表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者の贖罪  作者: 七篠
110/210

半端九尾と対決

 俺とタマが合体した直後、デカ狐は不機嫌そうに睨み付けながらしっかりと攻撃を始めた。

 今まではタマを捕らえるためだけの動きだったが、まずは俺と分裂させる必要があるから殺してタマを奪おうと言う作戦に変えたらしい。

 尻尾を纏う呪いはさっきよりも強さを増し空気すら腐ったような刺激臭を放つ。


 さて、久しぶりだが色々混ぜながら攻撃していくか。

 一応程度のチート技もあるし、手札を一枚切るくらいは仕方がない。


 俺は全身に炎を纏いながら9本の尻尾で相手の尻尾を払いながら着地する。

 燃え移る炎は少しずつ相手の本体に届きそうになるが、炎の異常性を察したのか燃え移った部分を自ら切り離し本体に燃え移らないよう防いだ。


「やっぱそう簡単にはいかないか~」

「ちょっと!!なんであんたがその炎を使えるのよ!?その炎を使えるのは世界に一人だけのはずじゃない!!」


 妙がマシンガン状態でとにかくデカ狐に銃弾の雨を浴びせながら怒鳴った。

 リルもどうやってるの?っと視線を送ってくる。


「別に。ただいまも俺の中で燃えてる炎を表に出しただけだ。この炎を操って攻撃することは出来ないから安心しな」


 あの日、渉に燃やされたあの日からこの炎は消せていない。ただ俺の魔力の奥底に隠し持っていただけだ。

 そのため常に魔力は消費し続けるし、魔力がなくなったら次は俺の精神を焼き尽くされるだろう。それを抑えるためにもわざと俺の魔力だけを燃やすようにコントロールしていた。

 なのでこの炎を操って火炎放射とかできないし、炎を使って魔法を行使する事も出来ない。


「その炎を持っている事が十分危険なんだけど。その炎を使えば相手の精神破壊できるじゃない」

「コントロール不能の技をそう簡単に使えるか!もし無理に使おうとしたら色んな所に燃え移ってマジで廃人だけの世界になるぞ。そんなの普通にお断り」

「それでもこの火力は今は頼りになりますね。燃やせれば勝ちです」

「そんな甘い物ではありません。本当にやろうと思えば世界を燃やし尽くす事も出来る危険な炎です。しかも物理的ではなく精神的と言うある意味意地の悪い能力です。本当に出すとひっこめるだけですか」

