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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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第84話 サンクラック

「距離を取って脱出するぞ!あいつの体は全身がアダマントで出来ている‥‥戦っても勝ち目はない!」


「アダマント!?嘘でしょ、この怪物の体全部が!?」


 アダマントとは、ユフテルに多数存在する様々な物質の中でも最高クラスの硬度を誇る希少な鉱石のことである。この鉱石がレイドのランキング報酬で出ると聞いて、ハムさんと何度もレイドモンスターに挑んだことをよく覚えている。アダマス、アダマンタイトと呼ばれることもあるらしい。


 アダマントで造られた防具は眼を疑うほどの高値で取引され、その防御力は隕石の衝突にも傷一つなく耐えうるほどであるという。つまり、何が言いたいのかと言うと―――。


「僕たちじゃ、あのゴーレムにかすり傷すら負わせることはできない」


 僕はきっぱりと、残酷な真実を口にした。


「倒せなくても、動きを止められれば‥‥!」


「早まっちゃだめだ、リリィ!」


 リリィは大きく戦槌を振りかぶり、アダマントの巨人めがけて叩きつけた。その彼女の勇敢さが、今日この時ばかりはかっこうの餌食となってしまう。


「ぐぁッ!」


 リリィの体に激痛が走る。その理由は至って簡単‥‥アダマント・ゴーレムの体が硬すぎたのだ。圧倒的質量を誇る彼女の戦槌でさえ、かの巨人にとってはか細い髪の毛と変わりない。アダマントほどの金属を叩けば、耐えがたい衝撃が骨身に反響するのは当然のことであった。


「腕が‥‥クソッ!」


「ヘイゼル、魔法で天井を崩せないか!?」


「ここの対魔法コーティングは強すぎる、あの頑丈そうな天井を破壊するだけの火力は出せないわよ‥‥!」


「ならあそこを狙い撃てばいい!」


 そう言って、僕は真上の大きく穴の開いた箇所を指さした。


「あの穴は―――さっきリリィが空けた部分ね?」


「僕たちが落ちて来た穴だ、半壊しているあそこならコーティングの効果も薄い。ヘイゼルの炎なら簡単に崩せるはず」


「あんたにしては考えたわね―――褒めてあげるわ、ジル!」

「展開、アグニーラ!!」


 巨大な炎の槍がヘイゼルの周囲に浮かび上がる。そして二本の槍の矛先は眼前のゴーレムではなく、真上へと向いていた。


「突き崩しなさい!」


 ごおっ、と音を立てて炎槍がミサイルのような勢いで飛び立っていく。これほどまでに凄まじい魔法であれば、命中さえすれば確実に天井を穿ち、倒壊した瓦礫をゴーレムの頭上へ浴びせることができるだろう。


 そう‥‥命中さえすれば。


「高魔力反応、感知―――排除シマス」


 4m以上のアダマント製の巨体が、軽々しく宙へと跳ねる。そうしてヘイゼルの炎槍を、いとも簡単に掴み取ってしまった。頼もしい切り札であったはずの炎槍はアダマント・ゴーレムの手によって奪われ、僕たちの方へと再び跳ね返って来る。


「まずい‥‥ボクの後ろに隠れて!!」


 大盾を突き立て、リリィは僕とヘイゼルを庇う様に立ち塞がった。そしてその瞬間、耳をつんざくような甲高い爆発音が鳴り響いた。


「流石ヘイゼルの魔法、凄い威力だね!ボクの全力でも、完全に威力を殺しきれなかったよ‥‥!」


「リリィ、その腕――!」


 ぶらん、と彼女の右腕が力無く垂れ下がっている。炎槍をたった一人で正面から受け止めたせいで、相当なダメージを負ってしまったのだろう―――これではもう、戦えない。


「ジル、アンタあの怪物と会うのは初めてじゃないんでしょう?何か弱点とか知らないの‥‥?」


「無茶言うな!これといった弱点が無いのがあのゴーレムの恐ろしいところなんだ」


 弱点が無いということは、正攻法が無いということ。アダマント・ゴーレムなんて、本来真正面から殴り合って勝てるような相手ではないのだ。そもそもこんな化物が、どうしてこんな古びた地下遺跡なんかに居るんだよ‥‥!


