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転生者の贖罪  作者: 七篠
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神薙一と組手

 次の日から始まった神薙一による修行。

 それはひたすら組手を繰り返す日々だった。


「はいそこ」

「ぐげっ」


 一瞬の隙をつかれ神薙一に胸を掌で叩かれた。

 咳き込むくらいの威力に調整されているが本来であれば死んでいただろう。


「ゲホゲホ」

「その程度か?孫をボコった時はもっと血の気があったと思うが」

「状況とか色々違うじゃないですか。それから俺だけなんでひたすら組手なんです?」


 他のみんなに関しては滅技の基礎を復習しながら無駄な動きを省いたり、より効率的にオーラを操れるようにする修行をしているのだが、俺だけはひたすら神薙一との組手だった。

 条件は神薙一だけ体術のみで行うというものであり、オーラも魔法も一切禁止となっている。

 そして俺はハンデなのかどんな魔法、武器を使ってもよし。

 何でこんな修行方法なんだ?


「お前は既に滅技を習得してる。足りないのはオーラだけ。それならひたすら実戦を繰り返して強くなる方が良いだろ」

「いや~そう評価していただけるのは嬉しいんですが、組手だけなら神薙さんだけじゃなくてもいいような……」

「お前は自分が弱いという事を自覚しているが、それなのに無茶な戦い方をしたり自分の体を傷付ける戦い方ばかり。それを見直すためにただの組手を繰り返しているんだ。ほら、さっさと構えろ」

「は~い」


 こうして俺だけみんなと違うメニューをこなして強くなろうとする。

 だがこれは筋トレとはまた違った強くなった感触がなく、本当にこれでいいのかと思ってしまう。

 まぁ実戦を想定した物と思えばこれはこれでありなんだろうが、なんかそれだけじゃない気がするんだよな。

 何と言うか、俺の事を探っているというか、俺の本質を見据えようとしているというか。


「ふむ。もういいぞ」


 負け続けた組手でそう言われて俺は力を抜いた。

 結局最後まで神薙一だけオーラなしの本当の体術限定戦だったので少し疲れた。

 それなのに神薙一は疲れるどころか息を切らした様子すらない。

 本当に孫がいる年齢かよ。


「お前、まったく本気出してなかったんだな」


 あまりにもいきなりな言葉に首をかしげるしか出来なかった。


「あの、いきなり何の事です?」

「息子や孫と戦った時、全くと言っていいほど本気を出してなかったんだと気が付いた。何故だ」

「何故って……普通に本気出してましたけど?」

「なら何で適性の高い消失魔法ロストを使わなかった」


 なるほど。

 適性魔法も使わずに戦ったから手を抜いたと勘違いされたって事か。


「そりゃそうですよ。もしそれで本当に相手を消したらあなたに殺されるじゃないですか。だから使いませんでした」

「なら他の者なら使ったと」

「そんなつもりはありませんけど……元々多用する魔法じゃないですか。一撃必殺を決めるって言うならまた別ですけど」

「何故俺には使わない」

「そりゃ消し飛ばすわけにはいかないからですよ。同じ事何度も言わせないでください」


 何で同じ事を何度も聞くのだろうと考えてみるが……まさかあれか?

 舐められてると思われてる??

 いや、確かに俺は神薙一から見ればクソ雑魚だろうが、それでも消失魔法は非常に強力でコントロールが難しい魔法だ。

 だからもしも殺してしまった場合責任が取れない。

 神薙家の人間が死んだとか世界中でパニックニュースになること間違いない。


「全力でない者と戦ってもその力を正確に推し量る事ができない。全力で来い」


 そう言って再び構える神薙一だが正直本気を出す気はあまりないんだよな……

 さっき言われた自身を傷付けない戦い方をするのであれば全力を出さない方が良い。

 俺の全力とは基本的に自分自身を傷付けてでも相手を確実に殺す反動技ばかり。さっきそれを止めろと言われたばかりなのにそれをする訳にもいかないと思っていたんだが……


「はぁ。一回だけですよ」


 全くやらないのもこの人は引かなそうだ。

 だらけた状態なのでノロノロと起き上がり、構えもせず両腕をだらんとぶら下げた状態でリラックス状態を保つ。


 ぶっちゃけこれキツイんだよな……体への反動というか、使った後がめっちゃ疲れる……

 これやるの子供の頃にどこまでできるかどうか確かめるために使った時以来か?まだ弱いから使うとヤバいんだよな……


「そんなだらけた状態で――」


 何て言っている間に『夢現』を発動。それと同時に消失魔法を右手に集中させて心臓めがけて貫こうとする。

 リラックス状態から一気に加速させる居合の技術を夢現で強制的に神薙一を殺せるだけの速度と威力を得て突っ込む。

 更に右手の消失魔法さらに殺せる可能性を引き上げる。

 ただの人間相手なら消失魔法なんて必要ないが格上種族を相手にするのなら念のためにやっておいた方が良いだろう。


 と言っても今回は寸止めだけど。


「……何故攻撃を止めた」

「あなたが言った事じゃないですか。自分自身を傷付けるような戦い方は止めろって。ぶっちゃけこれやると全身の筋肉やら骨やら臓器やらみんなずたぼろになるんですよねっ!?」


