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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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第82話 見えざる暗躍者

「お休みのところ失礼します、アカネ様。ラ・バレンティアより御客人が参られています」


 デンデラ大砂漠に輝く黄金宮殿。荘厳な城内に一室だけ設けられた、最高位の賓客のみ立ち入ることが許される英雄の間。王の居室と比べても遜色のない豪華絢爛なその客室は、王国の救世主たるアカネ・トウジョウによって半ば私物化されていた。


「後にせぇ、今から丁度昼寝するとこや」


「ですが、もう扉の前まで―――」


「知らんわ。待たしときゃええねん、そんなもん。ちゅうか御客人で誰や、名前は?聞いとんか?」


「えっと―――」


 お世話係の侍女が返答に困っていると、まるで救いの手を差し伸べるかのように部屋の扉が勢いよく開いた。そして、一人のローブ姿の男が許可も無しにずかずかとアカネの目の前にまで上がりこんできた。


「失礼、レディ―――ここから先は二人にしてくれないか」


 男は全身を覆うローブを脱ぎ、その素顔を侍女の前へと晒しながら呟いた。


「ひっ!は‥‥はい!」


 侍女は世にも恐ろしい異形を目にしたかの如く、怯えるように逃げ去る。通常であればこの上ない無礼に値するが――今回の場合、彼女の行動は人としてごく自然なものだろう。なぜならば、男の顔には面積の大部分を占める巨大な単眼があるばかりで、とても人間の姿をしていなかったからである。


「魔族ってのも大変やなぁ。なぁんも悪いことしてなくても、すぐ気味悪がられてまう」


「俺も人間社会での生活は長い、慣れたことだ。むしろ余計な人間が近寄ってこない分、より有意義に時間を使うことができる」


 魔族の男はごくごく自然な様子で、ドでかいソファでふんぞり返っているアカネの前の椅子へと腰かけた。‥‥彼の名はミカカダル、アカネと同じギルド連盟に属する冒険者である。


「それにしても―――えらい早い到着やったな。約束のモンはもう用意できたんかい」


「無論だ、用も無いのにわざわざお前に会いに来る訳がないだろう」


「はいはいそうですか。んで、肝心の結果は?」


「見れば分かる」


 そう言って、ミカカダルは厳重に封がなされた書筒を手渡した。アカネはそれを乱暴に紐解くと、食い入るように読み始める。


「俺には何が何だかよく分からないが―――ターゲットの少年とお供の妖精について記された資料はそれで全部のはずだ」


「・・・なるほどなァ、やっぱり真っ黒かい」


「しかし―――解せんな。ターゲットについての情報は先んじてボスから共有を受けていたハズだ。だというのに、何故わざわざこんな回りくどい方法を?不足情報があれば、直接ボスに聞けば済む話だろう」


「肝心なことは何にも教えてくへんよ、あの人は。その証拠に―――この紙切れにもウチの知らんヤバイ事実がつらつらと書き記されとる」


 アカネはやるせない表情のまま、小さな溜息をついた。


「非常特殊工作機体・TYPE-FAIRY、型式番号はVZ(ブイズィー)―001。ただの妖精やないとは思うとったけど、まさかアーク管理者お抱えのスーパーAI様やったとはな。どうりで出会ってから一回も口きいてくれへんかった訳や」


「面倒な相手なのか?」


「せやなぁ‥‥この世界の性質上、本来やったら戦いにすらならんほどの相手やろうな。喧嘩売ることすらアホらしい、キミらに分かるように例えるなら―――神の遣いみたいなもんや。今は誰かさんのせいで本領発揮でけへんから心配ないけど‥‥な」


「また俺の知らない世界の話か―――何でもいいが、あまりボスの神経を逆撫でるような真似はしない方がいいぞ。いつまでも油を売ってないで、さっさとターゲットをラ・バレンティアへ連れて行くんだな」


「それはウチが見極める。例えボスの命令であったとしても、ジルフィーネに相応しい力が無ければここで殺すだけや」


 確固たる意志を持って、アカネはそう強く断言した。


「そうか。では陰ながら、その少年がお前の御眼鏡に適う人物であることを祈っているよ」


 それは別れの台詞であった。ミカカダルは静かに席を立ち、再び全身をすっぽりと覆う灰色のローブを身に纏う。特徴的な魔族特有の容姿も、この服装であれば騒ぎ立てられることもない。


