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「今こそ、アクヤ様への忠誠をお示しいたす時っ!
後は、忠僕にお任せくださいっ!
並行編隊展開っ!! 」
バズが叫んだ。
と、同時に、複数の漆黒牢獄が、金属塊を取り囲むように出現する。熱々の卵弾が吸い込まれ始めた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
すかさず、乾いた破裂音が鳴り響く。
金属塊に芽吹いた歪な手が、魔政婦の撃墜を始めたのだ。
「同じ手が、そう何度も、上位悪魔に通用するとでも? 」
バズが口角を釣り上げた。
カンっ、キンッ、パンッ、ゴンッ、ドカンっ!
放たれたカトラリーが、指弾を次々に迎撃していく。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
うねうねと無数に跋扈し始めた手から、指弾が撒き散らされる。
トンパンゴンカンキントン
カントンバンゴキカドンドカン
コンダン、カンキンドガキーン
カトラリーと果物ナイフ、銀盆に鉄板が交錯し、その尽くを撃墜して行った。
「かぁーっ、かっかっかっ!
邪魔だ、退けっ! 」
アクヤを胸に仕舞い、大剣を構え直したミズスケの横を、紫色のマントを翻した髑髏忍者が、高笑いとともに駆け抜けていく。
黒装束に全身を包み、頭には黒い頭巾を被っていた。その出で立ちは、ただでさえ不気味な赤い双眸を、より一層、際立たせている。
右手には、妖艶に黒光りする刀が握られていた。
飛び交う弾丸を巧みにかわし、金属塊へと突っ込んで行った。
「六大一ノ元、地大っ! 」
そして、刀を叩き込む。
それは、無数の卵弾を放出した後の、ポッカリと開いた空孔に、振り下ろされた。
衝撃で大地が揺れる。
ガキーーーーーーーンッ!
金属塊が、慌てたように装甲を隆起させた。まるで、大切な何かを護るように刀を呑み込もうとする。
「ここが、貴様の魔核か? 」
髑髏忍者がニヤリとほくそ笑む。
「いくぜっ!」
金属塊を挟で対角上に黒い球体が出現する。青色のマントを羽織った髑髏忍者が顕現し、刀を振りかざした。
「 六大ニノ元、水大っ! 」
水流を纏った刀身が、金属塊叩き込まれた。双刃が重なり合う。
ガキーーーーーーーンッ!
それでも、耐え忍ぶ金属塊。
「まだまだぁっ! 」
次なる球体から、赤色のマントを羽織った髑髏忍者が顕現した。
「六大三ノ元、炎大っ! 」
炎を纏った刀身をその上に重ねていく。
「 六大四ノ元、風大っ! 」
「 六大五ノ元、空大っ! 」
「 六大六ノ元、識大無限っ! 」
続け様に三体の髑髏忍者が顕現した。風を纏った刀身、空色の刀身、そして、夜空と瞬く星を模した様な刀身が、重ね合わされ融合していく。
「「「「「「俺様にぃぃっ、斬れないモノなどないっ!」」」」」」
ガキーーーーンッ、ギュルルルルルッ!
凄まじい金属音を奏でながら、六枚の刀身が進んでいった。
「ぐぎぃぎぃぎぎぎぃぃっ……」
しかしながら、金属塊の中腹あたりで拮抗し始める。そして、徐々に押し戻され始めた。
ドすンっドすンっドすンっドすンっ!
髑髏忍者を鼓舞するかのように、大地が揺れる。
死霊ノ王が、大剣を振りかぶり突っ込んで来た。
スパッ!
きらきらと輝く剣が、眼前をなめらかに滑っていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 」
その瞬間、悲痛な叫び声が迷宮を震わせた。
Schlafe♪~
Schlafe♪~
Holder süßer knabe♪~
Leise ♪~
Wiegt dich ♪~
Deiner mutter hand♪~
天から美声がふりそそぐ。
叫び声の主の表情が、和らいでいった。
足元から超剛金化し始める。
(こっ、この歌は、まずい! イチゴウっ、離脱しろっ!)
空を割いて出現した水游狼から、無数の眷属が噴き出す。
(アクヤのことを、たの……グゥーグゥ~)
その一言さえ言い終えぬまま、一際大きな個体が、豪快な鼾をかき始めた。
パタ、テト、トテ、パタ、ポテ……
そして、一匹、また、一体と、魔衆は床に着いていった。




