やはり自力では制作できない
後日、ロマン達からのバイトでよく使うゴミ捨て場で適当な鉄くずを集めて魔術で一つの鉄の塊にし、それを好きなように形状変化させて武器に使えないか確かめていた。
その感想だが……
「やっぱ使えねぇな」
実戦で利用するにはあまりにも非効率だ。
仮にこの鉄を剣の形にするとしても一々その形をイメージしないといけないし、大きさ、厚みなどが作り直すたびにバラバラになる。
それを利点として戦うとすれば鉄でなくてもいい。
その辺の石やコンクリートでもやろうと思えばできる。
やっぱり協力者が必要だと思いながら鉄くずを投げ捨てる。
上手くいかないな~っと思っているとリルが俺の足に顔を擦りつけて元気づけようとしてくれた。
そんなリルの心遣いに頭や顔を撫でると聞いてきた。
『何で形状変化の武器が欲しいの?色んな武器を影の中にしまっておけばいいのに』
「それも考えたんだけどね……それはそれで武器の持ち替えとか面倒なんだよ。いざ使いたい時にドラえもんみたいにあれでもないこれでもないって武器を放り出すわけにもいかないだろ」
『それはそうだよね~。でも一つの武器を使いこなそうっていう感じにはしないの?』
「全盛期の頃はほとんど素手。でも言い方を変えると前世の頃だからできた事なんだよ。前世の頃と同じように素手で戦えって言われると……やっぱ難しいな」
これが俺が武器を使って戦う理由だ。
俺は前世の頃の俺にどうやっても勝つ事ができない。
自分で言うのもあれだが、世界規模で上から数えた方が強い方だった。
ただそれは前世の頃の種族が人間でなかったことも理由の一つだし、血の繋がった両親からもらった才能と肉体があったおかげでもある。
それらがなくなった以上同じように強くなろうとしても体を壊すだけだし、そこにまで至ることは出来ない。
となれば今ある強み、今までの戦闘経験を元にした別のやり方で強くなるしかない。
それで最初に思いついたのがとにかく手数を増やす事。
武器や魔導書、様々な武器を利用すれば今までとは違った力を手に入れる事が出来るかもしれない。
魔導書の方は保有魔力が増えているため更に出来る事が増えた。自力で魔法が使えない訳ではないが魔導書を通じて使う方が燃費がいいのだ。
だから魔導書の方は時々更新しながら使いまわしている。
『そうなの?弱そうには見えないけど……』
「俺がリルに素手で勝てると思うか?ぶっちゃけ無理。だから武器に頼ろうと思ったんだが……最終手段使うか?」
『最終手段?』
「琥珀に武器に化けてもらう」
ちなみに琥珀とは白面金毛九尾の名前だ。
古い呪術に相手の名前を上書きする事で対象を弱体化させると言う物がある。
これを行う事で白面金毛九尾は白面金毛九尾として力を振るう事ができない。
と言っても完全に力が使えなくなると言う訳ではなく、精々力を制限するくらいの力しかないが。
『それ大丈夫なの?途中で変化が解けて武器を失っちゃうかもよ』
「それが不安なんだよな。それ以前に武器に化けてもらったからって武器と同じだけの強度と切れ味を持っているのかどうかと聞かれると……実験してみないと分かんないな」
「絶対に嫌だからね」
何て話していると俺の影から琥珀が現れた。
「琥珀。聞いてたのか」
「当然でしょ。それに化けて武器になるなんて絶対に嫌!誰があんたの武器になってたまるもんですか!!」
「こいつ。快楽調教で毎晩キャンキャン鳴いてるくせに生意気な」
「それでも断るに決まってるでしょ!!化けてるって言っても私本体の強度と全く変わらないし、妖気を纏って防御力を増したりしているだけなんだから、妖気がなくなったら動物を振り回して攻撃する畜生よあんた!!」
地面を前足で叩きながら言う琥珀。
そうなると妖気が切れた時にピンチになるな……
「それは武器として使えないな……」
「でしょ!だから私を武器にするなんて恐ろしいこと言わないで」
「となると振出しに戻るな……」
どうしたもんだろうっと悩み、止まってしまう俺。
ゴミ山で2人とぼんやりしていると、ツーが話しかけてきた。
『私がどうにかしましょうか?マスター』
「どうにかってどうするつもりだよ」
『武器製造工場にハッキングし、マスターの望む武器の制作を行います』
「流石にそこまで危険を冒さなくていい。それにハッキングして作れるものなのか?人の手が全く加えられない状態で」
『出来ます』
「でもやるな。一般企業だか何だか知らないけど、そう言うのに普通の人達を巻き込んじゃダメだって」
手段を選ばないツーにため息をついてから空を眺める。