「じゃあどうやってコイツを退けたの?一度会ったことがあるなら、その時はどう対処したのよ!?」


「それは‥‥」


 あの時は確か、ハムさんと一緒に―――。


「ジル様!ぼーっとしないでください!!ヤツが来ます!!」


 小型化したエイミーが、僕の耳元でやかましく叫ぶ。彼女の忠告通り―――ゴーレムは巨体を揺らしながら僕たちの方へと急接近していた。


「話す隙も与えてくれないってワケね‥‥!」


 ヘイゼルは無数の炎の玉を空中に浮かべ、マシンガンのようにゴーレムへと撃ちまくった。一発一発が命中するたびに、爆炎と轟音が火花を散らしながら巻き起こる。しかし、怒涛の連撃を喰らっても尚―――怪物の体は恐ろしいほどに無傷であった。


「嘘でしょ!?」


「排除シマス」


 巨木のようなゴーレムの腕が、目にもとまらぬ速度でヘイゼルへと振り下ろされる。アダマントの硬度をもつ怪力無双の巨人に、本気で殴られればどうなるか―――答えは火を見るより明らかであった。


「ッ!」


 あの一撃はたとえヘイゼルであっても受けきれない。反撃をする間もなく、即死だ。


「ヘイゼル!」


 迷っている暇はない‥‥原種の力を解放して、ゴーレムの腕を切り落とす。僕は反射的に肉体を原種化させた。そしてヘイゼルの眼前に割って入り、力いっぱい大太刀を振りかざした。


「ッ!?」


 ガキン!と、聞くに堪えない衝撃音が体全身に響き渡る。残酷なことに、原種化したジルの斬撃でさえアダマントの肉体を切り裂くことはできず―――刃は半分ほどの深さで止まってしまっていた。


「硬いな‥‥」


「ジル!離れて!」


 体勢を立て直したヘイゼルが、特大サイズの炎球を撃ち放つ。正面から魔法を受けたゴーレムはわずかに怯んだものの、やはり傷の一つもつくことはなかった。


「ここまでしぶといなんて‥‥ホント、嫌になるわ」


「白旗でも振ってみるか?」


「そうね、あのゴーレムにそれだけの知能があればの話だけど」


「二人とも聞いて―――ボクに考えがある」

 

 真剣な顔で、リリィが呟いた。




 ~居住区・ホル~



「ふわぁ‥‥おはよう、カインさん」


「おう、おはよう」


「あれ、カインさん一人?他の皆は?」


 まだ眠そうな目をこすりながら、寝室からスピカが降りて来た。


「アイツらなら、ちょっくら出かけてるぜ。ついでに言うと俺も今から野暮用があってな―――少しここを留守にする」


「え‥‥カインさんも出かけちゃうの?」


「心配すんな、すぐ戻って来るからよ」


「別に心配なんかしていないよ、でもちょっとだけ‥‥寂しいな」


 小麦色の美しい長髪をくるくると指で弄びながら、スピカは照れ笑いした。


「寂しい?外の居住区とは違って、ホルにはお前を受け入れてくれる住人達がいるだろ。区長のじーさんなんてこの家まで使わせてくれてるじゃねーか」


「そ、それはそうなんだけど‥‥!私を見ても気味悪がらない人に久しぶりに会えたから、たくさんお喋りしたいなー、なんて‥‥」


「―――しゃあねぇな、ちょっとだけだぞ?」


 少しくらいなら問題ないだろう。酒場でのスピカの扱いを目にしていたカインは、彼女の提案を快く受け入れた。


「ほんと?やったぁ!じゃあまずはね、カインさんの故郷の話から―――」


 そしてカインは知ることになる。お年頃な少女の、飽くなき好奇心の強さを。




~地下遺跡~



「―――その作戦、私の負担多すぎじゃない?」


 リリィの考えを聞いたヘイゼルは、少し不満げな様子で呟いた。


「だけどやってみるだけの価値はあるはず。頼んだよ、ヘイゼル」


「はいはい、分かりました。やればいいんでしょやれば‥‥ま、他に方法も無いしね。お望み通りフルスロットルでいくわ、消し炭にならないよう注意しなさい」


 その言葉を皮切りにして、ヘイゼルの体に変化が起き始めた。美しい白銀の長髪は真紅に染まり、真紅の瞳は黄金へと変わっていく。“イルヴィナス・ヴェルノーラ”魔力を極限まで解放したヘイゼルの強化形態である。


