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転生者の贖罪  作者: 七篠
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誰も覚えていないのは俺が望んだ事

 ウェールズ騎士学園との練習試合が終わった後は日常的な日々に戻った。

 体育祭なんてイベントもあったが特に青春っぽい物もなく、普通に楽しんだ。

 そして冬がやってきたな~っと感じている時にタマが学校に復帰した。

 金毛家の方はまだ復興中とのことだが、ウカノミタマを中心とした日本の神々が浄化や復興を協力してくれる約束を取り付ける事が出来たのでとりあえず一段落したと言っていいらしい。


 そんなタマの帰りに喜んだのが男子生徒達、エロくて美人な保健室の先生が帰ってきたと大はしゃぎ。

 そんな様子の男子達を女子が冷ややかな視線を送るまでがセットとなったが、俺としては無事に帰ってきてくれただけで十分だ。


「……で、何でこうなった」


 現在学校の地下にある秘密基地で俺は精密検査を受けていた。

 血液検査にSTスキャンのような物、入院中に着る薄っぺらい服を着てまさかの検査だ。

 タマが帰って来て早々俺の事を調べたいと言うのでなんか流れだけでこうなった。


 言われるがままに検査を受けた後、タマはいつもの白衣姿でカルテを見ながら言う。


「以前より魔力量が増えただけで特に異常はなし。筋肉や骨も疲労の様子はない、か」

「あの~、何で俺の検査してるんです?」

「何でって私が見てないところで勝手にオーバーワークをして体壊しかけていないか調べたかっただけよ。少し前の君なら平気でやってたでしょうし」

「今は魔力量を上げる訓練を中心にしてるので肉体的疲労はあまりないと思いますよ」

「でも魔力回路の方は少し傷んでるわね。日常的に魔力を流す訓練は相変わらずか。もう少しそっち側も休ませなさい」

「え~」

「え~じゃない。患者は大人しく主治医の命令に従う。患者を治すのが医者の仕事なんだから言う事聞く」

「分かりましたよ……」

「それじゃ軽く治しておきますか」


 そう言って狐耳と尻尾を出しながら俺の事を抱きしめる。


「ちょ、何してるんです?」

「仙術治療よ。こうやってあなたの魔力回路を治療してあげてるんだから感謝しなさい」


 そう言いながら俺を逃がさないためかしっかりと抱きしめるだけでなく、尻尾も俺の腕や足に絡ませて治療してくれる。

 ちょうどいい温度の風呂に入っているような、体の芯からポカポカしてくるような心地よさが俺を包む。

 今までは手を重ねるくらいで行っていたはずの行為を何でこんな風にするんだろう?

 仙術の素人ならこうして体全体を使った治療を行う事はあるだろうが、タマはスペシャリストだ。こんな初歩の初歩の方法でやる必要などない。

 それなのになぜこんな風にやるのか理解できない。


「タマ先生。何でこんな風に治療するんですか?今まで手で触れるだけだったじゃないですか」

「それはちょっと考える事があってねぇ。こうすれば何か分かるかと思ったけど、やっぱり分からないみたい」


 そう言いながらタマは俺の体から離れた。

 つまり治療だけではなく何かを調べるために抱き着いた?

 修行に行った時に何か引っかかる行動したっけかな……


「とりあえず検査は終了。少しお茶しましょ」

「ありがとうございます。あ、でも着替えていいですか?」

「好きにしなさい」


 と言われたので俺は服を着替えてお茶の席に着く。

 そこには俺よりも早くリルと琥珀、リーパがご相伴にあずかろうとしていた。


「お前達もかい」

「こういうのは人数が多い方がいいでしょ。それにしても本当にキャスパリーグがいるのね」

「そんなに珍しい?」

「キャスパリーグ種が珍しいと言うよりはこの子がいる事が珍しいって言うのが正確ね。今までサマエルがありとあらゆる情報網を使ってもぜんぜん見つけられなかったって言うんだから、そりゃ気になるわよ。でも確かに今みたいに小さな猫の姿をしていれば見つけ辛かったでしょうね」


