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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第1章・旅の始まり
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第7話 邂逅

蛙の妖精“ベロー”と合流してすぐに、僕達は野宿の準備を始めた。


準備と言っても、僕達はテントや寝袋といったキャンプ用品を持っている訳ではないので、焚き火用の小枝を集めるくらいしか、できることはなかったんだけれど。


「――――」


 周囲が夜の闇に包まれるなか、僕はぼんやり――パチパチと心地よい音を奏でる焚火の炎を見つめていた。もうすっかり陽も落ち、妖精の二人はさっさと眠りについている。一方の僕は小一時間、焚火の炎から眼を逸らせずにいた。寝ずの番をしている訳ではない、ゆらめく炎を見ていると何故だか少し、懐かしい気持ちがするからだ。


 そういえば―――昔誰かと、こうして一緒に焚火を囲んでいたような。


「ゲロゲロゲロゲロ‥‥」


 蛙の(さが)なのか何なのか知らないが、夜になるとめちゃくちゃうるさい。目は瞑っているから、無意識なんだろうけど―――寝言みたいなものか?いや、いくら蛙でも、寝ながらゲロゲロ言うか?普通。


「ぐがぁーー!ぐがぁーー!」


「・・・くそ、こいつらうるせぇ!」


 ベローの寝息に張り合うように、疲れたおっさんみたいなイビキをかくエイミー。口を大きく開け、腹を掻いている姿は妖精というより、まさに堕落した人間のようであった。


「・・・」


 何となく、特に考えもなく、僕はエイミーの鼻をつまんでみた。


「えい」


「ぐがぁー!ぐっ‥‥ッ――フゴッ!」


 あまりの苦しさに、パッと飛び起きるエイミー。数秒キョトンとした後、だいたいの事態を察したのか――恐ろしい形相で、僕を睨みつけている。


「何してるんですか!?ガキですか!?」


「いや、お前のいびきがあまりにもうるさかったから―――つい」


「は?そんなしょうもない理由で?というか‥‥まだ起きていらしたのですか?」


「まあね―――焚火を見てると、何か懐かしい気持ちになってさ」


 パチパチと燃え続ける炎を眺めながら返事をする。もう少し見ていたいが、そろそろ寝ないと明日に響くかな。


「よし!もう寝るわ。いびきかくのはいいけど、程々にしてくれよな」


 僕はそう言って草のベッドに横たわった。寝心地はそこまで良くはないが、別段悪い気もしない。これはこれで味がある――というヤツだ。何か言いたげな顔をしていたエイミーにお構いなく、僕は眠りについた。

 


   ~イルエラの森・2日目~


 翌朝、僕たちはベローに案内されるがまま、森を散策していた。


 どうやらベローはソルシエから“予知夢の二人”つまるところ、僕達の案内役を任されていたらしい。長年森に居たからか、森の地形は全て把握しているようだった。


「そこ、足元に気を付けるゲロ」


「え?」


 慌てて足元を見ると、何やら赤い斑点が特徴的な黒いキノコのようなものが群生していた。


「それは“ベニテンテンダケ”間違って踏んづけると、毒の胞子を吹くから気を付けるゲロよ」


「こわッ!」


 頼りになるガイドの存在に感謝しながら、僕たちは森の奥へと進んでいく。

 

「さて、そろそろつくゲロよ」


「あの…私たちは、今どこへ向かって進んでいるのでしょう?」


「“忌み魔女の領域”ゲロ」


 忌み魔女の領域―――そこに足を踏み入れるとどうなるのか。僕は良くないことを想像し、背筋がブルりと震えた。


「イルエラの森の奥深くには、忌み魔女が支配する領域があるんだゲロ」


 軽々とした口調で、ベローは続ける。


「忌み魔女はその領域内を根城にしているゲロ‥‥あれを見るゲロ」


 ベローは前方にある巨大な物体を指さす。

 

