28
皆が寝静まった真夜中、作業部屋から漏れる明かりで、アクヤは目を覚ました。
足を忍ばせ、そっと、伺う。
「あら、アクヤちゃん。ちょうど、よかった。お洋服が出来上がったわよ」
アクヤに気づいたお婆ちゃまが、にっこりと微笑んだ。
手には、真っ白な上下が握られている。
「本当は、可愛い色に染めてあげられるといいんだけどねぇ。着てみてくれるかい? 」
「まぁっ! 素敵! 」
アクヤが、小さく叫んだ。
「折角ですから、身体を清めてから着てみたいです 」
手渡された衣服を体に当てながら、アクヤがおずおずと申し出る。
「そうだねぇ。皆、寝ていることだし、ゆっくり温まっておいで」
また、お婆ちゃまがにっこりと微笑んだ。
ぴちゃ、ぱちゃ、ぴちゃん
(あー、しあわせー)
久しぶりの入浴に、思わず心の声が漏れる。
ちなみに、水はミズタンが、温めるのはシェフがやってくれた。とろりとした聖水が身体を包み込み、魔力による温もりがじんわりと身体を温めてくれる。
(そーいえば、ここにくるまでは、入浴もアンが手伝ってくれていたのよね)
自ら肌を撫でながら、物思いにふける。短期間で色々なことが起こりすぎて、公爵家の長女だったことが夢のようだ。
「おい、ばばぁ! 何やってんだ? アクヤのこと……」
そんなことを考えていると、オニオーがバスルームへとズカズカやってくる。
「きゃっ!! 」
「……。……///」
慌てて胸に手を回し、バスタブにもぐり込むアクヤと、顔を真っ赤に染め絶句するオニオー。
ぱーーーーーーんっ!!
「ふぎゃっ」
ムクっ。テトテトテトテトテト……ぽちゃん。
「さいっっっってぇっ!! 」
真新しいふわふわの衣服に身を包んだアクヤが叫んだ。
上下ともに身体に程よくフィットし、とても動きやすい。
「だから、事故だって言ってんだろっ!」
オニオーが負けじと反論する。
その頬には水色の手形が浮かび、腫れ上がっていた。
入浴中のアクヤを見て、赤面し固まるオニオーにミズタンビンタが炸裂したのだ。
「俺だって、お前の裸なんか見たかねーっ!!」
「なっ、なんですってーっ!!」
「それに、ベビリンとは、一緒に入っていたじゃねーかっ!!」
「べっ、ベビリンはっ、まだっ、子供ですっ!
」
アクヤの怒りに呼応し、指輪から巨大な掌が出現する。
バタンっ!!
「なっ!? うぐっ!」
オニオーが真上から地面に叩き潰された。
「……お、おれも、こ、ど……も、だ。……がはっ」
地面にめり込んだオニオーを、ベビリンが心配そうにツンツンしていた。
「あらっ、お客さんが来たようだよ」
翌日、皆でコーンポタージュを味わっていると、お婆ちゃまが声をかけてくれた。厳密にはコーンポタージュではなく、トトポタージュだ。
この洞窟では、コーンは手に入らない。
そのかわり、味の似たトトの実なるものが存在するらしい。紫色の瓜の中に、直径1cm程の黄色い実がビッシリと詰まっている。毒々しい見た目に相反し、味わいはコーンそのものだった。
スープにすると、そのプツプツとした食感がなんとも面白かった。
そんなことを考えていると、お婆ちゃまが客人を連れてきた。二人連れのようだ。
「あんたが、小鬼ノ女王ねっ! アタシ達困っているの。助けてちょーだい」
アクヤを見るなり、巣窟へと入ってきた小柄な女の子がそう叫んだ。
─とあるS級冒険者の鑑定眼─
【名前】 アクヤ・クレイ Lv.………………ボンッ!
S某「鑑定眼がぁっ! 鑑定眼がぁぁぁあっ! 」




