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電脳勇者の廻界譚 RE!~最弱勇者と導きの妖精~    作者: お団子茶々丸
第3章 踊り風と共に
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第40話 ロンガルク

「おい」

「おい、お前」


 なんだ。何か、声が聞こえるような―――。


 クラックの転送魔法の反動のせいか、体が横たわったまま重くて動かない。

 おまけに車酔いをしたかのようにひどく気分が悪い。ここはどこだ‥‥ロンガルクには着いたのか?


 とにかく、目を開けて周囲の状況を確認しないと。


「うう…」


 伸びきった体に鞭打って、僕は重いまぶたをゆっくりと開ける。


「お、やっと目を目覚ましたか」


 するとそこには、牛頭の巨大な半人半獣の魔物がジルの顔を食い入るように覗き込んでいた。


「うわああああ??!!」


 僕は思わず絶叫して、反射的に飛び起きた。

 急いで剣を抜かなければこちらがやられる―――!!


「はっはっは、いいリアクションだな坊主」

「そんなに活きの良い悲鳴を聞いたのは久しぶりだ!」


 しかし。戦闘態勢のジルとは真逆の気楽な様子で、牛頭の魔物は豪快に笑い飛ばした。魔物は大きな口を開いて、己が思惑をジルに告げる。


「だが安心しな、オレはお前を食ったりはしねえ」

「それがこの町、我らがロンガルクの鉄の掟だからな!」


「ロンガルク…!?」


 今、こいつ確かにロンガルクって言ったよな。


「そもそもよぉ‥‥最初から食うつもりならこんなとこまで律儀にお前を運んでくるかよ」

「ほら水だ。とりあえず落ち着きな」


「・・・」


 僕はぎこちない動作で突き出された一杯の水を飲み干す。

 冷水は渇いた僕の喉をなぞるように潤していき、パニック状態だった頭はじわじわと冷静さを取り戻し始めた。そして、一度自分の置かれた状況を整理する。


 僕は今、白い清潔感のあるベッドの上に一人で座り込んでいる、まるで病院の一室のような部屋だ。この魔物の言葉を信じるなら、倒れていた僕を彼がここまで運んでくれたということだろうか。


「ここは?」


「ここは病人やけが人を保護する施設だ」

「お連れのお嬢ちゃんたち共々、町の前でぶっ倒れていたから――オレが担いできてやったのさ」


 牛頭の魔物は自慢気にことの経緯を語り聞かせた後、近くのソファにどっしりと座り込んだ。


「そうだ‥‥僕と一緒に居た二人の女性はいまどこに?!」


「あいつらなら目を覚ますなり、町の散策に出かけたぞ」

「お前がいつまでも目を覚まさねえから、ひどく心配していたぜ」


「僕はどのくらい眠っていたんですか?」


「ざっと丸2日ってところだな」


「丸2日!」


 しまったな、エイミーと馬車はまだ無事だろうか‥‥。


「・・・・」


 いや、それよりも何故町の中に魔物がいるんだ?