「何かの―――石碑?」


 地面に乱暴に突き立てられた巨大な石に、何やら文字が刻まれている。そこら中にびっしりと苔が張り付いているところから察するに、相当古い時代に作られたものだろう。


「あれが、魔女の領域と外の領域を区別する境界線。あの石碑を超えると、そこから先は命の保証はないんだゲロ」


 そうか。あの石碑は、自らの領域へ侵入しようとするものへの最後通達。これ以上先へ進めば、容赦はしない。あの石碑にはそういった警告の文字が刻まれているのだろう。


「ジル殿、エイミー殿、どうするゲロ?」


 ベローは石碑の前に立ち、僕とエイミーへ問いかける。


「さっきも言ったけれど、この先へ進めば命の保証はないゲロ。もう二度と、生きては出られないかもしれない。それでも、お前達は進むゲロ?」


「―――」


 以前の僕なら二つ返事で、YESと答えていただろう。どの道進むしかないのだし、ここで迷っていても仕方がないと考えるからだ。だけど―――今は違う。


 メイメイマシラ。あの巨大な猿の魔物と出会って、僕は心の底から畏怖した。命を奪われることの恐ろしさを、絶望を、これでもかというほど痛感した。命のやりとり―――“戦う”ということの、恐怖を知ったのだ。


 そして、次の相手は恐ろしい忌み魔女…予想だけど多分、あの猿よりもずっと強い。勇猛果敢に挑んだとしても、またあの恐怖を味わう羽目になると思うと、僕は足がすくんでしまう。現に今でも、僕の頭の中では“引き返せ”という号令が絶えず鳴り響いているし、一歩前へ踏み出そうとしても、体中の筋肉が強張っていうことを聞かない。


 本能が―――この先へ進むことを拒絶しているのだ。


 でもまぁ、僕は進むだろう。だってあの猿が僕に教えてくれたのは、底なしの恐怖だけじゃない。


 何故、剣を取るのか。誰の為に、血を流すのか。僕は一体、何のために戦うのか。


 その全てを、あの戦いの中で再確認できた。僕の中の答えは一つだけ。勇者をただひたすらに待ち続けた一人の妖精――彼女の尊い覚悟に報いるために、僕は戦う。

 

 彼女が僕を信じてくれる。だから僕も、どれだけ怖いヤツが相手でも逃げずに立ち向かう。


 勇者ジルフィーネが戦う理由は――――それだけで十分なのだ。



「―――行こう、魔女の領域へ」




 ~ルエル村~


 ジル達が村を出発して一日が経過した頃。この短い期間の間にも、村人たちは着実に忌み魔女への恐怖を募らせていった。


「聞いたか?森を抜けようとした行商人がまた襲われたらしい…幸い命は取り留めたようだが、ひどい怪我を負わされたみたいだぞ」


「また忌み魔女か―――昨晩も、森から這い出て来た魔物によって家畜共がやられちまった」


「早いとこなんとかしてくれないと、恐怖で夜も眠れやしない」


「村長が兵士を集めて森に入っていたけど―――ま、また魔物にやられて帰ってくるのがオチだな。近頃は森でメイメイマシラを見たって噂もある、森に入るなんて自殺行為以外の何でもない」


