第91話 燻る火
~サン・クシェートラ王国・黄金宮殿・地下霊廟~
千年以上の歴史を持つ大国サン・クシェートラ。その中でも最も歴史が深く、神聖視されているのが黄金宮殿の地下に広がる巨大な地下霊廟である。そこは歴代の王が眠る王墓としての役割の他に、誰にも語られることのなかった禁忌とも言える伝説が眠る場所でもあった。地下深くに造られた霊廟の最奥には、たとえ王であっても足を踏み入れてはならない。そこはもはや人の領域では無く――――偉大なる太陽の坐す世界であるからだ。
「・・・」
「ほほ、どうしました王よ。先ほどから足が震えておりますぞ?まさかお体の具合が芳しくないのですかな?」
「地下に進むたびに―――何故だか妙な寒気を感じてな。まるで誰かにじっと覗き見られているような気分だ‥‥」
神々しく立ち並ぶ先代の王たちの巨大な石像を横目で見つめながら、クヌム王は怯えるように口にする。神話にも史実にも名を遺す偉大なる先祖の姿を目の当たりにし、自らもその末端であるという重責が彼の心に重くのしかかっていた。
「このような手段でしか国を救うことのできぬ我の姿を―――先王たちは笑うだろうか」
「何を仰いますか。王はいま、歴代のサン・クシェートラ王の誰もが成し得なかった偉業を果たそうとしているのですぞ?神話に記された災い、“滅びの光”から王国を救うなど、どの王の功績にも勝るものです」
「今までの王は滅びの時を遠ざけるだけで、誰も根本的な解決策を見出せなかった。しかし此度は違う、真の神話を知るワシが必ずや王を導き“滅びの光”とその遣いである小麦色の髪の娘を完全にサン・クシェートラから打ち払うと約束しましょう」
「そうか‥‥うむ、そうだな」
そのためにも、今は一刻も早く霊廟の最奥に進み―――そこに眠るという太陽の如き存在の力を借りなければならぬ。
「しかし―――滅びの光とは一体何を意味しておるのだろうか」
「・・・」
古代文字を解読することでイリホルが提唱した新たなる神話と、古来よりサン・クシェートラに語り継がれてきた神話―――二つの異なる神話にも、共通点は存在する。一つは太陽を崇拝し、神として崇める太陽信仰。そしてもう一つは、どちらの神話も最後は巨大な光の輝きによって世界が焼き尽くされるという、滅びの神話であるという点だ。
神話に登場する世界を滅ぼす光のことを、古来よりサン・クシェートラの民は滅びの光と呼び恐れている。かつての神話では、天に太陽が輝くうちは滅びの光は訪れないとされていたが―――イリホルは小麦色の髪の少女を太陽に捧げなければ、世界は滅ぶと断言した。
「滅びの光とは何か、ですか‥‥ううむ、それはワシにも分かりかねますなぁ。しかし、あえて予想するとするならば、太陽石でしょうか」
「太陽石‥‥」
「王も知っての通り、太陽石はこの国に古くから存在する巨大な魔力の結晶体でございます。代々王族が管理し、有効に利用することでサン・クシェートラの繁栄を一手に担ってきましたが‥‥太陽石はただの膨大なエネルギー源という訳ではない」
「使い方を変えれば、他国を蹂躙する恐ろしい侵略兵器へと成り代わる。ハビンに放たれた光を見た時、ワシはピンときましたなぁ」
「太陽石が滅びの光に関係している―――か。なるほど、興味深いな」
確かに、太陽石は神話に登場する滅びの光の元になったのかもしれない。太陽石の正体については何度も学者たちを招いて研究させたが、結局答えを得ることはできなかった。長きにわたる神話にも、太陽石について描かれているものは一つもない。あの巨大な結晶は、いつ、だれが、どのようにしてこの王国に持ち込んだのか。あるいは太陽石の周りに国を作ったのか‥‥それすらも分からないのだ。
