、そういうのは全部終わった後って決めてるんだ。
あまり俺の心を乱さないでくれ。
「……もしかしてお邪魔だった?」
「「邪魔じゃない」」
何でこういう時に限って理事長と一緒になるかなぁ。
リルはちょっと寂しそうだし、リーパは気に入らなそう。ついでに琥珀は興味ないようであくびしてる。
咳払いをした後改めて言う。
「改めて、涙の卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます。柊さんも祝いに来てくれて嬉しく思います」
「父と呼ばれている以上来るべきだと思いまして。それにしてもいろんな方が祝いに来てくれているんですね」
「ええ。毎回嬉しい事です。これだけの方が涙の成長を祝ってくれるのですから、下手な歓迎は出来ません。やるからには全力を出さないと」
「そうでしたか。それから聞いておきたいんですけど、涙にあげるプレゼントっていつ渡せばいいんですかね?」
「それならちゃんとアナウンスが鳴りますのでその時に渡してあげてください。ただこれは出来ればなんですが、私と一緒に渡してあげてはいただけないでしょうか」
「理事長と一緒にですか?」
「はい。この子が初めて両親から同時にプレゼントをもらえるから一緒が良いという物ですから」
「そうなのか涙?」
「うん。お父さんとお母さん一緒にプレゼントもらいたい」
もじもじしながら言う涙はやっぱり実年齢よりも幼く見える。
それとも理事長に甘えるときはいつもこんな感じなんだろうか?
だから父親と呼ぶ俺にも同じように甘えたいと考えているのかもしれない。
「それくらい構わねぇよ。でもあまり期待しすぎないでくれよ、お父さんだけど特別金がある訳じゃないから」
「別にお金とかいいよ。こうしてお祝いしてもらって、プレゼントもらえるならそれでいい」
「プレゼント目的か!?なんて子だ……」
「そういう意味じゃないって!!お母さんも笑ってないで止めてよ!!」
「ふふふ。だって……あまりにも楽しそうにするから……」
理事長は俺と涙の行動を見て穏やかに笑う。
その笑顔だけは前世の頃に見たのと変わらない、いい笑顔だな。
「お父さんご飯まだでしょ?お母さんが作ってくれたご飯もあるからそれ食べに行こう」
「そんなのもあるのか。てっきり規模がデカいから全部どっかのシェフさんが作ってくれてるんだとばっかり思ってた」
「そういうのもあるけどお母さんの手作り料理もあるよ」
「それなら是非食べたいな。良いですよね理事長?」
「当然じゃありませんか。ちゃんと私の料理も味わってくださいね、お父さん」
「理事長!?理事長が言うと冗談じゃなくなりますから!!」
にこやかにしている間に自然と俺は娘と理事長に挟まれて、理事長手作りだという料理を食べに向かうのだった。




