古代ギリシャ詩『アレクサンドロス大王讃歌』
世界の神話伝説や歴史を題材にした詩、第14弾。古代ギリシア最後の英雄アレクサンドロス大王を讃えます。この御方の「アレクサンドロス」というカタカナ8文字の名前を入れて、リズムのある文をつくるのが難しくて、完成までかなり時間がかかりました。つ、疲れた……。
詩女神よ歌え、古代ギリシア最後の英雄、大王アレクサンドロスの讃歌を。
おお、アレクサンドロス、御身の出自はいかなるものか。
生まれはギリシア北方の地、岩多き王国マケドニア。
父は梟雄にして英主なる 片目の王者フィリッポス、母は妖艶なる王妃オリュンピアス。されど実の父はゼウス=アモン――羊の角持つ神なりと 噂されたり、まことしやかに。
カイロネイアの戦に勝ちて、ギリシアにちらばる数多の都市国家、それらの盟主となりしフィリッポス、凶刃に倒れたるとき、その息子 若きアレクサンドロスはただちに動き、マケドニアの混乱収めたり。
かくて祖国の新王と なりたる御身は大いなる 夢と野望を胸に秘め、始めたるなり、大遠征!
葡萄酒色のエーゲ海、数多の島浮かぶ海渡り、向かうは東の大帝国――かつてギリシアを幾度も 脅かしたるペルシアの 広大なる領土オリエント。
アナトリアの高原渡り、イッソス並びにガウガメラ、二つの地にて大王は、ペルシアの帝王ダレイオス 率いる大軍打ち負かす。
湾刀手にしたペルシアの 勇猛果敢な兵たち、砂煙上げて迫る鎌戦車、一万の精鋭“不死隊”――ものともせずに巧みなる 戦術をもて破りたり。
そしてバビロン、スーサ、ペルセポリスにパサルガダエ――主たる都市を占領し、逃げ足速きペルシア王 ダレイオスの後を追う。
逃避の最中、腹黒き臣下に裏切られ、非業の最期を遂げたるダレイオス、その死を看取りし後もなお、大王アレクサンドロスは軍勢を、東へ、東へと進めたり。
ヒンドゥークシュの天険恐れず登り、カイバル峠の細道通り、攻め込みたるぞ、豊穣と 混沌の大地インドへと!
インド西北の地にて異国の怪獣、象を馴らすポロス王降伏せしめ、めざすは東の彼方、外洋の波音轟く大地の果て。
されど長きに渡る遠征に 疲れ果てたる兵どもは、インダス川のほとりにて、これより先には進まじと、王の命令拒みたり。
大王、「去る者は去れ」と息巻くも、一人で万軍進まざるを如何にせん。ついにあきらめ、帰路につく。オリュンポスの神々に、インド再訪を願いつつ。
されど雷走らせるゼウスをはじめ、ヘラにアポロン、アプロディテ、アテナら至福の神々は、王の願いを聞き入れず、大王、ペルシアの大都バビロンに 戻りてほどなく病に倒れ、失意のうちに亡くなりぬ。えもいわれぬ香り立ち昇る 幸福のアラビア征服せんと、企てたる最中に。
今際の際に大王は、誰を世継ぎにするかとたずねられ、答えて曰く「最強の者」と。
そこで大王亡き後、武将たちは愚かにも「我こそは後継者」と口々に 名乗りを上げて殺し合う。
熾烈なる争いの末、アレクサンドロスの帝国は、分かたれたるなり、三つの国に。
すなわち、プトレマイオス朝エジプトと、アンティゴノス朝マケドニア、そしてセレウコス朝シリアなり。
以後、300年の長きに渡り三国の 各地においてアジアとギリシア、東西の文化が融け合いて、新たな文化、ヘレニズムの花ぞ咲き誇りたる。
おおアレクサンドロス、愛馬ブケパロスにまたがりて、信頼寄せる朋友たち――大王幼き頃の教師なる 哲人アリストテレスの学び舎にて 共に学びし友人たち――彼ら数多の武将と共に軍勢率い、大遠征成し遂げたる御身。
デルフォイの巫女をして“汝は負けざる者”と言わしめ、ゴルディアス王の結び目断ち切りし剛毅の人よ。
果てなき夢と飽くなき野望、滾る情熱 胸に秘め、齢二十にして遠征始め、三十余りにて世を去りし御方。
詩聖ホメロス歌いしトロイア戦争の勇者、足速きアキレウスさながらに、短くも輝かしき人生の道、颯爽と駆け抜けたる豪勇の人――おお、アレクサンドロス大王よ、その名は永久に不滅なり。
この歌をもて、御身を讃えん。