彼女はこの力で、神刻を使用した僕と互角以上に渡り合い、ビオニエ・トーナメントではギルド推薦の冒険者であったリリィすら破っているのだ。


「よし、ボクは手筈通り結界を張る。ジルは後ろに隠れていてくれ!」


 大盾を突き立て、リリィは魔力で編み込んだ強力な守護結界を展開する。結界は巨大な壁となって二人の前に立ち塞がった。


「無理するなよ、リリィ」


「大丈夫だよ‥‥僕だって騎士の端くれだ。少しの時間くらい稼いでみせるさ‥‥!」


「対象ノ急激ナ魔力上昇ヲ確認―――硬度ヲ最高レベルニ移行シマス」


 ヘイゼルの変化に異変を感じたゴーレムは、アダマントの体を更に活性化させた。ただでさえ傷一つ付けることのできなかったゴーレムの肉体が、更に硬く、強靭に生まれ変わっていく。しかし、先手を打たれ不利になったというのに―――焔の魔女は微かに笑っていた。


「無駄よ」


 チリチリと焦げ付くような匂いが、周囲に充満する。呼吸をするだけで鼻腔が熱くてたまらない―――まるで灼熱のサウナだ。先ほどまで冷ややかな空気に包まれていた空間が、みるみる内にヘイゼルの魔力で塗り潰されていく。


「立っているだけでここまで周囲に影響を及ぼすなんて‥‥流石だな」


 結界の中にいてもこの暑さだ。外はもっと気温が高いに違いない。


「降り立つ災い、七度の応報の果てに業火の海へと帰る。走り、駆け、焼き尽くす―――我は焔の支配者、千の屍を前に、いまこそ浄土の眼を開こう」


 ヘイゼルの詠唱が始まった。それと同時に、先ほどまで暑かった周囲の気温が徐々に下がっていく。


「熱が引いているけど‥‥大丈夫なのか」


「分からない、でも今はヘイゼルに任せるしかないよ」


 ここでどうこう言っても仕方がない。僕たちはたった一人でゴーレムに向き合うヘイゼルを、ただじっと見守っていた。


「さぁ、目覚めの時よ」


「ジ、ジル様!リリィさん!ヤバいのが来ます!!目、目ぇ閉じてくださいっ!!」


「ちょ、いきなり何だよエイミー!?」


 小型化していたエイミーが突如として姿を現し、服の裾をぐいぐい引っ張りながら必死に訴えかけている。そんなに慌てていったいどうしたと言うのか―――その答えを、僕は身をもって知ることになる。


「“アグル・アニグマス”」


 詠唱を終えたヘイゼルの杖から、光熱を帯びた強大な閃光が放たれる。そしてその光を目にした瞬間、僕は本能的に瞳を閉じた。アレは直視してはいけないモノだ、もし少しでも見つめようものなら眼球は焼け焦げ、二度と視力は戻らないだろう。


「くッ‥‥ァ!」


 苦悶の声を上げるリリィ。結界の外で何が起こっているのかは分からない‥‥だが、ヘイゼルの魔法はアダマントの怪物だけでなく、背後にいる僕たちをも蝕んでいる。結界を維持するだけで、リリィには相当な負荷がかかっているんだ。


「リリィ、僕の魔力を―――」


 瞳をきつく閉じたまま、僕はリリィの手にそっと触れた。そして、腹の底から無限に溢れかえる原種の力を彼女へと流し込む。この結界が壊れてしまえば僕たちはきっと、ヘイゼルの炎で塵となって燃え尽きてしまう。それだけは何としてでも避けなければならない。


「ありがとうジル‥‥でも‥‥」


 でも、もう限界だ。


 リリィがそう口にするより早く―――事態は終息した。全てを焼き尽くさんと荒れ狂っていた地獄の業火が、突如として止んだのだ。


「間に合った‥‥後は任せたよ‥‥ジル」


 そう力無く言い残すと、リリィは膝から崩れ落ちた。結界を維持し続けてくれた彼女を労い、介抱してやりたいが―――今は先にすべきことがある。


「装甲ニ軽微ナ損傷アリ‥‥戦闘継続可能、問題アリマセン」


 ヘイゼルの渾身の魔法を受けても尚、アダマント・ゴーレムは倒れない。どれほどの高温で焼こうが、あの鉱物は焼き尽くせない―――そんなことは知っている。ヘイゼルの魔法は必殺の一撃として放ったのではなく、ただ、ヤツの体温を限界にまで高めるためだけに放ったのだから。


