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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第63話 それは、圧倒的なまでに

「スレイン‥‥!間違いない―――妾そっくりの美しい髪に、魔族特有の高濃度の魔力…見紛うはずが無い!」

「思い出してくれスレイン!妾の名はバドス!其方の――――」


「近づいては駄目ですバドス様!」


「“神罰閃光(オラクル・レイ)”」


 エルネスタの剣の切っ先から、まるでレーザービームのような禍々しい閃光が(ほとばし)る。放たれた閃光は圧倒的な速度でバドスの元へと直進し、いとも簡単に彼女の胴体を貫いた。


「バドス様!!」


 引き攣った顔で、パルミアは急いでバドスへと駆け寄っていく。自らが盾となるように覆いかぶさり、すぐさまエルネスタから距離を取った。


「ヘイゼル、リリィ!カイン達を連れて少し遠くへ避難してくれ」


「な、なに言ってるんだよジル!まさか、キミ一人で戦うとか馬鹿なこと言い出すんじゃないだろうね!?」


 そのまさかだ。僕の直感だが‥‥たとえ万全な状態のヘイゼル達が束になっても、今のエルネスタには絶対敵わない。ボロボロな状態の今であれば、1分とたたずに皆殺されてしまうだろう。


 だからここは‥‥僕が原種の力でヤツを迎え撃つ。それしか方法はないはずだ。


「―――任せていいのね」


 慌てふためくリリィとは対照的に、ヘイゼルは淡々と言い放った。真っ直ぐに僕の瞳を見つめ―――僕の覚悟を問うている。僕の決断を、尊重しようとしてくれている。


「大丈夫――任せてほしい」


「‥‥分かったわ」


 言いたいことは山ほどある、だけど今は僕の言い分を優先する―――そんな彼女の意志が、震える手から痛いほどに伝わって来た。


「ヘイゼルまで‥‥!?駄目だ、ボクも一緒に戦わせてくれ――!」


「聞き分けなさいリリィ、あんたジルの言うことが信用できないの?」


「そう言う訳じゃ‥‥!」


「あいつには何か策があるわ、きっとこの絶望的な状況を何とかしてくれるはず」


 だから私たちは、私たちのできることをしましょう―――そのヘイゼルの言葉を聞いて、リリィは悔やみながらも了承し、手負いのカインを連れてパルミアと共に戦線から離脱した。


「ありがとな、ヘイゼル」


「別に感謝されるほどのことでもないわよ、今の私にしてあげられるのはこれくらいのことだから‥‥」


「ヘイゼル‥‥」


「でもヤバくなったらすぐに呼びなさいよ?」

「勝手に死んだりなんかしたら―――一生許さないんだから」


 そう言い残し、ヘイゼルも戦線から離脱した。


「一生許さない、か」


 なら絶対に―――ここで死ぬわけにはいかないな。


「今からちょっと無理をする、絶対に僕の鎧の中から出るんじゃないぞ」


 小型化して僕の体のどこかに隠れているであろうエイミーに忠告をし、エルネスタへと剣を構えた。


「何をするつもりかと見ていれば‥‥玉砕覚悟の時間稼ぎとはな」


「玉砕覚悟の時間稼ぎ‥‥?それは違うなエルネスタ」

「僕は死ぬつもりも無ければ、時間稼ぎに甘んじるつもりもない―――この場、この瞬間に必ずお前を仕留める」


 僕の内に眠る、超常なる力よ―――もう一度、力を貸してくれ。


「っ!」


 ああ、力が‥‥力が湧き上がってくる。イルエラの森でメイメイマシラを斬った時、ビオニエでタイタンワームを両断した時と同じあの感覚だ。言葉では言い表せないほどの凄まじい力が僕の体を支配していく‥‥!


「ほう―――勇者を騙る貴様も、私と同じ穢れた血の持ち主であったか」


 原種の力に目覚め、豹変した僕の姿を見てエルネスタは皮肉交じりに吐き捨てた。


「穢れた血?知らねーよ、んなこと」


「――そうか」


 言葉を言い終えるよりも速くエルネスタはジルの眼前にまで間合いをつめ、光の如きスピードで彼の心臓を突き刺した。


「見え見えだ」


 しかし、その刃の切っ先はあっけなくジルに受け止められてしまい――――。


「っ!!」


 カウンターとして腹部に強烈な回し蹴りを喰らい、猛烈な勢いで蹴り飛ばされてしまった。通常時と比べ何倍もの素早さを獲得しているエルネスタの動きさえ、今のジルの眼にはまるで通用しない。ジルはエルネスタの落下地点へと瞬時に移動し、さらに大太刀で追撃を加え―――エルネスタを地面へと叩きつけた。


「手加減できなくて悪いな、この体にはまだ慣れてないんだ」


「‥‥そのようだな」


 地に伏したまま、エルネスタはニタリと笑う。


「原種である貴様の力は、混血の半魔である私とは比べ物にならぬほど強大なものだ。魔力も、筋力も、生命力も、全てが桁違いに優れている。本来であればまるで勝負にもならないだろう」


「――――そう、本来であれば」


 含みのある発言と共に、ゆっくりと瓦礫を払いながら立ち上がるエルネスタ。その瞳には不気味なほどの余裕が容易に見て取れた。


「何が言いたい」


「簡単なことだ、お前はその力に慣れていないが故に加減ができぬとほざいていたが‥‥真実はその真逆」

「お前はその力を抑えるどころか、本来の力を1%も出せてはいない」


「なんだと‥‥?」


「気が付かなかったのか?」

「何故原種の力を持っているのかは知らんが‥‥お前レベルの弱小冒険者が原種の力を行使すれば、本来ならばその負荷に耐えきれずに間違いなく死ぬ。それなのに今もこうして発動できているということは、その力のほとんどを殺しているということだ」


「‥‥」


 そんなはずはない。僕はこの力の強大さを―――恐ろしさを誰よりも知っているつもりだ。どれほど強い魔物が相手でも、原種の力の前には赤子同然に死んでいく。100%の実力が発揮できていないとしても、これほどの圧倒的な力が本来の1%以下の訳がない!


