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転生者の贖罪  作者: 七篠
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日芽香と組手

 改めて涙に電話して大晦日と正月はどうするのか確認してみた。


『え。大晦日とお正月?一緒に居ようよ』


 流石にそれは失礼だと思ったので大晦日から三が日までは普通に実家に帰ると伝えた。

 涙は残念そうにしてはいたが、さすがに見ず知らずの相手を大晦日から正月まで面倒を見るとか邪魔すぎるだろ。

 それに前世の家族の事も気になるが、今の家族だって大切にしたい。

 前世で家族を不幸にしてしまったからこそ同じ事を繰り返すわけにはいかない。


 でもまだ不安は残るのでご家族に聞いてみる。


「え、別に家に来るくらい別にいいんじゃない?」


 日芽香に聞いてみると予想以上にあっさりとした答えが返ってきた。


「いや、会長が言うには大晦日から正月までずっと教官の家で修行しないかって誘われたんですよ。普通に邪魔でしょ、他人が急に家に来て住み着くなんて」

「あ~、確かに普通に考えれば嫌かもね。普通は」

「教官の家だって普通でしょ」

「家は全然普通じゃないから。毎日のように各神話のお偉いさんが家に来てるし、ただお父さんとお母さんに愚痴聞いてもらおうとする人だっているし、そのまま酔いつぶれて止まってく人もいるし」


 そういやそうだった。

 確かに神薙家に関しては各神話にとって絶対に戦ってはいけない場所と言うだけではなく、愚痴だのなんだのを聞いてくれる避難所のような場所でもあった。

 もちろんそこでお偉いさんの弱みなどを握ろうとした連中もいたが、基本的に仲の悪い者同士が出会う事はないように配慮されているし、そもそもそう言う連中は当時の父が入れないようにしていた。

 だから知らない小僧が大晦日や正月に家にいても気にしないと言われればそれはそれで納得できる。

 だがそれでもマナーと言う物は存在する。


「そうだったとしてもさすがに失礼なので遠慮しておきます。でも修行の件はお願いしてもよろしいでしょうか」

「分かった。まぁお正月となると色んな偉い人がお父さん達に挨拶しに来るから家にいない方が柊ちゃんの精神的にいいかも」

「ありがとうございます」

「そうなると修行には全員参加って事でいいね」

「ちなみに全員ってのは?」

「涙ちゃん、銀毛さん、シスター、そして柊ちゃんの4人全員が冬の滅技修行に参加する事になりました」

「シスターって滅技覚えてもいいんですか?」

「まぁ、お兄ちゃんも許可出してくれてるし、元天使の偉い人も滅技を覚えた人もいるから問題ないと思うよ」

「あ、そうですか」


 てっきり昔みたいに天使が神を殺す技を覚える必要ないって言われてるのかと思った。

 これも兄の方針の変化なのかね?


「それにまぁ柊君が家に来てくれると色々助かると言うか……」

「助かる?」

「え~っと。色々と?」


 明らかに目線を泳がせて誤魔化す日芽香。

 おそらく神薙家に行けば分かる事なんだろう。

 何か隠してあるとしても、行くことは決めているのだから行けば分かる。


「まぁしばらくお世話になるんでお手伝いできることがあればお手伝いしますよ」

「本っ当にありがとう!!家有名だからさ、ちょっと含みのある言い方するとみんな怖がっちゃうことが多いから本当に助かるの。あ、でも怖い事にはならないからそれだけは安心して」