「借りるぞ、ベロー」


 彼から譲り受けた霞隠れの杖。この杖の力は、ただ霧を出して敵を欺くだけではない。


「―――打水(うちみず)


 ベローの真似をし、僕はそう言い放つ。僕の呼び声に呼応した杖は急激に魔力を帯び、怒涛の水流を発現させた。激流はゴーレムの元へ一気に押し寄せ、いとも簡単にヤツの身体を呑み込んでいく。


 ただの水で怪物を倒せる道理はない。だが―――極限まで熱せられた今のヤツにとって、この冷たい水の温度差は致命的だ。


「排除シマス」


 体中から水蒸気を放ちながら、アダマントの巨人は僕の元へと向かってくる。


「悪いが、排除されるのはお前の方だ」


 地面を大きく蹴り、ゴーレムの懷へと跳躍する。迎撃するヤツの腕を回避し、僕は勢いそのまま大太刀をゴーレムの頭部へと一気に振り下ろした。


 刃がゴーレムに触れた途端――ガリガリ、バキバキ、と鉱物の抉れる音が残酷に響き渡っていく。


「損傷甚大、コレハ一体―――」


「どれだけ頑丈な鉱石で造られていても、石であることに変わりは無い。温度差を利用し、結合に歪みを作って脆くしてやれば‥‥まぁ、後は簡単だ」


 太陽割れ(サンクラック)、若しくは類似の現象。


 ヘイゼルの炎で加熱され膨張したアダマントの内部構造を、霞隠れの杖の水流で冷却し、収縮させる。その際に生じた歪みを利用し、結合力以上の力を加えてやれば、石は割れる。ガラス製のコップに熱湯を注ぐと割れてしまうのと理屈は似たようなものだ。許容量を超えて自壊するまで待つ時間は無いので、殴って破壊した―――それでもかなりの力は必要としたが。


「戦闘継続不可能、太陽ニ光アレ‥‥」


 アダマントの肉体に亀裂が走る。砕けた頭部から発生したヒビはやがて全身を駆け巡り、無敵の巨人を粉々に粉砕してしまった。ゴーレムは影も形も無く消え去り、足元には砂にまみれたアダマントの破片が飛び散っている。


