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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第41話 オークションに向けて

「よりによってオークションの目玉商品とは‥‥」


 エイミーのどこにそこまでの価値を見出したのか気になる所だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 彼女をどうやって取り戻すか、その方法を考えなければ。


「競り落とすってのはどうかな?」


「まぁ、順当な手段でいけばそうなるよな」

「でも僕たちの資金は全部馬車に積んでいたから、今は手元にないんだ」


 個人的には、苦労して手に入れた馬車と賞金を盗られたのが痛すぎる。

 いや、エイミーが攫われたのも、もちろん大変なことだけれど。


「そこは大丈夫、ボクもビオニエを出る前に300万ユピルぐらいは持ち出してきたから」


 そう言ってリリィはぎこちない笑顔をジルへと向けた。


「マジで!?」


 ナイスすぎるぞリリィ!


「この埋め合わせはいつか必ずするから――!」


「いいよそんなの!仲間同士なんだし、助け合わなきゃ」


 聖人か。

 僕だったらエイミーに300万も出すのはちょっと気が引けるかもしれない。


「そこまでする必要ないんじゃない?」

「もとは私たちのモノなんだし、盗られたモノを取り返すためにわざわざ大金を支払うなんて馬鹿げてるわ」


「確かにそうだけど、他人の手に渡ってしまった以上他に方法もないだろ」


 もしかしたら、後で事情を説明すればお金を返してくれるかもしれない。

 ここはとりあえず競り落とすのが得策な気がするな。


「方法ならあるわよ、とびっきりのヤツがね」

 

 そう言ってヘイゼルは何やら不敵にほほ笑んだ。


「本当に?」


 まぁ、ヘイゼルは数百年を生きる魔女なんだし…僕たちでは想像もつかないような策を思いついても不思議ではないか。


 実際に、彼女の頭の回転の速さは何度も目の当たりにしている訳だし。

 無いとは思うが‥‥力づくで奪うだとか、そう言った脳筋的発想だけはやめてほしい。


「力づくで奪う」


「おい」


 嫌な予想が的中してしまった。

 ヘイゼルはドヤ顔を決め込んでいるが、別に驚くような案でもない。


 というかむしろ、作戦としては最悪だ。

 荒事になるのは間違いないし、最悪お尋ね者として追われ続ける可能だってある。


 自信満々なヘイゼルには悪いが、この作戦は却下で‥‥。


「いいね!それ!」

「よくよく考えれば、奪われたものを取り返すだけだもんね!」


「決まりね」


 バカがまた一人乗ってしまった。


 え、何?暴力で解決って、この世界では割とポピュラーな考え方なのか?

 穏便に済ませようって考えの僕の方が少数派なの‥‥?


「ぼ、暴力は最終手段ってことで…」


「大丈夫よジル、どんな奴が来てもぶっ飛ばしてあげるから」


 ヘイゼルは満面の笑みで軽々と言い放った。


「いやほら、争いは少ない方がいいし。リリィのお金で解決できるならそっちの方がいいかなーって」


 何だか最低なことを口走っている気がするが、今は気にしないでおこう。


「うーん、まぁ…そうだよね」

「やっぱり、戦いは最後の手段…だよね」


 よしよし、いい流れだ。


「心配しなくても大丈夫だって」

「エイミーにそれほど大金がつくとは思えないし!」


「確かに、それはそうね」


「というか、エイミーの所在は分かったけど。馬車はどこにあるんだろう?」


 話の軌道を修正すべく、僕は話題を強引に馬車へと切り替えた。

 エイミーも大事だが、旅の足になる馬車も大事だ。


 食料や資金が積まれているし、僕たちの生命線といっても過言ではない。


「エイミーと馬車は同時に盗まれたから…恐らく馬車もオークションに出品されると見るのが自然ね」


「あれほど上等な馬車だから、競合相手も多いかもしれないな」


「まぁ、もともと無償で貰ったものだし、エイミーさえ取り戻せば最悪馬車は‥‥」


「いや、それは駄目だ。あの馬車は絶対に手放せない」


 あれはビオニエの人々から託された想いであり、僕たちが町を救ったことの証明でもある。


 大切な……大切な、思い出の一幕だ。

 そんな特別なモノを、こんなところで置いていきたくはない。


「‥‥わざわざ手放すつもりは毛頭ないわよ」


 「まだ新品同様だし」と、呟いてヘイゼルはテーブルのグラスをぐいっと一息で飲み干した。



「へぇ、アンタら‥‥あの馬車を狙ってるのか?」


 突如として、背後から若い男の声が聞こえた。

 僕たちの会話を聞いていたかのような言い回しに、少しの警戒感を覚えながら…声のする方へ振り返る。


 するとそこには、体つきの良い端正な顔立ちの男が、酒で満たされたジョッキを片手に突っ立っていた。


「お隣失礼するぜ、っと」


 そう言って、男は強引に僕の隣へ座り込んだ。


「ふぅ…一仕事終えた後の一杯は格別だぜ全く!」


 呆気にとられる僕たちにお構いなしで、男はジョッキのお酒をぐびぐびと飲みほした。


「いや」


「あ?」


「誰だよアンタ!?」


「俺か?俺はしがない槍使いさ。と言っても、槍はもう折れちまったんだが」


 いや、そういう意味ではなく。

 なぜ当たり前のように僕たちのテーブルに混ざっているのかを知りたいのだが。


「なに、気にすんな!」

「槍が無くても、俺にはこの“棍”があるからよ!」


「そんなこと誰も気にしていないわよ」

「どこの誰かは知らないけれど、用が無ければさっさと立ち去りなさい、さもなくば…」


「まぁそう怒るなよ。アンタらつい最近ロンガルクに来た新顔だろ?」

「魔法使いのお嬢ちゃんに、エルフの騎士、それに人間の坊主。はっ、噂通りおかしな組み合わせだぜ」


 噂通り?


