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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第51話 行こう、死地へ

さかのぼること、少し前‥‥キャリッジ内にて。



「では、最後にもう一度作戦を確認します」


「うん。お願いエイミー」


「ロンガルクの四方を囲むように待機しているエルネスタの騎士団、東西南北一カ所ずつに副団長を筆頭として現在も突入の機会を伺っている。これが突入を開始した時点で私達は三手に別れ、背後から奇襲をかけます」

「もし町の中にロンガルクの戦力がいれば、挟み撃ちにすることがきますが……そちらはあまり期待しないでください。奇襲の初撃でどれだけ損害を与えられるかが勝負になってきます」


「任せなさい、こちらに気が付く暇も無く一撃で燃やし尽くしてあげるわ」


「少し卑怯だけど、仕方ないね」


 彼女たちの実力があれば、仮に奇襲に失敗し正面から騎士達を相手取ることになろうと問題ないだろう。一番の問題は僕だ。もし奇襲に失敗し、初撃で戦力を大幅に削り切れなかったら、僕一人の実力では絶対に袋叩きにあってしまう。だから何があっても、初撃で半数以上は戦闘不能にしなければならない。僕にとっての一つめの難関だ。


「各々の担当箇所ですが、ジル様は南側、ヘイゼルさんは東側、リリィさんは西側から突入を開始してください。ちなみに私はジル様とニコイチなので南側ということで!」

「この配置については、リリィさんから説明していただいた方が早いですね」


 そう言って、エイミーはリリィへと目配せした。


「うん、任せて。まず東西南北四つの箇所に分かれている副団長だけど、彼らは同じ副団長でもそれぞれで戦闘スタイルが大きく異なるんだ」

「北に駐留しているザメルは、獣人の高い身体能力を活かした三次元的な戦法を得意とする騎士で、とにかく足が速くてすばしっこい。その上タフで鋼鉄すら切り裂く爪を持っているんだ。人間じゃない分、魔法による攻撃も他の副団長よりも耐性が高いし、特に厄介な相手だ。こっちは三人しかいないし、今回こいつはスルーする」

「東のアンネは騎士でありながら一切剣術は扱わない、代わりに魔法をメインとした戦闘を得意としている。魔法の腕のみを買われて副団長に抜擢されただけあって、その実力は折り紙付きだ。近接武器では間合いに近づく前に、こちらが魔法でやられてしまう。なので、彼女の相手はヘイゼルに任せるよ」


「実力の違いを見せつけてあげる」


「それは頼もしいね」


 ヘイゼルとリリィは目も合わせず、お互いに呟いた。


「西にいるゲラートは身長3mを超える屈強な騎士だ、魔法や搦め手は一切使わず、己の肉体のみで数々の猛者を打ち倒してきた豪傑。エルネスタから最も信頼を置かれている古参の騎士でもある。正直彼の相手はヘイゼルに任せたかったけど、アンネとの相性も加味してここはボクが請け負うことにした」


「話を聞く限り相当なパワータイプみたいだけど、本当に大丈夫か?」


 リリィはエルフという産まれもあって、体力・筋力的な部分は他の種族よりも値が低い。3m超えの大男と殴り合いをして打ち勝つことができるのか、少しだけ心配だ。


「大丈夫だよジル。今回は最初から本気で行くつもりだから」


 そう言ってリリィは妖しげに微笑んだ。


「‥‥」


 まぁ、僕に代わりができる訳でも無いし―――リリィが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。彼女なりに何か策を用意しているに違いない。


「そして最後の一人、南のシュレンだけど‥‥正直こいつが一番の障害になるとボクは踏んでいる。何故なら彼の戦闘記録は一切公開されていない、戦闘スタイルも、出身地も、経歴も、種族も一切不明。こんな得体のしれない騎士の相手をジルに頼むのは―――正直僕は反対だ」


