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転生者の贖罪  作者: 七篠
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やっぱり問題起きた

 さて、金毛家の会議当日。

 特にやる事もなく、裏伏見稲荷にいれば邪魔をしてしまうので裏京都をぶらぶらしていた。

 当然だが人間は全くおらず、京都に住む妖怪たちが俺の事を興味深そうに眺めている。

 そして俺のそばにはリルだけではなく子狐もおり、ぱっと見は狼と子狐の散歩のように見えるかもしれない。

 てっきり俺は人間という事で舐められたり、ちょっかいを出されたりするのではないかと思っていたがそう言う事が無くてよかった。

 あるいは見習いとはいえ裏伏見稲荷大社の関係者がいる事、そしてリルが強い事で予防していたのかもしれない。


 どうせ暇なら両親への京都土産を買っていくかと思い街をぶらぶらしている。

 流石に食料品に関してはすぐ帰る訳ではないので買わないが、物なら平気だろう。

 それに裏京都は裏京都で結構いい買い物ができる。


 例えば伝統工芸品なんかがそうだ。

 綺麗に装飾されたくしや箸など表よりも少しだけ安く買える。

 こう言った物なら使う使わない関係なくお土産になるだろう。


 そんな風に時間を潰しながらちょっとだけ定食屋で休憩。

 3人で飯を食いながら何とな~く、嫌な雰囲気を感じながら腹ごしらえをしていると涙が現れた。


「今日は外でご飯なんだ」

「仕方ないだろ。今日だけは特別。なんか奢るか?」

「大丈夫だよ。それにそんなに食べるつもりないから」


 そう言いながら涙は3本の団子と抹茶のセットを店員に注文していた。

 もちろん涙にも世話役の子狐がいるのだが、俺と一緒に居る子狐よりもかなり大人しく、実力もあるようだ。

 多分この子は見習いではないんだろうな……


「それにしてもお父さん、そんなに食べて大丈夫?お昼にはまだちょっと早い気がするんだけど」

「今の内に食っておかないといけない気がしてな。まぁ俺の勘が外れたらそれでいいんだが……」

「?よく分からないけど嫌な事が起きそうな気がするの?」

「何と言うか、経験上こういう一族が揃って会議~みたいなときには大抵何かが起こるんだよ。しかも今回は名家中の名家、金毛家の大会議だ。色々闇も深い所もあるし、タマ達も敵が多いからな。何か起こるんじゃないか心配してる」

「何かって……公的な場でそんなことするバカな人いるの?」

「いるんだよそれが。と言っても普通に考えれば涙の想像通り何もない。精々嫌味言われたり、古語と言われる程度だろうさ。でもそうやってあり得ない状況でありえない事をするって言うのは大きなチャンスでもあるんだよ。今涙が言ったようにこんな所でバカな事をする奴がいる訳ないって状況でな」

「……もし起こるとしたらどんな事が起きると思ってるの」

「う~ん。今回の状況だと……タマと妙の失脚を狙った何かしらの行為、かな。さすがに俺が想定しているような事はないと思うが……」

「それって最悪の事態って奴?」

「まぁそれに近い。でもウロボロス眷属と言っていい世界最高戦力の一つとして数えられる姉妹と大神遥がいるときに本当にやるかどうかと聞かれれば――」

「ありえないよね。でったい相手の被害の方が大きいって。ただの考えすぎじゃない?」

「だと良いんだが……」


 何と言うか前世の頃に何度も感じた戦う前の雰囲気と少し似ている。

 ピリピリとした緊張感の他に悪意や敵意の匂いと言うか、誰かを傷付けてやろうと言う雰囲気がある。

 それに今涙に説明した通りそんなタマと妙を失脚させたいと考えている奴は非常に多い。

 それはあの2人がどうして金毛家の中で最も地位の高い場所に居ながら金毛家の仲間が少ない理由に繋がるのだが……


 そう考えていると空気が変わった。

 俺は嫌な予感が当たったと舌打ちをしてから立ち上がる。


「全く。何でこう嫌な戦闘が始まる勘だけは全く衰えてないんだか。すみません、お会計お願いします」

「え、ちょっと待ってよ!!」


 会計を済ませて伏見稲荷の方を見ると、巨大な結界に伏見稲荷が閉じ込められていた。

 涙はまだ食べ終わっていない団子をほおばり、飲み込んでから聞く。


「何で結界が……」

「大方、金毛家に恨みを持つ奴が紛れ込んでたんだろ。ホント血筋にこだわりがある連中ってのはこれだから嫌いなんだ」

「それじゃ銀毛家かどこかの家が?」

「それに関しては完全にただの予想。ただ重要な会議に金毛家以外の誰かが入り込む余地があったのかどうかと聞かれるとほぼあり得ない。という勝ち筋に拘ってる連中がしょうもない奴を入れるとは思えないしな。メンツとかその他もろもろの見栄えの問題で」

「あ~それちょっと分かる。いろんな人が見栄張ってブランド物のスーツを着たり、時計とかカバンとか持ってくるもんね」

「そうそう。そこからブランド物のセンスとか勝ちとかのバトルになって――じゃなかった。とりあえず異変が起きたって事で伏見稲荷に戻るぞ。まぁ戦力としては過剰戦力だろうけど」

「確かに。タマさんや妙さん、遥お兄ちゃんが負けるところ全然想像つかない」


 いや、個人的には遥が負ける所は想像できるぞ。

 紛れ込んだ奴の中にそれくらい強い奴が混じっているとは思えないが、本来の大神遥は指揮官だ。様々な部下を手足のように使う事であらゆる戦況を乗り切ってきた。

 だから大神遥単体ではどうしてもタマや妙より数段落ちるイメージがぬぐい切れない。

 それとも今じゃそんなに差はないのかな?