~サン・クシェートラ王国・黄金宮殿前広場~
サン・クシェートラにおいて最も活気のある場所といえば、誰もがこの宮殿前広場の存在を口にするだろう。広場の中心には建国時に造られたという巨大な太陽のオブジェや、観光客を狙い撃ちにした大砂漠の名産品を取り扱う多種多様な土産屋が立ち並んでいる。特に太陽のオブジェは世界中からこぞって物見客が集まるほど有名で、その周りには常に人だかりが絶えない。
その例にもれず、今日も宮殿前広場にはたくさんの人々が溢れかえっている。しかし―――その様子は、普段の微笑ましい雰囲気とは大きくかけ離れていた。
「太陽に贖罪を!!サン・クシェートラの滅びを回避するんだ!」
「小麦色の娘を生贄に捧げろ!!滅びの光はすぐそこまで来ているぞ!!」
「クヌム王はいったい何をしているんだ!?先王がご存命ならこんなことにはならなかっただろうに‥‥!」
広場に集まっていたのは観光客ではなく、半ば暴徒と化したサン・クシェートラの民でああった。生贄の儀式の失敗、神獣の死、そして遺跡の森での敗戦。更には王国守護の要である親衛隊長の喪失。王の采配がことごとく裏目にでていることに不安と憤りを募らせた民たちは、一種のデモを引き起こしたのだ。門兵たちがいなければ、いまにも宮殿へ流れ込んできそうな勢いである。
「静まれ!!」
「神聖なる王の膝元で礼節も弁えず―――無礼であろう!!」
そんな彼らを諫めるように、宮殿から姿を現したヨミが声を張り上げた。
「王は多忙である!申し立てがあるなら私が聞こう!」
「多忙だと!?ふざけるな!王国の一大事に、他に何を優先することがあると言うのだ!」
「あなたたち達親衛隊は、サン・クシェートラの平和の為にいるのでしょう!?滅びが近づくこの今の惨状を何とも思わないの!?」
「我々もできるだけの対処は行っている。滅びの光などがサン・クシェートラに現れることはありえない」
滅びの光‥‥そう、そんなものはそもそも存在するはずがない。アレはただのおとぎ話だ。
「サン・クシェートラの安寧は、我々が命に代えても守って見せると約束する。不穏な噂ばかりが一人歩きしているが‥‥どうか今は耐えて欲しい。クヌム王が次に民衆の前に姿を現す時、必ずやこの国は――――」
「そんなこと信用できるか!」
ヨミの言葉に納得せず、サン・クシェートラの民は次々に罵声を発した。
「今すぐ王をこの場に呼べ!この状況をどうお考えになっているのか説明してもらう!!」
「貴方がたの不満は痛いほどに分かる!だが、今はできぬのだ!必ずや私から王に進言し、国民との意見交流の場を設けてみせる。だから今は―――」
「うるせぇ!ハビンの賊どもに敗北した負け犬が偉そうに指図してんじゃねえぞ!」
「!!」
負け犬‥‥だと?
「あんな小さな隣国すら攻め落とせず、砂塵の牙どもにいいようにされやがって!しかもその戦いであのメリアメンが死んだって話じゃねえか!」
「何が王国最強だ!何が親衛隊だ!王国を守るどころか勝手に無駄死にしやがって!お前らは俺たち国民からもてはやされるしか芸の無い、ただの穀潰し野郎だ!」
「黙れ!!!」
この男は、決して言ってはならぬことを口にした。
自分がどれだけ貶されようが、それは私の未熟として我慢できる。だがあの人を―――最後まで国を憂いながら死んでいったメリアメン隊長を愚弄されて、黙っていられるワケがない‥‥!!
