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転生者の贖罪  作者: 七篠
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前世の実家へ……

 冬休み初日、俺達は学校の前に集合していた。

 メンバーは俺と涙、シスターに銀毛、タマの5人。より正確に言うと俺の影の中にリルとリーパ、琥珀もいるので正確に言えば8人と言った方が正しいか。


「にしてもこんな時も学校に集合か。休みの日に学校来るなんて部活やってる連中だけだろ」

「それはそうでしょお父さん。それよりもうすぐ来るよ」


 涙がそう言っていると8人乗りのワゴン車がやってきた。

 運転していたのは日芽香で学校の前に駐車する通りてきた。


「やっほ~みんな。それじゃ家に向かって出発するよ。荷物は後ろに積んでね」


 という事で全員分の荷物を後部座席に乗せてから車は発進した。

 その運転は……とても上手とは言えない物だった。


「飛ばし過ぎ飛ばし過ぎ!!」

「え~、これくらい大丈夫だって」


 日芽香は意外と車を飛ばすタイプだった。

 そのおかげで高速に入ってからはアクセルベタ踏みしてるんじゃないかと思ったし、リルが影から全く出たがらない理由も分かった。


「もうみんな大袈裟だな~」

「大袈裟じゃないですよ。ほとんどが目を回してるじゃないですか。俺も軽く酔ったし」

「柊ちゃんは丈夫だね。それからもうすぐ着くよ」


 ようやく日芽香がスピードを落とし、トンネルの中を通ると霧が発生する。

 これはいわゆる神隠しやホラーなんかでよく出てくる特定の結界に入ったサインだ。

 そんな刺激的なドライブも終わり、日芽香以外生きている事に感謝しているとでっかい屋敷の前に停車した。


「よしついた。みんな到着だよ」


 俺以外ヘロヘロ状態で車から降りる。

 げっそりした顔をしているがどうにか生きている感じ。

 俺だけはケロッとしているのは多分こういうのに慣れているからだろう。

 うちの母ちゃんも運転荒っぽいし。


 今の俺にとっては初めて来る神薙家。

 前世から考えれば、久々の実家。

 もちろん俺は初めてこの家に来る人間としてふるまうが、やはり懐かしさは感じてしまう。

 グロッキーな連中の代わりに荷物を下していると誰かが声をかけてきた。


「こんにちわ。よく来ましたね」


 温かい声。

 振り返ってみるとそこには初老の女性が着物姿で立っていた。


「あ、お母さんただいま。みんなの事連れてきたよ」


 神薙日芽香の母親、神薙凛音(りんね)

