第81話 救出、そして
「―――」
激しくぶつかり合う金属音を背中に聞きながら、僕は暗がりの地下牢を歩いていた。目指す先はアズラーンが用意したと言う石室の抜け穴、そこに辿り着くまでは何としてでも意識を保ち続けなければならない。無力な自分を恨むのは、ここから無事に脱出してからの話だ。
「ヘイゼル‥‥おい、大丈夫か」
かすれた声で呼びかけてみるが、ヘイゼルは一向に目を覚まさない。まるで人形になってしまったかのように脱力し、全体重を僕に委ねている―――肩を貸しているというよりも、もたれかかっているという表現の方が適切だ。それほどまでに、今の彼女は消耗している。
「ヘイゼルが居た石室にも何か細工がしてあったのか‥‥」
石室の呪いとカジャの釘とやらで、アズラーンは魔力を吸いつくされていた。ヘイゼルも同様に気づかぬうちに魔力を奪われていたのかもしれない。
「キハハハハハハ!!!戻って来たか囚人共!!折角の幸運をみすみす逃すとは、太陽も青ざめるほどの愚かさよな!!」
「お前は‥‥!!」
石室までの道のりは数分前に歩いて来た暗い廊下の一本道だけだ。そこを通るとなれば当然、詰所の前で遭遇したこの男―――トトメスと遭遇してしまうのは避けられなかった。
せめて都合よく気絶したままでいてくれれば良かったのだが‥‥現実はそこまで僕に優しくは無い。彼は先ほどよりも殺意を増した様子で、僕の行く手を塞いでいる。
「さて、見たところ炎使いの女は動けぬようだが‥‥貴様一人で俺の相手が務まるのか?数分であれば女が目覚めるまで待ってやってもいいぞ?キハハハハハハ!!!」
戦闘は避けられるはずもない、だが今の状態のまま戦えば確実に負ける。ヘイゼルが目覚めるまで待つなんてもっての外だ―――時間稼ぎのための対話が通じるような相手とはとても思えない。
「せめて剣があれば‥‥」
「剣?ああ、そうか。貴様剣使いだったのか、どうりで素手の構えがなっていない訳だ。だが諦めろ貴様の剣はイリホルが遺跡へと運び込んでしまった‥‥貴様はその肉体のみで俺と戦うしかあるまい」
「遺跡‥‥?」
「さぁ構えろ!!死にたく無くば女は捨て置けェ!」
トトメスは両手の刃を鈍く輝かせながら、煮え切らないジルを焚きつけるように叫んだ。一気に距離を詰め、抱えられたヘイゼルの首もろとも彼の体を切り刻まんと恐怖の笑みを浮かべている。
「来る‥‥!」
ヘイゼルを手放すか?いや、それだけでは到底かわしきれない。では回避がだめなら決死の特攻をしかけてみるか?いや、既に攻撃を仕掛けるだけの武器も気力ものこっちゃいない。もはや万策は尽きた、それなら―――。
「なら‥‥どうすればいい?」
「簡単なことだ、踊り風の戦士に助けを求めればいい」
ジルとトトメスの間に一つの影が颯爽と降り立つ。踊り風の戦士を自称する彼は、得物である棍を卓越した技術で振り回し―――トトメスの攻撃を完全に防ぎきってしまった。
「カ、カイン‥‥!」
「よう!探したぜジル、元気にしてたか?」
「どうしてここに!?」
「積もる話もあるだろうが、説明は後だ。今はとにかく逃げるぞ」
そう言ってカインは僕とヘイゼルをいとも簡単に担ぎ上げ、全力で走り出した。
「逃がす訳なかろう!賊の分際で俺の攻撃をいなしたのは褒めてやる‥‥さぁ俺と戦え!!」
「まぁ、追ってくるよな」
「そりゃそうだろ!僕たちのことはいいから、先にアイツを―――!」
