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 お兄様がふわりと地上に降り立った。

 アクヤを、そっと、降ろしてくれる。


「アクヤ様っ! 」


 煌びやかな全身板金鎧(フルプレートアーマー)に身を包んだ、いかにも危なそうな騎士が、跨颯爽と掛けよってくる。


 真っ白な馬からヒラリと飛び降り、美しい所作で(アーメット)を外す。


 鮮やかな金髪が風に靡いた。

 それを振り乱し整え、目をキラキラと輝かせながらアクヤの元へ近付いてくる。


「カッコよかったですわっ! 」


「……ミランダ様も」


 学生懇談パーティの時の青いドレス姿とは打って変わった、勇ましい姿に、思わず言ってしまった。


「ふふっ」


 ミランダが、満更でもなさそうに微笑んだ。


「必ずや、戻ってきてくださると信じておりましたわ。

 えっと、そちらの殿方は……まさかっ!? 」


 隣に立つお兄様へと、視線が移された。そして、ただでさえ大きなブルーの瞳が見開かれる。


「ぜ、ゼフリード殿下っ!? 」


「これはこれは、武勇に名高いランデブルグ辺境伯ご令嬢。長い間お目にかからない内に、また、一段とお勇ましくなられまして」


「まぁっ!」


 ミランダが、ぽっと頬を染めた。

 お兄様の決して褒められない誉め言葉は、ミランダを喜ばせたようだ。


「アクヤ様っ、ゼフリード殿下っ! この度はご無事で何よりです。

 そして、我々の窮地に駆けつけて下さり、有難うございます」


 こちらも煌びやかな全身板金鎧(フルプレートアーマー)に身を包んだ、歴戦の戦士が、騎士の礼をとる。

 その厳つさと言ったら、魔獣化したお兄様を凌ぐ勢いだった。


 ミランダも、それに追従する。


「お顔を上げてください。

 我々も、辺境伯軍にご加勢頂いて、早く方を付けることができました」


 お兄様が答える。どうやら、途中から

 辺境伯軍も戦闘に加わっていたようだ。


「ゼフリード殿下に置かれましては、国王陛下の密命中に命を落とされたと伺っておりましたが……」


「密命といえば、密命なのでしょうか。10年ほど前、私はハワード侯爵領の視察を国王陛下に命じられました。侯爵邸に入ったところに 、アルマニア大迷宮の攻略を言い渡され……反論の機会も与えられぬまま……」


 ハワード侯爵と言えば、ここ数年で、国王陛下の信任を経て、今や公爵に匹敵する程の力を得ている大貴族だ。クレイ公爵家の政敵の筆頭でもあった。

 そして、大迷宮は侯爵領にあるらしい。


「アルマニア大迷宮の攻略だとっ!? あそこは、小鬼(ゴブリン)から上位悪魔(ハイエストデーモン)まで住み着くと、言われている魔の巣窟なのだぞっ!! 」


 武闘派の辺境伯でさえ、絶句してしまう。


『実は、目の前にいる彼らが、その小鬼(ゴブリン)から上位悪魔(ハイエストデーモン)までの魔衆です』とは、口が裂けても言えない雰囲気だった。

余談だが、後に、それを知った辺境伯は、1週間寝込んだという。


「事実上の厄介払いでしょう。実際、私が消され後、ジョゼフ殿下の立太子のご祭典が執り行われたようですし」


「なんて日だ……」


「しかし、そのお陰で、クレイ公爵家ご令嬢に救い出して頂くことができました」


 呆然と天を仰ぐ辺境伯に、お兄様が微笑んだ。


「ちょっと!! お兄様っ!? 」


 アクヤが絶句する。


「なっ!! なんですとっ!? 」


「ゼフリード殿下がアクヤ様を、ではなく、アクヤ様がっ、ゼフリード殿下を、救い出されたのですかっ!?

 そのお話っ、ぜひこの私に、お聞かせ下さいっ! 」


 目を輝かせた武闘派令嬢は、もはや、止まらない。


「そのお話なら、アクヤ様付の執事であるこの私が、お引き受けしましょう」


 世にも恐ろしい上位悪魔(ハイエストデーモン)が、うわ言を呟く教皇を引きずりながら参戦する。


「いえいえ、アクヤのことは何から何まで知っているこの従僕、オニオー様が引き受けます」


 もはや、巣窟の魔が、地上を我が物顔で闊歩していた。


「こちらが、アクヤ嬢のご配下殿たちですか。如何にも逞しく見えますなぁ。

ご丁寧にありがとう。

クレイ公爵ご夫妻が、私の邸でお待ちです。積もる話は食事を取りながらでも、行うとしましょう」


 武闘派辺境伯によって、的確に逃げ場は封じられていた。





『皆の者、鎮まれーっ! 』


『違うなっ。もうちょっと声を低くして。「皆の者、鎮まれーっ! 」こんな感じ』


「皆の者、鎮まれーっ! 」


『そうそう、その感じっ! 』


「皆の者、鎮まれーっ! こちらにいらっしゃる……」


『違う違う、そこは「あそばせる」だよっ! 僕がもう1回やるからよく見ておいて』


『はいっ!! 』


 その夜辺境伯邸では、睡眠時間を返上して、『海を越えた東の国の冒険者を支える従者になるための特訓』が行われたそうな。





(むにゃむにゃ……ひかえにゃひゃい……むにょ)


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