薬物消去へ
「このままじゃダメだ。糖尿になる」
今日も理事長室で呪われたラムネを食べながらそんな事を言った。
その言葉に呆れたのはリリムである。
「あなたね……普通に燃やすなり壊すなりして捨てればいいでしょ?私はむしろそうしない事にずっと疑問を持っていたんだけど」
「でも呪いさえ関係なければただのラムネじゃん。そのまま捨てるのはもったいないだろ」
「そう思うのはあなただけ。糖尿が嫌なら呪いをどうにかして捨てればいいのに」
「お前は金持ちだからそう簡単に言えんだよ。それに毎日ここで1キロ食べ続けるのも飽きたわ」
衛生上だか俺が盗まないかの確認だか知らないが、リリムの目の前でラムネを処理しないといけない。
それは契約にも書かれているし、そういう不安点を消したいのも分かるが1キロ一気食いは流石に飽きる。
何か別の菓子に加工するというのも考えはしたが、ラムネを加工して作れる菓子って何??
砂糖の代わりに使うなんてことも考えたが砂糖だけを使う場面なんてない。
俺は紅茶もコーヒーも滅多に飲まないから余計にだ。
「そんな事を言ったってどう処分するかはあなたの自由だもの。そこまで契約していないし、好きにすればいいじゃない」
「だからもっと効率のいいラムネの消費方法って知らない?」
「そんなドンピシャの方法知ってたらお菓子マニアか何かじゃない」
それにしても一人でこの量を消費し続けるのも飽きたし疲れた。
どうしようかと思っていると、ふと気になった事を思い出す。
「なぁリリム。お前ドラッグの処分って言ってるけど、結局呪いがなくなれば処分できたって言っていいんだよな?」
「まぁそうね。それが目的だし、呪いがあなたの中に行った後ならどうしようが好きにしていいわよ」
「それじゃただのラムネになった奴を他の人にあげるのは?」
「それはダメ。もし微量でも呪いの効果が残っていたらどうするの。そう言った二次災害を産まないためにあなたと契約したんだから」
それをリリムに言われると呪いが俺に移った後に渡すという行為が出来ない。
そうなると……そうだ。
「それじゃ麻薬の方先に処分させてくれよ。あっちなら燃やしたりするの何とも思わないからさ」
「ドラッグの方……それなら魔王領に行く必要があるけどいいわね」
「ちなみに誰が支配してる領地なんだ?」
「アスモデウス」
「…………仕方ない、か」
「それじゃ転移で領地に行くわよ。一緒に行く人は魔法陣の中に入って」
っという事で俺とリルはドラックが保管されている場所に転移した。
理事長達が来れなかったのは単純に仕事のせい。さすがに仕事を無視してついてくるわけにはいかなかった。
ドラッグが保管されている場所は倉庫と言うよりはどこかの研究所のようなところであり、警備もセキュリティーもガッチガチに固められている。
「随分厳重なところにしまってるんだな」
「元々この施設は呪われた悪魔を解呪するために建てられた施設なの。あなたが前に潰した日本の研究施設と大まかには同じ」
「あ~、呪い関連だから一緒にされた感じ?」
「された感じ。だからここには呪われた悪魔も存在する。暴れないでよ?」
「今日はあくまでも違法薬物の破壊に来ただけだからそんな事しないって」
今もう無理して呪いを集める必要はないのだからそこまでの事はしない。
何より悪魔を怒らせて攻められたら本当に殺される。
前にやった奴だっていまだに殺されないのはおそらく理事長がかばってくれたんだろう。だから今も平和に暮らせている。
リリムに連れられる形で施設に入り、その薬物を保管している場所に案内される途中あわただしい足音が聞こえた。
何か忙しいだけなのかと思ったが、背筋がぞわっとしたので警戒していると。
「柊く~ん!!」
「いい加減にせい」
文字通り飛び込んできたアスモデウスの顔面に蹴りを入れた。
正確に言うと抱き着こうとしたアスモデウスの顔部分に足の裏を合わせ、自分から顔面に突っ込ませるような形。
アスモデウスの秘書かなんかだろうか?タブレットを持った眼鏡で白衣の明らかに理系女子みたいな見た目の悪魔が驚いている。
