茶に誘われた
魔法を放つための許可書をもらえるようになったとはいえ普段からのトレーニングは欠かせない訳で、簡単な筋トレや体感トレーニング、関節を柔らかくするために毎日校舎の陰で行っている。
流石にトレーニングでも魔法を使う事はないが、体力作りのランニングに関しては学校と家の行き帰りで行っているので問題はない。
魔法を使わないトレーニングはずっとしてきたので正直特別な施設は必要ないと思っている。
「……柊さん。魔法を使わなくてもずっとここでトレーニングをしていたのですか?」
カエラの他に誰かいる事には気が付いていたが、生徒会長も一緒なのは少し意外だった。
「どうかしましたか、生徒会長。魔法は使っていませんが」
「それは良い事ですが……あなた本当にずっとここでトレーニングを続けていたのですか?」
「ええそうですね。入学してから今日まで欠かさずトレーニングをしないと落ち着かないので」
「……その向上心は他の皆さんにも見習っていただきたいものです。しかしここでなくともトレーニング施設は整えられているはずですが」
「ただ1人でやるのが好きなだけですよ。トレーニングに関する勉強はしていませんし、昔から知っているやり方の繰り返しですけどね」
そう言いながら逆立ちをしながら10分間その状態をキープし続ける。
それを聞いたカエラは呆れたように言う。
「弱い人間なんだからいくら鍛えたって無駄なのに、何でそんなことするの」
「カエラさん!」
「別にいいですよ。昔から言われている事なんで。ただまぁあれです。特に見ていて面白い物ではないって事だけは確かですねっと」
スマホのタイマーが鳴って10分間終わった事を知らせたので逆立ちを止める。
そのまま水分補給をしてから今度は滅技の型を繰り返す。
「やはり有段者なのですか」
「そんなまさか。ただの見様見真似ですよ」
「そういうわりには綺麗な型だと思います。本当に道場に行った事もないんですか?」
「ありませんね。俺みたいな弱い奴が行ったところで門前払いされるのがオチでしょうから」
最近の滅技は強者を招き入れる事が多くなってきた。
そのため人間のような弱い種族には護身術程度の技しか教えておらず、本当に戦うための技を教えてもらう事はなくなっていた。
本来であれば弱い種族、人間だからこそ強い種族に勝てるように培ってきた技術が強者がより高みに上るために覚える物と変わってきている。
その方針は現最高師範がそのような方針を取っているとためだとネットで調べた結果だ。ネットなのでどこまでが本当なのかは分からないがそれも可能性の1つとして覚えておく。
なので弱い人間が言ったところで倒すための技を学ぶ事が出来ないのであれば行く必要はないと判断した。
「あそこの連中偉そうにしてるから嫌いなんだよね~」
「カエラさん」
「だってそうじゃん。元々血統が優れている連中がさらに力を誇示するために所属してるようなもんじゃん。だからあいつら嫌い」
「その嫌いな道場に私も所属していますし、それはごく一部の人達の事です。それも偏見ですよ」
どっちの言葉が正しかろうが俺には関係ない。
新しい技などを簡単に生み出すほど歴史は浅くないし、多種多様な種族に適応している。
今日の分の型の練習を終えると俺は汗をぬぐってからジャージから制服に着替えた。
「今日の分は終わったからそろそろ帰りますよ」
「あ、今日も買い食いする?」
「今日はしない。元々そんなに買い食いするほど腹減ってないから」
「あの!」
カエラが勝手についてくる気満々だったので少し話していると生徒会長まで声をあげた。
何だろうと俺とカエラは思っていると、予想外の事を言ってきた。
「私もご一緒してもいいですか?」
その言葉に予想外過ぎて動けなくなっている俺。
カエラに関しては何言ってんだこいつと言う表情をしていた。
「えっと、生徒会長様?何言ってるの?」
「そんな変な物を見るような視線を向けなくても良いじゃないですか!私だって誰かと一緒に帰りたいと思う事はあります!!」
「いや、だとしても生徒会長様が男子生徒と一緒って言うのは……ねぇ」
他人に興味のない俺の耳にでも入るくらい生徒会長の人気は非常高い。