「気にすんな、敵と遭遇した時のプランは考えてある。おい!もういいぞ!ジルたちは確保した、派手にやっちまえ!!」
カインが声高らかにそう叫んだ瞬間、地下牢全体が大きく揺れ始めた。
「地震‥‥?!」
いや、違う。こんないいタイミングでそんなの起こるはずがない。この途轍もない衝撃は―――人為的なものだ。
「おのれ‥‥どこまでも小癪な!!貴様たちは必ず殺してやる!このトトメスの凶刃に怯えながら眠れぬ夜を過ごすがいい!!」
風のように走り続けるカインとは対照的に、トトメスは揺れる地面に圧倒され、その場から立ち上がれずにいた。そして何度も響き渡る衝撃に耐えきれず、地下牢の天井が無造作に崩落し―――瓦礫の山が完全に僕たちの背後を防ぎきった。
「呪いみてぇな捨て台詞残すんじゃねーよ、気味悪ぃだろうが‥‥」
「ありがとうカイン、助かったよ」
まさか、こんなところにまで駆けつけてくれるとは思ってなかった。彼が来てくれなければ、かなりマズい展開になっていただろう。本当に間一髪だった。
「もっと早く来てやれれば良かったんだが‥‥如何せん地下水路ってのが迷路みたいに入り組んでてな。ここまでの道を探し当てるのに手間取っちまった」
「地下水路を通ってここまで来たのか―――いや、そもそもどうして僕がここにいるって分かったんだ?」
「現地の協力者のお陰さ。それよりヘイゼルは無事か?気を失っているみたいだぜ?」
「彼女は大丈夫、少し休めば目を覚ますと思うよ」
僕とヘイゼルは、カインに担がれたまま地下牢を奥へ奥へと進んで行く。そして目的地であったはずの石室を通り過ぎ、床に大きな穴が開いた異質な廊下を発見した。カインは恐らく、この穴を通って僕の元へやって来たのだろう。
「ここから飛び降りる。ちと高ぇが、我慢しろよ」
「え、ちょっと待って。高いって具体的に言うとどのくらい――」
「よっと!」
「聞いちゃいねえ!!」
カインは何の躊躇いもなく穴の中に身を投げた。その瞬間‥‥ふわっ、と体全身がむず痒くなるような感覚が僕を襲う。高さにしておよそ10mの落差を、僕とヘイゼルはカインに担がれたまま味わうこととなったのだ。
「うし、何とかなった!」
「殺す気か!?」
僕はふらふらとよろめきながらも、カインの腕から離れて一人で立ち上がった。着地の衝撃はカインがうまく流してくれたのか、全くと言っていいほど無かったが、あの急流すべりのような独特な感覚は二度と御免だ。あと数m落下距離が長ければ、意識が飛んでいた自信すらある。
「・・・」
そして、降り立った先は石造りの通路がどこまでも続く、まるで絵に描いたような地下水路であった。下水のようにひどい匂いはせず、ゆらゆらと脇を透明な水が流れている。
「ジル様ああああ!!!よくぞご無事で!!」
「その声はエイ‥‥とぅわッ!?」
まるで弾丸のような勢いで、エイミーはいきなりジルへと飛びかかる。予想外すぎる不意打ちに対応できず、ジルの体はきりもみ回転まじりに吹き飛んでいった。
「お怪我は?!変な装置とか頭に埋め込まれたりしてませんか!?」
「だ、大丈夫――けど今の一撃が割と致命傷かも‥‥がくっ」
「え、ちょ、ジル様!?ちょ!!起きてくださいジル様!!だ、誰かッ!誰か救急車呼んでくださいッ!!」
完全に伸びきってしまったジルの上に馬乗りになりながら、エイミーは訳も分からず叫びまくった。疲弊しきったジルにとどめを刺したのが自分自身の強烈な体当たりだったとは―――彼女が知る由は無い。
「落ち着きなよエイミー、彼は無事だ」