「一応燃やし分けるくらいはできますけど……元々俺の炎じゃないから正直不安」

「では柊君メインでそれ以外のメンバーはフォローに当たりましょう。その合体、姉さんと違って長時間保たないのでしょ?」

「保って大体……15分?」


 今の状態を維持できる大体の時間を予想する。

 元々無理やりなので長時間は無理だ。

 それにタマが俺に黙って俺の中で何か探っている。おそらく俺が何も言わないから勝手に探っているのだろう。

 俺の記憶に到達されないうちに片付けたいと言う気持ちもある。


「それでは急ぎましょう。あと13分以内と言ったところでしょう」

「そんじゃ俺はひたすら攻め続けますので、みなさんフォローお願いします!!」


 そう言いながら俺はデカ狐に再び突っ込む。

 もちろんただ突っ込むのではなく幻術を使って少しでも相手の攻撃が当たらないようにするが、さすが伝説。幻術が効いてねぇ。

 それなら小手先の技はなしでぶつかっていくしかない。小手先の技を使わない分は戦闘にエネルギーを回す。


 それに今の俺は九尾だ。全ての尻尾に渉の炎を纏わせて攻撃する。

 尻尾は武器であり、盾でもある。自由自在に動く手と変わらない機能を有しているのだから一気に手が9本増えたのと変わらない。

 襲ってくる相手の尻尾にわざと巻き付き、炎を移そうとするがそうはさせまいと自ら燃えた部分を切り離す事でさらにダメージ、正確に言うと体積を減らす事が出来る。

 呪いよりも渉の炎の方が強いからこそできる事だが、本当に便利だよこの手数の多さと炎の強さは。


 リルは固定砲台として口から魔力砲を放ち、尻尾を薙ぎ払う。

 妙はマシンガンでハチの巣にしながら走り回ったりするのを止める。

 大神遥は周囲を確認しながら的確に指示を出す。

 お助けの彼は狐火で地道に焼いていく。


 …………やっぱりあいつらスゲー強くなってる。

 これなら背中は完全に任せてもいいな。


 そろそろ俺は炎だけではなく呪いも纏い更に機動力と攻撃力を高める。


 その時デカ狐はその時しっかりと俺の事を見た。

 その目は俺の事を脅威としてしっかり見ている目だ。


 もう遅いと思いながら顔面に腕を思いっきり振り下ろすと、空振りした。

 より正確に言うと触れた瞬間に木の葉に変わった。

 心の中で舌打ちをしながらやっぱり伝説の存在である事を再認識しながらツーに言う。


「ツー。索敵、幻術の解析頼む」

『了解』


 化かされた。

 俺がデカ狐に幻術で攻撃を回避しようとしたのと同じ事をやり返された。

 ツーが構築した幻術を中和する魔法をかけてくれたおかげで正しく認識できるようになる。

 だがその時はもうすでに巨大な狐の手が俺を捕らえた。

 尻尾で体を包み、ボールのようにしながら地面に叩き付けられるダメージは減らせたが、殴られたダメージは普通に入る。


 今ので肋骨を数本折られたな。

 口から漏れ出る血をそこらへんに吐き捨て、再び尻尾を使って攻撃しようとするが、負けた。

 相手の尻尾は刃の様に鋭くなり俺の尻尾を細切れにされてしまった。


 …………これ、勝てないかもしれん。

 腐っても伝説の妖怪。俺よりも妖気の使い方が洗練されてるし、オーラの変質も速く、かなりの高密度。これだから長命の存在と戦うと絶対に負けると言われるんだ。

 それでもタマを奪われないようにするには戦って勝つしかない。

 それにこっちはこっちで色々調べてる。


 何を調べているのかと聞かれればデカ狐の核。

 こいつの体の作り方はゾンビのようなアンデット系と変わらない構造。その場合必ず中心となるコアが存在するはずだ。

 そのコアの中に魂があるはずなのだが……まだ見つからない。

 見つかればそこを中心に攻撃すればうまく倒せるかもしれない。


 靴がこすれてゴムが溶けたような嫌な臭いが鼻につくが、そんな事を言ってられない。

 何津の尻尾は全て俺に向かって攻撃してくる。

 俺を殺した後にタマを吸収する気なんだろう。


 前にも言ったかもしれないが、尻尾が複数ある妖怪の弱点は本物の尻尾。他の尻尾は全て妖気で作られたタンクのような物でぶっちゃけ何しようが影響はない。

 しかし本物の尻尾は非常に敏感であり、他の尻尾を動かすための重要な器官でもあるのでそこでだけは攻撃したがらない。

 強力なオーラを纏っていればある程度は大丈夫だが、もしもの事態が起こる可能性があるのでほとんどの連中は攻撃に使おうとはしない。


 だから現在存在する7本の尻尾を全て使っているところを見るに、本物の尻尾はどこかに隠しているんだろう。

 一体どこに……


『解析完了。敵対対象のコアにマーキングする事成功しました。対象のコアは常に移動しております』


 ツーの報告に心眼、目にオーラを回す事で普通では見えない物も見る事が出来る。

 マーキングされたと思われる青い点は確かにデカ狐の中で動き回り、コアが傷つかないように配慮されていた。

 というよりは攻撃が届きそうなときに避けていると言った方がいい。


 ただ倒すだけならこの情報を妙に渡して撃ち抜いてもらうのが一番楽だが、自分で助けたいと言ったのだから助けたい。

 そのためにはあいつの動きを止めないと……


 そう思っている間にもデカ狐は尻尾だけではなく前足で踏み潰そうとしてくる。

 巨大な体の下をくぐりぬけて踏み付けは回避できたが、すぐさま尻尾が俺を襲う。

 鞭のようにしなりながら連続で襲ってくる尻尾はオーラで身を守っていても皮膚がえぐられ、筋肉が見える。

 ある程度は尻尾で守ったり軌道を逸らす事には出来ているが想像以上にオーラの消費が激しい。それだけ強烈な攻撃を食らい続けているという事だ。


 それに今の俺に触れれば渉の炎に焼かれて向こうもダメージがあると思っていたが、やっぱり超常の存在と言う所か。

 デカ狐は使い捨てをしていた。

 俺に触れた部分は攻撃が当たると同時に捨てる。まるで手についた泥を叩いて落とすような気軽さで炎が燃え移った部分を捨てる。

 これにより被害は最小限で効率よく俺にダメージを一方的に与えていた。


