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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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第87話 太陽の子

「お前は下がって後方の部隊の支援にあたれ。聖都の騎士によって戦場が食い荒らされている、まずはヤツらからだ」


「‥‥はい」


 メリアメンの指示を受け、ヨミは目を伏せたまま姿を消した。


「三度目だ」


「え?」


「生贄の祭壇で一度目、宮殿の地下牢で二度目、そして今この瞬間で三度目の邂逅を果たした―――正直初めての経験だ、倒すべき相手を二度も仕留め損ねるなど」


「ああ、心配すんな。これ以上僕とお前が剣を交えることはないよ。ここが最後、三度目の正直ってヤツにしてやるさ」


「ジル殿、私たちは―――」


「大丈夫だ。下がっていてくれ」


 ジャワたちが近くに居ては、僕も自由に動けない。申し訳ないが、ここは遠距離の援護の身に徹してもらおう。


「ほう、ならばやってみるがいい!」


 その言葉を皮切りに、両雄は激突した。原種の剣と王国最強の槍―――拮抗するかに思えた両者の戦いは、幕が上がると同時に急展開を迎えることとなる。


「!?」


 メリアメンの炎熱槍(フレアニル)がジルの大太刀とぶつかり合った瞬間、いとも簡単に切断されてしまったのだ。


「我が槍が‥‥!」


「初めて戦う相手を前に、いきなり頭から突っ込むもんじゃない」


「なんだと―――?」


「一度目の祭壇では僕は原種化していなかった、二度目の地下牢ではこの大太刀を持っていなかった。そして今は、原種化もしているしこの大太刀も手の内にある―――分かるか、メリアメン」

「今お前の前に立っている僕は、お前が二度見て来た僕とは比較にならないほどに強いってことだ」


 地下牢で戦った時は、ヘイゼルを巻き込まないようにするのにも気を使っていた。僕は何度もヤツの技や技量を目にしたが、ヤツの方は一度だって僕の本気を目にしたことが無いのだ。


「戯言を―――!」


「なら、試してみればいい」


「槍を斬ったくらいでいい気になるな‥‥!我が灼熱、その程度では少しも衰えはせんぞ!」


 折れたハズの炎熱槍の先端から、魔力のみで形成された炎の刃が噴き出した。実体をもたぬ純粋な魔力の塊―――それを一瞬にして具現化するとは、やはり王国最強の名は伊達ではない。確かにこの状態であれば、槍が折れようとも変わらず灼熱を吐き続けられるだろう。


 だが‥‥この勝負において、そんなことは問題ではない。


「炎と踊れ、炎熱蛇(サーペント・フレア)!」


 巨大な大蛇の如く巻き上がった特大の炎が、うねりを上げながらジルの元へと喰らいかかった。しかし、そんな恐ろしき炎も原種にとってはただのそよ風と変わらない。


「っ?!」


 このように、たった一度の剣の一振りで跡形も無く消し飛ばしてしまえるのだ。


「神獣殺し‥‥アイツ、メリアメンを圧倒してるぞ!」


「ええ、このままいけば本当に―――」


 本当に、王国最強を倒せる。ジャワとパーリは口に出さずともそう確信した。


「ならば‥‥!」


 目にもとまらぬ炎熱槍の連撃。常人であれば槍に触れずとも周囲を舞う炎で焼け死んでしまうほどの超高温である。


「無駄だ」


 だが、やはりそれでも原種には届かない。ジルはメリアメンの槍を素手でつかみ取ると、ガラ空きになった胸元を一直線に切り裂いた。


「ぐッ!!」


 夥しい鮮血が大砂漠の大地を濡らす。しかし、メリアメンは一歩も退かずに槍ごとジルを地面へと叩きつけた。


「はぁ、はぁ‥‥!」


 苦悶の表情を浮かべながら、メリアメンは血の止まらぬ傷口を炎で無理やり塞いだ。そうして再びジルへの追撃に出る。音速に達する超高速の薙ぎ―――しかし、ジルはそれを身を翻して回避し、大太刀の柄でメリアメンを叩きつけた。