「メイメイマシラだって!?あんな強力な魔物、森には居なかっただろ!?」


「ああ、ヤツは外来種だ“本来イルエラの森にはいない”はずだが…」


「くそっ、さっさと外征騎士を呼べばいいんだ!そうすれば、全て丸く収まるんじゃないのか!?」


「事情は知らんが――なにやら、祭祀長が反対しているらしい」


「けっ!またあのお飾り巫女様か!あんなヤツは無視してさっさと森ごと攻め滅ぼせばいいのに!」


「おい、さすがに言い過ぎだ!祭祀長に聞かれでもしてみろ、きっと魔法でひどい目にあわされるぞ…」


 頭を寄せ合い、口々に文句を言い合っていた村人は、そそくさと逃げるように散っていった。



「影口を言われたくらいで、そんなことしませんよ」


 盗み聞きしていた訳では無いが、彼らがあまりにも大きな声で会話していたので、家の中に居た彼女にも会話の全貌が筒抜けになっていた。


 村の皆からは、あまり好かれていないと思っていたけれど、実際目の当たりにしてみると…少し辛い。


「私は私なりに頑張ってるのになぁ‥‥」


 やるせない独り言を呟きながら、私は礼拝の準備を整える。陽が昇っている間は、彼らの為に祈りを捧げると誓ったのだ。


「主よ、どうか――――」


 どうか、彼らの道行きを見守り給え。




 ~イルエラの森・魔女の領域~



「何か…意外と普通に入れるんだね」


「魔女の領域と言っても、所詮は忌み魔女の自称だからゲロねー」


 結構覚悟を決めて来たのだが―――実際は普通に石碑の横を通り過ぎただけで、景色も特に代わり映えしない。ただ一つ、今まで異なる点と言えば‥‥。


「ねぇベロー。何か変なのがいっぱいいるんだけど」


 魔女の領域に入ってから、やたらと森に住む生き物が姿を見せるようになった。特にこの丸い毛むくじゃらの白い生き物―――魔女の領域に入ってから100匹以上は見てるぞ‥‥。


「おお!それは森の妖精“ルエル”だゲロ!めったに人前に姿を現さない貴重な生き物ゲロ!」


 貴重―――ねぇ。その割にはやたらと見かけるけど。


「えぇ、こんなのが妖精なんですかぁ?」


 お前が言うな。羽は生えてないけど、お前よりよっぽど・・・ん、ルエル?


「あれ?ルエルって―――」


「よく気づいたゲロ!森の妖精ルエルは、ルエル村の名前の由来になった妖精と言われているゲロ!」


「へぇー」


 こんなモジャモジャの着ぐるみみたいなのが、村の名前の由来なのか。


「というか、何か魔女の領域に入ってから生き物めっちゃ増えてない?」


 昨日は森中あちこち走り回ったのに、メイメイマシラ以外の生物は確認できなかった。生き物もいない、鳥のさえずりすら聞こえない、気味が悪いほど静かな森だったけれど――魔女の領域(ここ)はその真逆だ。