校内だけではなく水地雫の子、つまりウロボロスである事から世界的にも注目されており、さらにまだ幼いながらもその美貌と人当たりの良さからファンクラブが存在するらしい。しかも勝手に作ったファンクラブなどではなく、きちんとつくられたファンクラブらしく、生徒会長に恋した男子や女子が次々と入会しているとか。
そんな学校限定のアイドルなどではなく、本当に世界中に知られたアイドルが一応男子と一緒と言うのはかなり大きなゴシップ記事を作られるきっかけになりかねない。
流石にそれは俺だって勘弁だ。
「カエラ。これどうにか断れないのか?」
小さくなりながら小声で相談するとカエラは言う。
「断るのは簡単だけど、その後どんな行動するのか全く分からない。何せあの生徒会長様が男子生徒と一緒に帰りたいなんて言うとは想像すらした事なかったもん」
「と言うか俺とじゃなくてカエラと帰りたいんじゃないか?」
「それは現実逃避しすぎ。それなら私に向かって言うでしょ、どう見ても君に向かって言ってたじゃん」
「それはきっとあれだ。自意識過剰って奴だ」
「自意識過剰だったらそこで涙目になってる生徒会長は何なの!?逆に断り辛くなんて来てるんですけど!!」
そっと生徒会長を見てみると何故か泣きそうな顔になっている。
いや、なんでそんな表情するの?俺達何度か顔あわせた事があるくらいの関係だよね?薄っぺらい関係だよね??
「……分かった。一緒に帰ることは出来ないがなんか話したい事でもあるんですか?愚痴とかなら付き合いますよ」
俺がそう言うと生徒会長はぱっと表情を明るくした。
「ありがとうございます。話は談話室で行いましょう」
などと言うので生徒会長の言う談話室に俺達は向かった。
「今時の談話室ってこんな感じなの?」
「いや、私が知ってる談話室は普通の教室より狭いし、こんなキラキラしてない」
談話室と言われた部屋に入ったらどっかのお高いお店みたいなところに来ていた。
これどう考えても転移系の魔法か能力を使っただろう。窓から外の景色は学校の物とは違うし、明らかに街のおしゃれな喫茶店とかそんな感じ。
それから絶対高層ビルの上のお高い所だって。あ、高いって言うのは値段の話ね。
「生徒会長。ここどこですか?」
「贔屓にしているレストランの個室です。これも買い食いでしょう」
どこがだ。
あいつ娘の教育と言うか、価値観について本当に教育したのか?礼儀作法はしっかりしてるけど世間知らずのレベルがとんでもない方向に行ってる気がするんだが?
もう諦めてしまった方が精神上安定できると思い諦めた。
カエラもこういった店は初めてなのか緊張しているようだし、本物の貴族が来ていてもおかしくない店と言うのは多分初めてなんだと思う。
「何と言うか、敬語で話すのも疲れてきた。カエラ、お前大丈夫か?」
「ちょっと大丈夫じゃないかも……一応家で礼儀作法は学んでるけど実践するのは初めてなんだけど」
「むしろ知識として知ってるだけまだマシ。個室だからある程度粗相をしても問題ないだろうが、ジャンクフード食ってる時みたいな食い方は止めとけよ」
「流石にそんな食べ方出来ないって!!」
なんて言い合いながらも俺達は丸いテーブルに座った。
自分で椅子を引く必要もなく、ウエーターさんが椅子を引いてくれるのでそのまま座る。カエラも恐る恐るという感じでそっと座った。
「私はいつもの物でお願いします。紅茶はダージリンのファーストフラッシュでお願いします。それからお菓子は3人分お任せで」
「俺は……ダージリンのセカンドフラッシュ、ストレートで」
「…………オレンジジュース下さい」
そう注文するとウエーターの人達は頭を静かに下げた後部屋を出て行った。
こんな上等な店で飲み食いするなんて前世の時以来だ。マナーとか変化してないよな?
「やはりあなたは不思議ですね。あまり来た事がないであろう店でも堂々としています」
「空気に飲まれて味が分からないって言うのは失礼だからな。まぁ美食家ではないからコメントは上手くいかないだろうけど」
「それでもです。そして私からいくつが質問があります。お答えいただけますか?」
「答えられるものなら」
堂々と人をよく分からない店に招待するほどだ。もう敬意とか面倒くさい。
「私の母、水地雫があなたに興味を持っています。心当たりはありますか?」