第47話 四つの刃と迫りくる閃光
~ビオニエの町・跡地~
かつてこの地には、ビオニエという町があった。
冒険者の町と謳われたビオニエは、大いに栄え、賑わい、多くの旅人たちの憩いの場所であった。町に住む者はみな善良で、娯楽に溢れ、されど穢れず―――熱気にあふれた最高の都。
ビオニエを訪れた者達は皆、口を揃えてこう呟く。
ああ、楽しかった……と。
しかし今となっては、その全てが世迷言のように聞こえる。
なぜなら…ここにはもう、何も無い。ただただ焼け野原が広がり、人の営みが栄えた場所があったなどと到底信じられぬほどの虚無が一面を覆いつくしていた。
文字通り―――ビオニエは、死んだのだ。
「――――――」
誰もいない筈の焼け野原に佇む騎士が一人。
彼女は拳を強く握りしめて、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「なんという虚無か」
本当に、何もない。そもそもここに町があったのかも疑わしいほどではないか。
「古い‥‥古い記憶を見せられているようだ」
私は、この景色を知っている。
20年前、我が愛しき故郷も魔物達の手によって、滅ぼされた。
肉親は死に、友も死に、隣人たちも皆殺された。あの時は見ていることしかできなかったが…今は違う。魔物への復讐だけを胸に、毎日毎日―――牙を磨き続けたのだ。
もう二度と…あのような悲劇を起こしてなるものか。
「エルネスタ様!!」
「どうした、ゲラート」
「ここから南へ下ったところに、外壁に囲まれた奇妙な町があるようです」
「それがどうかしたのか?」
「何でもその町は“鮮血公”という魔物が支配する、魔物たちの町だそうです」
ゲラートと呼ばれた重厚な騎士は、淡々とエルネスタに真実を告げた。
「魔物の町だと?その情報は確かなのか?!」
「はい。先遣隊として向かったブロード隊がロンガルクという町にて魔物と接触し惨敗…現在こちらへ撤退している模様です」
ゲラートの報告を聞き、エルネスタの口角が僅かに上がる。
「―――フ」
ついに見つけた。
そこに潜む魔物どもが、この地に住まう全ての諸悪の根源に違いない。ようやく忌々しい魔物どもに地獄を味合わせることができる―――!
ビオニエへの仇は、このエルネスタが必ずとってやるとも!
「聞け、我が精鋭達よ!!これより我らは、悪逆の町ロンガルクに向けて南下する!」
「町へ着けば、一切の躊躇なく目に映る全てを殲滅せよ!!」
「そして、ロンガルクの魔物どもの死体は―――無慈悲に殺されたビオニエ市民達への何よりの手向けとなるだろう!」
「おおおおおお!!!!!!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!」
滾る血に震え、呻りを上げる騎士達。
エルネスタに鼓舞された彼らは最早騎士ではなく、魔物を狩る獣へと成り下がっていた。
「・・・」
しかし、鮮血公か。
今になってその名を聞く羽目になるとは―――因果なものだ。
「ゲラート、アンネ、シュレン、ザメル。貴様らは散開して町へ向かえ。東西南北四方を囲い、一気に殲滅する」
「―――仰せのままに」
エルネスタに仕える四人の副団長たち。
高度な力を持った騎士団屈指の実力者達が今、ロンガルクへと馬を走らせた。
先遣隊の比ではない、本物の聖都の騎士が―――殺意と共にやってくるのだ。
「待っているがいい、鮮血公」
「我が閃光を目にした時が――――貴様の最期だ」