 そこらじゅうで鳥がさえずり、妖精や虫、変な生き物や植物が人目も(はばか)らずに活動している。まさに、生命溢れる神秘の森――という感じだ。


「ここ数年で、森の生き物は魔物と入れ替わるように、魔女の領域で生息するようになったんゲロ!」


 魔物と入れ替わるように――――。


「要するに、忌み魔女が森の生き物を独り占めにしてるんだゲロ!村の住人にとって森の生き物は食料であり、貴重な資源―――独占されると困るんだゲロ」


「なるほど」


 独占されると困る、か。


「ではなおさら、忌み魔女を倒さないといけませんね!」


「―――ああ、そうだな」


「じゃあ、どんどん進むゲロ!」


 僕達はそれから数時間、森を駆け回ったが―――結局忌み魔女と遭遇することはできなかった。



  ~イルエラの森・夜~


「あー、腰痛い!」


 疲れた、もう歩けない―――あれだけ探し回ってもまだ会えないのかよ。


「僕達、もしかして魔女に避けられてるんじゃないの?」


 僕は焚火に薪をくべながら、ついつい愚痴をこぼす。


「おかしいゲロ―――忌み魔女はよくこの辺りに出没しているはずなんだゲロ」


 力なくうなだれるベロー。森の中を軽快に飛び回り、足早に僕たちを先導してくれていたがやはり、疲れがたまっているのだろう。


「せっかく“予知夢の二人”の案内役を任されたのに――――面目ないゲロ」


 しょんぼり、と分かりやすく落ち込むベロー。こういう時、気の利いた言葉の一つでもすぐに思いつけばいいのだけれど、僕はどうも苦手だ。


「ベローさんのせいじゃないですよ、明日もありますし――また頑張って探しましょう!」


「エイミー・・・ありがとうゲロ」


 エイミー、ナイスフォローだ。


「そういえば‥‥ずっと気になってたんだけど、忌み魔女って何で“忌み”魔女って言われてるの?」


 普通に魔女、では駄目なのだろうか。“忌み”という言葉が…何故か無性に、僕の中で引っかかっていた。


「お前達、ソルシエ様から“忌み魔女の伝承”を聞かされてないゲロ?」


「なにそれ?」


 森に悪い魔女が住み着いたのでみんなが困っている。としか聞いていないけど。


「私も初耳です」


「そうゲロ?なら説明してやるゲロ。ちょっと長いから、子守歌代わりにでも聞くといいゲロ」


「分かった」


 ベローは2、3回咳払いをすると、おもむろに語り始めた。


「むかし、むかし―――ルエル村が今よりもずっと小さくてか弱い村であった時代。村は、森から村へ流れ出てくる魔物達による被害に頭を悩ませていた」


 語尾にゲロつけなくても喋れるのかよ。


「農作物は荒らされ、家々は破壊の限りをつくされる毎日。皆が村を捨てようかと相談し始めたその時、一人の魔女が現れた。魔女は悪しき魔物達を超常的な魔法で撃退し――村の危機を救った。村人たちは魔女に感謝し、女神から授かった“森の支配権”を魔女へと譲渡したという」


「それ以来、森は善なる魔女が統治する場所となり、魔物は消え――以前の美しい姿を取り戻した。さらに、魔女によってもたらされた魔法によって村はますますの発展を遂げ、皆の暮らしは豊かになりました」


「―――あれ?ハッピーエンドじゃない?」


「まだ続きがあるゲロ。みんなが平和を喜んでいたのも束の間、村に第二の魔女が現れたんだゲロ」


 二人目の魔女――?


「第二の魔女、悪なる魔女は、村に疫病と災いをもたらした。村人たちは、魔女という存在に心を許していたから――きっとすぐに村に入れちゃったんゲロね。こほん、しかし、そこに再び善なる魔女が現れた。善なる魔女は、悪なる魔女を打ち倒し―――永遠に外へ出てこないように森の奥深くへと封印した。こうして再びルエル村には平和が戻り、善なる魔女とルエル村はいつまでも手を取り合って暮らしていくのであった―――まぁ要するに、善なる魔女と悪なる魔女を区別するために、忌み魔女という言葉ができたという感じだゲロね」


 ご清聴ありがとうだゲロ、とベローは微笑む。


「ということは―――昔に退治された魔女が、今になってまたルエル村に牙を剥いているってこと?」


「そういうことだゲロ」


 なんて執念深い魔女なんだ。あの村に、一体どれほどの価値があるのか――僕には見当もつかなかった。


「善なる魔女はどうなったのですか?」


 僕の隣でうたたねをしていたエイミーが、ベローに尋ねる。何だ、ちゃんと話聞いてたのか。


「とっくの昔に寿命で亡くなっちゃったらしいゲロ」


「そうでしたか‥‥」


「ベローも、一度お会いしてみたかったゲロ。きっと、ソルシエ様のように素晴らしい方だったに違いないゲロ!」


「ふふ、そうですね―――。ふわぁ~、では夜も遅いですし、そろそろ寝ましょうか」


 大きなあくびをしながら、エイミーは眠たげに呟く。


「分かったゲロ!お休みゲロ!」


 そういうと、ベローはすてんと横になり――――。


「ゲロゲロゲロゲロ・・・・・・」


 死んだように眠ってしまった。


「よし!僕もそろそろ寝るか!」


 エイミーより先に寝なければ、あのうるさいイビキを聞きながら眠る羽目になる―――それだけは、何としてでも避けたかった。幸い、ベローの話を聞いていい感じに眠たくなってきたので、今日はこの勢いのまま寝てしまおう。


「おやすみエイ――――」


「ぐがぁーー!ぐがぁーー!!」


「クソが!」


 寝るの早すぎだろこいつ!まさかさっきまでの全部寝言だった、とかじゃないよな?


