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転生者の贖罪  作者: 七篠
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冬休みの予定

 少しずつ寒くなっていくのを感じながら秋から冬に移りそうになっているのを肌で感じる。

 日課のランニング兼リルの散歩、学校に行って授業を受けて、またランニング兼散歩をして帰るの繰り返し。

 同じ事をして継続する必要のある訓練で体力が落ちないよう調整しているが漫然と同じ事をしていても強くなれない。

 そして強くなるために以前と比べれば遅いが魔力の循環も常に行っている。


 だが龍化の呪いに関してはもうずっと増えていない。

 最後に増えたのは琥珀を利用しようとした連中が飲んだ薬に封じられていた呪いの欠片くらいでそれ以降は全く呪いを回収できていない。

 元々極稀(ごくまれ)に呪いにかかってしまうのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 それにほとんどの人達は事故や病気のような扱いであり、薬に封じられた呪いを摂取しようとしているのは裏社会の人間だけである。

 だがそんな呪われた人達から呪いを回収しなければ俺は強くなれない。

 どうにかして見つけて呪いを奪わないと。


 そう思っている昼休み。

 どうしたものかと考えていたらスマホが鳴った。

 相手は……涙?


「はいもしもし?どうしました??」

『あ、お父さん。冬休みって暇?』

「まぁ特に予定はありませんが……冬休みって気が早くありません?」

『そうなんだけど、こういうのは早めの方がいいかなって思って』

「どこか出かけるんですか?」

『夏休みとは違う所で修行しない?』

「修行ってどこでですか?」

『滅技の総本山、神薙邸』


 …………………………


「マジですか」

『大マジ。一応教官の日芽香さんにも許可はもらってるし、どうかな?お父さんも滅技使ってたからもっと強くなれるんじゃない?』


 あの人達に会う事になるのは……間違いないな。

 妹の日芽香にはもう会ったが、他の家族にも会う日が来るとは思っていなかった。

 特に親には……会い辛いな……


『お父さん?お父さん??やっぱり何か用事あった??』

「あ、いや、まだ特に用事も何も決まってないんで、一回親に確認してからにしようかと」

『あ~、そうだよね。お父さんだけじゃ決められないか。すぐにじゃないからゆっくり決めてね』

「分かりました。ありがとうございます」


 そう言って電話を切った。


 正直に言うと、気が重い。

 向こうは覚えていないとはいえこっちはしっかりと覚えているのだからどうしても罪悪感がある。

 罪を犯した、やってはいけない事をした。

 そんな思いが足を止めさせる。


 正直に言えば何度か前世の実家の様子を見るくらいはしてもいいのではないかと思った事はある。

 でも家族思いだった前世の母親、あの人を裏切った事実がどうしても足を重くする。

 俺の事を好きだと言ってくれた仲間達とは別ベクトルだが、大切な人だったし、大切にしなければならない人だった。


 その人を裏切った事実がとにかく重い。

 まだぶっ殺した連中に足引っ張られる感覚の方がまだマシ。

 やっべ、気分が落ちてきたらマジで体が重くなってきた気がする……


「何やってんの?そんなに嫌な電話なら断ったら」

「……ベレト。別に、内容そのものは嫌な内容じゃない」

「それじゃ何が嫌なんですか?」


 ベレトだけかと思っていたら桃華も参加して来た。

 まぁこれに関しては普通に話してもいいか。


「さっき会長から冬休みの間神薙邸で修行しないかって誘われた。俺みたいな普通の人間が入って良いのかあそこ?」

「あ~格式高い古武術道場よね確か。一般向けにも開放されてるけど、それはあくまでも支部。お金稼ぎのためだけの施設らしいけど、神薙邸は本当にヤバいってだけ聞いたことある」

「神薙邸に招かれる事は神仏にとっても非常に光栄な事です。そして誰も手が出せない。その理由は知っていますよね」

「強すぎるから、だろ。元々人間が神々に対抗するために生み出された古武術、その始祖がが現当主なんだよな」

「その情報古いわよ。今は息子に譲って当主はその息子がしてるから」

「柊さんがイメージしているのはおそらく先代ですね。10年くらいに代替わりをしてから滅技を広めていましたから」

「呪いが流行ったのも理由よね~。最低限の護身術程度の者から本格的な戦闘まで、今じゃ総合格闘家なんかも支部に通ってるなんて噂もあるし、金のなる木を持ってる人は良いわよね~」


 その言葉に関しては俺は苦笑いで返す。

 先代、つまり父親がやっていた頃の滅技の門が狭かった理由は戦う覚悟がないのなら来るな、と言う覚悟の確認のためだ。

 滅技の根幹は相手を殺す事なのは変わらないから殺す殺されるの覚悟がないのであれば大人しくしていた方がいいと言うのが父の考え。


 それに対して兄は護身術でも何でも学んでおいた方が良いという考え方だった。

 もちろんビジネス的な意味合いもあるが、クソ神や力のある種族と言うだけで人間をいたぶる他種族の事が気に入らなかったと言うのもある。

 だから門を広げて自分の身を守るための知識を得るための場所にもしたかったんだろう。


 だから根っからの守銭奴と言う訳ではない。

 それにこういう事を言うと熱心な信者達に食いつかれる。


優雅ゆうがさんはそんな人ではありませんよ。お金稼ぎだけが目的ならもっといい方法がありますから」


 優雅と言うのが前世の兄の名前。

 当時は眼鏡をかけたインテリって感じだったんだが……今はどうなってるんだろ?


「って桃華は現当主のこと知ってるのか」

「お父さんに聞いた事があるだけで直接会った事はありません。でも話を聞く限り悪い人ではなさそうですよ」

「ふ~ん」

「あれ?意外と興味ない?」

「興味がない訳じゃないが、経営に関しては興味ない。興味あるのは滅技について俺でも学べるのかどうかってとこ」

「それなら問題ないはずですよ。元々人間のための古武術なんですから」

「そうなんだけど……そうじゃないんだよな……」


 ぶっちゃけこれは俺の心の問題だ。

 裏切っておいて都合のいい時に勝手に実家に帰るような居心地の悪さ。そして泣かせてしまったであろう罪悪感。

 そう言った物がごちゃごちゃになってしまい踏ん切りがつかないだけだ。


「……もう少しゆっくり考えてから答えは出すさ。冬休みって言っても大晦日とか正月とか流石に一緒じゃないでしょ。その前に帰るだろうし」

「まぁ普通はそうだけど……」

「なんだよ。何かあるのかよ」

「あの、今回の話って会長さんから誘われたんですよね?」

「そだよ。それがどうした?」

「会長ってどこか抜けてるから、もしかしてなんだけど……」

「大晦日もお正月も一緒のつもりで言ってるんじゃないですかね?」

「……………………いやいやいやいや、さすがにそれはないでしょ。だって俺ただの後輩だよ。親しいと言ってもどこまで行っても先輩後輩の関係。そんな人ん家で大晦日と正月を越すわけないでしょ。さすがにそれは考えすぎだって」

「どうだろ」

「どうでしょう?」


 な、なんか二人がありえないとは言い切れないと言う雰囲気にまさかの可能性を考えてしまう。

 だって涙は俺の事お父さんって呼んでるし、もしかしたら……


「…………念のため大晦日と正月はどうか確認しておく」

「その方が良い」

「その方が良いですね」


 二人は深く頷いた。

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