リリィはぐったりとしたジルをお姫様の如く抱き上げると、ジメジメとした地下水路を真っ直ぐに進みだした。
「追っ手が来る前に早く逃げるよ。カイン、先導して」
「へいへい、簡単に言ってくれるぜ全く。どこかの騎士様が予定より派手に暴れまくったせいで、地下牢どころか水路の外壁までボロボロだ。なるべくさっさと進むぜ」
「あ、暴れまくったって――失敬な!カインがジルを救出したら、ボクの戦槌で地下牢を支える支柱に衝撃を与えて攪乱する作戦だっただろう!?ボクはちゃんと作戦通りに動いた、この建物が脆すぎるのが悪いんだよ」
「ならそういうことにしておくか」
「何その言い方‥‥ちょっとムカつく」
踊り風の戦士と戦槌の騎士による電撃的な救出作戦は、アズラーンという幸運な外的要因も重なり――驚くほど簡単に成功した。崩落した地下牢の天井が行く手を阻み、追っ手の誰一人として、彼らの後を追うことはできなかったという。
~居住区・ホル~
「あ、みんなお帰り!」
「すまねぇスピカ、ちょっとベッド借りるぜ」
区長の家に着くや否や、カインは気絶状態のヘイゼルをベッドに寝かせてやった。横たわった彼女の様子はとても穏やかで、静かに寝息を立てている。
「この様子だと、しばらくすれば目を覚ますだろ。後は付けられてねぇなリリィ?」
「大丈夫、あの城からは誰もボクたちを追ってきてるヤツは居なかったよ」
「上出来だ」
一仕事終えた、と言わんばかりにカインはどっしりと椅子に腰を下ろす。少し緊張感が薄れた彼を見て、僕はようやく現状についての問いを投げた。
「あのさ、カイン。疲れてるとこ悪いんだけど‥‥ここどこ?」
「ホルって名の居住区だ。今は訳あって区長の家を間借りさせてもらってる。隠れ家としては申し分ねぇし、安心していいぜ」
「そ、そっか」
何故この国の区長さんの家を間借りしてるのか、経緯が全くもって不明だけど‥‥まぁ、いっか。全員無事で再会できたんだし、これ以上ない最良の結果だろう。
「あの、お兄さん」
「ん?」
聞きなれない声に呼びかけられて、僕は咄嗟に背後を振り返った。するとそこには、やけに見覚えのある一人の少女がモジモジとした様子で立ち尽くしていた。
「あの生贄の祭壇に居た‥‥!え、キミ何でここに居るの!?というか、無事だったんだ!」
「うん、何とか―――それよりお兄さん。あの時は神獣様を追い払ってくれてありがとうね。折角助けようとしてくれたのに、スピカのせいでこんな状況になっちゃって‥‥その‥‥ごめんなさい」
「まぁ、困った時はお互い様だし別にいいよ。キミがカインたちを匿ってくれてるのか?」
「いや、それについてはちょっと複雑でな‥‥この国の事情も含めて話してやるよ」
そうしてカインは、置いてけぼりを喰らっている僕に対してことの経緯を説明してくれた。
「なるほど‥‥祭壇にいた人たちの熱狂ぶりもヤバかったけど、この国の王様も相当に危険なタイプの人間っぽいな」
神話に肖るためだけに、こんな年端もいかぬ少女を生贄にしようだなんて―――普通じゃない。大砂漠を支配する王国として、卓越した建築技術や高度な文明を誇っている割に…人として肝心な倫理観のレベルは小学生以下らしいな。
こんなところに長居をする理由はない。だが‥‥。
「ごめん、僕からも色々と話したいことはあるんだけど―――先に少し休ませてくれないか?ずっと地下牢に居たもんだから、ちょっと体が疲れちゃって」
「ああ、勿論だ。今後の方針は落ち着いてから決めりゃあいい」