「がはッ!!」


 勢いよく倒れこみ、地に伏せるメリアメン。しかし、彼は息つく暇もなく再び立ち上がった。


「・・・」


 強い。


 少し加減したとはいえ、胸を切り裂いた一撃で本当は勝負をつけるつもりだった。でもヤツは怯むことなく次の手を打って出た。まさに鋼のような精神力、いかに肉体が強靭であろうと、中身がついてこなければ戦い続けることはできない。


 彼は王国最強の肉体をもつと同時に、王国最強の不屈の精神をもつ戦士なのだ。敵とはいえ、彼のその勇ましき姿には畏敬の念すら覚えてしまう。


「強いな、アンタ」


 僕は再び、向かい来るメリアメンへと大太刀を振りかざした。





 ~デンデラ大砂漠・遺跡の森・第二部隊方面~


「キハハハハ!!どけどけ軟弱者どもォ!!太陽は貴様らの上ではなく、このトトメスの上にこそ輝いているのだァ!!」


「何なんだよコイツ!!もう何十本も矢を射っているのに全然倒れないぞ!!」


「親衛隊の狂剣トトメス‥‥!まさかここまで歯が立たぬとは‥‥」


「キハハハハ!!!さぁさぁ!どんどん来いィ!!トトメスの首はここだァ!!!」


 砂塵の牙の精鋭たちを容易く蹴散らし、たった一人で進軍するトトメス。品性も教養も、魔力すらもろくに持ち合わせていなかった彼が、何故誇りある王の親衛隊に就くことができたのか。


 答えは単純―――トトメスが、ただひたすらに強かったからだ。


 両親もおらず、喧嘩や殺しに溢れた血生臭い生活に育てられた彼は、王国一のならず者として名を馳せていた。そんな彼を粛正しに王より遣わされたのが、王国最強の男メリアメンであり、腕を買われたトトメスはそのままメリアメンの推薦で親衛隊を入隊した―――。


 王国の誰もが悪名高き彼の入隊を反対したが、そのあまりにも輝かしい功績の前に次第に反対の声を上げる者は減っていった。まさに戦闘だけ特化した唯一の親衛隊、それがトトメスという男なのである。


「うるせーよ」


「ッ?!」


 突如として現れた、一人の男。彼は愛用の棍を大きく振り回し、砂塵の牙を蹂躙するトトメスを軽々と吹き飛ばした。


「ギャーギャー騒ぎ立てやがって‥‥つい殴っちまったじゃねーか」


 風のように颯爽と現れたこの男の名はカイン―――数多の死闘をくぐり抜けた、生粋の戦士である。


「おおおォ!貴様の顔‥‥覚えている、覚えているぞ‥‥!キハハハ!!こうも早く再開できるとは嬉しいぞォ!!」


「こっちは全然嬉しくねぇっつーの」


「さァ!殺し合いだ!!貴様の血も肉も臓物も、全て太陽の元に晒してやるとしよう!!」



 ~デンデラ大砂漠・遺跡の森~



「傷一つ、つけられぬか‥‥」


 全身を血で染めながら、メリアメンは自信を嘲るように呟いた。突き、薙ぎ、魔法、あらゆる手を尽くしでも―――彼の技はジルの元へは届かなかった。力の差が、あまりにも大きすぎたのだ。


「貴様の名を聞いておこう、賊よ」


「‥‥ジルフィーネ・ロマンシアだ」


「ならばジルフィーネ、貴様を我が最大の敵と認め―――輝かしき太陽の力で葬ってやろう」


「奥の手を出すにはちょっと遅すぎたんじゃないか?」


 メリアメンの肉体はもう僕との戦闘で傷だらけだ。何をするつもりかは知らないが、ここから逆転できるほどの策があるとは思えない。


「貴様の実力を探るために、あえて温存しておいたのだ。初めて戦う相手に、いきなり実力を全て晒して突っ込むものではない‥‥そうだろう?ジルフィーネ」


 ニヤリと不敵に笑うメリアメン。そうして折れた槍を天高く掲げ、張り裂けるような声を上げた。


「太陽よご照覧あれ!!我が祝福をもって王国の安寧を守護するために戦わん!!」


「祝福―――だと?」


 奥の手って、まさか―――。


「“太陽の子(サンドール)”」


 メリアメンがそう唱えた瞬間、彼の肉体に変化が起こる。傷ついた肉体はみるみる回復し、肉体はより強靭に発達していく――――魔力の上昇率も半端ではない、まるで一種の進化のようだ。


 短かった赤黒い頭髪は腰ほどまでに伸び、その色は小麦色へと変化していた。


「これこそが王国最強の真の姿。太陽に愛されし王国、サン・クシェートラの守護者たる俺の祝福だ」


「祝福‥‥」


 ごく少数の選ばれた者だけが生れながらに有する特別な力―――だったか。エルネスタの時ほど強力な魔力は今のところ感じないが、いったいどんな能力を持っているんだ‥‥?