「そっか……だとしても人手がいる場面なのは間違いないだろうな。タマ達の味方がどれくらいいるのか分からないし、もしかしたらタマや妙たちの攻撃を対策して防げると判断したから攻勢に出たのかもしれないしな。とりあえず慎重に行くか」


 独り言のように話しながら俺達は伏見稲荷に向かって走り出した。

 他の妖怪達も伏見稲荷の異常にざわめいているが、結界のせいで何が起きているのかさっぱり分からない。

 結界の外から見れば特に何も変わっておらず、戦闘音は聞こえない。

 逆に彼らが何かしている音も一切聞こえず、異様な静けさが伏見稲荷を包んでいる。


「さて、とりあえずこの結界の中に入らないと何も分からないか」

「どうするのお父さん。この結界壊すの?」

「壊すのはやめておいた方がいい。結界内で戦闘が行われていた場合、この結界が戦闘の衝撃波などを守っている可能性が高い。だから破壊ではなく侵入を試みる」

「侵入って壊すよりも大変じゃん!かなりの高等テクのはずだけど本当にできるの?」

「とりあえず調べてみてからだな。ツーも結界の解析よろしく」

『解析開始します』


 結界に触れて解析。

 術式は純妖怪式、効果は隠蔽と遮断、認識阻害もあったみたいだがこれは破壊されてるな。おそらく俺達が気が付いた時に破壊されていたとすれば、中では想像よりも早く戦いは始まっていたのかもしれない。

 術式の基礎は妖狐式って事は金毛家に関する誰かが仕掛けたな。

 ある程度プロテクトは強いが……侵入可能だな。


「ツー、侵入用の術式開発できそうか」

『製作の完了まで5分の時間を要します』

「俺の情報も入れておく。これで時間短縮できるか?」

『……製作まで1分の時間を要します。少々お待ちください』


 全く。転生して雑魚になった俺よりも解析が甘いとか平和ボケしてるんじゃないか?


「さてと、俺とリルは中の様子を探ると同時に攻撃するつもりだけど、涙はどうする?残っておくか?」

「わ、私も行く。でもこの子達はどうしよっか?」


 涙はそう言って子狐たちを見た。

 この子達に関しては保険をかけておくべきだろう。


「その子達には高天ヶ原(たかまがはら)に行ってもらって裏伏見稲荷が襲撃されている可能性がある事を伝えに行ってもらう。運が良ければ高天ヶ原から援軍が来るかもしれない。そうでなくてもまぁ、その子達は安全なところに送れるだろ。2人ともいいか?」


 俺はそう子狐たちに聞くと涙と一緒に居た子狐はすぐに頷き、俺と一緒に居た子狐は不安そうに俺を見上げる。

 だからそんな子狐を安心させるために頭を撫でる。


「俺達なら大丈夫だ。元々中に世界規模で考えても戦闘力上位の連中がめちゃくちゃいるし、そう簡単にくたばらねぇよ。晩飯前には終わるだろうから、ちょっとお偉いさんのところに行って大変だーって事を伝えに行ってくれ。頼む」


 俺がそう言うと震えながらも強く頷いて2人は天に向かって走り出した。

 さて、これで一応他の連中に危険が迫っている事を伝えることは出来るかな?

 それはあの子達の実力次第な部分もあるが、まぁ大丈夫だろう。


 おそらく敵さんはタマ達の相手で精一杯なんだろう。

 結界外に俺達に敵意や殺意を向けてくる気配はないし、俺と涙が外を出歩いている時に監視する視線も感じなかった。

 となれば中にいるタマ達の相手で精一杯で手が足りないか、タマ達を倒す事が出来ればあとはどうとでもなると踏んでいるんだろう。

 結界に隠蔽の術式も組んであったし、これで気付かれないと思っていた可能性もある。


『侵入用の術式、製作完了しました』

「そんじゃ敵陣に殴り込みに行きますか。涙。この先は本物の戦場だ。相手を殺す覚悟、ある?」


 一応涙にその覚悟があるのかどうか確認すると、首を横に振った。


「ないよ。でも絶対に倒す」

「……正直甘いと思うが、覚悟はあるみたいだな」

「うん。お母さんにも甘いって言われたし、他のみんなにも言われた。でも私は絶対に人を殺さない。なんとなく、殺しちゃいけないと思うから」

「ま、こんな状況で深く理由を聞くつもりもない。それならこれだけは約束しろ。絶対に生き残れよ」

「分かった」


 それだけはちゃんと約束させてから俺達は結界内に侵入した。

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