魔導書一応の完成
魔導書の製作は順調に進み、基礎中の基礎魔法だけはどうにか描き終えた。
身体能力強化、五感の強化、回復力向上、各種初級攻撃魔法、各種初級防御魔法を48種類書き込む事が出来た。
あとは最後に電子レンジでチンすれば完成となる。
何故電子レンジでチンするのか?それは魔導書だとバレないためだ。
カエラも言っていたが本来魔導書と言うのは危険な物であり持ち運びする際には注意が必要となる。言ってしまえば銃刀法違反のような物で本来自衛目的で持ち歩きしてはいけないのだ。
だからもしバレてしまった場合は練習用とでも適当に嘘をついて言いとおすしかない。
そして魔導書だとバレないように消えるインク、つまり熱を加えると透明になるインクで書くと非常に便利なのである。
それに一度書いてしまえばもう手を加える必要はほぼないので目に見えなくても問題ないと言うのも大きい。
と言っても所詮子供だましの警戒程度なのでこのくらいしかできない。
あとは普通に持ち運んでいざと言うときは使えばいい。
カエラにはバレているが他の教師達や警察の人達にバレなければそれでいいのだ。
それに自作の魔導書を持っている奴なんて本物の魔法使いの家系くらいしか作っていないだろう。
「……うん。どれも動作確認に問題はなしか」
と言っても魔導書を作ったとはいえまだテストしていない魔法の動作確認はしなければならない。校舎の陰で試し打ちしてみたが威力は標準と言える。
と言っても所詮初級なのでないよりはマシと言う程度だが。
「へ~。魔導書のおかげで随分まともに魔法が使えるようになったね」
「ないよりはマシ程度だけどな」
俺自身の魔力量がそんなに多くないのでこの程度だが本当だったらもっと魔改造したい。
ゲームで例えるなら本来の消費MPが100の魔法を半分の50で魔法を放てるように魔方陣を描いた。もしそこからさらに攻撃力を上げる効果を魔法陣に書き込む事が出来ればほとんどチートだ。
ただし現状そんな事ができるほどの魔力量はないので意味ないが。
「石を散弾のように飛ばす魔法ですら牽制程度の威力しかないのにこれじゃ相手を倒す事なんてできない」
「……本当に不思議なんだけどさ、何でそこまで戦おうとするわけ?誰か勝ちたい相手でもいるの?」
そのカエラからの純粋な質問に俺は少しだけ考える。
いや、本当は昔から気が付いてはいたけど、あくまでも予想でしかない。まだ誰もあいつを完全に殺した事を証明できていないからその可能性があると言うだけだ。
「……もしかしたら、な」
前回はごり押しで勝つ事が出来たが、もし今回もあいつと戦う事になるとすればごり押しでは絶対に勝てない。ただの人間として生まれた俺では前世の時のような高火力の攻撃や魔力量を利用したごり押しの脳筋殺法など通用しない。
あの時と同じようにあいつの能力を力技で攻略などできない以上、もしかしたらあっさりと殺される可能性の方が圧倒的に高い。
何せ最後まで俺はあいつの能力をごり押し以外で攻略できていなかったのだから。
「何でそんなあやふやな答えなの?自分の事なのに」
「まだそいつが居るとは決まってねぇからだよ。前にいっぺんぶっ殺してやったがまだ生きてるとは限らない。殺したはずだけどな」
「殺すって。ずいぶんそいつの事が気に入らなかったんだね」
「当たり前だろ。マジで嫌いだった」
そう言いながら火の魔法を使って小さな光の球を作る。暗い時に懐中電灯代わりに使える魔法だが……やっぱいらなかったかな?視力の強化を行えばある程度は暗闇でも対応できるし……でも本当の暗闇だった場合必須になるしな……
なんて思っていると誰かが近づいてくる気配があった。
こういった勘だけは前世の頃と変わらない感度で本当に良かった。
「カエラ、誰か来たぞ」
「え、別にいいんじゃない?特に悪い事してないし」
「そうだけどなんか妙じゃないか?こんな所に人が来るなんて」
そう言いながら警戒していると、姿を現したのは水地涙だった。
彼女は俺達を発見すると俺に向かって言う。
「あなたですか。最近ここで魔法の訓練を行っている生徒と言うのは」
その言葉からは呆れているような声だった。
特に責めている様子はなく、純粋に何でこんな所で魔法の練習をしているのか理解できないという感じが強い。