「部屋なら2階にいくつかあるから自由に使っていいよ、お兄さん」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
いろいろと情報が混在しすぎて頭が重い、それどころか、肉体的な疲労も相まってあまり気分も良くない。一度きっちりと気持ちの整理をして、普段のモチベーションを取り戻さなくては。
手すりを頼りにしながら、2階への階段をのぼる。廊下に出ると、少女の言っていた通り3つほど部屋が見受けられたので、僕は一番近い部屋の扉を開いた。来客を滞在させるための部屋なのだろうか。小奇麗なベッドに大きなテーブル、洒落た絵画なんかも飾ってあるみたいだ。
「―――はぁ」
僕はフカフカのベッドに抱きかかえられるように、バタリと倒れこんだ。今から眠りにつくのに5秒とかからないだろう。
対外的な邪魔さえ入らなければ―――だけど。
「失礼します、ジル様」
ガチャリ、とさっき閉めたばかりの扉が開く。鍵をかけておけば良かった―――なんて無意味な後悔が、今になって襲ってきた。
「ZZZ‥‥」
「ジル様?」
僕は寝たふりを決め込んで、エイミーが立ち去るのを待つことにした。こうして目を瞑って静かにしていれば自然と眠気の方からやって来る。しばらくもしないうちに、本当に眠ってしまえるだろう。
「ジル様‥‥眠っているのですか?」
「ZZZ‥‥」
「ジル様‥‥」
エイミーは儚げに、愛おしそうに、僕の名を口にした。
そして―――。
「えい」
僕の鼻に、何の躊躇いもなく指をぶすりと差し込んだ。
「がッ?!」
あまりにも予想外過ぎる奇行を前に、思わず僕はベッドから飛び起きる。
「けほっ、かはっ…!殺す気か?!何してんだよエイミー!!!」
「え、いや―――まさか起きているとは思わなくて」
若干引いた目で僕を見つめるエイミー。いやいや、ドン引きなのはこっちだ。寝てる相手の鼻に平気で指突っ込むとか‥‥コイツの頭ん中どうなってるんだ?
「ふふ、何か凄くびっくりしてますね」
「そらいきなりあんな事されたらビックリするわ!!結構勢い強かったし、鼻の奥切れちゃうかと思ったんだけど!?」
「そんな、大袈裟な―――そもそも私毎日ちゃんと爪の手入れしてるから大丈夫ですよ?」
「何が?何が大丈夫?」
この妖精、一周まわって感動するほど反省していないんだが。
「まぁまぁ、どうでも良い話は置いておきましょう」
「どうでも良くはないけどな」
「獄中生活で疲れているところ申し訳ありませんが―――緊急の要件でして」
エイミーはベッドにちょこんと腰かけて、天井を見上げながらそう呑気に言い放った。
「緊急?全く急いでいるようには見えないけど」
「まぁ正直言って私もお手上げというか、何と言うか―――」
「何だよ歯切れの悪い‥‥お前にしちゃ珍しいな」
「ええ、まぁ。というのも、アカネさんの話なんですが」
アカネ。その名を聞いた瞬間、僕は電撃的にとある事実を思い出した。
「アカネ―――そうだエイミー、お前に言わなきゃいけないことがあったんだ!アカネは多分この世界で生まれたAIじゃない、僕と同じプレイヤーだ‥‥!」
「あぁ、やっぱりそうでしたか」
「―――やっぱりって、どういう意味だよ」
どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?というか‥‥口ぶりから察するに、エイミーはアカネの正体を見抜いていた―――?
