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転生者の贖罪  作者: 七篠
122/210

怪描と魔狼

 理事長に電話をしてから約一時間後に理事長から電話が来た。

 それと同時に母が一階から晩飯が出来たと叫ばれたが、琥珀に伝言を頼み理事長の電話に出た。


「はい佐藤です」

『柊さん。雫です。先ほどまでサマエルと相談していたのですが、明日リーパをこちらに連れてこれそうなら連れてきてもらえないでしょうか?』

「分かりました。その様子だとまだ詳細には決めていないっという事でいいんでしょうか?」

『はい。お恥ずかしながら彼女はこちらでも捜索していたのですが、全く見つける事が出来ず、むしろこうしてあっさり現れた事に驚いているくらいなんです。今後の対応としてはまず彼女と会って話をし、どうするか相談したいと思っています』

「分かりました。それじゃ明日キャリーケースに入れて連れて行きますね。場所は理事長室が良いですかね?」

『助かります。理事長室は開いているので登校したら先にこちらに来てください。リーパを受け取ります』

「分かりました。お願いします」

『よろしくお願いします』


 こうして電話を切った後にリビングへ向かった。

 既に両親とリル達は晩飯を食べており、大皿の上の料理は少なくなっていた。


 遅れて食べながらもリーパの事を両親に話す。

 もちろんそれっぽい嘘を混ぜてだ。

 リーパは理事長の知り合いの猫だから明日理事長に届けると伝えると同時にリルのキャリーケースを借りた。

 両親から見れば人懐っこいリーパが一日で居なくなってしまうの寂しいのか、ちょっと残念がっている。

 しかしもう既にリルと琥珀を飼っているからこれ以上増えるのもな……みたいな雰囲気も出ていたのは合理的と言える。


 その後それとなくリーパの行動を気にしていたが、特に問題を起こす事もなく過ごしている。

 気まぐれにソファーなどで爪を砥ぐ事もなく、非常におとなしい。

 少し気になったのは俺の近くに居たがること。

 一定の距離から離れず、風呂以外はずっと目の届く場所にいる。


 こんな事前世(むかし)はなかったんだけどな……

 自由万歳、個人主義万歳のリーパが誰かを気にするなんてことはなかった。

 俺の知らない間に心境が変わったのか、それとも他に理由があるのか、分からないが平和ならそれでいいかと思いながら寝た。


 ――


「…………」

『イタズラするでもなく、かと言って甘えるでもなく、一体あなたは何を確認しに来たの?』

「フェンリル」

『違う。私はリル』

「どちらも変わらないでしょ。それなにを確認しに来た、か。…………今も分からない」

『今も?』

「京都で彼を見かけた時、妙に彼の事が気になった。懐かしいような、寂しいような、嬉しいような、悲しいような。様々な感情が私の中で渦巻いた。こうして直接会って確認してみたけど、やっぱり何で私がこんなに感情に振り回されているのか分からない」

『…………』

「ねぇフェンリル。あなたは違うの?あなたも彼に何故惹かれるのか分からないから一緒に居るんじゃないの?私と同じように彼に惹かれる理由を探しているんじゃないの??」

『私の理由はもう分かってる』

「それじゃ聞かせて。理由は何?」

『この人が私の本当の主だから』

「彼が?あなたの主??あなたの方が年上なのに??」

『年齢は関係ない。きっとこの人の前世は私のご主人様だった。でも記憶にはないけど私の体と魂はこの人が愛すべきご主人様だって叫んでる。だから一緒に居る』

「ウロボロスは主人じゃないの?」

『ウルは友達。確かに大切で居なくなって欲しくない人だけど、あくまでも友達。それ以上でもそれ以下でもない』

「それじゃもしウロボロスと彼が同時に危険な目に遭った時、あなたは迷わず彼を助けるの?」

『当然』

「友達が危険な目に遭っているのに?あなたは友ではなく主人を選ぶの?」

『選ぶわ。それは彼が弱いとか、ウルが強いとかじゃない。私は彼を主人として見ている限り、彼が私をペットであり、番犬だと言っている間はずっとこの人を愛し、守り続ける。それが私の意地』