「おう、ほな―――また」


 異形の客人が去り、部屋には再び穏やかな静寂が訪れた。午後のうたた寝には勿体ないくらいの心地よい時間の中で、アカネは一人物思いに耽っていた。


 非常特殊工作機体―――ある種の都市伝説的な存在として、まことしやかに囁かれてきた電脳世界の無慈悲かつ絶対的な執行者たち。そんな恐ろしい存在が愛らしい妖精の御姿を真似ているとは、なんと悪趣味なことだろう。


「正直言って、ウチの本命は“古代遺跡”やってんけどなぁ」


 アカネは誰に聞かれるでもない独り言を、憂鬱そうな表情のまま吐き捨てる。力無い彼女の言葉は、暖かな砂漠の風に乗ってどこかへと消え去っていった。



~居住区・ホル~



「つまり、エイミーの他に同じ運営側のAIがこのユフテルに存在しているかもしれないってことか?」


「あくまで推測の域を出ませんが‥‥可能性は否定できません。ですがもし、それが事実であれば私の存在意義が根底から揺らいでしまうことになります」


「―――存在意義、ねぇ。確か魔王ガイアによってアークの管理エリアが陥落する直前に、エイミーはユフテルへと送り出されたんだよな?」


 電脳世界が魔の手に落ちる前に、アークの開発者である御影光の計らいによって彼女は事なきを得た。そして、ユフテルで目覚めるとされる選ばれし勇者(プレイヤー)を導く使命のために1万年間をひたすらに待ち続けた‥‥というのが彼女の話だったはず。


 もしそれが間違いない事実であるのならば、アカネはこの世界において存在するはずのない異質な存在だ。エイミーの言うお供AIが居るのかも含めて、彼女の目的を洗いざらい吐いてもらわなければならない。


「はい。マザーコンピューター【ノア】によって選出された、ただ一人の救世主を導き‥‥電脳世界に再び平和を取り戻すこと。それが私に課せられた最後の命令でした」


「ノア‥‥ビオニエで言ってたヤツか」


 アークという世界そのものを支える神のような存在で―――現在も機能はしているが、何処で、どのような状態にあるのかは分からないというのがエイミーの話だったな。


「そのノアが、アカネを僕と同じように無数のプレイヤーの中から選び取ったという可能性は無いのか?」


「御影光の言葉が嘘でなければ‥‥選出されるのは一人だけのはずです。非常特殊工作機体も、私以外に再調整されたモノはありませんでしたから―――」


「僕以外のプレイヤーも、エイミー以外の運営側のAIも存在するはずがない‥‥か」


 スケールが大きすぎて具体的なイメージが湧かないが、不可解な状況が起こっているということだけはエイミーの反応からも容易に感じ取れる。僕と同じプレイヤーが、この世界に存在した。その事実だけ見れば、個人的には少し嬉しいような気もするのだけれど。