「いや、それはもう決めたことだからいいよ。そんな危ないヤツを残してエルネスタと戦うのは不安だ。それに、ヘイゼルとリリィにもしものことがあったら最悪だし…」


 いざとなれば、原種の力を使えばなんとかなるかもしれないし。あまり彼女たちに無理はさせられない。ここが僕にとっての二つ目の難関だ。


「確かにあんたは、たまに良く分からないくらい強くなるけど…それはあくまで限定的な話。普段は村人Cくらい弱いんだから、絶対に無茶はしないでよね」


「し、失礼な!ヘイゼルほどじゃないけど、僕だって強くなってるんだからな!?」

「そもそも、何だよ村人Cって‥‥せめてBくらいにしてくれよ」


「そこはAでいいのでは!?」


「もう!夫婦漫才は他所でやってください、というかリリィさんに変なツッコミさせないでくださいよ!」


 パン!と手を叩いてエイミーは場の空気を仕切り直した。別に夫婦漫才をしていたつもりはないのだが、確かに少し気が緩んでいた。反省反省。


「夫婦漫才って…!べ、別に私はジルのお嫁さんじゃないんだけど!?」


「もういいですから」


「とにかく、まずい状況になったらすぐにボクかヘイゼルを呼んでほしい。できれば迷わずボクを呼んでほしい」


「分かったよ、この石?みたいなのを使えばいいんだよな?」


 通信装置みたいなものだとエイミーは言っていたが、これのどこが通信装置なのだろう。


「そう、石に向かって話しかければボクたちの石に声が届くからね」


 ああ、そういう。


「副団長を倒し、相手の戦力を削いだところで―――最後にエルネスタを全員で相手取ります。絶対に一人では突っ込まないように、特にジル様」


 そう言ってエイミーは僕の方をじっと見つめた。


「そんな馬鹿なマネを僕がする訳ないだろ、あいつの恐ろしさはルエル村で嫌というほど目にしたんだし」


 正直、今も近くにエルネスタがいるというだけで心が落ち着かない。あの強大過ぎる騎士を前にして、どこまで戦いになるのか…正直に言ってとても不安だ。


「引き返すなら今が最後のチャンスです。ここで逃げても誰も貴方を責めはしません、だってこれは大きなリスクを孕んだ“ただの寄り道”なのですから。貴方と、貴方の仲間の命を懸けるほどの見返りも恐らく無い。ロンガルクを見捨てたとしても、ジル様が失うものは何もありません。それでも‥‥貴方はあの地獄へと飛び込むのですか?」


 真剣に、堂々と真っ直ぐに僕を見つめてエイミーは言い放った。善意だけで命を捨てる覚悟があるのかと、僕に問うている。エルネスタの撃破、それが僕たち全員にとっての最大で最後の難関だ。


「‥‥」


 そんなこと、今更聞くまでもない。


「勿論だ。例え僕たちの全員が死に絶えることになろうとも、僕はロンガルクを救って見せる」

「それに、ロンガルクを見捨てたら僕はきっと…人として大きなものを失うと思うからさ」


 助けたいから助ける。救いたいから救う。助けてもらったから助け返す。やられたからやり返す。ロンガルクを救う理由はそれだけで十分だ。


「覚悟は変わりませんね」


「当たり前だ、僕の変に頑固なところ…エイミーが一番知ってるだろ?」


「ええ、勿論。それでこそ―――私の勇者様です」


 彼女は本当に心から嬉しそうに、静かに僕へと微笑んだ。死地へ赴く恐怖はエイミーも同じのはず、それでも彼女は嫌な顔一つせず‥‥僕の決断を尊重してくれた。


「外征騎士に挑むなんて本当にどうかと思うけど―――ま、ジルの言うことなら仕方ないよね」


「ジルは底なしのバカだけど、今回ばかりは大いに賛成ね」


「ありがとう、リリィ、ヘイゼル。必ず生きて―――旅を続けよう」


 何があろうとロンガルクを救う。でもそれ以上に、絶対に彼女たちは殺させない。外征騎士が相手でも、この二点だけは決して譲れない。例えその果てに、()()()()()()()()()()()()としても。


「ジル様!騎士達が砕けた外壁の穴から町の中に侵入を始めました!!」


「さ、ぶっ飛ばしにいくとしましょうか」


「ここまできたら自棄だ、とことんやってやる」


「―――よし、行くか」


 僕達はそれぞれが持てる最高の装備を手に、馬車を後にした。皆それぞれの役割を果たすため、三つの方向に別れていく。後ろは振り返らず、互いにこれ以上語ることも無い。ただただ前を見据えて、己が信念と共に剣を握るのだ。


 もう一度、生きて全員で旅を続けるために。




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