ただ眺めているのもつまらないのでリルと琥珀をモフモフしながらぼ~っと空を眺める。
「ちょっと。意味もなく触らないでよ」
『もっと、もっと触って』
「何であなたはそんなに嬉しいのよ。こっちは調教とか言われながら毎晩変なとこばかり触られてるのに」
『こうして触れ合うくらいならずっとこうしてたい』
「あなた本当に狼?性格は完全に犬じゃない」
『なんだと!!』
実際その通りなのだが怒ったリルが琥珀を追いかけます。
琥珀は何とか逃げているがお遊び程度のものだからリルから見ればじゃれついているような物。楽しんでるなと思いながら武器の制作を考える。
ぶっちゃけて言うとリルの言っていた複数の武器を影の中にしまっておくと言う手段は悪くないし、前世の頃は似たような事をしていた。
自分専用の収納用亜空間に様々な伝説の武器のレプリカを収集していたくらいだ。
レプリカと言っても切れ味だけは本物と同じであり、神の加護や呪いが込められていないところ以外はほぼ本物と言ってもいい。
だが現在はもちろんそれらのレプリカも失い、現在はどこにあるのかも不明。
もし仮に手に入れられる状態だったとしても、1つだけでも億単位の金が必要となるだろう。
そんな金を用意するのは今の俺には無理だし、それなら武器の質ではなく俺を強化する事が出来る薬物を買う方がいい。
でも今の俺ではいくらドーピングしたとしても全盛期の頃には到底かなわない。
それでも少しでもクソ神に勝てるようにあらゆる手段を使っておかないといけない。
そのためにはやはり自身だけではなく武器の強化も必要と堂々巡りになってしまう訳で……
「あ~やっぱ武器欲しいな。お手製の武器じゃなくてちゃんと職人や兵器開発者が作ったちゃんとした奴」
『この間ミルちゃんから報酬たっぷりもらったんでしょ?それで買ったら?』
リルが琥珀の首を咥えて戻ってきた。
まるで狩りの後のように見えるのは琥珀がピクリとも動かないのが理由だろう。
視線だけは下ろすように言えと主張してくるが。
「それも考えてはいるんだが……売ってくれるかなあの頑固おやじ」
『欲しい物は決まってるんだ。どこのブランド?』
「村雨の妖刀」
そう言うとリルはあ~っと言う反応を見せた。
琥珀はリルにそっと下ろされるとよく分からなそうに聞く。
「誰よ村雨って。妖刀と言うからには刀鍛冶なんでしょうけど」
『村雨の妖刀。妖刀村正を本流とする刀鍛冶の最高峰です。現在も刀は作られていますがそのほとんどが美術品、模造刀として作られます。しかし村雨の一派は現在も人を殺すための武器として刀を生産している、現在では珍しい刀鍛冶です。数代前までは他の工房と協力して刀を作り上げていましたが、現在では村雨の工房内で全て制作。理由は人殺しの武器をこれ以上作る事に協力できないと言う内容だったと記録されています』
「ふん。閉じ込められている間に刀の価値も変わっていったのね。でも確かに彼が求める刀はそこにしかなさそう」
『ただし村雨一派の作る刀は全て妖刀。所持すれば必ず戦いを引き寄せるという噂から妖刀しか作らない一派として危険視されています。しかし愛刀家からすれば村雨の妖刀を手にするのは悲願との話も出ています』
「その刀は高いの?」
「高い安いと言うよりは仲介人に接触しないと買えないんだよ。人殺しを前提にした刀だから世間体も悪いし、適当に売って犯罪者の手に渡るのも危険って事で信用のできる人からの紹介がないと工房にたどり着く事すらできないんだよ。まぁ噂では失敗作の一部が世に出回ってるって話だけど」
ほぼ都市伝説のような話だ。
村雨の妖刀の失敗作と言う刀が一度ネットオークションにかけられたと言う噂話が流れた事があった。
本当か嘘かは分からないが、失敗作と言うのはおそらく人を殺すだけの武器として作る事が出来なかったと言う意味だろうから興味もない。
でも定期的にネットや様々なオークションで売られているらしいから本当かもしれないと、刀マニアの中で語られている。
「だったらその仲介人だかに会ってきたら?」
「転生者は基本的に犯罪者扱いなんだよ。転生その物が犯罪扱いになってるから仲介人を見つける事が出来たとしても売ってくれるとは到底思えん」
「なんだかうまくいかないわね……」
「だからロマンに変形武器を作ってもらおうと思ってたんだよ。まぁ純科学にこだわりがあるみたいだからダメだったわけだけど」
もう一度ロマンに武器を作ってもらえるか交渉してみるべきか、それとも諦めるか。
それをぼんやりと考える事しか出来ない午後の暇な時間だった。




