表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/69

63

 シャッ(ワンッ)シャッ(ツー)シャッ(ワンッ)シャッ(ツー)

 ズン、ズン、ズン、ズン

 びゅーーーーーーん!


 シャッ(ワンッ)シャッ(ツー)シャッ(ワンッ)シャッ(ツー)

 ズン、ズン、ズン、ズン

 びゅーーーーーーん!



「ふぅっ。

 魔政婦(皆さん)、一先ず、これで終わりにしましょう」


 一息付いたアクヤが、魔政婦(メードデーモン)に声をかける。

 

 この数日、アクヤは魔政婦(メードデーモン)を従え、迷宮のお掃除革命に乗り出していた。


 例の

『暗くてジメジメしているのなら、カラッと明るくさせればいいじゃないっ! 』作戦だ。


 魔家政(メードデーモン)の頑張りで、そこかしこが見違えるようにピカピカだった。光石の優しい光を浴び、床や壁が真っ白に輝いている。

 天井には火球が浮かび、湿度と気温、そして、光量を一定に保っていた。


 それでも、魔政婦(メードデーモン)は動きを止めない。


 一つの汚れも許してはならない。


 その姿からは、そんな強い意志が見て取れた。



 1人の魔政婦(メードデーモン)がアクヤの元に進み出る。

 以前、魔執事(バトラーデーモン)の元へと案内してくれた彼女だ。

 胸とお尻が一段と大きくなり、威厳が増している気がする。


 彼女はエプロンの裾を掴むと、優雅に淑女の礼をとった。


『ここは私ども任せ、アクヤ様はお休み下さい』


 まるで、そう言っているかのようだった。



「あっ、アクヤっ! ここに居たのか。

 うおっ! ここに来るまでもそうだったが、迷宮が生まれ変わったようだ」


 ちょうど、そこへお兄様がやってきた。


魔政婦(メードデーモン)のおかげです」


「彼女達も以前より、ずっと、生き生きしているみたいだ。戦闘よりも清掃の方が、性分に会うのだろう」


 お兄様が優しい笑みを浮かべながら言った。


「アクヤは、もういいのかい? 」


「ええ。取り敢えず一通り、綺麗にできました。あとは、お外が見えれば、よいのですが……」


「アクヤなら、そう言うと思った。

 はい、僕からのプレゼントだ」


 お兄様が、嬉しそうに微笑んだ。

 バズとシェフが金属の枠を2人がかりで運んでくる。2メートル四方の大きな枠だった。


「取り敢えず、ここでいい? 」


「へ? あ、はい」


 お兄様の言葉にワケも分からず頷いてしまう。壁に枠が嵌め込まれた。


 パチンっ。


 シェフが指をならす。

 次の瞬間、迷宮の壁が消え、アルマニアの街並みが写しだされた。


「まぁっ! 素敵」


 思わず、身を乗り出してしまう。心地よい風が、アクヤの髪を靡かせた。


「危ないよ」


 お兄様が、後ろから抱きしめてくれる。


「シェフの空間転写魔法だ。どうだい、僕の、いや、僕らからのプレゼントは。

 気に入ってもらえたかな? 」


「はいっ! 」


 クルッと振り返ったアクヤが、お兄様に飛びつく。


「これは、もっと、数を増やせます? あっちにも、こっちにも、あそこにも、そして、あちらにも、あと50、いや、100個は欲しいですわ」


「ふふっ。

 窓枠は魔鍛冶師(ブラックスミス)に頼もう。あとは、シェフ次第だけど……」


 お兄様が、シェフに視線を移す。

 アクヤも、釣られてそちらを見た。


「聞かずもがな、だったね」


 バズの隣に控えたシェフは、跪き恭順の意を表していた。


「あの、魔鍛冶師(ブラックスミス)とは? 」


 アクヤが問う。


「実はこの迷宮には、アクヤが会っていない悪魔(デーモン)が、まだ他にもいるんだ。

 魔鍛冶師(ブラックスミス)も、その内の一体で、主に魔剣や魔具を作ってくれている」


「まぁ、お会いしたいですわっ! 」


「うーん、どうかな。

 彼ら、アクヤのことを怖がっているみたいだから、追追かな? 」


「なっ!? 怖がられているですって? なぜです?