 俺の元、母親。


「お帰り日芽香。また荒い運転したんでしょ。みんな顔色悪いじゃない」

「そ、そんな事ないよ!普通だよ普通」

「あなたの運転は普通じゃないの。いい加減安全運転してくれないといつか事故を起こしそうで怖いんだから、いい加減やめなさい」

「は~い」


 渋々と言う感じで認める日芽香。

 しかし神薙凛音は娘の心情くらい簡単に分かるのか、反省していない事を分かってため息をつく。


「みなさんもごめんなさい。この子には安全運転でって強く言い聞かせていたんだけど、全然来てくれてないみたい」

「う、ううん。いつもの事だから大丈夫だよ、おばあちゃん」

「涙ちゃんも本当にごめんなさいね。本当は他の子に運転を頼もうと思ってたんだけど、自分が運転するって聞かなくて」

「あ~、日芽香お姉ちゃん運転好きだもんね……うっぷ」

「長話してごめんなさい。部屋でゆっくりしてちょうだい」


 そう神薙凛音が言うと扉の奥から女中さん達が現れて俺達の荷物や寄ってしまったみんなを丁重に運ぶ。


「あ、俺は比較的大丈夫なんで、自分で運びます」


 元々着替えの服とタオルくらいしか入っていない肩さげカバンをかけると女中さんは綺麗な礼をして静かに去る。

 そんな俺の姿を神薙凛音はじっと見ていた。


「えっと……初めまして。佐藤柊って言います。本日から滅技の修行よろしくお願いします」


 初対面として接する事に少し罪悪感があるがこの方が周囲を混乱させない。


 神薙凛音は俺の記憶の姿よりも大分老けた。

 髪は白髪が増えていつの間にか綺麗な黒髪よりも増えているし、顔や手に皺も増えた。

 でも凛としつつ背筋がしっかりと伸びた姿にホッとしている。


 そんな元母は俺の事を恐る恐ると言う感じでシワシワの手を俺の頬にそっと触れた。

 俺は何をする訳でもなく、昔よりもカサついた手で撫でられるのを止めない。

 そしてぽつりと言う。


「あなたの前世に私と何か関係がありましたか」


 質問と言うよりも確信に近い確認と言う雰囲気の言葉に俺はいつものように答える。


「はい。前世の頃にお世話になりました」


 嘘ではないが、本当の事でもない中途半端な回答。

 世話になる程度の話ではない。

 俺はこの人から母親として愛情をたっぷりと注いでもらったのだからそんな言葉で片付けいいわけがない。

 でもその記憶があるのは俺だけで、この人の記憶には欠片も残っていない。

 だから決して口に出してはいけないし、認めてはいけない。


「そう……なの。それじゃこう言わせてもらおうかしら――」


 こんな中途半端な答えだったと言うのに、確信をもって母は言ってくれた。


「――お帰り。無事に帰ってきてくれてよかった」


 …………………………気が早過ぎる。

 まだ俺は、ここに帰って来たとは言えない。


「ありがとうございます」


 だからもうしばらくだけ親不孝をさせてもらうぞ。

 まだ俺は何も終わっていないし、堂々と帰ってきたと胸を張れない。

 あと少し、あと2年だけ待って欲しい。


「……それじゃみんなのお部屋に案内するわね」


 俺の回答で何かを察したのか、寂しげな表情をしながらも深く聞こうとはしない。

 正月前で忙しいであろう時期に俺達を招き入れてくれるのだから感謝しかない。

 ここでさらに滅技を上達させて2年後に備えないと。

 でなければ意味がない。


 それぞれ部屋に通される中、神薙家は相変わらずなんだと思った。


 神薙家は様々な超常の存在の橋渡しであり、緩衝材のような役割も持ち合わせている。

 この家だってただの平屋の超豪邸屋敷ではなく小さな結界が至る所に張られている。

 それは仲の悪い存在同士が鉢合わせしないようにするためだ。

 もし仮に敵対関係のある存在同士が出会った事で即この場で喧嘩が起きた場合それは天災と変わらない被害をもたらす。

 それを回避するためにこの屋敷その物が超巨大な迷路のような効果を出す結界を張っているし、そう簡単に誰かとすれ違う事すらない。


 だがそれでも本当にヤバい存在。戦闘に特化した神仏や主神と言える偉い連中にはある程度効果が破られてしまう。

 その本当にヤバい存在達が俺の事をじっと見ている。

 ふすまをほんの少しだけ開いて俺の事をのぞき見しているような嫌な視線。

 値踏みしているようにも感じるし、ただ好奇心で見ているだけの視線も感じる。


 どちらにせよ気に入らない。

 ほんの少しだけ立ち止まり、睨み返すと気が付いてくれた事に喜んでいるのか、様々な声を押し殺した笑い声が聞こえる。

 だがほとんどは勝てもしないのに神仏に威嚇している姿が滑稽なのだろう。

 だからほんの少しだけ呪いを出しながら再びにらみつけると、ようやく静かになった。


 どんな神話でもドラゴン、龍と言うのは特殊な存在だ。

 神と同等の力を持ちながら獣のようにふるまう存在、神と同等の力を持ちながら何もしない存在、神と同等の力を持ちながら人類を愛す存在。

 あまりにも生き方に統一性がなく、逆鱗に触れた場合神でも無事では済まないし、最悪殺される事もある。

 だから強い弱いに関係なくドラゴンは警戒される。


 まぁ神に喧嘩を売るドラゴンなんてそうそういないが。


 だがそれでも俺は神仏の間で随分注目されているらしい。

 聖書の神と戦う人間と言う事だけで注目されるのは仕方ないのかもしれないが。

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