「行くぞ、ジルフィーネ」


 そう言って、メリアメンは軽く槍を構えた。先ほどの彼とはまるで別人だ。闘志も魔力も、その肉体も―――比較にならないほど強大になっている。


「厄介そうだな‥‥」


 一撃で首を斬り落とす。そう決心し大太刀を構えた刹那、ジルの身体に異変が起こった。


「何だ――これ」


 思わず倒れそうになるほど、ひどく目眩がする。胸が淀んで気持ちが悪い。手足の感覚も次第に無くなっていくようだ。


 駄目だ、もう、意識が――――。


「ちょ!!何やってんですかジル様!!!」


 長らく沈黙していたエイミーが、僕の鎧の隙間から突如として姿を現した。


「エイ‥‥ミー?」


「雑魚のくせに魔力を使いすぎです!早く原種化の力を解いてください!!」


 そうは言っても、意識が、ぼうっと―――。


「ちょ、もう‥‥!失礼しますよ!?」


 パチン!とエイミーは虚ろになっていく僕の顔を思いっきり叩いた。


「痛あっ!?」


 痛い。電流が流れたかのように痛い。でも―――さっきまで僕の体に呪いの如く纏わりついていた不快感は、その痛みと共にどこかへと消えてしまった。視界も、意識も、手足の感覚も――今はしっかりしている。


「ふぅ、何とかなりましたね」


「めっちゃほっぺたジンジンする‥‥というかさっきの症状はなに?熱中症?」


「んな訳ないでしょう、魔力が欠乏して死にかけてたんですよ。あと荒治療ですからほっぺたが痛いのは仕方ありません、でもその代わりバッチリ原種の力からは解放されたでしょう?いつも通り、クソ雑魚でよわよわのジル様です」


「は?」


 原種の力から解放された―――だって?


「で、さっきまで鎧の中で寝て‥‥じゃない。小型化してずっと考え事をしていたので今の戦況が良く分からないのですが、今どんな感じです?もう余裕で勝っちゃった感じですか?」


「いや、全然終わってない!つーか今からボス戦なんだが?!原種の力無しじゃ絶対勝てないレベルの相手なんだが!!??」


「‥‥え?」


「何やってんだよポンコツ妖精!!このままじゃ僕たち殺され―――」


「おい」


 僕たちのくだらない会話を、ヤツが黙って聞いている道理はない。メリアメンはもう、僕の真後ろまでに迫っていた。


「がっかりだ、何とも滑稽な幕引きだったぞ」


「あ」


 そうして、一切の慈悲なく燃え盛る炎熱槍を僕の脳天へと振りかざした。



「させません!!」



 しかし、その強大な一撃を二人の戦士が勇敢に食い止めた。


「ジル殿、我らも加勢します!!」


「手を出すな、何て言わないよな!?」


「ジャワ、パーリ!!」


 なんて心強いんだ―――!


「パーリ!」


「分かってる!」


 二人は一斉にメリアメンの槍を押し返すと、腹部にコンビネーション抜群の回し蹴りをお見舞いした。


「覚悟しろ、メリアメン!ここから先‥‥お前の相手はジル殿だけではない!」


「私たち兄妹の力―――存分に味わうんだな!」


 王国最強の守護者の前に、王国の変革を願う二人の兄妹が立ちふさがった。


「おお!まだ負けていませんよジル様!私たちも彼らと共に戦いましょう!」


「お前が言うなっての、全く‥‥」


 やれやれ。頼みの綱が消え、いつものクソ雑魚ナメクジに戻ってしまったけど―――まだ諦める訳にはいかないみたいだ。全く持って勝てる気はしないが、こんなところで死ぬつもりも毛頭ない。


「行くぞ、二人とも!」


 僕は縮んで小さくなってしまった剣を手に、太陽の化身の如き親衛隊長に真っ向から突撃した。


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