「ま―――今ここで頭を突き合わせて考えても仕方ない。全ての答えを得るには、アカネともう一度接触するしかなさそうだな」


「そう‥‥ですね」


 僕の提案を聞き、エイミーは心底暗い顔で呟いた。


「何かまだ気になる?」


「え?あ、いや!何でもありません!」


「?」


「で、では私はこれで!お休み中のところ申し訳ありませんでした!」


 エイミーは慌ただしい様子で、逃げ去るように部屋から飛び出してしまった。


「分かりやす過ぎだろ‥‥」


 あの感じだと、まだ何か引っかかっているみたいだな。特殊な彼女の立場上色々と思うところがあるのだろうが―――もう少し気楽に構えても罰は当たらない気がする。


 なんて思うのは、僕が今の現状をどこか他人事のように考えてしまっているせいなのだろうか。


「ふぅ」


 今日は思考がまとまらない―――地下牢でも散々痛い目を見て疲れたし、もう眠ってしまおう。僕は再びベッドに横たわり、静かに目を閉じた。






「ジルってば、ちょっと休み過ぎじゃない?こっそり部屋を覗いて来たけど一向に起きる気配無かったよ?」


 リリィはそう言って、少し不機嫌な様子で二階から降りて来た。


 ジルが眠りについて数時間。陽はとっくに沈み、大砂漠の王国には夜の静けさが訪れていた。昼間の暑さは鳴りを潜め、心地の良い涼しげな風が吹いている。


「地下牢暮らしで疲れがたまってんだろ、寝かせておいてやれよ。区長の爺さんも、しばらくこの家使っていいって言ってたことだしな」


「そうだけど‥‥って、あれ?スピカは?」


「忘れ物があるって数分前に出ていったぞ」


「え?こんな時間に一人で行かせたのかい!?」


「一応声はかけたんだが―――同じホルの中だから大丈夫だって同行拒否されちまった。それより‥‥これからどうなると思う。ジルは直ぐにでもこの国を出たがると思うか?」


 武器の手入れをしながら、カインはごく自然な素振りで言い放った。


「‥‥分からない。彼の考えていることは、ボクなんかじゃ予想もつかないよ」


「そうか―――まぁ、まだお前ら知り合って日が浅そうだもんな」


「何か見透かされてるみたいで腹立つ‥‥分かるの?そういうの」


「俺も昔は色んな冒険者の一団を見て来たからな。メンバーの具合は一目見ればだいたい分かっちまうのさ」


「ふん、どうせボクは経験の浅いよわよわ冒険者ですよーだ」


「わ、悪かったって‥‥」


 卑屈そうにぼやくリリィを気遣うように、カインは申し訳なさそうに呟いた。そんなカインの気持ちを知ってか知らずか、リリィはもたれかかるようにテーブルに突っ伏した。


「おいおい、寝るなら上の部屋で寝ろよ?あとついでにヘイゼルも上に連れてってくれ、一階は風通しが良いから風邪を引いちまうかもしれねぇ」


「スピカが心配だから、まだ寝ない」


「へいへい、そうかい」


「ただいまー!」


 これ以上ないくらい完璧なタイミングで、少女の声が元気よく静かな室内に響き渡る。そして、今が夜であることを思い出したのか、はっとした表情を浮かべて申し訳なさそうに笑みを浮かべた。


「おかえりスピカ―――うわ、凄い荷物だね!?」


「えへへ~、お泊りグッズ家から沢山持ってきちゃった!」


 どすん、彼女は背負っていた大きなリュックを置いた。彼女の華奢な体でよく運べたものだと感心してしまうほどに、たくさんの荷物が詰まっている。


「ね、皆で何の話してたの?!もしかして好きな人の話?!」


「おう、良く分かったな」


「いや全然そんな話してないけど」


「スピカは好きな人いるのか?」


「え?!い‥‥いないよぉ、もう!」


 そう言ってスピカは頬を真っ赤に染めて笑った。


「・・・」


 この時、奇しくもリリィとカインは二人して全く同じ思考が脳に浮かんでいた。だがそれをあえて口にはせずに、生暖かい微笑を浮かべながら見守っているだけであった。


「ねぇねぇ!リリィさんは付き合ってる人とか、好きな人とか居るの?」


 スピカはリリィの正面の席に座り込むと、興味津々な様子で詰め寄った。


「え?いや、いないよ?」


「その澄ました顔―――絶対嘘だ!」


 しかし、純粋な子供の瞳を前にして、リリィのポーカーフェイスは1秒ともたず看破されてしまった。


「いいじゃん教えてよ~!スピカの好きな人も教えたげるからさ!」


「だ、だから別にいないって!」


「それ―――私も気になるわね」


 まるで今まで嘘寝を決め込んでいたかの如く、あまりにも都合の良いタイミングでヘイゼルが目を覚ます。寝起きの癖に、やたらしっかりとした足取りでスピカの横へと座りこんだ。


