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アクヤがゆっくりと前に進み出る。
不意に、手を取られた。
ミズタンがアクヤの腕に触手を絡ませ、行かせまいとしていた。
「大丈夫よ」
アクヤは努めて明るくそう言った。
鬼大男の要求を呑まねば、戦闘は避けられまい。事実を伝えたところで、アクヤが人間である以上、信用してくれないだろう。
小鬼達の数を考えれば、明らかにこちら側がふりだった。
そして何より、アクヤのせいでアクヤにとって大切な存在が傷つけられることは耐えられない。
出会ってたった数日しか経っていなかったが、彼らの存在はアクヤの中でとても大きなモノになっていた。
この洞窟に取り残された時、希望を胸に生きることを決めた。しかしながら、アクヤ1人では早々に挫けていただろう。
最初に出会ったのがミズタンでなければ、即刻、殺されていたかもしれない。
ボスモフがいてくれたからこそ、多くの戦闘を回避できている。
シェフの料理がなければ、アクヤは生きられない。
ベビリンやチビモフモフは、存在そのものが癒しだった。
彼らの存在が脅かされることなど、今のアクヤには考えられなかった。
それがゆえに、アクヤの行動は自ずと決まっていた。
腕に絡められている触手にそっと触れる。
ミズタンは悩みながらも、ゆっくりと緩めてくれた。
ギャオーーンっ!
背後で鬼大男が咆哮を上げた。
さっさとしろと言わんばかりだった。
ミズタンを一度そっと抱きしめ、歩みを再開した。
デカモフモフ達が、不安げにこちらをチラチラと見てくる。視線が会う度に、安心させるべく頷いてみせた。
ボスモフの後ろまで辿りついた。
ボスモフの剛毛に身を隠していたベビリンが、ちらりとアクヤを振り向いた。震えている。
(ベビリンも不安なんだわ)
安心させるべく微笑もうとした瞬間、驚くべきことが起こった。
ベビリンが、5倍はあろうかという鬼大男の前に踊り出たのだ。
キュウ、キュウ、キュウ!
鬼大男に必死に何かを伝えている。
鬼大男はそれを鬱陶しそうに見下した。
そして、下賎な笑みを浮かべると、肩に担いでいた蛮刀を振り下ろした。
(ダメっ!)
体が勝手に動いていた。
手を広げ、ベビリンの前に飛び出す。
蛮刀の描く軌道が妙にゆっくりと見えた。
「なっ!?」
それを遮るように透明の幕が広がりゆく。
慌ててその幕を抱きしめた。
さらには巨大狼まで、その間に割って入ろうとしていた。
(このままでは、守りきれない)
バツっ。
「下がりなさい、無礼者っ!
何人たりとも、私の大切な者共に危害を加えることは、許しませんっ!! 」
アクヤは無我夢中で叫んでいた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼─
【名前】 ベビリン Lv.1
【種族】 魔族悪鬼目 幼鬼
【ステータス】幼児、 狼使い
【スキル】 隠密、無邪気、ママっ子、騎乗
【名前】 鬼大男 Lv.27
【種族】 魔族亜人目 鬼人
【ステータス】小鬼ノ王
【スキル】 七光り、隠密、威圧、咆哮




