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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第72話 踊り風と共に




「まぁ、話をまとめるとざっとそんな感じだ」


「港町プリシードのエンブさんにその石?みたいなのを渡せばいいんですね?楽勝です!」


 地上に戻ってから、僕はヨムルから受けた話をエイミーたちに説明した。説明したと言っても‥‥勿論全て話したわけではない。彼女が僕とエイミーを異端として捉えていたこと、僕の正体を少しばかり話したことなどは秘密にしてある。この先ずっと黙っているつもりは毛頭ないが、この件については今はまだどうこうするつもりはないし‥‥時の流れに身を任せるのが一番だろう。


「その石――やばいくらい高密度な魔力の塊みたいだけど…爆発したりしないわよね?」


「しないと思う、多分」


 確証はないけど、今更そんな騙し討ちみたいなことをヨムルがするとは思えない。でも一応、安全管理上のことを考えてこれからはヘイゼルに管理してもらった方がいいかもしれないな‥‥いや、決して爆発が怖いとかではなく。


「それにしても、プリシードか‥‥これはかなり険しい道なりになりそうだよジル。あそこは連盟の重鎮が支配する町、彼らの傘下に入らなければ立ち入ることすらできないし」


「連盟って―――ギルド連盟ってヤツ?最近よく耳にするけど何者なんだ?」


 確かリリィも最初はギルド推薦の冒険者と名乗っていたっけ。


「冒険者たちがお互いを助け合うために作り上げた巨大な組織のことだよ。連盟に所属している冒険者は連盟から仕事が斡旋されたり、同じく連盟に所属している町なんかでは品物が安く買えたり―――そうそう、怪我をしたら給付金が出るみたいな特典もあったかな。まぁ、ユフテルで冒険者として生きるなら絶対に逆らっちゃいけない相手ってヤツだね‥‥連盟に所属していない冒険者なんて今時いないと思うし、最近ではますます力をつけているみたいだよ」


「ユフテル中の冒険者を擁する巨大組織か‥‥何というか、聖都よりも厄介だな」

「確か連盟は聖都とは敵対関係にあるんだよね?」


「ああ、連盟と聖都は絶対に相容れない」


「どうして?」


「どうして―――ってジル本当に何も知らないの?」


「か、確認だよ確認!」


 慌てふためく僕に、怪訝そうな顔を浮かべるリリィ。もしかして僕――いまめっちゃ馬鹿だと思われてる・・・?


「まぁ、彼らが争う理由は複雑だけど‥‥一番大きな理由はファミリアだ」


「ファミリア?」


 ファミリアって、国や街同士の同盟みたいなヤツのことだよな。ルエル村の村長が必死こいて入ろうとしていたっていう。


「自由を愛する連盟はファミリアという壁を嫌っているんだ、彼らはそれらを全て取り払うことでヒト・モノ・カネ・情報‥‥全ての資源をユフテル中へ円滑に循環させたいと考えている。世界を自分たちのファミリア一つで塗り潰そうとしている聖都とは相容れないってワケだよ」


