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転生者の贖罪  作者: 七篠
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詫びの菓子を買いに

 俺の試合が終わり控室に戻るとベレトと桃華がドン引きしていた。


「なんだよお前ら。何でドン引きしてんだよ?」

「いや、精霊4体に勝つってどんな化物なのよ。あの木の精霊?みたいなの使ったと言ってもそれまでの動きも全部非常識なんだけど」

「特にあの『貪食』?って技ほとんどの肉体を持たない存在に効果的な技ですよね。殺す事を想定した技」

「当然だろ。技ってのは結局相手を殺して生き残るためにあるのがほとんどだ。それが嫌なら逃げるための技を磨けとしか言いようがない。あと普通に戦ってたら俺負けてたぞ」


 そう言いながら戦闘でボロボロになった制服を脱ぐ。

 全く、こういう時は制服じゃなくてジャージで戦わせてほしいものだ。

 なぜこういう試合の時に限って制服で戦わないといけないのかと言うと、単なる見栄だ。

 もっと簡単に言うとその学校のユニフォームと制服が一体になっているような感じなので、こうした公式の練習試合などでは制服を着て戦う事になっている。

 一応こういう戦闘でも邪魔にならないように伸び縮みする素材を使っているようだが、それでも制服で戦うのは何か勿体なく感じる。

 まぁこうしてボロボロになった奴は無料で交換してくれるからいいけどさ。


「って何でこんな所で着替えてるのよ!!更衣室行きなさい!!」

「え?ここ更衣室じゃん」

「更衣室な訳ないでしょ!!更衣室のシャワー室で着替えなさいよ!!」


 そうベレトに蹴られて控室の隣の更衣室に突っ込まれた。

 すっかり場所を忘れていたって事は脳にダメージでも残ってたか?

 そう考えながら着替えようとするとリルがやってきて尻尾を振っている。


「ようリル。勝ってきたぞ」

『お帰り!!結構強くなってたね』


 そう言いながら俺の足に顔をこすりつける。


「汚いからシャワー浴びてからな。そのあと少し買い物行くぞ」

『2年生と涙ちゃんの試合は見ないの?』

「2年生の方は興味ないし、涙は多分上手い事やるだろ。その間にちょっと遠くに言って買い物だ」

『こんな時に?』

「あの嬢ちゃんに詫びの菓子買ってくるんだよ。俺好みだけど」


 パパっとボロボロの制服を脱いでシャワーを簡単に浴びてスッキリした後に更衣室を出た。

 完全に私服姿の俺にベレトと桃華は不思議そうにする。


「ちょっと、どこ行く気よ?」

「ちょっとそこまで」


 軽くそう言って俺は学校を抜け出した。

 リルもどこに行くんだろうと言う感じで隣を走る。


「少し遠いから走るぞ」


 そう言ってから駆け出すがリルは余裕で付いてくる。

 オーラを纏ってさらに速度を上げているのだが、あっさりついてくるのだから本当にまだまだ俺は弱い。

 今回の戦いも念のためと用意しておいたツーの種子があったからこそ勝てたと言っていい。

 俺自身の実力では敗北は確実だった。


 練習試合なのだから負けても良いと思ってはいたが……あの嬢ちゃんには戦場に出ないための努力と言う物をしてほしかったので命の危険に近い事をして危機感を強めて欲しかった。

 もしあのままだったらまた周りに流されて精霊使いとして戦場に立たされていただろう。

 精霊達は強力だが本人があまりにも貧弱過ぎて大きな隙になっていた。

 これが戦場だったら必ず複数人が嬢ちゃんを暗殺するために動くのは間違いない。強大な精霊を召喚する事ができなくなれば戦場の有利性は大きく傾く。

 そうならないためには強くなるか、そもそも戦場に現れない事が良いだろう。


 それを伝えるために勝たないと思った訳だが、ちゃんと伝わってると良いな……もし伝わってなかったらあの引きこもりと同じところに引きこもっている方が嬢ちゃん的には安全だ。