「分かりました。あ、一応琥珀とはリーパとかも連れて行かないといけないんですけどそっちは大丈夫ですかね?」

「大丈夫大丈夫。ちょっとしたイタズラならみんなで対応できるし、琥珀さんに関してはだいぶ力を失ってるんでしょ?リーパさんもつまみ食いくらいだろうし、大丈夫だって」

「それならいいんですが……よろしくお願いします」


 こうしていくつかの懸念を払拭して修行に参加する事ができそうだ。


「それじゃ今日の分。始めようか」

「よろしくお願いします」


 今日の分の修行。それは日芽香との組手。

 ある程度滅技が使える俺は基本的に組みの繰り返しが多い。

 基礎はできているのだから後はひたすら経験を積み重ねてオーラの動きをより滑らかに、そして状況に合わせて即座に技を繰り出す事が出来るようにするため。

 本音で言えば本物の殺し合いの方がもっと緊張感があって上達も速くなると思うんだが。


 そう思いながら俺は殺す気で姫に技を繰り出す。

 相手の首をへし折る事を前提とした『断頭』、回りながらかかとで相手の骨を破壊する『鉄球』、相手を手で貫くための『槍』などなど、人滅人技のみがルールとなる。

 もちろん俺だけではなく日芽香も技を繰り出してくるが、俺とは繰り出す技の種類が違う。


「人滅人技『縄』」


 日芽香が得意としているのは関節技。カッコよく言うとサブミッション。

 日芽香が女として関節の可動域の広さ、しなやかさを使って相手の頸動脈を狙ったり、曲がってはいけない方向に無理やり曲げる事で相手を破壊する。

 そのため捕まったら負けと言ってもいい。

 捕まったら締め上げられどこか壊される。


 今行っている『縄』と言う技は相手の首に肘の内側をかけ、締め上げながら関節の逆方向に曲げる技。

 もちろん関節技なので腕や足が動かないように固定されてしまっている。

 首を絞められ呼吸し辛くなり、背中は無理矢理逸らされて骨がきしむ。

 だが絞めている腕に爪を立て腕の肉を引きちぎるつもりで無理やり外す。

 日芽香はすぐ技を解いて逃げた。


 そして今度は全身の筋肉をしなやかに動かして回転しながら手刀を浴びせてくる。

 単なる筋力だけでは男には敵わない。だから回転や居合のような瞬発力で加速させる事で攻撃力を上げる。


「人滅人技『渦潮』」


 相手の周りを高速で動きながら手刀や素早い蹴りで相手を切り刻む本来であれば刃物を使った技。

 しかし日芽香の場合はオーラを纏って手や足を刃物の代用として使っているのでさらに素早くて数が多い。

 気分としてはミキサーの中に放り込まれた食材と言ったところか。

 四方八方から刃が絶え間なく襲ってくるのだから厄介極まりない。

 今はあくまでも組手なので腕や足を中心に狙っているが、実戦となればアキレス腱や目、耳を狙ってくる。それにまだまだ加速しきっていないので放置しておけば全身ズタズタに切り裂かれているだろう。


 だが何度も言うようにこれは組手だ。

 日芽香は格下である俺に遠慮しているし、急所やアキレス腱などを狙ってこない。

 だからある程度攻撃する場所を予測しながらオーラで防御力を高めながら隙を疑い、伸びていた手を捕まえた。

 その手をしっかりと握り、逃げられないように引き寄せながら顔面に拳を入れる寸止めで止めた。


「やっぱ今日も俺の負けか」

「いや、普通に言わせてもらうけど柊ちゃん私に十分ついてこられるだけで化物だから。こっちは10年以上先輩なのについてこられるってだけでショックなんだけど」

「明らかに手を抜かれているって分かってるのにショックも何もないと思うんですが」

「初心者向けの戦闘スタイルどころか普通の組手として成立してる時点でやっぱり異常だって。まだ16歳なのにその成長速度羨ましい。私が柊ちゃんと同い年だったら絶対私負けてた」

「そんなことありませんって。俺関節技とか苦手だし」

「男の子で十分からだ鍛えてるんだからすぐ殴ったりけったりする方が効率いいよ。私はそれだけじゃ攻撃力少ないからこうしてグルグル回って攻撃力を上げる必要があるんだから。絞め技だってただの筋力じゃ勝てないから覚えるしかなかったってだけだし」

「それを突き付けて技に昇華してるんですから十分凄いですよ。それに人に合った戦い方があるのは当然なんですから、そりゃ変わりますって」

「そうなんだけど……教官って立場からすると柊ちゃんを強くさせ辛いんだよね。攻撃パターンが違い過ぎてうまく指導できてない。となるとやっぱり頼るしかないか」

「頼るって誰にです?」

「それは冬休みの修行のお楽しみ。それじゃ今日は上りにしようか」


 こうして今日の組手は終わった。

 それにしても日芽香の奴、本当に戦えるようになったな。


 俺が知っている頃は戦いに興味など全くなく、護身術程度に覚えていればいい、本気で殺し合うようなレベルに到達する気はないって態度だったのに、なんでだろう?

 聞き出す理由もないから聞かないけど。

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