「認めたくない、か」

「まぁそれもいいだろう―――お前がその事実を知ろうが知らまいが、結局死ぬのに変わりは無い」


「今の僕に―――勝てるのか?」


「無論だ」


 その言葉を皮切りに、ジルとエルネスタ――二匹の魔族は真っ向から激突した。


 魔族の力を大いに振るうエルネスタの攻撃は、以前とは比較にならないほど苛烈なもので、周囲を地形ごと破壊していく。剣の一振りにかすりでもすれば、その時点で致命傷は免れない。邪悪な真紅のオーラと共に繰り出される斬撃の間合いは、実に10m‥‥もはや近づくことすら容易では無かった。


「‥‥!」


 圧されている。


 こちらから攻撃を仕掛けるどころか、ヤツの斬撃をかわすのに必死で防戦一方だ。負ける気はしないが‥‥勝ちの目もまるで見えてこない。この力を以てしても倒しきれないなんて――――正直予想外だ。


「つまらん、そろそろ幕を下ろすとしよう」


 エルネスタは天高く跳躍し、ジルから大きく距離を取った。


「貰うぞ――――貴様の心臓を!!」


 そして大きく大地を抉り、想像を絶する脚力で地面を蹴った。まるで銃口から勢いよく放たれた弾丸のように、エルネスタはジルの心臓目掛けて突貫する。


「!!」


 速い!!だが‥‥今の僕の眼なら微かに彼女の軌道が見える!狙いは心臓だという点も踏まえて想定すれば、迎え撃つことも可能なはず‥‥!!


 彼女が間合いに入った瞬間に、ジルはもっとも無防備かつ弱点に近い箇所に自然と狙いを定めていた。


「そこだ――!」


 抜群の予感と共に、僕は勢いよくエルネスタの喉元へと大太刀を斬り上げる。斬撃はまるで死神の鎌のように喉を切り裂き、勝負の終わりを告げる。



「甘いな―――原種もどき」



 終わりを告げる、はずであった。


「!?」


 鋭く激しい痛みが、突如としてジルの全身を駆け巡った。切り裂いたはずのエルネスタの姿は視界のどこにも無く―――。


「な‥‥ぜ…?」


 血に濡れた真っ赤な刃が、僕の胸から痛々しく突き出ていた。貫かれた胸部からは吐き気を催すほど大量の血が溢れ、びちゃびちゃと音を立てて地面へと零れ落ちている。


「お前は、確かに斬ったはず‥‥」


「―――愚かな」


 背後から響く、エルネスタの声。どういう訳か彼女は僕の背後に回りこんでいて‥‥背中から心臓を無慈悲なほど正確に貫いたのだ。


「お前が斬ったのは、私の残像だ。お前の眼は私の速さについてくることができず、ずっと残像を本物だと誤認していた―――という訳だ」


 残像‥‥?あんなくっきりと見えていたのに、確実に仕留められるという予感もあったのに‥‥ただの残像だった‥‥?


「いつから‥‥?」


「さぁな、お前が私の残像相手に脳内であれこれ考えている時には‥‥既に後ろにいた」


 そう吐き捨てると、彼女はジルの背を蹴って強引に剣を引き抜いた。


「ッ――――!」


「苦しかろう?魔族にとって最大の急所である心臓を抉られたのだ。原種といえど、死は免れん」


「まだだ…!!」


 ジルはよろめく体に力を振り絞り、勢いよく背後のエルネスタへ大太刀を薙ぎ払った。しかしその刃は彼女に届くことは無く―――いとも簡単に回避され、反撃の一振りを誘う結果となる。


「フン」


「ぐッ!!」


 ボトリ、とジルの利き腕の肘から先が切り落とされる。断面から間欠泉のように噴き出す大量の血を撒き散らしながら、ジルは耳を覆いたくなるような苦悶の声を上げた。


 胸に開いた穴からこぼれる血。切断された腕から流れでる血。そこらじゅうどこを見ても血、血、血、血、血――――血が、血が溢れかえっている。


「ぐあああああああああああ!!!!」


 痛い、苦しい、痛い、苦しい、死にたい、痛い、辛い――――。耐えがたい苦痛と絶望で、少年の頭は汚染されていく。パニックになった脳は痛覚を遮断することも忘れ、残酷なほどに体に刻まれた傷の痛みを伝え続けている。


 こんなの―――死んだほうがマシだ。


「原種の力に頼れば勝てると思ったか?だとしたら度し難いほどの思いあがりだ。上には上がいる―――その程度の実力では誰かを護ることなどできはしない」



「あ」



 グシャリ――――と頭蓋骨と脳が破壊される音がする。


 エルネスタはまるで家の鍵でも開けるかのように、いとも簡単にジルの脳天を貫いた。




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