「メリアメン隊長はこの国を災厄から救おうと足掻き続け、最期は賊との戦いの末に壮絶な最期を遂げられたのだ!!!ただ不満を口にするだけで騒ぎ立てることしかせぬ貴様らとは違う!!あのお方を侮蔑する輩は―――この私が絶対に許さん!!」
「ひっ‥‥!」
「し、親衛隊が怒ったぞ‥‥!」
サン・クシェートラの英雄を弔うことすらせず、ただ喚いている貴様らを‥‥私は心の底から軽蔑する。あの人がいたから、今のサン・クシェートラがある。彼がいなければ、滅びの時などとっくに訪れていただろう。
「あらあら、いけませんわね。親衛隊の若き隊長ともあろう御方が、そのような口汚い暴言を吐くなど―――国民の皆様に失礼では無くて?」
宮殿より突如として現れた、シスターのような装束に身を包んだ女。女は激情にかられるヨミを嘲笑うように、そう口にした。
「デネボラ様だ!デネボラ様が来てくれた!」
「・・・・」
デネボラ。イリホルのでっちあげた神話を彼と共にサン・クシェートラ中に布教した、いけ好かないシスターだ。普段はイリホルの側近のように、ヤツと行動を共にしている。
「どうかご安心ください、善良なるサン・クシェートラの国民たち。小麦色の娘は、すでに我らの手中に落ちました。滅びの光が、サン・クシェートラに訪れることは無くなったのです」
「なッ!?本当ですかデネボラ様!!」
「では、もうこれ以上サン・クシェートラに災いが起こることはないと!?」
耳を疑うようなデネボラの発言を前に、国民たちは大いに盛り上がった。災いの元凶であるという小麦色の娘が、ついに捕らえられた。それはつまり、これから起きるはずであった全ての不幸が終息したという意味に他ならないからだ。
「ええ、大いなる災厄による滅びは回避された。しかし‥‥太陽は代償として、我々に最後の試練を与えました」
「砂塵の牙と、ハビンに燻る外征騎士の騎士団―――かの賊軍を完全にこの世から葬らない限り、真の平和は訪れません」
「・・・」
「さぁ、今こそ覚悟の時です!善良なる国民たちよ!賊軍はいずれ、このサン・クシェートラを攻め落とそうとやってくる!その時、貴方達がどのような行動をとるのか‥‥その選択が、この国の命運を決定づけることでしょう!」
芝居のかかった仕草で、デネボラは昂ぶった国民たちをいたずらに刺激した。
「おおおおおおお!!」
「そうか、見ているだけじゃいけねえ!今度は俺たちの手で賊軍から国を守るんだ!!」
「私も戦うわ!!サン・クシェートラに太陽の加護あれ!!」
こうなってしまっては、もう止まらない。行き場のない不安は、全て外敵を殺すためだけに注がれる。長きにわたって見えない恐怖に怯え続けてきた彼らは、かつての平和な生活を取り戻すためなら手段は厭わないだろう。
「とまぁ―――こんな感じでどうでしょうか、ヨミ殿?」
勝ち誇ったような表情を浮かべながら、デネボラはヨミに不気味に笑いかけた。
「今の話‥‥本当なのか?」
「嘘ですよ。小麦色の娘は、まだ発見には至っていません」
「そ、そうか」
「フフ、安心しましたか?」
「―――どういう意味だ」
「いえ、何も?ですが‥‥すぐに本当になりますわよ。彼女は既に、我らが王の手の上に居るのですから」
~サン・クシェートラ王国・黄金宮殿・親衛隊詰所~
「はぁ‥‥」
大きなため息をついて、ヨミは死体のようにソファに転がり込んだ。災厄による不安や心労に苛まれているのは、親衛隊であるヨミにとっても同じこと。彼は疲れ切った脳を休めるように、静かに瞼を閉じた。
「おいヨミ!!」
しかし、現実は彼に少しの休息も与えてくれなかった。
「‥‥ネチェレトか、何の用だ」
「何の用だ?じゃないだろ!?はやく支度しろ、今すぐハビンに向かうぞ」
「何の為に」
「隊長の仇討ちに決まってるだろ!!アタシたちの力、今こそ賊軍どもに知らしめてやるんだ!」