 しかも呪いによって俺の筋肉も腐敗。このままだとゾンビになる。

 避けているし、防いでもいるのだがどうしても呪いと純粋な戦闘能力の差が大き過ぎる。


 ………………はぁ。

 やっぱりタマの事とか俺自身の事とか、考える余裕はないか。


『残り8分を切りました』


 ツーからの報告に俺は呪いの力を上げる事にした。

 正直に言えば合体中に呪いの力を上げた場合中にいるタマがどうなるのか分からないからこれ以上上げたくなかった。

 これ以上タマを苦しめるような事はしたくない。

 でもこのまま俺が死ねばタマはデカ狐に取り込まれてどうなるか分からない。

 それならまだ問題がない方に力を注ぐ。


 俺は四つ足で構え、呪いがドラゴンの形を形成しながらも尻尾だけは少しだけ普段と違う。

 尻尾だけは九本ありそのすべてがドラゴンの鱗で覆われている。

 どうせ残り8分無いんだから攻めてやる。

 周囲への被害は後で考えよう。

 まずはあの不愉快な腐肉の塊、バラバラにして土に還してやる。


 今までのように尻尾を防御や攻撃に使うのではなく、移動に使おう。

 結局九尾のように尻尾を自在に使って戦うのは俺には無理だ。

 動かすことは出来ても本格的な戦闘として使う事が出来ないのであれば使わない方がいい。手数が増えて便利だと思ったが、思っていた以上に頭も使う。

 例えるなら食事をする際に箸を持つ手に集中しているとでもいえばわかるだろうか。

 そんな感じで尻尾を動かす事ばかり考えてしまい、攻撃の方が散漫になっていた気がする。


 でも尻尾を動かすことは出来るのだから全く使わないのも勿体ない。

 だから移動に使う。

 まず外側についている尻尾五本をブースターのように使用。これで瞬間的に加速する事が出来る。

 残りの四本はいざというときの予備でまだ力だけ溜めておく。


 尻尾のオーラを溜めて準備完了。

 やりますか。


 ボッと言う音の後に瞬時にデカ狐の顔面に躍り出た。

 すぐさま反応したデカ狐は尻尾を何重にも重ねて防御するが、今の状態なら腐肉の壁ならどうってことない。

 鋭い爪を振り下ろしてそのまま胴体まで切り裂こうとしたが危険を察知されて避けられてしまう。

 そのせいで地面に大きな、数メートルくらいの傷が出来てしまったがあとで謝るか。


 すぐに尻尾を修復して攻撃してくるが尻尾ブースターを使って避ける。

 ただ衝撃は激しいので着地は四つ足。完全に獣として戦う方がマジで今の俺強いかもしれない。

 多分呪いの影響もあるんだろうが、戦えば戦うほど四つ足で戦う事に違和感がなくなってくる。


 心眼でデカ狐の中にあるコアを視認して突撃。左前脚を破壊しながらコアを奪おうとするがそれよりも早くコアが移動して胴体を駆け巡る。

 どうしようかと思っていると腹から人の手が伸びてきた。

 どうやら狐の形を保っている必要性を感じられないようになってきたらしい。

 無数の手が俺に向かって伸びてくるがブースタで再び距離を取る。


『残り2分』


 ちっ。時間がないか。

 こうなると渉の炎だけではなく本当にコアを的確に奪う必要が出てきた。

 渉の炎は相変わらず燃え移ってもその部分ごと切り離されてしまうのでなかなかうまくいかない。

 どうしたものかと思っていると、声が聞こえた。


「やれー!!」


 そんな掛け声とともに何かがデカ狐に向かって投げられた。

 その正体は布。ただの布ではなくオーラや妖気を編んだ布だ。

 ただの布よりも頑丈で伸縮性もある捕縛用の術でもある。


 一体誰が?っと思っていると宮司さんと巫女さん、神職の人達がデカ狐を取り囲んでいた。

 その人達が四方八方から布を巻き付けこれ以上暴れられないように捕縛した。


「本来我々がこう言った事態に対応するべきなのに、何時までもご客人たちに頼ってばかりではならない!!皆出来る事をせよ!!」


 そう宮司さんが鼓舞していた。

 デカ狐はすぐに捕縛された部分を切り捨て、逃げようとするが他の布がフォローに入り逃さないようすぐさま新しい布が邪魔をする。

 デカ狐はどうにか脱出しようとしているが、好機と見た妙がマシンガンで尻尾をハチの巣にして布をちぎろうとするのを阻止。

 大神遥や彼もそれに続いて動きを止める。


 これならいけるかもしれない。

 俺は九つの尻尾全てをブースターにしてオーラを集める。

 一点超加速の一撃でコアを分捕る。そうすればあのデカ狐の体は自然崩壊するはずだ。

 だがそれには少し時間とタイミングがかかる。

 もし失敗したらもう助けると言う選択は取れないだろう。


 それにデカ狐は呪いの腐食で布をちぎろうとしていた。

 少しずつ腐っていく布の耐久力が心配になっていた時、上から声が聞こえた。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 その叫び声は、気合を入れているとかそう言うのではなく、ただ自分の不安や恐怖を消し去るために叫んでいるように聞こえた。

 実際その子はまだ恐怖で表情がぎこちなかったし、怯えているように見る。

 それでも――


「私だって。私だってちょっとくらい役に立つんだ!!」


 そう言って掌に大量のオーラをかき集めていた。

 そんな時に尻尾が一本だけ涙に向かっていく。

 ヤバいと思ったが突如その尻尾が何かに攻撃されて涙には届かない。

 今の攻撃は……そう考えている間に涙は魔力砲を繰り出した。


 漆黒の魔力はデカ狐の胴体を貫き、爆発を起こした。

 ほとんどの者がその爆発に耐えるのに精いっぱいの中、俺だけはコアの場所を正確に捉えていた。

 爆発によって舞い上がった上半身の、ちょうど脳に当たる場所にコアが移動している。


 ここしかない。


 そう思った俺はブースターを解放して瞬時にコアへと手を伸ばす。

 腐肉でできた頭部を貫き、どうにかコアの奪取に成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