表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/69

27

「貴方は他者の自由を奪い、その心と体の両方を傷つけ、尊厳を踏みにじり長期に渡り想像を絶する苦痛を強いたのです!

 スケさんや骸骨戦士(スケルトン)、貴方に死役されたモノの、苦痛が如何ばかりか理解できますか?

 戦いたくないのに戦わされ、味わいたくない痛みに耐え、しかし、その痛みから逃れられない、その絶望が、わかりますか?

 貴方の罪は、到底、一度の断罪などで許せるものではありません。

 その不死身を持って、反省なさいっ!! 」


 アクヤが、縛り付けられた赤黒い魔石に言い放った。ちょうど、人の拳程の大きさのソレが、フルフルフルッと揺れる。


 天井と床から伸びた無数の糸により、ソレは中央で固定されていた。天井から張り出された糸が魔石に収束し、また、床へと放射状に伸びている。

 まるで、砂時計のような形だった。


 そして、魔石を取り囲むように、無数の細い糸が縦に走っている。さらに、もはや、視認できぬほど細い横糸が垂直に張り巡らされていた。





 ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ


 魔石が光る。そして、脈打った。


 途端に、魔石を核に死霊ノ王(アンデッドロード)の肉体が甦る。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 」





 ──が、劈くような叫び声がと共に、一瞬にして切り刻まれてしまった。




 揺れる、魔石。


 明滅し、脈打つ魔石。


 迷宮に木霊する、大絶叫。




 揺れる……、脈打つ……、木霊する……。

 揺れる……、脈打つ……、木霊する……。

 揺れる……、脈打つ……、木霊する……。

 揺れる……、脈打つ……、木霊する……。





「さっ。それでは、参りましょうか? 」


 鳴り止まぬ大絶叫を背に、アクヤが満足げに微笑んだ。



 ◇ ◇ ◇



「まぁ、いい香りっ! 」


 巣窟に帰ると、食欲を唆る芳醇な香りが立ち込めていた。それは、初めて嗅ぐ香りだった。


「あらあら、お帰り。皆疲れて帰ってくると思って、キノコのシチューを作っておいたよ」


 キュェエエエエーッ!!


 カタカタカタカタカタカタッ!!


 お婆ちゃまの言葉に湧き立つ魔衆。


「シェフが材料を?」


「そうそう。あの坊やがキノコと白蜜(ルー)を、出してくれたんだ。

 どうやら、魔力を使い果たしたみたいだねぇ。今は奥で寝ているよ」


 お婆ちゃまが視線を奥へと向けた。


「まぁ、大変っ!! 」


「俺が見てくるから、お前は餓鬼たちの飯を用意してやれ」


 シェフの元へ向かおうとするアクヤに、オニオーが言った。

 たしかに、興奮した魔衆がわちゃわちゃしだし、収集がつかなくなってきている。


 アクヤは有難く、その申し出に従うことにした。


「ミズタン。オニオーと一緒に行ってベッドになってあげて」


 指輪から飛び出したミズタンが、オニオーのあとを追いかけて行った。





「……おいしい」


思わずうっとりと呟いてたしまった。


口いっぱいにクリーミーなコク深い味わいが広がる。

王国にも、ミルクスープなる似た料理はあったが、シチューは旨みの広がりが桁違いだった。

そして、なにより、このトロトロさ加減が、具材と絶妙に絡まりあっていて美味しさを引き立てている。


「ベビリン、美味しい? 」


「キュィイーン! 」


 アクヤの言葉に、ベビリンがハフハフしながら頷く。


「熱いから、火傷をしないようにフーフーしながら食べるのよ」


 アクヤの言葉を受けて、ベビリンがふーっふーっと、ほっぺたを膨らませる。


 周りの小鬼(ゴブリン)爬虫人(コボルト)骸骨戦士(スケルトン)、そして、狼たちにも行き渡り、和気藹々と食べていた。


 骸骨戦士(スケルトン)が食べられるのか疑問だったのだが、体は異次元空間に繋がっているのか、髑髏に飲み込まれたシチューは忽然と姿を消す。そして、満足そうにカタカタと揺れた。……たぶん、味も分かるのだろう。


(シェフとオニオーにも、持っていってあげよう)


 アクヤはキッチンに向かった。


 今回の戦闘では、思いの外、シェフに負担を掛けすぎたようだ。あの空間転移は魔力をかなり消費するらしい。それを団体様で何度も行ったために、シェフはダウンしてしまった。


 オニオーも、小鬼(ゴブリン)爬虫人(コボルト)たちの取りまとめを頑張ってくれた。


(二人には、お礼を言わなければいけないわね)


 お婆ちゃまから、シチューを受け取り二人の元へ向かう。




「アンタも、変な女にホレたせいで大変だな」


 ケラケラケラっと巫山戯た笑い声が聞こえてきた。


「シェフ、シチューを持ってきたわ」


「……おっ!! うまそーじゃねーかっ!! 」


 不自然に叫ぶオニオー。

 幾分調子が良くなったのか、シェフはミズタンベッドに腰掛けていた。


「シェフ、大丈夫ですか? 」


 アクヤの問いに、シェフがこっくりと頷いた。

 そっと器をわたす。


「シェフ。今回は頑張って下さり有難うこざいます。お陰で、被害を出さず勝利することができました」


 シェフは器をおき、胸に手を当て跪く。

 アクヤがにっこりと微笑んだ。


 隣で、尻尾を振りながら、何かを期待するものが、約1名。



「っ!?」


 ベッドに戻ったシェフが驚き戦く。シチューが器ごと、ミズタンベッドに吸い込まれていったためだ。


「ちょうど、よかったわ。シェフ、こちらをどうぞ。これを食べて、ゆっくり休んでくださいね」


 アクヤが、もう一つのシチューを差し出す。そして、くるりと踵をかえした。



「えっ、 えっ、 えぇっ!? 俺には? 俺には何かないの? ねぇ、ねぇ、ねぇっ!! あっ、アクヤ様ぁぁーっ!! 」


 虚しい男の断末魔の叫びは、魔衆の歓喜により掻き消されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