「僕たち噂になってるの?」


「この町に来た新顔は誰でも噂になるさ。この町の住民は外から来る人物にあまり良いイメージを持っていないからな」


「へぇ、この町は行き場を失ったモノたちの楽園だと聞いたけど……意外と寛容性に欠けるのね」


「皮肉ってくれるなよ、いじわるだなぁアンタ」


「まぁ、外の世界の人物に良いイメージを持っていないと言っても、全員って訳じゃない」

「ロンガルクが嫌うのは、武器をもってこの町に訪れるもの‥‥つまり、冒険者や聖都の騎士みたいな連中のことだ」


 武器を持つものなら、僕たちもこの町の住民から警戒される対象という訳か。

 僕はエイミーから貰った剣を常に持ち歩いているし、ヘイゼルは杖、リリィは戦槌を持っている。


「この町に溶け込みたきゃ、まずは武器を持ち歩かないことだ」

「オークションに参加するなら尚のこと…な」


「知らない町のオークションに丸腰でいくのは少し危険じゃないかな」


 リリィの意見はもっともだ。

 最悪の場合僕たちは力づくでもエイミーと馬車を取り返さなければならない。


 そんな事態にならないように努力はするが、備えは必要だ。

 武器無しでオークション会場に乗り込むのは流石にリスクが高すぎる。


「何でもいいが、持ち込むのならうまく隠せよ」

「見張りの野郎に見つかると厄介だぜ?」


「隠すったって…ボクの武器は大きいから、隠しようが無いよ」


 困った顔でリリィは自身の戦槌を見つめた。


「魔法使いの嬢ちゃんに頼めばいいだろう、透明にしたり小さくしたり、便利な魔法でどうにでもできるんじゃないのか?」


 半ばからかうような言い草で、男は言い放った。


「いや、ヘイゼルの魔法でも流石にそこまではできないと思う」


 彼女は便利屋ではない、そう簡単に決めつけてもらっては‥‥。


「できるわよ」


 できるんかい。


「できるんだ‥‥」


「さっきの皮肉のお返しのつもりで言ったんだが―――」


 まさか、本当にできるとは…といったような表情で、男は目を丸くしていた。


「当たり前よ、何?私のコトなめてんの?」


 何で見知らぬ相手には高圧的になるんだよ‥‥。

 人見知りなのか喧嘩っ早いのかどっちかにしてくれ…。


「それより、一つ聞いていいか?」


「なんだ?」


「あんた、オークションに出品される馬車のこと知っているのか?」


 あの馬車を狙っているのか、と彼は最初に言っていたはずだけど。


「ああ、知ってるぜ」

「あれは中々の上物だ、目玉商品の妖精もどき以上に値が付くかもしれねーな」


「ざっと数百万ユピルってところか!」


「うっ‥‥」


 際どい値段だな。

 エイミーを競り落とすだけの資金は温存しておきたいが‥‥。


「なんだ、揃いも揃って暗い顔しやがって‥‥そんなにあの馬車が欲しかったのか?」


「欲しい」


 というか、返してほしい。


「あれがないとこの先の旅が…ね」


「‥‥うっし、ここで会ったのも何かの縁だ!」

「俺が特別に、お前達に馬車を譲るように、主催者に口利きしておいてやるよ!」


 僕たちをしばらく見つめた後、男は踏ん切りがついたように堂々と言い放った。


「本当!?」


 なんてこった!

 酔った勢いなのか何なのか知らないけど、いいのか!?


 元は僕らのモノとはいえ、タダでなんて‥‥。


「でもそんなことできるの?」


「ああ、あのオークションの主催者は俺に大きな借りがあるからな」

「俺直々の頼みを断るなんてできやしねーよ!」


 そう言って、男は大笑いした。


「やったー!!やったよ!ジル!!」


 リリィは僕の手を握り、ブンブン振って大いに喜んでいる。


「ありがとうございます!!」


 ただの酔っぱらいかと思っていたけど、めっちゃいい人じゃないか!!


「なに、気にすんな」


「真昼間から俺の話に付き合ってくれた例だ」

「それに‥‥アンタらとはどうも他人の気がしなくてな、つい肩入れしちまった」


 相当酒が回っているのか、男はフラフラとよろめきながら席を立ちあがった。


「じゃあ、俺は行くわ。せいぜいオークションを愉しめよ」


 そう言い残して彼は店から出て行った。


「うん!本当にありがとう!」


「あ、そうそう」


 男はピタリと立ち止まり―――再びジル達の元へ振り返った。


「オークション会場では絶対騒ぎを起こすんじゃねーぞ」

「“踊り風の戦士”がすっ飛んでくるからな」


 そう言い残し、男は人ごみの中に今度こそ消えていった。


「踊り風だって?」


 確か…僕たちの馬車を盗んだのは、踊り風の妖精だとクラックが言っていた。


 踊り風の戦士―――僕たちから馬車を盗んだ人物と何か関係があるのだろうか。


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