「ジル!!」


 状況についていけない僕を現実に引き戻すように、聞き馴染みのある声が僕の脳内に響き渡った。


「リリィ!」


 突然部屋の扉が勢いよく開いたかと思うと、中から息を切らしたリリィが飛び出してきた。知った顔に会えて、不安な気持ちが少しづつ安らいでいく――。


「よかった!やっと目を覚ましたんだ…!」


 彼女は部屋へ入って来るなり、力いっぱい僕の手を握りしめた。


「なかなか目を覚まさないから本当に心配したよ――!」


 泣きそうな顔になりながら、リリィは安堵の表情をこぼす。


「ごめん、心配かけちゃって」


 まさか転送魔法で意識が飛ぶ羽目になるとは思わなかったな。


「あの程度の魔法で2日も寝込むなんて。体、鍛え直した方が良いんじゃない?」


「ヘイゼル!」


 ヘイゼルは壁に背を預けたまま不愛想に呟いた。良かった、みんな無事みたいだ。


「はっはっは!両手に花たぁ、羨ましいねえ坊主」


 ジルを揶揄う様に牛頭の魔物はまた、大きな口を開けて笑いだした。

 現状を完全には把握できていないけど、ともかく僕たちが彼に助けられたということは間違いなさそうだ。


「見ず知らずの僕たちを助けてくれてありがとうございます」

「あと、さっきは顔を見るなり叫んでしまってすいませんでした‥‥」


「気にすんな!困った時はお互い様よお!」

「互いに助け合うのも、ロンガルクの鉄の掟の一つだからな!」


 そう言って、牛頭の魔物は再び大笑いした。

 ロンガルクの町は無法地帯。なんてクラックは言ってたけれど…町の掟で互いに助け合いを助長しているところから推察するに、あまり悪い町には見えないな。


「いつまでもぼけっとしてないで、目が覚めたんならさっさと動きなさい」

「まずは情報共有よ」


「情報共有?」


「ジルが眠っていた2日間の間に、ボクとヘイゼルでこの町の色んな人に聞き込みをしてみたんだ」


「それで、賢者ヨムルのことやこの町のこと…いくつか有益な情報が手に入ってね」

「話ができる場所に移動しようと思うんだけど、立てるかい?」


「ああ、もちろん」


 あの力を使いすぎたせいか、まだ体はダルいが…これ以上後れを取る訳にはいかない。

 僕たちは牛頭の魔物に丁寧に礼を告げると、その場を後にした。


 

 


 ~ロンガルクの町~



 外に出るなり、僕の眼には衝撃的な光景が目に飛び込んできた。


「なんだ、ここ‥‥」


 小奇麗な町の至る所に恐ろしい姿をした魔物が平然とうろついていたのである。


 さきほどの牛頭の魔物は人型であったが、通りにはドロドロとしたスライムのような異形の魔物までもが我が物顔で町を練り歩いていた。僅かに人間もいるようだが、圧倒的に数が少ない。

 

 まるで百鬼夜行だ。


「ふふ、“どうして魔物が町に”って驚いてるね」


 僕の心を見透かしたかのように、リリィが微笑む。


「そこら辺の事情も含めて説明するから安心して、さぁこっち…」


 僕たちは通りに跋扈する魔物達の間をすり抜け、町の小さな酒場へと足を踏み入れた。



 ~町の酒場~



「何なんだこの町は、どこもかしこも魔物ばかりじゃないか―――!」


 席に着くなり、僕は積もりに積もった疑問を二人へと投げかけた。


 この世界の事情を詳しく知っている訳じゃないけれど、魔物ってのは魔王の手先。ないし人間に害をなすモンスターたちに対する呼称のはずだ。人間とは相容れない。


 そんな恐るべき存在が、どうしてこうも人間社会に溶け込んでいるんだ。


「ここは行き場を失ったモノたちが最後に流れ着く町なのよ」

「迫害されたモノ、差別されたモノ、生きることに疲れたモノ‥‥そういう存在が集まって、この町は形作られているの」


 行き場を失ったモノたち…。


「町に居た魔物たち、全てがそうだというのか?」


「何かしらの事情によって立場を追われたモノであることは確かね」

「まぁ、それは魔物に限った話じゃない。この町に住む人間や他の種族も同じよ」

「みんなそれぞれ心に傷を抱えて生きている。慰め合うように寄り添い合って―――生きているのよ」


 少し悲しげな声色でヘイゼルは言い放った。彼女の過去の経歴から察するに、この町の存在に何か思うところがあるのだろう。ヘイゼルがルエル村ではなく、このロンガルクにたどり着いていればどうなっていたのか‥‥そんなくだらないことを僕は考えずにはいられなかった。


