37
はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……
オニオーは暗闇の中を宛もなく彷徨っていた。
どれ程の時間がたったのか、もう、すでにわからなくなっていた。
初めは誰かを探そうとしていた気もする。
それなのに、それが誰なのか、さらには、自分が何者であるのかさえ、分からなくなり始めていた。
(お前には、裏切り者の血が流れている)
不気味な声に、背筋がゾクリとした。
ゆっくりと振り返ると、数人の大男が鬼の形相で、野蛮な刀を振り回しながら襲いかかってくるでははないか。
その体は透け、ふわふわと浮遊しながら迫ってくる。
オニオーは、一目散に駆け出した。
(お前の父親は我々を裏切った )
(お前も我らを貶めるつもりだろう? )
(穢れた血の糞ガキがっ!)
心臓がキュッとなり、心が焼け付くように痛い。それなのに、それが何故だかわからなかった。
とにかく無我夢中で走った。
背後で何かが空を切るのを感じた。
そうかと思えば、奴らはオニオーの体を通り抜けて此方を振り返り、疾走するオニオーを見てゲラゲラと笑っていた。
どれぐらい走ったのだろうか。いつの間にか、奴らは居なくなっていた。
息を整え立ち止まるオニオーの目の前に、今度は、小さな小鬼達が出現した。
(……くすくすくすっ。逃げろーっ!)
あ、待っ……
オニオーに気付いた彼らは一目散に駆け出した。
(穢れた血だーっ! )
(アイツと仲良くすると、裏切り者になっちゃうぞーっ! )
(にげろーっ! )
絶望だった。
闇が濃くなっていく、そんな気がした。
オニオーの前に、見覚えのある小鬼が現れた。多分、大切な奴だ。
(よぉ。穢れた血の裏切り者)
そいつはソイツらしくない、歪んだ笑みを浮かべそう言った。
ケガレタチノウラギリモノ……
ケガレタチノウラギリモノ……
ケガレタチノウラギリモノ……
頭の中でその言葉が反芻する。
ウォォォォオォォオオォォオ
気付けば涙を流しながら、叫んでいた。
(シニタイ)
純粋にそう願った。
心が、闇に染まっていく。体は闇に呑まれていく。
見覚えのある小鬼は、それを見て満足そうに微笑んだ。
パシャんッ!
「おわっ! つめてーっ!! 」
液体を浴びせられたオニオーが叫んだ。
「この女王を差し置いて一人で逃げ出そうとは、何事ですっ!
オニマルさんの幻影に唆されるなど言語道断っ! 誇り高き小鬼の風上にも置けないわっ! 恥を知りなさいっ! 」
千里を見通した女王が、此方を睨みつけながら凛と言い放った。
先程までの漆黒が嘘のように、辺りは煌々と黄金に照らされている。
「やっぱり、お前の怒っている姿が、一番だ」
安堵の表情浮かべたオニオーが、ぼそりと呟いた。
その周りでは、中位悪魔や下位悪魔、骸骨戦士、そして、多数ミイラ小人達が、シュンと項垂れていた。きっと、彼らも叱責されたのだろう。まるで、オニオーを励ますようにその身を寄せ合っていた。




