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違う

            ♡



 ルナは王子に謁見した。黒髪青目のジョンによく似た赤子だ。


「めちゃくちゃ可愛い!これは美男になる!」


 確信をもって予言できる。養育頭になったネッガー夫人が抱っこさせてくれた。初めて赤ん坊を抱いた。軽いのに存在感が凄い。


「ジョンにそっくり。笑ったら素敵だろうなぁ」


「笑うのはまだよ。2、3カ月しないと」


 夫人が教えてくれる。微笑んで見える時もあるが、ただの反射らしい。ドアが開いてジョンが入ってきた。1日1回は王子に会うように夫人に命じられたのだ。赤ちゃんを抱くルナを見て、彼は足を止めた。


「王子さま~。パパが来ましたよ~。抱っこしてもらいましょうね~」


「いや、俺は…」


 王子を渡そうとすると、ジョンはごにょごにょと言ってしり込みをする。あまり抱っこしないらしい。いかん。このままでは親の愛情不足でひねたダメ王子になってしまう。


「ジョン。抱っこして。笑ってあげて。いっぱい愛してあげないと国が亡ぶよ」


「大げさな」


「本当だよ。愛に飢えた王子は騙されやすいんだよ。婚約破棄とかしちゃうから」


「何だそれは…」


 夫人や侍女たちが肩を震わせる。ジョンは渋々赤ん坊を抱っこした。渋い男前の王様と赤子。ルナは思わず噴き出した。ジョンが睨んだ。


「すごく素敵。そうだ絵に描いておこう」


 ルナは“絵画”の魔法で親子を描いた。赤子を夫人に渡し、ジョンが絵を覗き込んだ。


「美化しすぎだろう」


「そんなことない。ジョン・シャルル王は世界一抱っこが上手い美男なの」


 ジョンは大笑いをした。久しぶりに彼の笑顔が見られた。ルナも嬉しかった。




            ◇




 1年後、王妃の喪が明けた。在位10周年記念祭が行われる。諸外国からの使節も続々と到着していた。謁見に次ぐ謁見でジョンは目が回るほど忙しい。王子への訪問もしばらく免除してもらった。


「パートナー?そんなの要らん。どうせ踊る暇もない」


 打ち合わせ後、宰相が舞踏会のパートナーをどうするのかと訊いてきた。ジョンは一蹴した。


「そうもいきません。大使夫人らの相手までは陛下1人ではできないでしょう」


 それもそうだが、今王族には女性がいない。母方の侯爵家から誰か頼むか。王は頭を捻った。


「いっそルナ様にお願いしませんか?」


 宰相は本気だ。目が笑っていない。


「彼女は貴族じゃない。使節の接待など…」


「私は出来ると思いますよ。あの方は唯者じゃありません」


「しかし肩書はどうする?竜神の巫女で通用するのか?」


「婚約者で良いじゃないですか」


 ジョンはぎくりとした。宰相はルナに訊いてみると言い、何喰わぬ顔で席を立った。




            ♡




 王子はつかまり立ちができるようになった。数歩なら自力で歩ける。ルナは毎日、夫人のお供として登城した。ジョンに似た赤子が可愛くてたまらない。今日もよちよちと歩く王子と遊んできた。


 剣聖(ソードマスター)にしごかれるノルドを見に行こうかと騎士団に向かう途中、宰相の使いが来た。


「折り入ってご相談がありまして」


 通された部屋で茶を飲みながら宰相が頼んできた。舞踏会でジョンのパートナーになってほしいそうだ。


「別にいいけど。婚約者のふりをするのは何で?」


「陛下は喪が明けられました。王妃になろうとする令嬢や、諸外国の王女が押し寄せるからです」


 良いではないか。ジョンも再婚すべきだ。宰相は反論した。


「何をおっしゃいます。王子の継母になられる女性ですよ。慎重に決めねば。夜会で王を誘惑してくるような女では困ります。うっかり変な女性が王妃になってしまったら、この国はお終いです」


 そう言われればそうかも。ルナは納得した。


「ジョンが媚薬を盛られて、うっかり令嬢に手を出しちゃったり?魅了の魔法にかかって『運命の女性(ひと)は君だったんだ!』とか血迷ったり?」


 王妃になった悪女は継子である王子を亡き者にしようと暗殺者(アサシン)を送る。失敗するととことん王子を虐待する。最後には自分の産んだ子を王位に着けるために、ジョンと王子に毒を盛るのだ。


「なんて酷い!分かったわ。私がジョンを守るわ!」


「さすがルナ様!何と心強い!」


 崇高な使命に目覚めたルナを、宰相は笑顔で褒め称えた。




            ◇




 宰相がルナの説得に成功した。舞踏会では婚約者としてジョンと行動を共にする。その打ち合わせに来たルナはやる気に満ちていた。


「絶対に知らない女の渡す飲み物を飲んじゃダメよ。媚薬が入ってるから。話してて妙な気分がしてくる相手は魅了魔法の使い手ね。1分以上目を見たり、二人きりになるのは危険だから避けて」


 若い娘が真剣な顔で王の貞操を案じる。ジョンは脱力した。『合わせて!』と宰相が目で訴えてくる。


「分かった…」


 違う。そうじゃない。ジョンはため息をついた。それがルナの気に触ったらしい。


「信じてないのね?試しに魅了魔法をかけてあげるわ。私の目を見て」


 黒曜石の瞳が正面から彼を見つめた。じいっとそのまま見つめ合う。ルナは首を傾げた。


「…おかしいわね。魅了にかからない」


 違う。もうとっくに、君に魅了されているんだ。ジョンは微笑んで、打ち合わせの続きを促した。


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