ネチェレトの思惑を知り、ヨミは深くため息をついた。そして、寝転がった体を起こすことも無く、ふたたび目を閉じた。
「隊長の遺言はアンタにも伝えただろ。あの人は仇討ちなんか望んじゃいない、むしろ‥‥」
「御託はいいんだ、ヨミ。隊長が最後に何を言おうが関係ない‥‥アタシらは親衛隊だ。王国に仇なす存在を、完膚なきまでに叩きのめさなければならないんだよ」
「やめておけ、ヤツはお前一人でどうにかなる相手ではない」
「‥‥もういい、臆病者の言葉なんか聞きたくもない」
ネチェレトは不満そうな様子を隠そうともせず、勢いよく詰所を飛び出して行った。まさか一人でハビンに向かうことはないだろうが―――しばらく姿を見せることはなさそうだ。
「叫びたいのは、アンタだけじゃないっての」
本当ならネチェレトに同行し、隊長の仇を討ってやりたい。だが、それは隊長の遺志に反することだ。隊長は最期に、ジルフィーネたちに希望を抱いていた。その芽を摘み取るような真似を、私がするわけにはいかない。
だが、連中が本当にサン・クシェートラに攻め込んでくるのだとしたら、その時は‥‥。
「おいヨミ、いま凄い形相でネチェレトが走って行ったが‥‥何かあったのか?」
「何もないさ。それよりスコルピオン、王とイリホル殿はいつ頃に霊廟から戻られる予定なんだ?」
「二日ほどは戻らないそうだ。何でも地下で儀式を行うらしく、それがかなり時間を要するものらしい」
「そうか‥‥」
イリホルめ―――いったい何を企んでいる。
「お前も知っての通り、最近は王国内でイリホル殿の側近たちが幅を利かせている。教会の連中は、彼の私兵だって噂もあるくらいだ。王が不在の間にそそうがあってはならん―――用心しておけよ」
「心配はいらないさ。奴らが少しでも妙な真似をすれば、一人残らず砂漠の塵にしてやる」
「ハハ、メリアメンがお前を次期隊長に選んだのも納得だ―――頼もしくなったな、ヨミ。お前の親父さんも、きっとあの世でお前のことを誇りに思っているだろうよ」
「いや、私はまだまだ未熟者だ。年長者の貴方にはたくさん迷惑をかけるだろうが―――どうか優しく見守って欲しい。私ごときがメリアメン隊長の後を埋められるなんて最初から思っちゃいない。でも、少しでも彼の背中に追いつけるよう―――努力するつもりだ」
「フフ、若いくせに変に気負ったヤツだな。背中は任せろ、お前はただひたすらに前を向いていればいい!」
~ハビンの街・砂塵の牙作戦本部~
「えらく遅いお帰りだったな、ジル。私の誘いは断ったくせに、まさか向こうで一泊してくるは思わなかったぞ」
「あ、あはは‥‥」
スピカの元で無断滞在してから一夜明けた今日。パーリの怒りを何となく察した僕は、急いでハビンへ戻ろうとしたのだが―――何とも不幸なことに道中で激しい砂嵐に巻き込まれてしまったのだ。そのお陰で、ハビンへの到着がかなり遅れた。具体的に言うと、10時間くらい遅れた。
「さて、早速本題に入らせてもらう。本当はお前の意見を聞いて作戦を練りたかったのだが、生憎とこちらには時間がないのでな。到着を待たずして作戦は既に立案させてもらった」
「よって、お前とエイミー、そしてヘイゼルには作戦会議ではなく、作戦の報告という形になるが‥‥問題ないな?」
「ありません、あろうはずがありません」
勝手なことして大遅刻とか、意見言える立場じゃない。息を吸うのも申し訳ないくらいだ。
外はもう真っ暗だし、リリィたちは他の砂塵の牙のメンバーはもう眠ってしまっているかもな‥‥。やばい、僕の帰りをずっとここで待っていたパーリの姿を想像するだけで罪悪感が‥‥。
「作戦の決行は明後日。我々は日の出の瞬間、サン・クシェートラ近郊にて赤の狼煙を上げる。狼煙を見たスコルピオンは王国内で反乱を起こし、国中がパニックになる。その隙を突いて国内に忍ばせている我らの同胞にサン・クシェートラへ入る為の門を開かせ、我らは怒涛の勢いで進軍。混乱に乗じて黄金宮殿を攻め落とす――――と言う算段だ」