「――――」


 お互いに助け合うのがロンガルクの鉄の掟…なるほど、そういう意味だったのか。

 魔物であろうが人間であろうが、行き場を失ったモノに居場所を与える。


 恐らくそういう意味で、どこの同盟(ファミリア)にも属していない孤立無援の町なのだろう。魔物たちで溢れるロンガルクと同盟を組む町が居るとは到底思えない。


 そして、その特異性ゆえ周囲からは無法地帯と称されている‥‥か。


「だけど…魔物と人間が共存する町なんて、それこそ聖都の連中が黙っていないんじゃないか?」


「ええ、この町の住民に話を聞いた限りでは数十回以上、聖都の騎士が討伐隊を組んでやってきたそうよ」

「ま…今この町が残ってるってことは、その全てが失敗したって意味なんだけれど」


「数十回も!?」


 やはり聖都から危険視されているのは間違いなさそうだ。

 町にいた魔物はあまり強そうには見えなかったけど、意外と見かけに寄らないんだろうか。


「で、でも討伐隊が来ていたのはもう昔の話で…もう何十年も討伐隊は来ていないみたいだよ」

「この町が無害であることを、理解してくれたんだよ、きっと!」


 聖都の名誉を守るように、リリィは最後に付け足した。


「さぁ、どうかしらね」

「あのろくでなし連中のことだから、単に尻尾を巻いて逃げただけな気がするけど」


「そ、そんなことないよ!」

「彼らはとても勇敢だ、自らの使命を放棄して逃げたりはしない」


「勇敢、ねぇ‥‥ふーん」


「―――何か言いたそうだね、ヘイゼル」


「いーえ、別にー」


「・・・」


「そういえば‥‥今日は天気がいいね、ヘイゼル」

「どうだろう?折角だし、外で軽く肩慣らしでも」


「ふん、望むところよ」

「あの時みたいに、コテンパンに―――」



「いやいやいや、ストーップ!!!」


「何よ」


「何よ、じゃねえ!」

「めちゃめちゃ自然な流れで喧嘩勃発してんじゃん!」


 聖都アンチVS聖都信者の一触即発状態だったよね!?

 二人とも僕よりも強いし、始まってからじゃ止めに入れないんだけど!?


「大丈夫だよ、ジル。すぐ終わるから」


「そういう問題じゃないっての!」


 こいつら僕の居ない2日間よく何事も無く過ごせたな…!

 いや、実際は何かあったかも知らんけど!


「とにかく、話を戻そう」


 この町のことはだいたい分かった。次に気になるのは――――。


「賢者ヨムル…彼女については、何か分かったのか?」


 賢者ヨムル。彼女との接触こそが僕たちがこの町に訪れた一番の理由でもある。

 クラックの言葉を借りるのなら、八賢者の中で唯一力を奪われなかった存在だ。


「ああ、彼女のことなら少しだけど情報が入ったよ」


 思い出したかのように、ハっとした様子でリリィが言った。


「何でもこの町のリーダーと仲が良いみたいで、町に来るなり夜通し飲み歩いているみたい」


 夜通し飲み歩いてる?賢者なのに?


「いま彼女はこの町に居るのか?」


「それが…リーダーと名乗る人物のところへ、ヨムルと会わせてもらえないか相談に行ったんだけど‥‥」


「今は忙しい、の一点張りで門前払いよ。話すら聞いてもらえなかったわ」


 二人の不機嫌な様子から鑑みるに、相当ねばったみたいだな。

 それでも拒絶するとは本当に忙しいだけなのか。それとも‥‥。


「真っ向から向かうのは得策ではなさそうだな」


 ここは一旦、賢者探しは保留にしてエイミーを探した方がよさそうだ。


「まぁ、賢者の方はおいおい探すとして‥‥先ずは馬車とエイミーだな」


「ああ、それならだいたいの目星はついているわ」


 そう言ってヘイゼルは何やらチラシのようなものを取り出した。


「なにこれ」


「今晩開かれるオークションの広告よ。そこの目玉商品の欄を見てみなさい」


「なになに……」


 僕は書面に白々しく、大きく記された文字を読み上げる。


「今回の目玉は、世界樹の森からやってきた羽の生えた珍妙な生物(クリーチャー)…だって!?」

「羽の生えた珍妙な生物って!!もしかして!」


 思い当たる節がありすぎる!!


「そう、一億%エイミーのことよ」


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