「ぐがぁーー!!!ぐがぁーーー!!!!」


「・・・」


 このちっさい体のどこからこんな馬力がでるんだか。


「エイミー、すまない」


 僕はエイミーを持ち上げると、少し離れたところにある木へと括りつけた。


「これで良し――と」


 これだけ離れれば、いびきも聞こえない。ツルで軽く括りつけているだけだから、何かあってもすぐにほどけるだろ。


「エイミーのイビキを餌に、魔女が来てくれればいいけど」


 縁起でもない冗談を口にしながら、僕は眠りにつく。明日はいよいよ3日目、魔女が森を焼き尽くすまでもう半分の猶予もない。ルエル村やソルシエさんのためにも、早々に決着をつけなければ。



 ~イルエラの森・3日目の早朝~


 冷たく、心地よい風が頬を撫でる。森の朝はとても静かで穏やかなものだった。魔女の領域と言えども――そこは変わらないらしい。

 

 最も、今日という例外を除いての話だけれど。



「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


「!?」


 絞り殺された猫のような叫び声に驚いて、僕は飛び起きる!

 

「何だ!?一体何事だ!!」


 寝ぼける頭を一生懸命に働かせながら、周囲を確認する。


「ジル殿!今の聞こえたゲロか!?」


 あの恐ろしい声を聞いて、ベローも飛び起きていた。かつての大猿が脳裏に思い起こされる―――嫌な感じだ。早くここから離れた方がいい‥‥!でも――――。


「ベロー!聞いてくれ―――エイミーが居ないんだ!」


「本当ゲロ!?」


 周囲を見渡せど、どこにもエイミーがいない。昨日まで確かに僕の隣にいたのに!


「くそ、あいつこんな時にどこ行ったんだ――――よ?」


「・・・ジル殿?」


 じわじわと頭の冴えが戻ってくる、寝ぼけた思考が溶け、昨夜の記憶が鮮明に思い起こされた。


「やっべ」


「どうしたゲロ―――!?」


 ベロー、すまない!多分あの声は…!


「死ぬううううううううううう!!!!!!!!!!」


「エイミーだ―――!」


「エイミー殿!?まさか、吾輩たちが眠っている隙を魔物に攫われたんだゲロ!?」


「いや違う!昨日僕が木に括りつけて放置してたんだ!」


「な、え?ちょ、何言ってるんだゲロ?」


 あまりのクズ発言に混乱するベロー。しかし今は説明よりも、エイミーを助けるのが先だ!


「こっちだ!!」


 急いで声のする方向へ走り出す。多分、この辺りだったと思うけど…!


「頼む、無事でいてくれよ!」


 こんなことで彼女にもしものことがあったら、僕はどんな顔をしてこれから生きていけばいいんだ――!


「居た!!エイミー!!」


 良かった、まだちゃんとくくりつけられている!


「ジル様あああああああああ!!!!!!」


 しかし、泣き叫ぶエイミーの傍には巨大な猫のような生物が鎮座していた。


「魔物か!?」


 どうやら鼻を近づけてスンスンとエイミーの匂いを嗅いでいるらしい。今はまだ大丈夫だが、いつ牙を剥くかわからない。一刻も早く助けなければ!


「待ってろ、今助けるから――!」


「待つゲロ!」


 今にも駆け出そうとする僕を、ベローが制止する。


「どうしたんだよベロー!?」


 早く行かないとあの化け猫に、エイミーが…!


「とうとう大本命のお出ましゲロ‥‥!」


「え?」


 ベローがそう吐き捨てた刹那。

 

 巨大な猫の横に、一つの邪悪な影が舞い降りた。


「あれは―――」


 大きな三角帽に、素朴ながらも禍々しく装飾された衣服――身の丈ほどもある大きな杖に、白銀に輝く髪。存在するだけで、こちらにプレッシャーをかける圧倒的な魔力と存在感。

 

 間違いない。今、僕たちの眼の前にいる、彼女こそが――――!!


「ヤツこそが、この森の悪しき支配者にして全ての災いの元凶!“忌み魔女”ヘイゼルだゲロ‥‥!」



 イルエラの森に入って3日目の朝―――ついに、勇者と忌み魔女は運命の邂逅を果たした。




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