表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/69

44

 ガキーーーーンッ!


 耳を劈くような金属音が、迷宮に轟いた。

 ミズタン、いや、スケさんが、……いやいや、()()()()が、カクさんの剛腕を大剣で受けとめたのだ。

 スケさんの長剣(ロングソード)は、極厚の鋭利な水晶で覆われていた。


 ミズスケが弾き返す。


(これだわっ! )


「シェフ、水操玉(スライム)近衛骸骨戦士(ロイヤルスケルトン)にっ! 」


 空中から無数のカラフルな水操玉(スライム)が出現し、近衛骸骨戦士(ロイヤルスケルトン)に融合していく。


 ぶーーーーんっ!


 カクさんが反対の腕を振り回した。


 周囲の魔衆を薙ぎ倒し、ミズスケに迫り来る。甲冑(スライムボディ)に身を包んだ近衛骸骨戦士(ロイヤルスケルトン)が、長剣(ロングソード)や、その身を呈して他の魔衆を庇ってくれたおかけで、発火したモノは居なかった。


 ガキーーーーンッ!


 ずずっ、ずずずずっ……ピキっ、ピキピキピキっ


 ミズスケが後方に押されながらも、なんとか、それを受け止める。衝撃で大剣にヒビが入り始めた。


 とぷんっ。


 負ぶわれたアクヤが潜り込み、大剣をにぎるスケさんの拳に、掌を重ねた。


(……修復なさい)


 途端にヒビ割れが埋められていく。

 修復が終わると、今度は、拳を中心に輝き始めた。それはやがて、ミズスケの体全体を覆っていった。


 ミズスケを満たした光は、拳から徐々に消光していく。そこに現れたのは、紫水晶の甲冑(スライムボディ)だった。死霊ノ王(アンデッドロード)と戦った時と比べ、幾分極厚で細部にまで細工が施されていた。


(……あっ)


 アクヤの体から、ふっと、力が抜けていく。

 そのまま沈みそうになるアクヤを、ミズタンがそっと包み込み、スケさんの胸元に収めてくれた。


 ず、ずず……すぱっ!


 均衡を保っていた大剣が、カクさんの剛腕を切り落とした。


 カラン、カラカラカランッ!


 けたたましい金属音を響かせながら、床に転がり落ちる。


 ドンドンドンドンドンドンドンッ!


 怒り狂ったカクさんが地団駄を踏み、体を真っ赤に発熱させた。その反動で、落ちた腕が飛び上がりカクさんへと吸収される。


 腕が、ふっと再生した。


 ゴッ!


 すかさず、両腕を胸の前でクロスさせたカクさんが、ミズスケに飛びかかる。


 ガキンッ


 ズザザザザザザァァァアッ!


 大剣で受け止めたミズスケが、受けきらずに後方へと滑っていく。数十メートル滑走し、やっと、止まった。大剣は、カクさんの腕に深々と喰い込んだものの、切断までには至らなかったようだ。


 ガキーーーーンッ


 ミズスケが突っ張っていた後ろ足を大きく蹴りあげた。カクさんの体が後方へと吹き飛ばされる。両腕をこちら側に靡かせながら飛んでいった。


 ゴゴゴゴッ!


 カクさんも、それに負けじと、両手首が発射する。ちょうど、ミズスケに切り込まれた場所を切り離したようだ。後方部を赤熱させ加速しだす。


(このままでは、ミズスケが……)


 アクヤの想いを察知したように、バズが目の前に現れた。バズを中心に12体の魔政婦(メードデーモン)が円を描くように、ゆっくりと、浮遊していた。


 カチッ!


「お休みのお時間です」


 迫り来る剛速腕を気にもせず、わざとらしく、懐中時計を確認する。




暗黒無限牢獄ブラックホールインフィニティ


 そして、静かに、呟いた。


 ゴォォォオっ!


 アクヤの眼前で、暗黒が広がってい──





 ──こうとしたとき、それは、突如としておこった。


 パンっ、パンっ、パンっ、パンっ、 パンっ!


 乾いた破裂音が轟き、魔政婦(メードデーモン)が次々に体制を崩していったのだ。暗黒無限牢獄が霧散する。


「バズっ! 避けなさいっ! 」


 ミズタンから飛び出したアクヤが叫ぶ。その声にバズが弾き飛ばされた。

 短い人差し指を突き出し、親指を突き立てた2対の剛速腕が、アクヤへと突っ込んでくる。





「控えなさいっ、無礼者っ!

 この女王(わたくし)に引き金を引くとは、いい度胸ですっ! その愚かさを、身をもって思い知りなさいっ! 」


 両掌を重ね胸の前に突き出したアクヤが、凛然とそう叫んだ。

 掌を中心に黄金ノ盾(シールド)が展開されていく。


 ガキーーーーンッ!


 ペシャっ、バイーーーン


 黄金ノ盾(シールド)に衝突した剛腕は、一度押し潰され反対向きに射出された。もちろん、拳まで再生されカクさんへと向っていく。


 ゴゴゴゴゴゴォォォオッ!


 後方が赤熱し加速しだした。


「全員退避っ!! 」


 慌ててアクヤが采配(バフ)を掛ける。


 ドッカーーーーンッ!


 未だ飛翔中のカクさんに、剛速腕が襲いかかった。だらりと伸びた腕を辛うじて胸の前でクロスさせ、拳諸共後方へと吹き飛ばされていく。


 ゴゴゴゴゴッ、ドッカーーンッ!


 轟音と共に、振出の岩壁(あまのいわと)へと激突した。それでも勢いは止まらず、壁を抉っていく。


 大量に舞う土埃が、迷宮を包み込んでいた。





「俺たち、勝った……のか? 」


 オニオーが呟いた。

 その視線の先では、無理やり抉じ開けられた最深部への入口が、ポッカリと口を開いている。


 砂埃の舞う通路(トンネル)を抜けると、その先に、金色(こんじき)に黄昏れる金属塊が、無残にも沈黙していた。





 ギィーッ、ギギギギィーーッ


 中央からパックリと開き始める。

 まるで、来客者を待ち侘び、歓迎してくれているような絶妙のタイミングだ。





「全員たい…… あっ……」


 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒューーーンッ


 先の尖った熱々卵弾が、無数に飛び出してくる。


 アクヤはというと、そのまま、ミズスケの腕の中に崩れ落ちてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