 説明中に俺の体に尻尾が巻き付いた。

 犯人はもちろんタマ。俺の体がボロボロになったので治療を始めてくれた。


「いつもありがとうございま――むぐ」

「いい加減やめなさいって言ってるでしょ。一さんもあまり本気を出させようとしないでください。彼すぐにこうして攻撃してくるから治療する側は大変なんですよ」


 尻尾でぐるぐる巻きにされてしまい俺はモフモフの毛玉の中に閉じ込められてしまった。

 まぁタマの尻尾って高級クッションに包まれているような物だからスゲー気持ちいい。


「筋肉断裂、骨にひび、いたるところに内出血。寸止めでこれだけの反動どうやったらできるんだか」


 タマはそう呆れながらも尻尾を動かしながら治療してくれる。

 全身くまなく触られてるからくすぐったいけど。


「……今のは消失魔法だけではない。2つあるのか」

「ええ。俺が得意としている魔法は2種類、消失魔法と幻術です。と言っても幻術は相手にかけるんじゃなくて、自分にかける方が多いですが」

「待て、何でそのやり方をする。何故そうした」

「何故って……俺相手に効くか分からないデバフをかけるくらいなら自分にバフかける方が良いって思ってるんですよ。自分に幻術をかけて痛みを軽減したり、さっきみたいに一時的に脳内のリミッターを外す事で身体能力を劇的に向上させる。その方が勝てる可能性が圧倒的に高いんですよ。それに幻術ってのは基本的に不意打ちを作るための基礎技みたいなところありますし、ほとんどの自分より強い相手には効かない魔法。なら自分にかける方が良いでしょ」


 その事に驚く神薙一だが、俺はそう変な事を言ったつもりはない。

 そりゃ普通なら付与術を使って自身を強化する方が安全だし、やりやすいだろう。それに幻術を自分にかけているという事はほとんど思い込みと変わらない。

 だがその思い込みのおかげで本来なら出せないはずの身体能力まで引き上げる事が出来るのだから便利である。


「その戦い方、どこで学んだ」

「え?独学ですが……というかただの思い付き?」

「………………そうか」


 何か思い当たる事でもあるのか、難しい顔をしながら悩む神薙一。

 もし誰かと戦い方が偶然似てるとしてもある程度だろうし、そんな悩むような物でもないと思う。

 なぜそんなに気にするのか不思議に思っていると、媚び媚びの甘ったるい声が聞こえてきた。


「みなさんお疲れ様です。はちみつレモンどうですか!」


 …………あまりにもベタなやり方でタッパーに入った輪切りのレモンをはちみつに付け込んだ物を差し出してくるアスモデウス。

 そんな彼女を俺は冷めきった視線を送っている。


「何仕込んだ」

「え?何も??結婚してほしい人に悪い事なんてしないって~」


 妙に体をくねくねさせながら言うアスモデウスだが、そのタッパー開けた途端ピンクの煙が立ち込めてるんだが?ついでに他の連中もあれ絶対食べちゃダメだって思ってそうだが。

 それにみなさんとか言ってるが俺に食わせる気しか感じないが??


「琥珀」

「どうかし――むぐ!?」


 琥珀を呼んで問答無用ではちみつレモンを琥珀の口の中に突っ込んだ。

 すぐ琥珀はレモンを吐き出すが、まるで酔ったように足元がおぼつかなくなり、フラフラしながら呪われていた。


「な、なにこれ~?」

「やっぱり呪ってたな。それにこれ媚薬と惚れ薬も混ぜてるだろ」

「な、何の事かな~?ルリ分かんない」


 舌を出して可愛いポーズ取ってつもりかもしれないが気に入らない。

 容赦なく俺はアスモデウスにデコピンを食らわせた。


「あぎゅ!?」


 タッパーを落として悶絶する淫魔を放っておいて琥珀の状態異常を治す事にする。


「ツー、呪いと薬物の除去頼む」

『了解しました』


 ツーの種子を琥珀の体に置くとすぐに根を張り体全体から呪いの解呪と解毒を同時に行う。

 毒と呪いを吸収した根はピンク色になり、全ての呪いと毒を吸収し終えるとあっという間に枯れて消え去った。

 そして琥珀は無理矢理食べさせた俺に怒り始める。


「ちょっと!!なんてもの食べさせるのよ!!私あなたの毒見役じゃないんだけど!!」

「まぁこう言うときの犠牲って琥珀が無難かな?ってちゃんと解毒とかの準備はちゃんとしてたんだから許してくれよ」

「許さないわよ!!代わりに今夜あなたの精気吸わせなさいよ」

「はいはい」


 毎晩リルも琥珀もリーパも勝手に俺の精気を吸っているのは知っているから別に構わない。

 体から自然と漏れ出した生命力くらいならいくら吸われても害はない。

 そう思っていると神薙一は俺に言う。


「休んだら一緒に来てくれ。お前の事を直接見たいと言う神がいる」

「……分かりました」


 神と会う。

 一体どの神と会うかによって俺の未来は決まるだろう。

 出来るだけ友好的な神だといいな。

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