 まっ、まさか、貴方達っ!? 」


 ひぃっ。


 アクヤにきっと睨まれた悪魔が、恐れおののく。


「彼らが直接言った訳ではないようだよ。ただ……」


「ただ? 」


「『いつの間にか骨抜きされる』だとか、『意に 沿わないと、体を差し出させられる』とかいった噂が、まことしやかに囁かれていて……」


「なっ!? 」


 アクヤが絶句する。

 当たらずとも遠からず、なところが余計に痛かった。



 

「ああ、でも、これから、その内の1人と会う約束をしているんだ」


 ヘコむアクヤを見て、お兄様が慌てたように言う。


「でも、私が怖いのでしょう」


「大丈夫。僕が、アクヤが如何に可愛いかという事を力説しておいたから。彼女、可愛いものには目が無いんだ。彼女がアクヤと仲良くなれば、他の悪魔もイチコロだよ」


 お兄様はそう言うと、アクヤをひょいっと抱きかかた。

 

「それじゃ、いくよ」


 そして、シェフが新たに作り出した扉へと入っていく。




「まぁっ! アンッ!! 」


 扉の向こうには、アンが控えていた。


「まさかっ、アンが悪魔っ!? 」


「はははっ、さすがにそれは、無いだろう」


 お兄様が、吹き出した。


「まずは、身だしなみを整えておかないと」


「最近は、水浴びもお洗濯も頻繁に行っておりますよ? 」


「彼女は手厳しいんだ。徹底的に綺麗にしておかないと。

 ……それに、今日は特別だから」


 お兄様が意味深に笑う。少し緊張しているようだった。


「それじゃ、アン。あとは、よろしく頼むよ」


「ええっ! お任せ下さい。

 最上級の状態にお仕上げしておきます」


 アンが胸を張る。





「アクヤ様っ! 」


 お兄様が消えた瞬間、アンが抱きついてきた。そう言えば、辺境伯邸では、殆ど、会話らしい会話を交わせていなかった。


「まさか、お嬢様がこの様な所に捨てられていようとは。

 何もして差し上げられなかったことが悔しいです。いっその事悪魔になって、お傍にいれたらどんなによかったか」


「……アン。

 そんなことないわ。

 縫い付けてくれた干し芋と指輪に、私がどれだけ救われたことか。

 それに、お父様とお母様をお支えしてくれてありがとう」


「うう~っ、お嬢様~。

 また、お嬢さまとお話出来てよかった~。

 あのっ、私は、またお嬢様にお仕えできるのでしょうか? 」


「私、迷宮(ここ)から出られないの。アンは、こんな所にずっといるのは、嫌でしょう? 」


 思わず、上目遣いで聞いてしまう。

 そんなアクヤを、アンが、ぎゅーーーっと抱きしめた。


「嫌なわけ、ないです。

 例え、お嬢様が地獄の溶岩に浸かっていようとも、私はお供します。

 もう、絶対に離しません」


「……ありがとう。

 でも、私、地獄にいくの? 」


「いっ、いやっ、例えです、例え。

 お嬢様は、天国……いや、何処にも行かせませんっ! ずーーーっと、私の隣ですっ! 閻魔様にもっ、ヘテプ様にもっ、お渡ししませんっ! 」


 アンが、ふんすっと、そう言った。


 ふふっ。


 アクヤが思わず、笑ってしまう。

 それを見て、アンも、幸せそうに笑ってくれた。


「あっ、そろそろ、お風呂に入りましょう。今日は特別な日なのですから」


「特別? 」


 アクヤが問う。そういえば、お兄様も、そう言っていた。


「ええ。

 何といっても、久しぶりに、アクヤ様の体を、この私が洗って差し上げられるのですからっ! 」


「おの~、もう、1人で大丈夫よ。この1ヶ月、自分で洗ってきたわけだし」


「ダメですっ! 私が磨き抜いて差し上げますっ! 」


 そうこう言っている内に、アクヤよりも体の大きなアンに、衣服を剥ぎ取られた。


「やっ、ちょっ、ちょっと、くすぐったい。きゃ~、ちょっと、やぅ、やめて~」


「まだまだまだ~、1ヶ月分の汚れを落としませんとっ!! 今日は特別なのですっ! 」



 それからアクヤの入浴タイムは数時間続いた。

 磨きに磨きぬかれ、迷宮と同じくピッカピカの真っ白なお肌に生まれ変わったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