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迷宮下層深部。
魔執事案内の元、アクヤ達は、最下層へと繋がる入口の前に立っていた。
入口とは言っても、相変わらず、袋小路と岩壁だ。
「ご準備はよろしいですか? 」
バズの問いに、アクヤがコクリと頷いた。
トン、とと、トン
どこからともなく取り出されたステッキでバズが岩壁を叩くと、動き出す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーッ!
……。
「ねぇ、これであっているの? 」
これまでと明らかに違うその動きに、アクヤが問う。
開くには開いたが、向こう側は見えない。
中途半端に開いた洞穴に、角張った巨大な何かが、はまりこんでいる。10メートルはありそうな寸胴の巨体には、短い足と小さな丸い頭、そして、地面に着くほど長く極太の腕が備え付けられている。
光沢のあるツルツルとした体表は、光石の光を反射しキラキラと輝いていた。
「……冥王様に、敵認定されたようにございます」
ギュルルイィーーーーンっ!
小さな頭が、耳障りな機械音と共に回転しながら、紅く瞬きはじめた。
そして、その巨体を大きく震わせ、洞穴から勢いよく飛び出してきた。
「まさか貴方……」
「滅相もございませんっ! 紋章に誓いまして……って、なっ!? 」
手の甲をずいっと突き出したバズが絶句する。
そこにあるはずのクレイ公爵家の紋章は、上書きされていた。
王家の紋章に。
「……今は、目の前の角張り寸胴お化けに対処しましょう。
どの道、冥王様に挑むのなら、この方程度倒せなければ、話にもならないでしょう」
「「 御意っ! 」」
「全員、退避っ!! 」
ドッカーーーーンッ!!
轟音が鳴り響く。
頑丈な筈の岩壁が見るも無惨に抉られていた。角張り……カクさんが突っ込んで来たためだ。
ただでさえ視界の悪い迷宮を土煙が覆い、状況は最悪だった。
幸い、アクヤの采配の効果により、魔衆はギリギリのところで回避できたようだ。
近衛骸骨戦士と魔政婦が反撃する。
ジュッ!!
ボワッ!
「近衛骸骨戦士、武器を捨てて下がりなさいっ!
ボスモフとミズタンは、一斉放水開始っ! 」
アクヤが叫ぶ。
近衛骸骨戦士の長剣はカクさんに取り込まれ、魔政婦の箒は、その体表に触れた瞬間燃え上がってしまった。
ジュン、ジュワッ!
一斉放水により、なんとか鎮火できたが、それも一瞬で蒸発する。
ブンッ、ブンッ、ブーーーーンッ!
カクさんが長い腕を振り回した。
魔衆が次々に巻き込まれていく。
あるモノは吹き飛ばされ、また、あるモノは炎上した。
「シェフっ! 糸面蜘鬼人を喚んでっ! 糸でカクさんの動きを封じますっ! 」
「キョエエーーッ! 」
ベビリンを中心とした 糸面蜘鬼人が、空中に顕現し、一斉に糸を放射する。
ボワッ!
ゴゴゴゴゴゴー
キョエーーン!
糸はカクさんの体表に触れた瞬間、辿るように燃え上がった。
それを推進力に 糸面蜘鬼人が、ひゅん、ひゅーんと、四方に発射されて行く。
「……くっ。
魔力を込めた糸ならば、或いは、と思ったのだけどダメだったわね」
ブンッ、ブンッ、ブーーーーーーンッ!
伸縮自在、かつ、熱々の剛腕が、再度振り回された。
「……あっ」
アクヤの所へと、向かってくる。
これまで抱えて逃げ惑ってくれていた、魔衆は、激しい戦闘で出払っていた。
ゆっくりと襲いかかってくるソレを、アクヤは呆然と見守ることしか出来なかった。
(私は、頑張った……)
そう想った瞬間、水色の幕と筋骨隆々の大きな背中が、眼前で交錯する。
(……けれど、この女王が、ここで諦める訳にはいかないわっ! )
アクヤは必死に腕を伸ばす。そして、その大きな背中に無我夢中でしがみついた。




