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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第4章 砂塵舞う王国
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幕間の話 解かれし悪魔

 ~ボルスの町~


「うーん、石化したまでは良かったのですが―――どうしましょうかね、コレ。気味の悪い彫刻は捨てろとミレットさんにも怒られてしまいましたし‥‥」


 賢者クラックはほとほと困り果てていた。自身が首を刎ねて石化させた二体の怪物、バルトガピオスとゲラルフ。この邪魔すぎる二つの石像を一体どうしたものかと毎日悩まされ、挙句の果てにはその不気味な石像がご近所で噂になる始末だ。


「いっそディーネの湖にでも捨ててしまうか?」


「クラック、お客さんが来てるよ」


「お客さん?珍しいな‥‥」


 ミレットに呼ばれるまま、クラックは自室から客間へ降りた。


 するとそこには――――――。


「おや、まさか本当に会えるとは。お久しぶりですねクラック。息災でしたか?」


 からくり仕掛けの異様な外骨格に、曲線美の際立つフルフェイスのマスク。一切の人間味を感じさせないこの無機質な男は、クラックにとって天敵と言える人物であった。


「ポルネローザ卿‥‥よくここが分かりましたね」


 “教皇”の外征騎士ポルネローザ。クラックから力を奪い取った張本人でもある男だ。


「ベスの諜報部隊がよくやってくれましてね、会う機会があれば褒めて差し上げてください。八賢者直々の謝礼であれば、彼らも大いに喜ぶでしょう」


「ミレットさんには催眠術をかけたみたいですね、でなければ彼女が貴公のような怪物を家に招き入れる訳がない」


「彼女の為ですよクラック。危険を冒してまで貴方を匿っている彼女のことですからね‥‥正気のまま玄関先で私と遭遇していれば、貴方から遠ざけようとその場で戦闘になっていたことでしょう。そうなってしまえば、私は彼女を殺すしかなくなってしまう―――無駄な殺生は避けたいのですよ」


「へぇ、貴公に人のような心があったとは驚くばかりですね」


 クラックは人の心が読める、だがポルネローザは別だ。あの異様な外骨格のせいなのか、彼の読心術が未熟なのは定かではないが―――心を覗いても、何も見えてこないのだ。


「これでも大聖教会では名の通った神父様ですからね。人は見かけによりませんよクラック」


「それで―――貴公の目的は」


「貴方を聖都に連行することです」


「もし断れば?」


「この町を地図から消す、というのはどうでしょう?」


 決して戯言などではない。声色は浮ついているが、どれほど冷徹で非人道的な手段でも容易く実行するのがポルネローザの恐ろしい所だ。ここで断れば、次の瞬間には全てが灰となっていることだろう。


「私が行けば、この町の住人たちの安全は保障するんだな」


「当然です、嘘をつけば人の魂は穢れて淀んでしまう。何事に対しても清廉かつ正直でなければいけません」


「だとしたら、貴公の魂はとっくに腐り果てていることだろうね」


 ジリリリリリリ!!!


 ジリリリリリリ!!!


「!?」


 二人の会話を遮るように、来客を知らせるベルが室内にうるさく鳴り響いた。


「見てきても?」


「ええ、構いませんよ」


 クラックはポルネローザの了承を得ると、そのまま玄関へと向かった。恐らくはミレットさんのお茶会友達だろうが―――今日は出直してもらった方が良さそうだ。


「はいはーい、すいません今日はちょっと――――」


「お前がクラックだな、死ね」


 それは一秒と無い‥‥刹那の出来事であった。


 扉を開けた先に立っていた大男はクラックですら見切れぬほどの俊敏さで、彼の腹を巨大な槍で貫いた。


「‥‥ッ!?」


 大男は強引に槍をクラックから引き抜くと、屋根をぶち破って彼の自室へと強引に侵入した。そしてそこに安置されている二体の石像をまじまじと見つめた後―――。


「全く、手間かけさせやがって」


 悪態をつきながら、謎の魔方陣のような紋様を石像へと書き込んだ。槍の切っ先、つまりはクラックの血を塗料として描かれた紋様は妖しい光を放ち、石像にかけられた魔法をゆっくりと解いてゆく。


「う、うぷぷ‥‥うぷぷぷぷぷ‥‥アッハハハハハハ!!!!!!」


 そして遂に、悪魔の復活は成された。


「ありがとうカイラくん~!ぼくたちこのまま死んじゃうかと思ったよぉ!」


「アンタの冗談は笑えねえ、バルトガピオス」


「バルトガピオス様これは一体‥‥」


「術者の生き血を使った解呪だよ。あー、出かける前にちゃんとカイラくんに行き先告げといて良かったよ!!ぼくってば天才~!」


「俺は最初ビオニエだと聞いていたんだがな」


 バルトガピオス、ゲラルフ、そしてカイラと呼ばれた怪物。彼女たちを前にしてクラックも、この町も成す術はない。ただ恐怖に怯えながら滅ぼされるのを待つだけだ。


「これはこれは、皆さん楽しそうで。私も是非会話に混ぜて頂きたい」


 もっともそれは、その場に外征騎士が居なければの話だが。


「なんだ貴様、どこから――――」


「“裁きの左手(ディエス・レイ)”」


 悪魔と言葉を交わしてやるだけの慈悲など、彼には微塵も無い。突如としてポルネローザの左腕が光を放ち、問いを投げたゲラルフの体を一瞬にして焼き尽くしてしまった。


「失礼、中央の貴女を狙ったつもりでしたが―――狙いが逸れてしまいました」


 そう言って、彼はバルトガピオスをなぞるように指さした。


「テメェ‥‥ナニモンだよクソが」


「何をそんなに怒っている?また生き返らせればいいだろうが」


「違うよカイラくん、ゲラルフちゃんはもう生き返らない―――そこのクソ野郎が放ったのは存在そのものを焼き殺しちまう不死殺しの光なんだよ‥‥!」


「申し訳ありませんが名乗っている時間はありません、貴方達を片付けた後は下のクラックを治療しないといけませんからね」


 バルトガピオスたちを殺すことに、一切の畏れはない。教皇は余裕綽々とした態度でゆっくりと彼女たちの元へ歩を進めた。


「ちッ‥‥退くよ!カイラ!!!」


「いいのか?」


「いい、アイツはまた別の機会に絶対殺してやる」


 呪いのような捨て台詞を残し、バルトガピオスたちは禍々しい霧となってどこかへと消えてしまった。荒れ果てた現場には、傷一つなく勝利したポルネローザだけが静かに取り残されている。


「―――さて」


 まるで散歩でもしているかのように穏やかな歩調で、彼は血まみれのクラックの元へと歩き出した。そして意識の無い彼の体を丁寧に担ぎ上げると―――そのままどこかへと姿を消した。



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