表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/69

37

 はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……


 オニオーは暗闇の中を宛もなく彷徨っていた。

 どれ程の時間がたったのか、もう、すでにわからなくなっていた。


 初めは誰かを探そうとしていた気もする。

 それなのに、それが誰なのか、さらには、自分が何者であるのかさえ、分からなくなり始めていた。


(お前には、裏切り者の血が流れている)


 不気味な声に、背筋がゾクリとした。

 ゆっくりと振り返ると、数人の大男が鬼の形相で、野蛮な刀を振り回しながら襲いかかってくるでははないか。

 その体は透け、ふわふわと浮遊しながら迫ってくる。


 オニオーは、一目散に駆け出した。


(お前の父親は我々を裏切った )


(お前も我らを貶めるつもりだろう? )


(穢れた血の糞ガキがっ!)


 心臓がキュッとなり、心が焼け付くように痛い。それなのに、それが何故だかわからなかった。


 とにかく無我夢中で走った。


 背後で何かが空を切るのを感じた。

 

そうかと思えば、奴らはオニオーの体を通り抜けて此方を振り返り、疾走するオニオーを見てゲラゲラと笑っていた。





 どれぐらい走ったのだろうか。いつの間にか、奴らは居なくなっていた。


 息を整え立ち止まるオニオーの目の前に、今度は、小さな小鬼達が出現した。





(……くすくすくすっ。逃げろーっ!)


 あ、待っ……


 オニオーに気付いた彼らは一目散に駆け出した。


(穢れた血だーっ! )


(アイツと仲良くすると、裏切り者になっちゃうぞーっ! )


(にげろーっ! )


 絶望だった。

 闇が濃くなっていく、そんな気がした。





 オニオーの前に、見覚えのある小鬼が現れた。多分、大切な奴だ。


(よぉ。穢れた血の裏切り者)


 そいつはソイツらしくない、歪んだ笑みを浮かべそう言った。


 ケガレタチノウラギリモノ……

 ケガレタチノウラギリモノ……

 ケガレタチノウラギリモノ……


 頭の中でその言葉が反芻する。


 ウォォォォオォォオオォォオ


 気付けば涙を流しながら、叫んでいた。





(シニタイ)


 純粋にそう願った。

 心が、闇に染まっていく。体は闇に呑まれていく。





 見覚えのある小鬼は、それを見て満足そうに微笑んだ。





 パシャんッ!


「おわっ! つめてーっ!! 」


 液体を浴びせられたオニオーが叫んだ。





「この女王(わたし)を差し置いて一人で逃げ出そうとは、何事ですっ!

 オニマルさん(最も信頼していた方)の幻影に唆されるなど言語道断っ! 誇り高き小鬼(ゴブリン)の風上にも置けないわっ! 恥を知りなさいっ! 」


 千里を見通した女王が、此方を睨みつけながら凛と言い放った。

 先程までの漆黒が嘘のように、辺りは煌々と黄金に照らされている。





「やっぱり、お前の怒っている姿が、一番だ」


 安堵の表情浮かべたオニオーが、ぼそりと呟いた。


 その周りでは、中位悪魔や下位悪魔、骸骨戦士、そして、多数ミイラ小人達が、シュンと項垂れていた。きっと、彼らも叱責されたのだろう。まるで、オニオーを励ますようにその身を寄せ合っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