「‥‥なるほど、それで聖都を毛嫌いしているということか」


「外征騎士エルネスタを倒したのは我々だ―――なんて嘘の宣言をするくらいには嫌いなんだろうね」


 確かに彼らと協力関係を結べれば、聖都もうかつに手出しをしてこないかもしれない。だがヨムルは――――。


「ま、ここで話していても仕方ないわ。目的地までのルートも含めて今後の指針を話し合いましょうよ」


 パン!とヘイゼルは手を叩いて、僕とリリィの会話を断ち切った。


 確かに彼女の言う通りだ。ここからプリシードまでどれくらい距離があるのか、実際に地図で確認をしておかなければ。







 ~聖都グランエルディア~


 ユフテル最大の覇権大国にして人類の礎、聖都グランエルディア。安寧と調和に満ちる輝かしき白亜の城の様子が―――今日は少し、荒れていた。



「1分1秒、1分2秒、1分3秒‥‥あぁ、時間が惜しい。いつになれば会議は始まるのです?(わたくし)、もうこれ以上待てませんわ?!」


「さっきからピーピーうっせーぞ!ちょっとは落ち着いていられねぇのかテメェ!」


「まぁ!?何なんですのそのはしたない口の利き方は!?貴方それでも聖都の守護を預かる誇り高き外征騎士なの!?まるで酒場のゴロツキのようですわよ?!」


「はッ、酒場のゴロツキなんて見たことも無い箱入り娘の癖によく言うぜ」


「な‥‥!それはお互い様じゃなくて!?」


「全く‥‥キミ達はうるさくて敵わん。黙れ、若しくは互いの首を刎ねて死ね」


 言い争う二人を疎むように、男は苛立ちながら呟いた。


「死ね!?死ねとおっしゃいました今!?」


「ケッ、何ならこのバカ女より先にアンタを斬ってもいいんだぜ、ベス」


「斬る?私を?驚いた、輝かしきアズラーン公は瞼もとじずに寝言を吐けるらしい、大した特技だが―――実にくだらない」


「テメェ‥‥!」


「アッハハハハ!!ベスって陰気な顔してんのに、結構口がまわるのね!ちょっと意外かも!ね、殺し合うんでしょ!?加勢してあげよっか?」


「やめたまえ」


 まさにそれは、鶴の一声だった。


「!!」


 一触即発、不穏な空気を放っていた二名の騎士は―――男の一声を聞いた瞬間、何かに押さえつけられるかのように机の上に突っ伏してしまった。


「ぐ‥‥!」


「喧嘩両成敗、愚かなキミたちにも意味くらいは分かるだろう?」


 男の名はベアトリス。ルエル村でエルネスタと共にジル達の前へ姿を現したこともある“審判”の外征騎士だ。


「だが―――確かに遅いね。彼女はもしかして、外征騎士(われわれ)が全員集まるまで会議を始めないつもりなのかな?」


「いいや、会議は今から始める―――出席している者は全員名を示せ」


 ベアトリスの憂いを払うかのように、重厚な部屋の扉が一人の女性によって豪快に開かれる。女は眠そうに頭を掻きながら、堂々とした佇まいで一番大きな椅子へと腰かけた。


「恋人の外征騎士、カーラ・クルーエル―――ここに」


「節制の外征騎士、モレア・エスペーリア―――ここに」


「皇帝の外征騎士、アズ‥‥」


「ん?思ったより少ないな、やっぱり今の無し。名乗らなくていいぞ貴公たち、時間の無駄だ」


 女はもう把握した、と言わんばかりに外征騎士の名乗りを断ち切った。


「6人か‥‥若干少ないがまぁいいだろう。では心して聞くがいい誉れある外征騎士たちよ、今から貴様らに聖王に代って命を授ける」

「どこでもいい、連盟の庇護下にある都市を蹂躙しろ」


「!?」


「我らが同胞、エルネスタの仇討ち―――という訳だな。はい解散、帰っていいぞ貴公たち」


 王命として女の口から飛び出したのは、あまりにも衝撃的な内容であった。蹂躙、それは文字通り―――都市に住む人を殺し、全てを焼き払うという意味に他ならない。連盟の庇護下であるとはいえ、外征騎士に虐殺を命じるなど‥‥!


「ルミナス様、それはあまりにも早計かと‥‥!」


「私も反対ですわね。外征騎士は人殺しの道具ではありませんもの」


「アズラーン、モレア、お前達一体何を言っている?」


 ルミナスと呼ばれた女は心底不思議そうな顔をして、若い二人に問いを投げた。他の外征騎士達は何も話さない―――彼女に逆らうことの無意味さを、魂の隅々まで理解しているのだ。


「私が告げたのは決定事項だ。やりたくないなら別に構わんが―――その時は私が貴公達を殺すぞ」


「ッ‥‥!!」


「なんて、冗談だ。本気にしないでくれよ」


 冗談なものか。俺とモレアが拒んでいれば、彼女は確実に二人を殺していた。止めようものなら、恐らく他の騎士も同様だろう。


「6人いるので1人1都市で計6つ、狙うのは中規模相当以上の都市に限るからな。気合をいれて励むように」


「‥‥」


 やられたから、やり返す。


 異端だから、連盟の息のかかったヤツだから殺す。


 そんな俺たちの剣に―――――本当に正義はあるのかよ。






 ~ジル一行・馬車キャリッジ内~


「ぐがー!ぐがー!」


「・・・」


 今後の作戦を練るために、僕たちは馬車に戻った。


 すると、何故かそこには妙に見覚えのある男がイビキをかきながら爆睡していたのだった。


「燃やすわね」


「ステイ、ヘイゼル」


「馬車の車輪にくくりつけようか?もしかしたら魔除けになるかも」


「ステイ、リリィ」


 何か事情があるのかもしれない、とにかく話を聞いてみないと。


「―――カイン」


 僕は我が物顔で眠る男の名を仕方なく呼んでやった。


「‥‥ん」


 カインは大きなあくびをした後、眠そうな目をこすりながらむくりと身体を起き上がらせた。今のこの状況に対して、どうやら何の緊張感も抱いていないように見受けられる。


「何でキミが僕たちの馬車に居るのか是非説明して欲しいんだけど。というか、いつの間に乗り込んだんだよ‥‥」


「あー、ちょっくらバドスに頼まれてな。荷物と一緒に荷台に乗り込んでたんだよ」


「バドスに!?」


 あの大量の荷物の中にカインも紛れていただと‥‥!?というか、アレ全部カインを隠すためのカモフラージュだったんじゃないだろうな。


「おう、旅の手助けをしてやれってな」

「アンタらには迷惑かけた―――ここいらで借りを返すのも悪くねえ。アンタらさえ良ければ、この先の旅に同行させて欲しいんだが‥‥」


「はぁ!?そんなこといきなり言われても―――ね?ジル」


「うーん、まぁいっか」


「ジル!?」


「別にいいじゃん、馬車もちゃんと返してくれたし。それに彼はロンガルクに残ってエルネスタと戦ってくれていた‥‥信用できる男だと思う」


 実を言うと、ロンガルクに居た時から彼のことは少し気になっていた。変に義理堅くて腕もたつ。とても頼りがいがあるし、女性率の高いこのパーティの中ではかけがえの無い仲間になってくれるだろう。主に力仕事担当として。


「アンタってほんと、大事な決断だけは判断早いわね‥‥」


「そうかな?」


「そうよ」


「まぁともかく―――これからよろしく、カイン」


「おう!踊り風の戦士カインの力!これからは勇者ジルフィーネの為に役立ててやるぜ!」


 彼はそう言って、屈託のない笑顔で笑った。


 踊り風の戦士カイン。ジルの3人目の仲間の加入は、こうして半ば強引に決まったのであった。


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