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サソリンは巣の奥で震えていた。
先程から、骸骨が引っ切り無しに訪ねてくる。
奴らは、長剣を振り上げ、巣を破壊しようとするのだ。
この洞窟を長らく生き抜いてきたサソリンにとって、骸骨などそこまで驚異ではない。
それが、複数で襲いかかってくるから問題なのだ。
そして、さらに恐ろしいのは、その後の奴らの行動である。
手にしている長剣が糸に触れた瞬間、弾かれたように飛び上がり黄金に輝くのだ。
その輝きが落ち着くと、カラカラと音を立てて崩れ落ちる。
そして、しばらくすると立ち上がり、謎の言葉をブツブツとつぶやきながら、壁にポッカリと開いた漆黒の空間へと姿を消すのだ。
『Yes, your Majesty! Yes, my Lord! 』
何故か、あの女の不気味な微笑みが、アタマに浮かび上がる。
たったそれだけで、なんとも言えない息苦しさと、下腹部への不快な違和感に襲われ、サソリンはブルブルと崩れ落ちるのであった。
◇ ◇ ◇
「それでは、シェフ。お願いします」
アクヤがミズタンベッドに大の字でうつ伏せになり、スタンバイする。
名ずけて『先手必勝! ミズタンベッドで骸骨圧殺作戦』である。
つまり、このままシェフに、死霊ノ王の真上へと空間転移してもらい、重力を利用して圧殺する作戦だ。
上手く行かなくとも、ミズタンに魔素を吸い尽くして貰えばいい。
「きゃっ!! 」
途端に底の抜けるような浮遊感に襲われた。
ペチャッ!
そして、小気味のいい効果音と共に、地面へと着地する。転移は無事成功したようだ。残念ながら風景が変わらないので、移動した実感はイマイチ湧かなかった。
当然、小鬼はいない。
「ふぅ。上手くいったようね」
ミズタン越しに見える骸骨戦士を確認しながら、アクヤがボソッと呟いた。羽織っているマントが、スケさんのそれよりも上等そうなので、死霊ノ王で間違いないだろう。
「さぁ、帰るわよ」
余りにも静かすぎる状況が、妙に不気味だ。
何とも言えない、嫌な予感がする。
早々に帰還すべく、シェフにお願いしようと、口を開いたその時だった。
「野郎ども、殺れ」
カタカタカタカタカタカタ……
おどろおどろしい声と共に、骨と骨とがぶつかり合う音が辺りに木霊する。
あっという間に全方位を無数の骸骨戦士に囲まれた。それは、ガチャガチャと音を立てながら一斉に、アクヤへと襲いかかってきた。
ガキーーーーンッ!
凄まじい轟音と共に、骸骨戦士が円形に吹き飛ばされる。
毎度お馴染みの、誇り高き戦士ノ自爆である。
「雑魚のくせに、生意気だな」
吹き飛ぶ骸骨戦士を諸共せず、というか、それをバッサバッサと切り捨てながら、一人の骸骨戦士が突っ込んでくる。
体から手が6本生え、その一つ一つに刀を持っていた。体や腕には骨だけでなく、生々しくムキムキの筋肉が浮かび上がっている。
紫色のマントを羽織ったその体躯は、他の骸骨戦士の倍ほどありそうだった。
バリバリバリバリッ!
死霊ノ王の六重に重ねられた刀が、黄金の壁に触れ轟音を奏でる。
バリーーーーんっ!!
「なっ!? 」
「俺様の六元刀に斬れないものなど、ない」
死霊ノ王が髑髏の奥底に沈む赤黒い目を怪しく輝かせ言い放った。
そしてそのまま、アクヤの首を目掛け飛びかかってきた。