「ヘイゼルまで!?てか絶対起きてたよね!?」


「ほら、こういうのは男子禁制でしょ?アンタはさっさと上がりなさいな」


「ま、そうなるわな―――じゃ、頑張れよリリィ!俺はちょっくら夜の散歩にでも出かけてくるぜ」


「え、ええぇ?!」


 もはや、リリィに助けの手を差し伸べる者は存在しない。カインはいたずらに笑いながら夜の闇に姿を消してしまった。



「ったく、ヘイゼルの野郎‥‥面倒なこと押しつけてくれやがるぜ」


 家を出るなり、カインは頭をポリポリとかきながら独り言を呟いた。


「あー、誰だか知らんがもういいぞ。上手く気配を殺しているが、そこに隠れてんのは分かってる。痛い事されたくなかったらとっとと出てこい」


 そして彼の呼びかけに呼応するように、一人の男が暗闇から姿を現した。身動きしやすい軽装に手には大きな弓、さらには素顔を隠すために顔全体を黒い布で覆っている。


「―――よく気づいたものだ」


「風の音が明らかに不自然だったからな。見えない何かを避けるよう、いびつな流れをしていた」


「風の音‥‥か。なるほど、次からは気をつける」


「で、どう見ても不審者なアンタはいったい何者だ?この家の周りでコソコソと何してやがった」


 ヘイゼルが不自然に目を覚ましたのはきっと、外で息をひそめるこの男の存在に気が付いたからだ。そしてリリィとスピカを不安にさせないよう、ごく自然な流れで俺を外へ向かわせたのだろう。病み上がりだというのに、何とも勘の鋭いヤツだ。


「お前に答えてやる義理はない‥‥が、強いて言うなれば警告だ」


「警告だぁ?」


「これ以上、小麦色の髪の少女に関わるな」


 謎の男はカインに対し、きっぱりとそう言い放った。


「お前達の行為はいたずらに災厄を助長するだけだ。命が惜しくば、一刻も早くこの国を出ることだな」


「嫌だ、と言ったら?」


「―――警告はした」


 男は消え入るような声で呟くと、おおよそ人間とは思えぬ跳躍力で飛びはねた。そうしてそのまま、忍者の如き身軽さで家々の屋根を飛び越えて行き―――途端に姿が見えなくなってしまった。




 ~サン・クシェートラ、中央教会~


「イリホル様、ただいま戻りました」


 太陽を崇拝するサン・クシェートラには、祈りをささげるための教会が国中に点在している。どれも日常的に庶民が出入りする憩いの場として愛されているが、ここ中央教会だけは少し違った。宰相イリホルによって改築されてからは、彼の許可を得た者だけしか立ち入ることを許されない厳格な場所へと姿を変えたのである。教会入口にはイリホルの私兵が24時間警備しており、物々しい雰囲気を放っていた。


「デネボラか、こんな夜更けにまでご苦労であった。首尾は順調か?」


「ええ、ハビンの行政官共にはきっちりと噂を流しておきましたわ。クヌム王が戦の準備をしていると知った瞬間、連中途端に青ざめて‥‥ふふ、イリホル様にも見せてあげたかったくらい見ものだったんですよ?」


「我が王国と隣国ハビンとの兵力差は10倍以上だ、慌てふためくのも無理はなかろう」


「でも―――本当に情報を流してよかったんですか?クヌム王が侵攻する頃には、ハビンからは誰も居なくなってるんじゃありません?」


「案ずるな、ハビンには外征騎士アズラーンの騎士団が駐屯していると調べがついている。アズラーンがあの女に敗れて地下に放り込まれて以来、奴らは沈黙を続けているが‥‥王が兵を上げれば必ず動きを見せる。ハビンの衛兵どもと結託し、徹底抗戦の構えを示すだろう」


 イリホルの言葉を聞き、デネボラはますます不思議そうな顔を浮かべた。


「そこまで分かっていて、どうして事前に情報を?これでは連中に戦の準備をする時間を与えたようなものでは?」


「それでいいのだよ。ハビンには滅び去る前に、一仕事やってもらわねばならぬからな」


 そう言って、イリホルは不敵に笑う。彼の部下であるデネボラでさえ、その微笑みの下に隠された邪悪な思惑を推し量ることはできなかった。


「ワシはまた遺跡へ潜る、お前は教会に不審な輩が近づかんか見張っておけ」


「―――はっ」




 ~翌朝・居住区ホル~



「では、今後の流れを要約しますね」


「頼む、エイミー」


「まずは奪われたジル様の――というか、私の剣を奪還します。アレは世界に二つとない超激レアなアイテムなので、こんなところで失う訳にはいきません。この剣を取り戻すまでは、サン・クシェートラを出立することはできないと考えてください」


