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ガキーーーーンッ!
耳を劈くような金属音が、迷宮に轟いた。
ミズタン、いや、スケさんが、……いやいや、ミズスケが、カクさんの剛腕を大剣で受けとめたのだ。
スケさんの長剣は、極厚の鋭利な水晶で覆われていた。
ミズスケが弾き返す。
(これだわっ! )
「シェフ、水操玉を近衛骸骨戦士にっ! 」
空中から無数のカラフルな水操玉が出現し、近衛骸骨戦士に融合していく。
ぶーーーーんっ!
カクさんが反対の腕を振り回した。
周囲の魔衆を薙ぎ倒し、ミズスケに迫り来る。甲冑に身を包んだ近衛骸骨戦士が、長剣や、その身を呈して他の魔衆を庇ってくれたおかけで、発火したモノは居なかった。
ガキーーーーンッ!
ずずっ、ずずずずっ……ピキっ、ピキピキピキっ
ミズスケが後方に押されながらも、なんとか、それを受け止める。衝撃で大剣にヒビが入り始めた。
とぷんっ。
負ぶわれたアクヤが潜り込み、大剣をにぎるスケさんの拳に、掌を重ねた。
(……修復なさい)
途端にヒビ割れが埋められていく。
修復が終わると、今度は、拳を中心に輝き始めた。それはやがて、ミズスケの体全体を覆っていった。
ミズスケを満たした光は、拳から徐々に消光していく。そこに現れたのは、紫水晶の甲冑だった。死霊ノ王と戦った時と比べ、幾分極厚で細部にまで細工が施されていた。
(……あっ)
アクヤの体から、ふっと、力が抜けていく。
そのまま沈みそうになるアクヤを、ミズタンがそっと包み込み、スケさんの胸元に収めてくれた。
ず、ずず……すぱっ!
均衡を保っていた大剣が、カクさんの剛腕を切り落とした。
カラン、カラカラカランッ!
けたたましい金属音を響かせながら、床に転がり落ちる。
ドンドンドンドンドンドンドンッ!
怒り狂ったカクさんが地団駄を踏み、体を真っ赤に発熱させた。その反動で、落ちた腕が飛び上がりカクさんへと吸収される。
腕が、ふっと再生した。
ゴッ!
すかさず、両腕を胸の前でクロスさせたカクさんが、ミズスケに飛びかかる。
ガキンッ
ズザザザザザザァァァアッ!
大剣で受け止めたミズスケが、受けきらずに後方へと滑っていく。数十メートル滑走し、やっと、止まった。大剣は、カクさんの腕に深々と喰い込んだものの、切断までには至らなかったようだ。
ガキーーーーンッ
ミズスケが突っ張っていた後ろ足を大きく蹴りあげた。カクさんの体が後方へと吹き飛ばされる。両腕をこちら側に靡かせながら飛んでいった。
ゴゴゴゴッ!
カクさんも、それに負けじと、両手首が発射する。ちょうど、ミズスケに切り込まれた場所を切り離したようだ。後方部を赤熱させ加速しだす。
(このままでは、ミズスケが……)
アクヤの想いを察知したように、バズが目の前に現れた。バズを中心に12体の魔政婦が円を描くように、ゆっくりと、浮遊していた。
カチッ!
「お休みのお時間です」
迫り来る剛速腕を気にもせず、わざとらしく、懐中時計を確認する。
「暗黒無限牢獄」
そして、静かに、呟いた。
ゴォォォオっ!
アクヤの眼前で、暗黒が広がってい──
──こうとしたとき、それは、突如としておこった。
パンっ、パンっ、パンっ、パンっ、 パンっ!
乾いた破裂音が轟き、魔政婦が次々に体制を崩していったのだ。暗黒無限牢獄が霧散する。
「バズっ! 避けなさいっ! 」
ミズタンから飛び出したアクヤが叫ぶ。その声にバズが弾き飛ばされた。
短い人差し指を突き出し、親指を突き立てた2対の剛速腕が、アクヤへと突っ込んでくる。
「控えなさいっ、無礼者っ!
この女王に引き金を引くとは、いい度胸ですっ! その愚かさを、身をもって思い知りなさいっ! 」
両掌を重ね胸の前に突き出したアクヤが、凛然とそう叫んだ。
掌を中心に黄金ノ盾が展開されていく。
ガキーーーーンッ!
ペシャっ、バイーーーン
黄金ノ盾に衝突した剛腕は、一度押し潰され反対向きに射出された。もちろん、拳まで再生されカクさんへと向っていく。
ゴゴゴゴゴゴォォォオッ!
後方が赤熱し加速しだした。
「全員退避っ!! 」
慌ててアクヤが采配を掛ける。
ドッカーーーーンッ!
未だ飛翔中のカクさんに、剛速腕が襲いかかった。だらりと伸びた腕を辛うじて胸の前でクロスさせ、拳諸共後方へと吹き飛ばされていく。
ゴゴゴゴゴッ、ドッカーーンッ!
轟音と共に、振出の岩壁へと激突した。それでも勢いは止まらず、壁を抉っていく。
大量に舞う土埃が、迷宮を包み込んでいた。
「俺たち、勝った……のか? 」
オニオーが呟いた。
その視線の先では、無理やり抉じ開けられた最深部への入口が、ポッカリと口を開いている。
砂埃の舞う通路を抜けると、その先に、金色に黄昏れる金属塊が、無残にも沈黙していた。
ギィーッ、ギギギギィーーッ
中央からパックリと開き始める。
まるで、来客者を待ち侘び、歓迎してくれているような絶妙のタイミングだ。
「全員たい…… あっ……」
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒューーーンッ
先の尖った熱々卵弾が、無数に飛び出してくる。
アクヤはというと、そのまま、ミズスケの腕の中に崩れ落ちてしまった。




