08
「きゃっ、ちょっ、うふふっ」
アクヤは今、水色のチビモフモフ達と絶賛格闘中だ。
毛並みのいい一際大きな子──といっても、仔犬程だが──がアクヤの顔を舐めまわしてくる。
他のチビモフモフたちも、負けじと手をペロペロしたり、体を擦り付けて来たりと、アクヤの体に群がっていた。
時折指輪から顔を覗かせ、ミズタンもチビモフモフ達とじゃれ合っている。
狼の群れに襲われた時、アクヤの頭上には水色の幕が展開された。
その幕を通り越えてきたモノ達が、何を隠そうチビモフモフ達だったのだ。
正直、アクヤには何が起こったのか分からない。水色の幕は、チビモフモフ達が通過した後、一纏まりに戻り指輪に吸い込まれていった。
その事から考えると、ミズタンが何かしたことにより、狼がチビモフモフに変身したのだろう。
真っ先に逃亡した割に、アクヤの危機を察知すると、ミズタンは身を呈して守ってくれた。
御礼に残り最後の干し芋を渡してあげた。
その喜びようは物凄く、危うく腕ごとミズタンの一部にされるところだった。
アクヤは、相変わらず顔を舐め続けている、ボスモフを抱き上げた。
顔をのぞき込む。
(この子が私を襲った、あの巨大狼と同一個体なのかしら? )
確実性をとるなら、この子は始末するべきだろう。今ならアクヤの方が勝てる……気もする。しかし、こんなに可愛い子にそんな残酷なことはできない。
アクヤの内心を察知してか、ボスモフは、気持ちシュンとしているようにも見えた。
いざとなれば、また、ミズタンにチビモフモフ魔法をかけてもらえばいいのだ。
ミズタンの様子を伺うと、相変わらず、チビモフモフたちとじゃれあっていた。
ミズタンが指輪に戻り、チビモフモフ達と遊んでいるということは、とりあえず脅威ではないということだろう。
アクヤは起き上がり、ボスモフを膝に乗せた。優しく撫でる。
それで安心したのか、ボスモフが、くるっとひっくり返りお腹を見せてきた。
わしゃわしゃわしゃっと触ると、気持ちよさそうに目を細める。
他の子達が、アクヤの膝に登ろうとするのを、足を器用に伸ばし蹴落としていた。
自然と頬が緩む。
その可愛さに、荒んだ心が癒されていく気がした。
「それでは皆さん、出発しましょー! 」
ふるふるふるっ!
「クゥーン」
アクヤの掛け声で、1人と1滴と1匹が歩き出す。
昨日? から干し芋しか口にしていない。
今後のことを考えたら、何か食料が必要だった。
ミズタンに相談すると、何処かに案内してくれるという。
さっぱり分からなかったが、とりあえず、ついていくことにした。
ちなみに、チビモフモフ達はボスモフの中に隠れている。
最初にその現象を見せられた時、アクヤはボスモフの体を隈無く調べあげた。
しかしそれは、ボスモフを喜ばせただけだった。
◇ ◇ ◇
「ミズタン、あれ屋台? 」
曲がりくねった道の影に隠れながら、アクヤが声を潜め尋ねた。指輪から頭を出したミズタンこくりと頷く。
その視線の先で、紫色のランタンを掲げた怪しげな屋台が、湯気をくゆらせていた。
アクヤは混乱した。果たして、こんな巣窟に屋台があるのか?
朧気な記憶で、お兄様が冒険者という人々の話を聞かせてくれたのをアクヤは思い出していた。
たしか、こういった洞窟で魔物を倒したり、宝物を探したりする人々のことだったと思う。
(ということは、その人々のための屋台があってもおかしくは、ない? )
ここまでの道のりは至って順調だった。
元の水場から考えると、かなり地中深く潜ってきた気はする。そのため時間はかかったが、魔物と遭遇することはなかった。
と言うのも、出会う前にボスモフがそれ気づき、そちらを避けているようだった。
わざわざ、ここまで来たのだ。
結局、ここで躊躇っても餓死するだけだ。
ミズタンが案内してくれたのにも、何かわけがあるのかもしれない。
アクヤは、妖しさ満載の屋台に突撃する決心を、固めた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼─
【名前】 アクヤ・クレイ Lv.15
【種族】 人族
【ステータス】 高位貴族
【スキル】 王子妃の教養(免許皆伝)
回避、覇王の威圧、意思疎通
子守唄、忍び足、調教
【名前】 ミズタン Lv.10
【種族】 魔族水操玉目 液晶水操玉
【ステータス】 覇王の眷属、水操玉の進化系
【スキル】 鉱石鑑定、二足歩行逃避
じゅうたん探索、消化・吸収
鉱石擬態、ナビゲート、聖水精製
ウーォターベッド、忍び足
保護水膜 、 魔素吸収
【名前】 ボスモフ Lv.8
【種族】 魔族魔狼目 水游狼
【ステータス】 群れの長、従魔
【スキル】 遠吠え、潜水、甘え上手、索敵
明日も同時刻に投稿予定です。
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