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「ぁああっ! 」


 緑と赤のストライプ柄ショートドレスに身を包んだ女の子が、叫んだ。お尻部分が尖っており、背中には羽根が生えているので、ちょうど、蜂を人型にしたような格好だった。


 見る見るうちに、大きな赤い目が吊り上がり、険しい表情になる。


 ベリーショートの鮮やかなチェリーブラウンの髪が、その怒りを体現するかのように逆だっていく。残念ながら、頭に乗せられている可愛らしい花冠は、見えなくなってしまった。


「あんた、この間ウチから無理やり蜂蜜を持って帰ったヤツじゃんっ! 」


 アクヤ後ろに佇むシェフを指さし叫んだ!


「えっ? 」


「……」


 戸惑うアクヤと、オロオロとするシェフ。


 仕方ないので、紅い少女に事情を聞いた。


 どうやら、シェフはアクヤを喜ばせるたい一心で、彼女らの巣から蜂蜜を拝借したようだ。シェフとしては、断ったつもりのようだが、彼女らは、恐怖で渋々差し出した、と言うことらしかった。


「さて、困りましたわね」


 悩むアクヤの隣で、項垂れるシェフ。シェフの様子から、決して、無理やり奪うつもりはなかったようだ。


 モノのやり取りは、人間同士でも難しい。まして、奪うのが当たり前だった魔物同士なのだから尚更だ。それに、シェフはアクヤや小鬼(ゴブリン)のことを思い食材確保に励んでくれているのだ。その気持ちを無下にはしたくない。

 折角なので、モノを得るためには対価が必要であることを、シェフに学んでもらおう。アクヤはそう考えた。


「貴女方の大切なモノを、意図せずとはいえ、無理やり奪う形になってしまったことは、謝罪いたします。その責任は小鬼(ゴブリン)を統べるこの私、アクヤにあります。 申し訳ありません」


「へっ?? 」


 頭を下げるアクヤに、紅い少女が目を見開いた。そして、叫ぶ。


「人間があたしに、謝った!? 」


「当然です。過ちを犯したら、何方にでも謝りますわ。

 お詫びに、貴女方の蜂蜜からお作りしたシチューをご馳走いたします。それで許して頂けないでしょうか? 」


「あんた、バカっ? あたし達の蜂蜜は沢山いる兄弟や子供たちを育てるためにあるのよっ? あんた達が作ったシ? ナントかが、その代わりになるわけないじゃない」


「そう仰らず、とりあえず食べてみて下さい。お答えは、その後にでもお願いします」


 少女が口を開く前にお婆ちゃまが、シチューの入った器をアクヤの元へと運んできた。食欲をそそる芳醇な香りが辺りに立ち込める。


「そっ、そんな、得体の知れないものっ、食べられるわけ無いじゃないっ! 」


「警戒なさらずとも、毒なんて入っていませんわ。ぁあ、美味しい」


 アクヤがふぅふぅしながら、一口すする。それを見た少女が生唾を飲み込んだ。


 ぎゅるるるるるるるるっ


 盛大に虫が泣く。


「こちらで一緒に食べましょう」


「しっ、仕方ないわねっ。そっ、そこまで言うなら、一口だけ頂くわっ! 一口だけよっ!! 」


 奥へと促すアクヤに、顔を真っ赤に染めた少女が、そう叫んだのだった。





 はふはふはふはふはふはふ……


 紅い少女がシチューを一心不乱に頬張っている。


 その隣では、もう一人の少女が、申し訳無さそうに俯いていた。

 白と黄色のストライプ柄ショートドレスに、シルバーのショートヘアと花冠、といった、色違いの風貌をした少女は、金色の大きな目を、オドオドとさ迷わせていた。


「メリサっ! 要らないんだったら、あたしにちょうだいっ! 」


 銀の少女の前に置いてあるシチューに、紅い少女が手を伸ばす。

 そして、またもや、瞬く間に木さじを口へと運んでいった。





「ご馳走様っ」


「お気に召して頂けたでしょうか? 」


 満足げに匙を下ろす少女に、アクヤがすかさず問う。


「まっ、まぁまぁね? 」


「あなた方の白蜜(ルー)はとても質がよろしいですわ。ぜひ、今後とも私達にも譲って頂けないでしょうか。シチューは何時でも食べに居らしていいので。もちろん、あなた方のご家族の分もご用意いたしますわ」


「……そっ、そこまで、言うなら仕方ないわ。シ? ナントカは、まぁまぁだったけど、……譲って上げるわ」


 少女が腕を組みながら、難しい表情を作りつつそういった。


「ああっ! ねぇねぇっ! ここってバスルームよねっ!」


 紅い少女が弾けたように飛び上がり、バスルームへと突っ込んでいった。もう蜂蜜のことは済んだようだ。


「噂では聞いたことあったけど、小鬼(ゴブリン)巣窟には本当にバスルームがあったのねっ! ねぇねぇっ、気持ちいいんでしょ! 入らせてよっ!! 」


「え、ええっ」


 物凄い圧で目を輝かせる少女に、アクヤが頷く。お婆ちゃまもニコニコしているので、いいのだろう。





「本当にアイツら、困っていんのかよ? 」


 シェフとミズタンにお願いしつつ、お風呂の準備をしていると、オニオーが近づいてきた。

 彼女たちは、妖精蜂(フェアリービー)と呼ばれる魔物らしい。上層階の未踏部分に巣を作り、人や魔物を避けて暮らしているという。



「確かに、切羽詰まっている感じではないわね」


 アクヤが応じる。

 助けてくれと言っていた割に、中々本題を切り出さない。それも、言いづらいというよりも、他のことに興味を惹かれ忘れている感じなのだ。


「とりあえず、気持ちを満たしたら落ち着くでしょう。それから、話を聞きましょう」


「そんな、悠長なことでいいのかよっ!」


 オニオーが不服そうに言う。


「あの様子では、欲求を満たすまでまともな会話はできないでしょう。

 貴方、分かっているでしょうけど……」


「なっ、なんだよ?」


 アクヤの表情に、オニオーが身構える。


「絶っっ対、覗いてはダメよ」


「なっ、!? ぅんっなことっ、する訳ねーだろっ!

  お前、俺のことを何だと思ってるんだっ?」


覗鬼魔(のぞきま)


「……」


 アクヤの一言に、何も言い返せぬオニオーが顔を真っ赤に染めたのであった。

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