そして抱き着くのに失敗したアスモデウスは床に倒れてすぐ復活して言う。
「何で私にだけ塩対応なの!?他の女の子にはそういう事しないじゃない!!」
「そりゃしないだろ。お前じゃないんだから」
「それを人は差別って言うんだ!!」
そう言いながらなくアスモデウスにため息をつきながらリリムに聞く。
「おいリリム、何でこいつがいるんだよ」
「だってここアスモデウス領よ」
「え?あ~、そうか。そういう事か」
魔王と一言で言ってもその役職は様々だ。
日本で例えるならルシファーは総理大臣のような立場、ベルゼブブは農林水産省、アモンは経済産業省、ベルフェゴールは防衛相、レヴィアタンは外務省みたいな感じだ。
そして最後にアスモデウスは科学省のような立場に居る。
その仕事内容は魔術的、科学的に政府から依頼されたものを研究したり解析したりするのが主な仕事。
だから呪い関する研究もアスモデウスが担当していたんだろう。
その事を今言われて思い出したので今更だが納得した。
「そういう事なら仕方ないか。それじゃこいつがこの研究施設の所長?」
「それはアスモデウスの眷属である彼女の方」
白衣の女性の方をリリスは見ながら言った。
女性も俺を見て慌てて頭を下げた。
「は、初めまして。ミストと申します」
「柊です。今日は呪われた薬物を処分するために参りました。早速で申し訳ありませんが処分場に案内していただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、それは少々お待ちください。今処分場に運んでいる最中ですので準備が終わるまでこちらにどうぞ」
意外と物腰の低い人だな。
おそらくどこかの貴族だろうからもっと高圧的な態度で来ると思っていたのに、しおらしくされるとなんだか逆にやり辛い。
アスモデウスを放っておきながらその処分場に行こうとするとアスモデウスが俺の足を掴んだ。
「せめて、せめて無視は止めて……」
泣きそうな表情で言うので仕方なく手を引いて起こしてやる。
「ありがとう……結婚して」
「だからしないって。俺よりもいい男なんて少し探せば見つかるだろ、何で俺に拘るんだよ?」
「……分かんないけど、あなたがいいって本能が叫んでるの。だから私も理性じゃよく分かんない……」
知的であるべき科学者もどきがそんなんでいいのやら。
なんて思いつつもミスト所長に休憩室まで案内してもらった。
そこはまさに休むためだけの部屋と言う感じでドリンクサーバーやちょっとしたお菓子が皿の上に乗っかっている。
その中から比較的大きめのテーブル席にみんなで腰かけ、ミスト所長が頭を下げた。
「今回は依頼を受けていただきありがとうございます。おかげで薬を少しでも減らす事が出来そうです」
「いえ、礼を言われるほどの事ではありません。それより今回はどれくらいの量をどのように処分すればよろしいでしょうか?」
「今回は燃やしても問題のない物を選んでいるので100キロを処分させていただきたいと考えています。と言っても火を点けるのはこちらですし、柊様には呪いを請け負っていただく形ですが……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。よく分からないですけど呪いを受けても精神的におかしくなったりする事はないので」
「それでは少しお待ちください。お菓子とか好きに食べて待っていていいので」
そう言ってミスト所長は部屋を出た。
そして疑問が残る。
「何でアスモデウスは残ってんの」
「え、一応何かあった時の保険?それに柊君に何かあったら、私!!」
「そういうわざとらしいのが嫌いなんだって。もう少し普通にしろよ普通に」
「いや~……何か分からないけど君の前ではこうして少しオーバーにしたくなるというか、この方が落ち着くというか?」
なんだそれ?
よく分からなくてリリムに視線を向けたが、リリム分からないと肩をすくめる。
もしかしてこいつも俺が死んだことで何か影響を受けていたんだろうか?
よく分からないまま少し待つのだった。