67 閑話その1
「クレアのばっちゃーん! お客さんだよー!
」
クリクリお目目の男の子が、奥を振り返り叫んだ。
「あれまぁ、二人揃ってどうしたの? 忙しいだろうに? それに、そんな格好で……」
白いモコモコ姿のアクヤを見て、小鬼巣窟から出てきたお婆ちゃまが目を丸くする。
「突然、すみません。ゼフ様が、お婆ちゃまにお話しがあるそうで。
ドレスより、お婆ちゃまが編んでくださった衣服の方が楽なんです」
「まぁまぁ、嬉しいことを言ってくれるねぇ」
はにかながら微笑むアクヤを見て、お婆ちゃまも微笑んだ。
「適当に座ってちょうだい。今、紅茶と……、出せる物が……木の実しか、ないねぇ」
そして、キッチンへと戻ると、ガサゴソやりながら呟く。
「お婆ちゃま、お気になさら……」
「クレア様は、あちらへお戻りください。紅茶は私が。お茶請けも、我々が持参しました故」
お婆ちゃまの脇に、音もなく現れたバズが、言う。
「そうかい? それなら、お言葉に甘えようかねぇ」
パチンっ!
お婆ちゃまが、水操玉に着くのを確認したシェフが、腕を鳴らす。
途端に、円卓が出現し、沢山のお菓子が並べられた。
「「「うわーいっ! お菓子だーーーーっ!!
」」」
ちびっ子達が群がってくる。
黄色と黒のしましま坊や達も混ざっていた。
「あっ、こらっ、待てっ! それはお客さんのだぞっ! 」
「ふふっ。大丈夫よ、オニオー。
こうなるだろうと思って、シェフには沢山持ってきてもらっているから」
「でも、これだと話どころでは、ないぞ? 」
確かに、目の前は戦場だった。ちびっ子オニと、ちびっ子バチが、ひしめき合っている。
「それもそうね。
シェフ、あちらにもテーブルを出して下さる? そして、お菓子も」
「はっ」
シェフが再び腕を鳴らすと、円卓とお菓子が出現した。
「わーいっ! あっちのテーブル、あーまいぞーっ! 」
子供の波が、あちらへと押し寄せていく。
「煩くて、ごめんねぇ。それに、こんなに沢山いただいちゃって」
「いえいえ。迷宮中に目を配り、冥王様と魔衆の絆を深めるのも冥王妃の大切な役目ですから」
「相変わらず、流石だな」
「全くもって、頭が上がらないよ」
凛と答えるアクヤに、それを呆れたように見つめるオニオー。
そして、ここまでのやり取りを、ずっとニコニコと見守っていたゼフ様が、さらに、相好を崩しながら言った。
「で、話ってなんなんだ? 」
「実は、クレア様の旦那様、つまり、オニオーのお父上について、分かったことがあるんだ」
ゼフ様が、顔を引き締めた。
「はっ! 今更、あのクソ親父のことなんざ、聞きたくねー! なんで、俺たちを捨てた親父の話なんか……」
「君のお父上は、小鬼を捨ててなんかいないっ! 」
ゼフ様が声を荒らげた。いや、荒らげることで、オニオーを落ち着けたのだ。
「声を荒らげて、すまない。
最後まで僕の話を聞いてくれ。王位を継ぐ者には話す義務がある。そして、君たち──クレア様、オニオー、アクヤ──にも、それを聞く義務がある、と僕は思う。S級冒険者カール、のちの、カール・クレイ公爵閣下について……」
 