 お茶を入れながらタマは納得したように言う。

 そんなキャスパリーグは特に気にすることなく普通に茶菓子を食べている。


「こんなのんきなのが本当によく今まで捕まらなかったな」

「それだけ逃げ隠れするのが得意だったんでしょ。それから聞きたい事があるんだけど」

「なんです?」

「あなたの前世と私の関係ってどんな感じだったの」


 真剣に聞いてくるタマだが、全ての真実を言うつもりはない。

 ただ一部の真実だけを言うだけでだいぶ印象は変わる。


「どんなって聞かれたらまぁ、悪いことする俺をみなさんが追いかけるって言うのがいつもの構図でしたね」

「悪い事ってどんな事してたのよ」

「金ならいくらでも出すから手に入れて欲しいコレクターとか、非合法組織って分かっていながら護衛してほしいとか、代わりに殺してほしい相手を殺したりとか、裏の何でも屋ですね。サマエル達と一緒にやってました」

「つまり“はぐれ”に属していたから一緒に私達に追い掛け回されていたと」

「ええ。分かりやすく話すとそんな感じです」


 これは最初にみんなを裏切った後の話。

 みんなを裏切る前の話は……しない方がいいだろう。

 なんだかんだでみんな勘が良いし、渉と妙の時のように直感を信じて攻撃してくるかもしれない。

 最低でも渉と妙という実例があるから少し警戒しておいた方がいいだろう。


「では私達やサマエル達から記憶がないのは何故?前世の事を消して一体何の目的で転生したの」

「転生したのは本当に事故ですって。そもそも転生する気なんて全くなかったんですから」

「事故で転生するなんてそれこそあり得ないんだけど」

「でも本当にそうなっちゃってるんですよ」

「それじゃサマエル達の出会いはどんな感じよ?」

「みんな覚えていないんで無理です」

「私達本当に知らないわよ。ツーも覚えていない?知らない?から事実確認はできないと思う」

『私も彼の前世が誰だったのか特定できていません。現在までの演算では存在しないと言うのが結論です』

「という訳で俺の前世の事を調べようとしても無駄です。前世の俺に関する記録はどこにも残っていないんですよ。そして記憶もです」


 当然のことを言いながら茶菓子を食べていると何故かいろんなところから視線を感じる。

 タマだけではなくリルもリーパも、スマホの中にいるツーも様々な感情がこもった視線を向ける。


「な、なんだよ」

『寂しくないの?誰にも覚えてもらってない事』

「自業自得だ。仕方ない」

「何でそこまでしたの」

「そこまでしないと勝てなかった」

「何で逃げなかったの?」

「逃げれなかった」

『他の選択肢はなかったのですか』

「俺にとってそれが最善手だった」


 リル、タマ、リーパ、ツーが悲しそうな視線を向ける。

 リル達が悲しいのではなく、そんな思いをしている俺が悲しくないのかと心配してくれている。

 相変わらず優しい連中だよ。俺には勿体なさすぎる。


「安心しな。もう同じ手段は使えない。様々な条件がかみ合ったからこそできた事であって、今の俺には再現する事はできるがあの時と全く同じ事はできない。再現できたとしてもあの時と同等の力を出すのは無理だ。無駄死にするだけだからしない」

『本当?』

「ホントだって。今の俺じゃそもそも条件を満たす事も出来ないからやろうとしたら無駄死にするだけだって」


 心配するリルを撫でながら落ち着かせる。

 確かに当時と全く同じだけ、あるいはそれ以上の力を引き出す事はできないが、やろうと思えばできる。

 何せ自身の生きた証明、これから刻む事が出来たはずの未来全てを消失させる事で得た力は、前世の俺が特別だったからこそあそこまでのエネルギーを得る事が出来た。

 しかし今の俺はただの人間。例え寿命が100歳まであったとしてもそれを消費したところで大したエネルギーにはならない。

 そして一番の理由は……あの時の悲鳴を、もう二度と聞きたくない。


「……やっぱり精神治療も受けない。君に必要な治療は肉体的な物ではなくやはり精神的な物が大部分を占めていると思うんだけど」

「その自覚はありますが、それでもやっぱりやめられません。俺が高3のクリスマスの日に、あいつを殺すまでは、止まる気はありません」


 そんな俺の言葉に大きなため息をつくタマだが、こればっかりは譲れない。

 あいつだけは何としても俺の手で殺したい。

 そうすれば俺なんかでも未来を見ていいのではないかと思える。


「本当にあなたの心は壊れてるのね。もし暴走したら私が全力で縛り上げるから覚悟しておきなさい」

「そうならないよう気を付けます」

「むしろそれを望んでない?むしろ私達が見張ってるからいつ暴走してもいいって思ってない??」


 それはほんのちょっとだけ思ってる。

 もちろんその事は口には出さない。

 怒られるのが目に見えているからね。

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