 最硬のゴーレムは、原種の刃の元に打ち砕かれたのだ。


「何とかなったわね‥‥」


 ヘイゼルはほっと胸を撫でおろしながら、僕の元へと歩み寄って来た。髪の色も、瞳も、元の彼女へと戻っているようだ。


「だいぶギリギリだったけどな、今でも腕がジンジンしてるし」


 ヤツがもう少し硬ければ、砕けていたのは僕の腕の方だったかもしれない。


「大手柄だな、リリィ。こんな作戦、僕じゃ絶対思いつかなかった」


「えへへ、正直賭けだったけどね‥‥ジルが馬鹿力で助かったよ」


 そう言って、リリィは屈託なく笑う。ボロボロになりながらも勝利に導いてくれた彼女を、僕は心の底から尊敬した。


「剣も回収したことだし、早くここから脱出しましょう。さっきのムカつく老人を追いかければ出口に辿り着けるはずよ」


「そうだな、リリィはまだ歩くのは辛そうだし僕がおぶっていくよ」


「え?」


 今の戦闘でもっとも消耗したのは彼女だ。傷だらけの身体で歩かせるのは流石に可哀想だろう。


「あ、ありがとう」


 僕の背中で、彼女は静かに感謝の言葉を口にした。


「とんだ怪我の功名ね、こんなことなら私ももっと怪我すれば良かったかしら」


「え、縁起でもないこと言わないでよ・・・」


「ふぅ!どうなることかと思いましたが、私のお陰もあって何とかなりましたねジル様!」


 安全になったのを見計らったように、エイミーが小型化を解いて姿を現した。


「エイミーは何もしてないけどな」


「は?いやいや、誰のおかげでヘイゼルさんの魔法を直視せずに済んだと思ってるんですか?どう考えても私のナイスな忠告のお陰ですよね?」


「あんな眩しい光、言われなくても直視しないっつーの。そもそもお前が一人でに慌ててただけだし」


「うわ、自惚れ過ぎて笑えるんですけど。原種化すると態度までおっきくなっちゃうんですかねぇ?」


「別に態度とか変わってないが?いつも通りだが?ちゃんと頭使おうな」


「は?」


「ああ?」


「はいはい、そこまで‥‥何でナチュラルに喧嘩始めてるのよアンタたち」


 パチパチと手を叩いて、見かねたヘイゼルが仲裁に入った。仕方ない。彼女に免じてこのポンコツ妖精の無礼は見逃してやるとするか。


「カインのことが心配だ、とにかくここを出よう」


「アイツがそう簡単にやられるとは思えないけど―――ま、一度状況を確認した方が良さそうね」


「無事でいてくれよ・・・・!」


 僕たちはイリホルが通ったと思わしき通路を利用して、地下遺跡から脱出した。





~居住区・ホル~



「そこでな、俺はその盗賊に言ってやったんだよ。その子を無事に返さなきゃ痛い目を見るぞってな」


「そ、それで―――?」


「逆上した奴らは人質を置き去りにして、俺の下へ襲い掛かって来た」


「30人全員が!?」


「ああそうだ、だが俺は逃げなかった!一カ所に集まった奴らを逆に利用し、踊り風の大旋風で迫りくる全ての敵を蹴散らしてやったのさ!俺の素晴らしい活躍を見た人質はこう讃えた―――」

「ああ!貴方こそ真の英雄!どうか私を妻として迎え入れてください‥‥ってな!!」


「誰が真の英雄ですって?」


「うおっ!?ヘイゼル!?」


 突如として背後から現れたヘイゼルに驚き、カインは椅子から転げ落ちてしまった。


「えらくご機嫌な様子だけど、こんなところで何をしているのかしら」


「ちょ、ちょっとスピカと談笑をだな・・・」


「あれ?なんか話違うくない?」


「ジル!?いや、違うんだ今から行こうと思って―――」


「サイテー」


「リリィまで!?って、お前なんかボロボロだな、大丈夫か?」


「あ、皆さんおかえりなさい!!」


 笑顔で僕たちの帰りを歓迎するスピカ。彼女の顔を見ると不思議と心が安らいでくる―――仕方ない、カインのことは大目に見てやるとするか。


「ただいま、スピカ。カインの子守りをしていてくれたんだな」


「うん、まぁそんなところかな!」


「子守りしてたのは俺の方だっつーの!まぁいいや‥‥それで?ジルの剣は無事に取り戻せたのかよ?」


 成果を気にするカインに、僕は地下遺跡であったことを全て話してやった。


「アダマントの身体を持つゴーレムって、そんなのアリか!?つーかそれを斬っちまうお前も大概だけどよ‥‥」


「大事なのはそこじゃないけど」


「ああ分かってる、トンデモなゴーレムより肝心なのはイリホルとかいう老人だな。剣を何のために地下遺跡に運び込んだのかも含めて問いただしたいところだが‥‥この国のお偉いさんとくりゃあ、接触するのは難しそうだ」


「まぁでも剣は傷一つなく回収できましたし、あんなジジィ放置でいいですよ放置」


 エイミーの言うことは尤もだ。剣は取り返せたのだし、奪われた理由は少し気になりはするが‥‥正直なんだっていい。残る問題は地下牢に囚われた彼をどうやって救出するか、だ。


「本当なら今頃はこんな国からおさらばできたというのに‥‥カインさんがサボったせいで、時間を大幅にロスしてしまいました」


「でも、スピカは嬉しいな―――だって、皆ともっと長く一緒にいられるってことだもん」


 参ったな、どうやら彼女は相当僕たちのことを気に入ってしまったみたいだ。これでは別れる時が今から思いやられるな‥‥。


「そういえばよ、さっきからずっと気になっていたんだが‥‥」


「なに?」


「後ろのお二人さんは一体何者だ?」


 驚くべき言葉を口にするカイン。彼の指さす通り背後を振り返ってみると――――そこには、ローブに身を包んだ二人の人影がぼんやりと立ち尽くしていた。


「うわ!?え、誰!?というかいつの間に!?」


「落ち着きなさいジル。いつから尾行されていたかは知らないけれど、少なくとも敵意は感じない。無駄に怖がる必要はないわ」


 敵意うんぬんより、知らない間に後をつけられてたっていのうが既に恐怖なんだが!?


「―――いかにも、我らはあなた方と争うつもりは無い」


 そう言って、二人は同時にローブを脱ぎ捨てる。中から姿を現したのは戦士のような装束に身を包んだ、若い男女であった。二人は地面に膝をつき、深々と首を垂れると予想だにしない言葉を口にした。


「ジルフィーネ・ロマンシア殿、どうか我らと共にこの国の王を討ち取ってもらいたい」



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