「彼女と初めて会った時‥‥僅かに違和感を感じたんです。私の脳にはプレイヤーとAIとを区別する特別な識別機能が搭載されているのですが―――それが、アカネさんを前にした瞬間一度システムダウンしてしまったのです。私たち運営側の監視を欺くために、偽造コードを利用してプレイヤーでありながらAIに成りすます輩なら多数いましたけど‥‥システムそのものをダウンさせられたのは初めてですよ、ホント」
「いや、何でその時言わないんだよ!」
「その時はただのシステムの故障かと思ったんですよ!でも、その後もアカネさんを見る度にシステムに不具合が頻発し始めたので、もしかしたら―――と。ていうか、彼女の実力も分かりませんでしたし、下手に動くのは危険だと判断しただけですよーだ」
「まぁ、それは確かにエイミーの言う通りだけど‥‥」
ヘイゼルたちがいる中で、アカネに正体を問いただすのは難しい。気が付いていないフリをするのが正しい判断だったのかもしれない。
けれど、けれどせめて―――。
「せめて僕には―――ひとこと言って欲しかった」
一人で抱え込まずに、何かアクションを起こして欲しかった。
「ただでさえ周りには言えないデリケートな問題だし、僕に言ったところで解決する訳でもない。だけど、ずっと自分だけで悩み続けるのは―――エイミーだって辛いだろ」
「ジル様―――」
「この先、何か大事なこととか、重要なことに気が付けば真っ先に僕に共有すること。僕たち二人の間に隠し事は無しだ。この世界に残った、たった二人の人類なんだから―――持ちつ持たれつ、仲良くやっていこうぜ」
エイミーは僕の知らない秘密をたくさん知っている。その中には多分、口が裂けても言えないような衝撃的事実もあるのだろう。人類を救う最後の希望である僕の動向を毎日毎日、一喜一憂しながら見守っている彼女に、理解者といえる存在は居ない。僕がこの世界でただ一人の人間だというのなら、彼女は世界最後の人間側のAIといったところだろう。
人の心を持たない彼女に寄り添う相手なんて必要ないのかもしれないけど―――それでも僕は、エイミーの理解者でありたいのだ。
「ええ、そうですね―――本当に、ジル様の言う通りです。私達はたった二人の人類、ですもんね」
そう言って、エイミーは―――儚げな顔で微笑んだ。
「で、アカネは一体何者なんだ?」
「分かりません」
「分からんかぁ」
まぁ、そうだよな。エイミーにとっても、僕以外の人間がいた、という事実は意味不明な事柄だよな。
「ですがジル様の話を聞く限り、我々とは別の目的をもって行動していると考えていいでしょう。ボスがいるというのなら、恐らく彼女は組織的に動いている。ギルド連盟の最高幹部という立場もありますし、ジル様がこのユフテルで目を覚ますよりも前から彼女は活動していたと考えるのが自然ですね。ですが、一番の問題は―――」
「組織の目的。それから、どうして僕が彼女と同じ人間のプレイヤーだとバレたのか、だろ」
砂漠を渡るガイドと偽り、彼女は僕たちに接近してきた。僕がエルネスタと刃を交えたことも知っていたということは―――少なくともロンガルクに居た時点で僕の動向は把握されていたということだ。いったい、いつから。どうやって僕という存在を知った?
「ジル様の仰る通り、一番不可解な点はアカネがジル様の存在にいつ気が付いたかです」
「腕のいい予言者がいた‥‥とか?」
「ありえませんね。あの賢者ヨムルでも、外の世界のことまでは推し量ることはできませんし」
「そっか、じゃあエイミーはどうやって僕を見つけたんだ?」
「え?」
きょとんした顔で、エイミーは目をぱちくりさせて僕を見つめた。
「僕が目覚めた時、近くに居ただろ?」
「もう、何言ってんですかジル様。私はジル様を導くために再プログラムされた非常特殊工作機体ですよ?そんな天才的なAIである私がジル様を感知できないわけ―――」
何か言葉を言いかけて、エイミーはぴたりと動きを止めた。
そしてどういう訳か―――先ほどよりもより真剣な殺伐とした表情を浮かべている。
「ジル様」
「ん?」
「アカネの近くには―――“何か”いましたか?」
「何だよ、何かって」
「こう、明らかに異質な存在っていうか、何と言うか」
「いや、全然分からん。どんなのだ?」
「アカネをサポートする、もしくは援護するような―――」
エイミーはベッドからゆっくりと立ち上がり、両手を大きく広げて僕の方を見つめた。
「こんな、妖精の姿をした恐ろしいAI―――とか」
そして自身の体を見せつけるかのように、そう言い放った。