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「ミズタン、離してあげて」
アクヤは立ち上がり、ミズタンに言う。
鬼小男を拘束していた触手が、しゅるしゅるしゅっと解けて行く。
多少強引な方法ではあったが、アクヤの気持ちは、鬼小男へと伝わったはずだ。
アクヤの言を聞き、鬼小男が青ざめていたのが、何よりの証拠だろう。
今度は、人間が償う番だった。
「私を亡くなられたお味方の所へ連れて行ってくれませんか? 」
アクヤは、この洞窟に置き去りにされた身の上であること、そして、アクヤをここに連れてきた兵士達が件の小鬼を亡きものにしたことを説明した上で、そうお願いした。
「今更、アイツの所に行ってどうすんだ? お前が行ったって、アイツは帰ってこない」
流石は元王だ。
先程の恐怖など微塵も感じさせず、アクヤに喰ってかかる。
キョェエーッ、キョェエーッ、キョェエー!!
周りの小鬼達が抗議の声をあげた。
「うっせぇっ!! 俺は人間もお前らも、どっちも信用してねぇーんだよっ!! 」
鬼小男が叫ぶ。
「せめて、今もあの場で1人寂しく眠る小鬼さんが、安らかに眠れるように見送って差し上げたいのです。
どうか、お願いします。」
アクヤは頭を下げた。
鬼小男は無言でそれを睨みつけていた。
「ふんっ、勝手にしろっ!」
鬼小男が、投げやりにそう叫び歩き出した。
◇ ◇ ◇
「くそったれっ!! 」
前を行くオニオーが、蛮刀を引きずりながら走り出した。因みにオニオーというのは、鬼小男の名前だ。ここまでの道すがら、不機嫌なオニオーにしつこく問いただして、やっと、聞き出せた。
何かが蠢いている。
何となく、そこが最初に置き去りにされた場所であることが分かった。
オニオーに気づいた何かが、四方へと散っていく。オニオーは足を止め、残された残骸を睨みつけていた。
それは、殆ど原型を止めていなかった。肉は抉られ、骨がむき出しになっている。
内蔵は朽ち果てていた。全体的に腐敗が進み、強烈な悪臭を放っている。
アクヤはその傍に跪いた。
そして、両手を胸の前で組む。
オニオーの口振りからして、この小鬼はきっと大切な存在だったのだろう。
もしかしたら、それは、アクヤがお兄様に抱いている感情と似ているのかもしれない。
もし、ここに倒れているがのお兄様で、お兄様がこの様なお姿になってしまったと考えたら、心が張り裂けそうだった。アクヤだって、オニオーと同じように復讐に走っただろう。
「……ううっ 」
嗚咽が聞こえてきた。
キョェエー
多数の悲痛な叫びが聞こえてきた。
自然と、頬を涙が伝っていく。
ポタッ、ポタッ、ポタッ
それは、亡骸へと落ちていった。
落ちた雫が黄金に輝き出す。そして、徐々に広がっていき、体が復元されていった。
皆が、息を呑む。
「オニマルっ!? 」
オニオーが、抱きついた。
しかしながら、オニマルが目を開けることはなかった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおっ」
オニオーが慟哭をあげた。
(残念ながら、この世界には、死者を復活させる魔法は存在しないんだよ。僕達は、小鳥さんが安心して眠れるように、お墓を作って祈ってあげよう)
いつだったか、お兄様から聞いた言葉が思いだされた。確か、飼っていた小鳥が亡くなって、お兄様に生き返らせてくれと、駄々を捏ねた時だっただろうか。
アクヤは己の無力さを痛感せずにはいられなかった。
その後、オニマルのお墓をつくった。
お兄様が教えてくれたように、安眠を祈りながら。
オニマルから離れようとしないオニオーを何とか説得し、穴をほって埋め小高く土をもっていく。
オニオーは嗚咽を漏らしながら、自分の角をその頂上に突き立てた。不届きな輩を寄せ付け無いように、と。
オニオーが幼体化した、いや、させられた際に、抜け落ちたものらしい。
それから、皆で帰路についた。
小鬼達が、今日は泊まっていけと言っているらしいので、というか、女王なのだから、当然だろというノリらしかったが、アクヤたちも巣窟に着いていくことにした。
既にヘトヘトだった。
今から水場を探すことを考えれば、正直、有難い申し出だった。
オニオーは、始終黙り込み不機嫌だった。対して、小鬼達はアクヤが来ることが嬉しいようで、かなりハイテンションだ。
しばらく進むと、行き止まりに行き当たった。
小鬼達が、ギャー、ギャーさわぎだす。
ボスモフに呼び出された。
岩壁をノックしろと言っているらしい。
トン、ト、ト、トン、トン
何も起こらない。
後ろでは、小鬼達が両手を上げ首を振っている。
1番目と4番目の、トンは赤子に触れるようにそっと。
3番目のトンは、体全身を使って力強く、らしい。
何度やっても、上手くいかなかった。
小鬼達は、早々に諦め遊び始めた。寝そべっているモノもいる。
オニオーは我関せず、だ。
バツっ。
「控えなさい、無礼者っ!
女王たるこの私を阻むとは何事ですっ!
さっさと、開きなさいっ! 」
岩壁の一部が砂へと姿を変え、さーっと崩れ落ちていく。アクヤが屈んで通れるぐらいの入口が出現した。
「まぁまぁ、今度の女王様はとんだお嬢さんだねぇ」
アクヤの前、通路の向こう側に、柔和な笑みを浮かべたお婆ちゃまが佇んでいた。
そして後ろでは、下々のモノがガクガクブルブルと震えていた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼─
【名前】 アクヤ・クレイ Lv.22
【種族】 人族
【ステータス】 高位貴族、小鬼ノ女王
【スキル】 王子妃の教養(免許皆伝)
回避、覇王の威圧、念話
子守唄、忍び足、調教、口撃
指輪ノ加護、神速、
貴属魔法(初級):物理反射、采配
復元、魔術介入
【名前】 オニオー Lv.1
【種族】 魔族亜人目 幼鬼人
【ステータス】元小鬼ノ王
【スキル】 七光り、隠密、威圧、咆哮、話術




