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「……はぁ」
もう、何度目か分からないお兄様のため息が聞こえてきた。
「どうされたのです? 」
ずっと、無言で考え事をするお兄様に、遂に、アクヤは我慢できなくなり、問うてしまう。
2人は、 今、スライムチェアに並んで腰掛けていた。
「どうしたもこうしたも、アクヤはきちんと今の現状を把握できているかい? 」
「もちろんです。私が魔衆と共に迷宮を攻略し、そこに閉じ込められていたお兄様を救い出しました」
「うん、そうだ。そして、今や、冥王は、アクヤと僕に書き換えられた。
君の口付けによって」
「きゃっ。口付け……だなんて……。
恥ずかしい……」
「そう。僕の為にソレを惜しげも無くやってくれたのが、アクヤだ」
ぽっと頬を赤らめたアクヤの頭を、お兄様が優しく撫でる。
「でも、これで、アクヤは地上に戻れなくなった。
わかるかい?
僕のせいで大切なアクヤを、一生、ジメジメした暗い場所で生活させることになってしまった」
お兄様の表情が曇る。
どうやら、あの口付けでアクヤは、お兄様の体内に蓄積した大量の魔素を受け取ったらしい。
それで、お兄様は元の姿に戻れたのだ。
不思議なことに、アクヤの体に変化は無かった。生まれつき、きつめの顔つきである自覚はあったが、それが良かったのかもしれない。
「でもそれは、ずっとお兄様と共に居られるってことですよね? 」
「えっ、いや、それは、そうであるけれども……」
顔を輝かせるアクヤにお兄様が困惑する。
「私は、お兄様のお傍にいれるのであれば、どこでも耐えられます。第一、この数週間? 私は地下迷宮で過ごしてきたのです。もはや、第二の故郷といっても過言ではありません。
それに……」
「それに? 」
「暗くてジメジメしているのなら、明るくして、カラッとさせれば良いのです。幸い、冥王には、バズも魔政婦も付いております」
「……」
お兄様が、無言でアクヤを見つめる。
「どっ、どうされたのです」
その澄んだ瞳に圧倒され、胸がキュンとなった。
「長い間見ないうちに、アクヤは凄く逞しくなったのだね」
お兄様が優しく微笑んだ。
「僕も、アクヤの傍に、ずっと居れることは嬉しい」
「……」
お兄様の言葉に、思わず顔が熱くなる。そのまま地面をみつめ、固まってしまった。
アクヤの反応をみて、お兄様がいたずらっ子のように微笑む。
「それに……」
「それに? 」
「アクヤが、ずっと、僕と共にいたいと思ってくれたことが、何より嬉しい」
耳元で、囁かれた。
肩に回された手に、そっと、力が入る。
そのまま、唇が奪われた。
「っ///!? 」
「さっきの、お返し」
軽めの口付けの合間に、お兄様が囁く。
そして、それは徐々に、深く激しくなって行く。
蕩けそうなアクヤは、されるがままだった。
(おいっ。いつまで、壁を見とけばいいんだよ)
(私がいいと言うまでです)
(つーか、手が邪魔だ)
(まだ、早すぎます)
(一応言っとく。
見た目は子供だが、中身はコーコーセー以上だぞ……あれっ、コーコーセーって……なんだ? )




