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「恐れながら申し上げます」
蝶々竜のチョウさんが、恭しくいった。
「いいでしょう。発言を許可します」
ミズタンチェアーに腰掛け、優雅に紅茶を飲みながらアクヤが応じる。
「アクヤ様は、弱いモノは滅んで当然とおっしゃいました。しかしながら、私も眷属を護る身。このまま、引き下がる訳には──」
カチャンッ!
シェフが差し出すカップソーサーにティーカップを載せながら、アクヤがキッと睨みつけた。
一瞬で空気が張り詰める。
「チョウさん。
私は、『弱いモノは滅んで当然』などとは、言っておりません。『己の身を守れぬモノ』が滅んで当然だ、といったはずです。
貴方は『眷属を護る』といいながら、その責を一心に階層守護者へ押し付けようとなさいました。そんな、他人任せでは、根本的解決になりません。
今回のように階層守護者の動向如何により、同じことが繰り返されます。
上層階に住まうモノ一人一人はとても弱い存在です。だから、死霊ノ王さんなどが増長するのです。
では、どうするか? 」
一呼吸置き、アクヤが魔衆一人一人に視線を合わせていく。
「単純なことです。
個々が弱いのなら団結すればよいのです。そして、分からせるのです。
上層階に住まう弱者を敵にまわすことが、いかに恐ろしいかということを」
「アクヤ様も、戦われるのですか」
「当然です。私が、先頭を行きます。貴方方は、私に続きなさいっ!! 」
目を爛々と輝かせ、そう宣言するアクヤに、皆が恭順の意を表し跪く。
もはや、魔衆の目からは、一切の恐怖や迷いといった感情が取り払われていた。
「……お前は、弱者じゃねーだろ……」
そして、オニオーの小さな小さな呟きは、巣窟に木霊する歓声によりかき消されたのだった。
『Yes, your Majesty! Yes, my Lord! 』
◇ ◇ ◇
「そうそう。ここを、こっちに通して……」
アクヤは、今、絶賛編み物指導中である。
小鬼や爬虫人の保護衣は、各自で編ませることにしたのだ。
戦うとは言ったものの、相手は格上の骸骨戦士である。少しでも、装備を充実させておきたかった。
ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!
しかしながら、これは予想以上に高度であったようだ。
あちらこちらで、頭を沸騰させ、倒れるモノが続出し始めた。
キョェェェェーーェエっ!
そんな中、悪戦苦闘していたベビリンが、叫び声を上げ飛び上がった。
追従するように糸が纒わり付き、黄金に輝き始める。
ベビリンは空中で体を丸めると、再度伸び上がった。
それに合わせ、より一層輝きが強くなる。
シュタッ!
地面に降り立つと、ゆっくりと光が落ち着いていく。
シャキーーーンっ!
そこに顕現したのは、謎のポーズを決めたベビリンだった。もちろん、体には糸玉が巻き付けられていた。
キョェェエーッ!!
ヘビリンに呼応するように、小鬼達が飛び上がる。そして、次々と黄金に輝き始めた。
巣窟が、目も眩むような眩しさに包み込まれる。
それが落ち着くと、無数の糸玉小鬼と糸玉爬虫人がカッコよくポーズをきめていた。
「……なんか、コイツらの方が、成長してねーか? 」
喧騒の中せっせと編み物を完成させ、それを着込んだオニオーが、寂しそうに呟いた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼─
【名前】 ベビリン Lv.10
【種族】 魔族悪鬼目 幼鬼人
【ステータス】幼児、 狼使い、糸の申し子
【スキル】 隠密、無邪気、ママっ子、騎乗
操糸相愛
【名前】 糸玉小鬼 Lv.1
【種族】 魔族悪鬼目 糸玉小鬼
【ステータス】女王の眷属
【スキル】 自由奔放、操糸相愛
【名前】 糸玉爬虫人 Lv.1
【種族】 魔族爬虫目 糸玉爬虫人
【ステータス】女王の眷属
【スキル】 操糸相愛