 なんて考えながら移動している間に到着した。

 ここはこの県のかなり端っこにある隣の県に近い所にある老舗の和菓子屋、『どら焼き木霊(こだま)』だ。

 営業中の看板を確認してから扉を開いた。


「こんちわ~」

「いらっしゃいって柊君じゃない。久しぶり」

「お久しぶりです。お土産用にどら焼き10個ください」


 前世の頃から気に入っているどら焼き屋。

 小さなモチが入ったどら焼きが定番でそれ以外にも様々な種類のどら焼きがある。

 個人的にはバター入り餅どら焼きと生クリームイチゴどら焼きがおすすめだ。


「あら、今日はお土産用?それともお客さんでも来た?」

「お客さんに渡すお土産用。外国人さんだから今回は日持ちする餅の方だけでいいよ」

「それじゃいつもの3種類で包むけどどれ一個多く入れる?」

「バター入り。あとここで一つ食べたいから生クリーム大納言どら焼きと生クリームイチゴどら焼きも一つずつ」

「は~い。いつもありがとうね」


 こうしてお土産用とここで食べる用を購入する事が出来た。

 会計を終えた後店の前のベンチに座り、リルに生クリーム大納言どら焼きを開けて手皿で食べさせる。


「リルの分。大納言が好きだったよな?」


 確認しながら聞くと尻尾を振りながら吠えた。

 食べやすいように小さくちぎってリルに与えると尻尾を大きく振って喜びながら食べる。

 相変わらず好きだな~。

 そう思いながら食べ終わったのを見てから俺も食べる。

 うん。久々に食ったけどやっぱ美味いな。

 イチゴクリームうめ~。


 食べた後に少しだけ休んでまた学校に向かって走る。

 そろそろ全ての試合が終わり、閉会式が終わる頃には到着するだろう。

 なんて考えながら走った結果ちょうど閉会式が終わると同時に到着した。


 リルは閉会式に間に合わなかったけど大丈夫なの?っと心配そうに視線を向けるが大丈夫だろっと気軽くに視線を送る。

 そして閉会式が終わって出てきたウェールズ騎士学園のメンバーば見えたので話しかけた。


『よっす』


 それだけで嬢ちゃんを守ろうと他のメンバーが臨戦態勢になった。

 ……何故?


『え~っと、嬢ちゃんに詫びの品として菓子買ってきたんだが……』

『すみません。通してください』


 嬢ちゃんを守ろうとする先輩達を押しのけて嬢ちゃんは俺の前に来た。


『あの……閉会式終わっちゃいましたけど?』

『どうせ理事長の話をちょっと聞くだけで終わりだ。それからはいこれ、詫びの品だから受け取ってくれ』

『ありがとうございます。…………これって何ですか?』

『どら焼き。簡単に言うと……甘い豆を――』

『どら焼き!!女王様からもらったの食べたことある!!』


 嬢ちゃんは興奮気味にそう声を大きくした。

 知っていたのとアンコに対して嫌な印象を持っていない事に対してホッとしたが、それ以上に声を大きくしたことに驚いた。

 その事にすぐ気が付いた嬢ちゃんは恥ずかしそうにしながらどら焼きの入った袋を受け取ってくれる。


『あ……ありがとう……ございます』

『まさかそんなに喜んでくれるとは思ってなかった。とりあえず10個あるから帰りに食べな』

『…………』


 受け取ってくれたが何か言いたげな雰囲気がある。

 一体なんだろう止まっていると遠慮気味に聞いてきた。


『これ、いつまでに食べればいい?』

『一応常温で2週間は持つと聞いてるが……出来るだけ早く食う方が良いだろ』

『女王様にもあげてもいい?』

『良いけど……時間大丈夫か?』

『明後日には帰る』

『そうか。なら大丈夫だろ』


 2週間ギリギリじゃなければ大丈夫だろう。

 いつまでもっているか分からないから常温でも大丈夫な奴だけを買ったし、一応2週間は持つのなら1週間以内なら問題ないはず。


『そろそろいいか』

『ああ、すみません。気を付けてお帰りください』


 そう言いながら道を譲ると彼らは帰っていった。

 どうやらあの嬢ちゃん精霊だけではなく人間にもモテモテらしい。

 不可視の存在に気に入られている奴は他の連中から見れば気味悪がられる事も少なくないが、彼らは大丈夫なようだ。


 なんて思っていると肩に手を置かれた。

 誰だろうと振り返ってみるとそこには目元を引くつかせた涙の姿があった。


「えっと……会長?」

「何で勝手に閉会式をドタキャンしてお菓子買いに行っているんですか?」

「え?あれって俺も出ないとダメな奴でしたっけ?」

「当然です。正式な交流試合なのですから最後までいてもらわないと困ります。ベレトさん達に聞けば自分の試合が終わった時にはすでに学校から出て行ったようではありませんか」


 あ、やべ。これマジで怒ってる。


「この事は理事長や大神先生も起こっています。一緒に理事長室まで来てもらいますよ」

「…………はい」


 こうして俺は学校に戻って早々怒られる事となったのだった。

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