「…………余計に分からない。どうしてあなたがそこまで彼の事を慕っているのか。私は、知りたい」

『好奇心は猫をも殺すって言うけど、この好奇心では死ななそうね。でもこれだけは分かるわ』

「何が分かるの?」

『あなたも彼に強く惹かれていて、私と同じように愛している事』

「愛する?私が??そんな冗談を貴方の口から聞く日が来るとは思わなかった」

『冗談のつもりはないわ。それなら今度はこちらから質問させてもらう』

「何よ。あらたまっちゃって」

『何であなたは彼を見ている間そんなに優しい表情をしているの?』

「………………?」

『何であなたはそんなに愛おしそうに見つめているの?』

「………………」

『何であなたは彼から目を放せないの?』

「………………」

『あなたの中で答えがまだ出ていないから答えられない?』

「…………ええ。私、そんな顔してた?」

『ええ、はっきりと。あなたは彼の事を見て本当に愛しているのが分かる。友愛とか親愛とか、区別する必要はないけど、あなたは確かに彼の事を愛している目をしていた。これは私も同じ表情をしているからよく分かる。私も彼を見ている間あなたと同じ表情で目をしている。愛おしくて仕方がない。今私は彼に恋い焦がれている。彼のためになら何でも頑張れるし、期待に応えたいと思う。逆に彼が頼ってくれないと気に入らないし、寂しくて仕方がない。だから気を引きたくて体を彼の足にこすりつけて気を引こうとする。気付いてくれて優しく頭を撫でてくれると嬉しくて仕方がない。ほんのちょっとしたことで喜んでくれたりありがとうと言ってくれるだけで心が大きく跳ね上がり、全身を幸福感で満たされる。だから私は彼の事を愛しているってはっきりわかるの』

「……凄いわね。そんな告白を堂々と他人に言えるなんて」

『結局伝えなきゃ何も変わらないし、変えられない。たとえ彼が罪の意識に囚われていたとしても気持ちを伝える事はやめられない。気持ちを伝え続ける事で彼がほんの少しだけ救われているような表情をするんだもの、罪の意識に囚われて暗い表情をしているよりも嬉しそうにしてくれている彼の方が何万倍も素敵でたまらない。まぁここまでは伝えてないけど』

「どうして伝えないの?」

『多分私達が彼の前世について覚えていない事と関係があるんだと思う。これはあくまでもただの勘よ。でも私の勘は昔からよく当たるから信頼してる。きっと彼の事を覚えていないのは彼のせい。彼の前世に関する記憶は彼自身が消した。どうしてそんな事をしたのかは分からない。どうしてそんな事をする結論に至ったのか分からない。だからこそ、今度こそ彼の隣にずっといるために私はここに居る。もう置いて行かれるのは嫌。どれだけ辛い道でも、どれだけ悲しい事が起ころうとも、どれだけ後悔する日が来たとしても、私は彼の隣で私はずっとあなたの味方だよって伝え続けたい。でも今伝えたらきっと罪悪感に押しつぶされちゃうから、今は伝えない』

「……彼、寝ている時は辛そうね」

『きっと罪悪感が夢の中で悪さをしているんだと思う。でもね、こうしてピッタリ体をくっつけると非常が落ち着くの』

「……確かに落ち着てきた」

『きっとこの人も本当は寂しがり屋なんだと思う。でも私達のために独りになろうとしてる。突き放す事で私達が幸せになれるのであれば迷わず行動するような人なんだと思う。だから抵抗してこうして片時も離れてあげないの。この辛そうな顔をさせないために』

「………………もう少しだけあなたを見習って自分自身にも素直になれるよう努力してみるわ」

『その方がいいかも。彼もそれが苦手みたいだから』

「私も彼にくっ付いたら幸せな表情になるかしら?」

『分からない。でもやってみよう。独りが嫌なら、一緒に居ればいい』

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