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「えーっと、あれが……? 」
「最深部の入口を守っていると言われる超剛金守護者らしい」
「つまり、カクさんね? 」
「……誰だよ、それ? おっ、おわぁっ! 」
オニオーを押しのけてアピスが、ずいっと前にでた。
「まぁっ! どこからどうみてもカクさんじゃない ♡ 」
胸の前でで手を合わせ、目をキラキラ輝かせながら言う。
「……ふっ」
そして、オニオーの方をちらりと見ると、鼻で笑った。
「なっ、なんだよっ!? 」
「アレをカクさんだと見抜けない様では、やはり、女王は妖精のモノねっ! オーッホッホッホッホッホッ」
「な゛っ!? 」
雷に打たれたかのように絶句し固まるオニオー。それを尻目に、アピスが勝ち誇る。
「ぅんっまぁっ! どぉこからどぉみてぇもぉ~カクさんじゃなぁ~い ♡ 」
「がっ!? 」
壊れるオニオーと、おぞましいモノを見て言葉を失うアピス。
「小鬼の演技にぃ騙された挙句ぅ、色気でもぉ敵わない妖精なぁ~かにぃ、女王わぁ渡さないわぁ~ 」
バチバチと激しく飛び散る火花。
怖すぎる女の戦いに、アクヤは笑うことしか出来なかった。
「うっ、美しい♡ 」
その隅で、悪魔が新境地に至ったのは、また、別の話である。
気を取り直して視線を戻すと、その先には、光沢を放つ怪しげな物体が鎮座していた。山状に隆起したソレは、頂上付近にポッカリと大きな穴が空き、裾野は床石と同化していた。
「スケさん。申し訳ありませんが、抱いてくださる? 」
「その役目、私が……っ!! 」
カキンっ!
正気を取り戻し、歩み出たバスに、鉄鍋が襲いかかった。
トンパンゴンカン、コンッ、カキンッ……
こちらでも、怖すぎる悪と魔の戦いが熾烈を極め始める。
「あらっ? スケさん、アレはお仲間ですか? 」
周りの喧騒を物ともせず、アクヤを抱き抱えてくれたスケさんに問う。その視線の先には、金塊に埋もれ黄金に輝く髑髏がひっそりと佇んでいた。
手にしている六本の刀? が、頂の穴を抉る様に刻み込まれている。その刀身は中腹辺りで止められていた。
上から覗くと、六刀が交わる中心辺りで、無残にも刀身が切断されているのが見えた。
さらにその下には、粉々に砕かれた宝石らしき残外が、窪みを埋めつくしている。
ごっ!
「……え?」
突風が巻き起こった。
その瞬間、言い様もない悲しみに心がしめつけられた。
──護れなかった……
「あっ」
ぽたぽたぽたっ。
アクヤの頬を涙が伝っていき、金属塊に吸い込まれていった。
キィィィィィーーーーンッ!
金属塊が眩く輝き始めた。
ズシャ。
光の落ち着きと共に現れたのは、アクヤの前に跪く超鋼金守護者だった。先程の戦いで金属を大量消費したらしく、サイズがかなり小さくなっていた。それでも、スケさんと同じぐらいではあったが……。
力なく項垂れるカクさんを、アクヤは、そっと、抱きしめた。
「もう一度、貴方に機会を与えましょう。今度こそ、真に護りたいと想えるものを、護りなさい」
アクヤの腕の中で、カクさんが、フルフルと震え始めた。
どのくらいそうしていただろうか。
落ち着いたカクさんが、優しくアクヤの手を解き、ゆっくりと立ち上がる。
そして、胸に手を当てると今度は、力強く膝まづいた。
それを見て、アクヤが満足そうに微笑んだ。
「……あ。……六元刀が……元に戻った。
くっ!? おいっ!! 死霊ノ王っ!! よくも俺様の愛刀まで、叩き斬ってくれたなっ!! その恨み、ここで晴らしてくれるっ!! 」
黄金の刀を正眼に構え黒衣に身を包んだ謎の男が、スケさんへと斬りかかる。なぜだか、黄金の般若面を額につけ、手甲や膝当てまで金ピカに輝いていた。
いつの間にか、悪と魔と女の戦いに、じゃれた狼や小鬼も混じり収集がつかなくなっていた。カラフルな水玉まで飛び交い、宛ら、お祭り騒ぎである。
ちょうどいい。
アクヤが、口角を釣り上げた。
「スケさんっ、カクさんっ! 懲らしめてあそばせっ!」
その昔、お兄様に教えて貰った。
海を超えた最果てにある東国では、王族を離れ国中を旅して巡り、困った人々を救った素晴らしい冒険者がいるということを。
その御仁は、ある時は魔物を退治し、また、ある時は悪党を成敗する。そして、腐敗した貴族をも正したという。
『 こちらにあそばせる御方を何方と心得る。畏れ多くも先の王子妃にして、現小鬼ノ女王、アクヤ・クレイ公爵御令嬢その人であそばせるぞ! お目が高いっ! お控えあそばせっ! 』
(ちっ。なんで、俺がこんなセリフを)
(仕方ないでしょ。他に喋れる適役がいないのだから)
魔衆一同、嬉嬉として平伏したことは、言うまでもない史実であった、と。