 次の日の朝、僕たちは頭を突き合わせて作戦会議をしていた。まぁ作戦会議といっても、それほど物騒なものではない。アカネによって大きく狂わされたプリシードまでの道のりを、軌道修正する―――といった風な内容だ。


「そして剣を無事取り戻した後、地下牢に囚われている“とある人物”を救出して王国から退散―――という流れになるのですが‥‥」


 そこまで言って、エイミーは目を細めてジルの顔をまじまじと見つめた。


「なんだよ?」


「いえ、ジル様とヘイゼルさんを守ってくれたことには感謝していますけど‥‥もう一度地下牢に戻るというのは、やっぱり反対です。その人物のためにもう一度宮殿へ向かうとなると、また親衛隊とやらに遭遇する可能性が極めて高い。最悪の場合、私達全員が囚われてしまう可能性だってあります。今も地下牢の同じ場所に囚われているとも限りませんし、命の恩人とはいえ、そこまで危険を冒す必要は無いのでは?」


 と、エイミーは反論の余地が無いほどに完璧な意見を堂々と述べた。


「でも‥‥また戻るって約束しちゃったし」


「そーんな口約束、律儀に守る必要ないですよ。それに相手は囚人ですし、もしかしたらとんでもない極悪人かも!」


「極悪人が人助けなんかしないだろ」


 エイミーの言うことも分かる。だけど、彼には何かと世話になった。暗い地下牢から出してやるくらいの恩返しはしたい。


「ジルの剣は遺跡にあるって話だったよな?なら、今から取ってこいよ。その間、俺がちゃちゃっと地下牢まで行ってソイツを連れ出してきてやる」


「カインさんそれ本気で言ってるんですか?」


「おうよ、俺はいつだって本気だぜ!」


 そう言ってカインは、得物である棍を勢いよく振り上げた。


「それは流石に危険じゃないか?」


「心配すんなジル。顔の割れてるお前やヘイゼルと一緒だとかえって動き辛ぇ。単独の方が上手く立ち回れるってもんだ。まぁ、俺の腕を信用できねぇって言うなら―――話は別だがよ」


「‥‥任せていいのか、カイン」


「ああ、任せろ」


 僕の問いかけに、カインはニタリと笑う。ただ勢いで無茶を言っているのではない。単独でそれを成し遂げる実力と自身に明確に裏付けされた、堂々たる宣言であった。


「ヘイゼルとリリィもそれでいいか?」


「ボクはいいと思うよ。ただし、カイン救出作戦!なんて展開になるのはごめんだからね」


「そんなヘマするかよ!」


「なったらなったで別に構わないわよ。その時は私があの黄金宮殿ごと地下牢を吹き飛ばしてあげるから」


「物騒だなぁ」


 ヘイゼルが言うとマジなのか冗談なのかが分からないので、割と怖い。


「問題はどうやって遺跡に潜るかだな」


「そうですね、剣の在処は私のスペシャルなセンサーで何となく分かりますが‥‥肝心の遺跡までの道のりはさっぱりです」


「そもそも遺跡ってどこの遺跡なの?大砂漠に眠る地下遺跡の数は数百以上って言われてるけど‥‥まさか手当たり次第に探す訳じゃないよね?」


「は?」


 耳を疑うようなセリフを、リリィは軽々と口にした。


「えっ、知らなかったの?!遺跡遺跡って言うから、てっきりボクは場所がどこなのか見当がついているのだとばかり思ってた‥‥」


「いや、全くついてません」


 というか、あんまり深く考えてませんでした。


「数百以上ある地下遺跡の中から、たった一本の剣を見つけだす‥‥うーん、普通に無理ゲーですね。というか詰みです、詰み」


「そ、そんなこと言うなよエイミー!何か方法が‥‥」



「何や?えらい困っとるみたいやな?」


 焦る僕の言葉を遮るように、突如として家の扉がガチャリと開いた。


「ガイドならここに一人おるで?それもとびっきり強くて、別嬪なガイドがな」


「お前は‥‥!!」


 姿を現したのは他でもない、僕たちを貶めた元凶―――アカネだった。



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