「えっと……」
「別に隠す必要はありません。確かにここで魔法の練習を行っていた事に関しては良くない事ですが、魔法の練習そのものは悪い事ではありません。ですので今回は注意のみとさせていただきます」
「あ、ありがとうございます?」
合っているのか間違っているのかも分からないのでどうしても疑問形になってしまう。
水地涙の視線が俺からカエラに移るとその時だけは厳しい視線を送っていたのでカエラはすぐにそっぽを向いた。
「カエラさん。彼がここで魔法の練習をしていた事を知っていたのであればなぜ練習場に誘導しなかったのですか。理由をお聞かせください」
「いや~だってね。彼もの凄く面白いんだもん。そんな彼をできれば独占したいな~なんて」
「悪魔として契約しているのであれば問題ないのでは」
「いや、ちゃんとした契約はしてなくて……」
「以前に契約がない事で悩んでいたはずですが」
「だってこいつの依頼とんでもないのが多いんだよ!この間に記録映像見せてくれって言うのも結構ぶっ飛んだ依頼だったんだからな!」
「……彼が普通科で本来戦闘用の魔法などと遠い位置に居るのは分かります。ですが校舎の陰で練習し、結果被害が出たりした場合困るのはお互いです。なのでこちらに来てください」
そう水地涙に言われて俺は魔法科の訓練棟に連れてこられた。
魔法科は新しい魔法、魔法陣の開発が主な目的として所属する生徒達が多い。作った魔法や魔法陣は結果的に戦闘関連にも組み込まれる事が多いが基本的には生活をより便利にするための研究が多いと聞く。
この辺りは戦闘科と分けられているという事なんだろう。
そして連れてこられた訓練棟には魔法で強化されたマネキンに向かって様々な魔法を放っている他の生徒達もいた。
「ここは一応魔法科の生徒達が訓練するための練習棟です。あとで正式な許可書を発行するのであの場所で訓練を続けるのは止めていただきます。今後絶対に事故や事件が起きないという保証はどこにもありませんから」
「でも……いいんですか?俺普通科の生徒ですよ」
「そのための正式な許可書を発行するんです。元々他の科の方でも訓練棟や研究棟は許可さえ下りれば使用可能なのです。実際に使用する方はかなり少ないですが」
「はぁ」
「それに何度も言いますが事故や事件につながるような事はしてほしくないのです。許可書の発行までおよそ1週間時間がかかります。それまで訓練はしないように」
「……分かりました」
流石に生徒会長様に目を付けられたらやり方を変えるしかない。
あまり目立つような事はしたくなかったし、俺の実力じゃこう言う所を使わなくても事故や事件を起こせるほどの火力も出せないからあの場で色々訓練してたんだけどな……
「それからカエラ。あなたこれから彼のサポートをしなさい」
「え、私が!?」
「クラスに友達がいないあなたが普通科の生徒と友達になれたのですから大切にすべきでは?それに彼があそこで魔法の訓練をしていた事を黙認していた責任も取ってもらいます」
「それで見張り?」
「そうなります。今あなたは特定の人物と契約をしている状態ではないのですから問題ないと思いますが」
「……仕方ないな~。それ契約として受理できない?」
「あなたはご友人からお金を取ると」
「払うのこいつ!?」
「なんにせよ友人と一緒に居ろと言っているだけです。では柊さんまた今度許可書が発行された時にお渡しに参りますのでよろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
こうして水地涙は訓練棟から出て俺達と他の生徒達が何だったんだろうと眺めている奇妙な空間が生まれた。
「生徒会長ってあれなのか?世話焼きって奴なのか?」
「それもあるだろうけど、基本的には母親の真似事だよ。よくあんな偉大な母親と同じ道を行きたいと思うもんだ。私だったら絶対に嫌」
「その辺は人によるだろうが……あの場所普通の訓練にしか使えなくなっちゃったな」
それに正直に言うと魔導書の動作確認をしていただけなのでぶっちゃけ魔法を放つ必要はもうほとんどない。
許可書もらったとしてもここに来る理由ほとんどないんだよな……
どうしよ。