「この作戦、スコルピオンとかいう人が協力してくれなければ終わりじゃないですか?」
作戦を聞いた瞬間、反射的にエイミーが口走った。僕が彼女から始めてスコルピオンのことを聞いた時と、全く同じ反応だ。
「スコルピオンなら大丈夫‥‥のはずだ。生前に兄貴がうまいこと話をつけてくれたみたいだし、明日には内密に使者を出す。とにかくそこは心配しなくていい」
「うーん、拭いきれない不安感」
「どちらにせよ、こっちにはそれしか方法がないんだ。賭けるしかないってエイミー」
僕たちの作戦を見抜いているような不穏な動きがあれば、その時は国内に忍び込んでいる同胞さんたちが知らせてくれるだろう。
「ジル達には私たち本隊と共に黄金宮殿へ進軍してもらう。とにかく時間との勝負だ。砂塵の牙、ハビンの衛兵、アズラーンの騎士団すべて合わせても、こちらの頭数は王国軍にはまるで敵わない。戦いが長引けば、逃げ場のない我々は確実に全滅する‥‥そうならないためにも、迅速にクヌム王へ接触しなければならない」
「ハビンの兵や他の部隊は、本隊が黄金宮殿へ辿り着くためだけに全力を尽くすと言ってくれた。この覚悟を無駄にせぬよう、私も持てる力全てを出し切って戦い抜くと誓おう」
「‥‥」
今回の僕たちの役回りはとてもシンプルだ。敵の本陣目掛けてひたすらに突き進むだけ、陽動や囮、攪乱は全て他の誰かが補ってくれるという。正直そういう作戦は大嫌いだ、だがやるしかない。僕たちが早くことを済ませれば、傷つく人を減らすことができるはずだ。
「パーリ殿!!!」
突然部屋の扉が勢いよく開き、息を切らしたハビンの兵士が転がり込んできた。
「そんなに慌ててどうした!?何があった?!」
「夜襲です!!正体不明の化け物どもが、町の中に侵入しました!」
「なんだと!?」
嫌な予感がする。
「行こう、ヘイゼル!」
「やれやれだわ」
僕はヘイゼルと共に急いで外へと飛び出した。すると町の中には目を疑うような光景が広がっていた。
「これは‥‥!」
まるで死者の宴だ。鎌を持った死神のような亡霊や、骸骨の魔物がそこら中を歩き回っている。しかも尋常じゃないほどの数だ、視界に見えているだけで20以上はいるぞ‥‥!
「死霊使い、か」
ぼんやりと、眠たそうな顔のままヘイゼルがそう呟いた。
「死霊使い―――それなら僕も知っている。確か、死した者の肉体や魂を自在に操って戦う魔法系の職業だ。強力な力を行使できる恐ろしい職業だが、死霊使いとして戦うには相当な技術と魔力が必要であり、未熟なものが力を使えば自らに破滅をもたらすという」
「え、めっちゃ説明口調‥‥というか、ジル様何でそんなに詳しいんですか?」
「実は僕、YFで選んだ最初の職業死霊使いだったんだよねー」
まぁ、直ぐにやめて最終的には薬師に落ち着いたんだけど。
「あぁ、そういう‥‥」
「相手が死霊使いなら、まずは術者を探さないと。この悪霊どもを相手したところで埒が明かないからな」
「あら?今日は何だか冴えてるのね、ジル。でも―――術者を探す必要はないみたい」
そう言ってヘイゼルは、けだるげに杖を構えた。彼女の視線の先を見ると―――そこにはこちらへ向かって歩いて来る人影があった。
「なるほど、まさか向こうからやってくるとは」
死霊使いでありながらやすやすと敵前に姿を現すなんて。基本を知らないただの初心者野郎か、それとも‥‥。
「妖精に魔女、そして人間の少年―――なるほど、貴様が神獣殺しか」
死霊使いと思しき女は僕とヘイゼルを見た瞬間、そう吐き捨てた。
「誰だよアンタ、どうして僕らを襲うんだ」
「どうして?そりゃあ私が親衛隊だからに決まっているだろう?」
「なっ!?」
「私の名はネチェレト―――隊長の無念、いまここで晴らさせてもらう!!」